間髪なく突入した2曲目「心臓」は、疾走感のあるアレンジ。チェロとベースの掛け合いがたまらないし、TOOBOEがここぞという裏声で「愛が欲しくてさ」と訴えるのもたまらない。
合間のMCではTOOBOEのユーモアが弾けた。「今日は、僕のことなんてご存知でない人が多いと思うので…」と自虐的なコメントを披露しつつも、「オーケストラver.でのライブは初めてでとても緊張してます」「せっかくなので、(オーケストラの)みなさんの名前を紹介させてください」と、奏者を一人一人紹介。場内の空気をほぐした。

さて、事前のビデオ公開で期待が高まっていたであろう一曲が「錠剤」だ。アニメ『チェンソーマン』とのタイアップでも話題を呼んだ本作は、『With ensemble』ではサックスとのアレンジだったが、ライブではピアノとストリングスによる編成。不協和なトレモロが差し込まれる中、ステージを歩き回るTOOBOE。ラストは弦楽器がブザーのように何度もノイズをかき鳴らして終わりを告げる。

続く「チリソース」も、すでにYouTubeでパフォーマンスが公開されている。ピアノとストリングスのキメ、素早い音符の群れの応酬で音楽が引き締まっていく。間奏の変拍子がまるで観客をおちょくるようで、ラストのサビにうつむいたまま突入するTOOBOEの歌唱力も見事だ。後奏は2ndバイオリン石井のクールなアドリブが入り、全員でトレモロを奏してフィニッシュ。

MCで「速い曲ばっかりで大変かと思いますが…」とTOOBOEが漏らした通り、常にハイテンポで進み、With ensembleオーケストラたちも気が抜けないであろう楽曲ばかりだ。あっという間に4曲が終わり、いよいよ次でラストとなった。

TOOBOE最後の一曲をしめるのは「浪漫」。ストリングスが抜け、ピアノとTOOBOEの一対一となったこの「浪漫」で、えげつないほどの転調、大音量のプレイを突き通すピアノの梅井。“遥か遠くの未来に 幸せ望んでもいいですか…”激しいピアノと呼応しつつ、最後まで観客につきつけ、駆け抜けたTOOBOEだった。

「浪漫」の激しいプレイとは一転して、ピアノソロが穏やかなBGMを演奏する。「本日はありがとうございました。引き続き加藤ミリヤさんをお楽しみに!」と去っていくTOOBOE。こうしたアーティスト同士のリスペクトが垣間見える瞬間も、『LIVE With ensemble』の魅力のひとつだろう。オーケストラの演奏を続ける中、そのまま入れ替わるように加藤ミリヤが入場し、ゲストアーテイストたちを音で繋げるように、次の曲の1音目に繋がる旋律が鳴り響いて…。

■コーラス、アンサンブルとの圧倒的なパフォーマンス──加藤ミリヤ

加藤は、第一声から圧倒的な発声だった。「Goodbye Darling」は恋人から離れひとりで歩き出そうとする女性の心を歌っている。最低限の音数で刻まれるリズム、しかし、不意にピアノが加藤によりそってハモる瞬間。黒レースのワンピース、ファー、ブーツで歌い上げる加藤はまるでオペラ歌手のプリマドンナのようだ。

間髪入れず、コーラスがステージにIN。加藤の代表作の一つとも言える、「SAYONARAベイベー」の幕開けだ。“愛してる” “お願い”という加藤の呼びかけをコーラスがやわらかくもエッジの効いた発音で繰り返す。バックで鳴り響く1stバイオリン須原のソロも印象的で、声、そして全身で表情ゆたかに歌い続ける加藤と絡み合う。

歌い終えるとささやくように感謝を告げる加藤。「With ensembleは個人的に大好きな場所で、今日この日この瞬間のためのステージ。いつもの自分のライブとは緊張感が違って、みんなも『息をしていいのか』って緊張してるんじゃないかな。この空気がたまらなく好き」と、『With ensemble』への思いを語ってくれた。