4月15日、ビッグモーターの和泉伸二社長(55)は従業員に対して一斉にメールを送った。

メールのタイトルは「全従業員の皆様へ(新会社に向けた重要説明)」である。宛先の人数は4126人。3月6日の「全従業員の皆様へ(当社事業再建に向けた契約締結のお知らせ)」では宛先が4232人だったことから、新年度に入り、さらに100人以上が会社を去ったことになる。新入社員も含まれていることを鑑みれば、退職者はさらに多い。

ビッグモーターは、伊藤忠商事を中心とした企業団から支援を受け、再建への道を歩んでいる。今までは支援開始のタイミングについて「4月下旬」を見込んでいたが、今回のメールでその具体的なタイミングが判明した。

今回のメールでは、「新会社の発足日は『5月1日』になります」と明記されている。さらに「その日は気持ちを一つにして新スタートを切れるよう、全社員の出勤をお願いしたい」といった旨のお願いも書かれている。一方でメールの中で和泉社長は「私たちはあまりにも多くのものを失いました」と、後悔とも言える言葉を綴っている。

なお、新社名などはまだ発表されていないが、これから2週間の間に発表される見込みだ。看板もかけかえられ、制服も新しくなることになるとみられる。関東地方の店舗に勤務する30代社員は「早く新社名にしてほしい」と語る。

「ビッグモーターという名前は消えて新会社になるわけですが、保険金不正請求の調査など『負の遺産』の調査は旧会社が行います。新会社に負の遺産は引き継がれませんし、新会社には伊藤忠から何名か出向してくると聞いています。どんな会社に生まれ変わるのか。一刻も早く、新社名になってほしいと思っています。ビッグモーターで働いているというと周りの親戚やら知人やらが、一瞬固まるんですよね……」

一方で、西日本にある店舗に勤務する営業部門の社員は不安な胸の内を明かした。

「売り上げは一時期の酷い落ち込みからは回復しましたが、まだまだです。会社名が変わらないと多分、あまり変化はないでしょう。店のほうは、今日、社長からメールが来て5月1日に新会社発足を知りました。でも何も変わっていません。うちは古い店なので昔からのお客さんに支えられていますね。看板をかけかえる気配もありません……。これから2週間のうちにバタバタと新しくなっていくんでしょうね」

ビッグモーターの強みは、「ワンストップサービス(販売・買取・車検・修理・保険が1箇所で行える)」だった。この強みは復活するのだろうか。現状フル体制で行えているのは販売と買取だけである。多くの事業所で指定工場の取り消しや事業停止命令が出されており、保険業務に関しては金融庁からの行政処分を受けて、保険代理店の資格を全店舗で喪失している状態だ。指定工場や保険代理店の復活には最低でも2年という時間が必要となる模様で、「ワンストップサービス」は機能していない。九州地方の事業所で整備部門の責任者をしている40代男性は明かす。

「伊藤忠のような優良企業の支援のもと、法人が変われば昔のようにいろいろ復活……できればいいんですが、不正の悪質性を考えても、そう簡単に事は進まない。車検の不正や整備料金の過剰請求はどうなるのか、我々にも不透明です。以前のような自社完結のサービスを展開できるようになるには、まだまだ時間がかかるでしょう。

現在の職場での担当業務はそのまま新会社に引き継がれると聞いています。新会社になって就業規則やそのほか、細かいルールが厳格になると聞いていますが、不正ばかりやってきた会社ですから、正しい利益の出し方を知らない社員も多くいます。具体的にどんなやり方で社員の意識を変えるのか。そのあたりがまだ明確になっていないので、不安に思う社員も多いんです。発足から数ヵ月で、『やっぱり新会社はダメだ』となれば、さらに社員が辞めていく可能性もありますよね」

新会社発足のメールには、5月1日について「新会社として、組織や体制、その他皆様に沢山のことをお伝えする日になろうかと思います」と書かれている。この日に新会社の運営や給与体系などさまざまな発表が行われると思われる。これからの2週間、ビッグモーターの動きはあわただしくなるだろう。果たして、真に生まれ変わることができるのか。

取材・文:加藤久美子