そして「自分のこと尊敬して、大事にして」と会場に呼びかけた加藤。そう、3曲目は「Respect Me」だ。1stバイオリンの強烈な低弦がゴリゴリに鳴らされる冒頭!この音を低弦ではなくあえてバイオリンに演奏させるところがスリリングだ。一段とギアの上がった加藤は、動画より何段階も鬼気迫るパフォーマンスを見せる。「RESPECT ME!」と客席に向かって何度も何度も繰り返す加藤を、ピアノの刻みが一緒にせき立てる。

一転して、ピアノと歌のみのやわらかなイントロが訪れる。「DEVIL KISS」は、タイトル通り男女の悪魔的な恋愛感情を描いた楽曲だ。ダブルベース、そして2ndバイオリンが抜け、コンパクトな編成に。弦を指で弾き、やわらかな音を添えるチェロが、加藤の表現力をさらに引き立てる。同じアコースティックアレンジでも、楽器の扱いひとつでがらっと印象が変わる。

「DEVIL KISS」の流れを汲むようにラブソングが続いていく、「KILL MY LOVE」は加藤の低音ボイスと、コーラスの高音のハモリが美しい。そこにやはりダブルベース・チェロの低弦が刺さる。

次々と多彩な歌唱を見せる加藤だが、MCでは「緊張してます(笑)楽しんでいただけてますか?」と不安げに問いかける。もちろん拍手で答える会場。「昨日は祈って寝てました。だって、もうあつくって、クーラーつけっぱなしで寝てたから…ここ、笑うとこだよ?」やはり、会場の我々もいつもと違う空気に緊張しているのかもしれない。笑いに包まれた観客席に、加藤は『With ensemble』プロデューサー・常田俊太郎を紹介する。

常田との出会いは、King Gnu「Teenager Forever」をカバーした時。せっかくならばKing Gnu 常田大希の兄にアレンジをお願いできないだろうか、と打診したところ、快諾だったという。

「With ensembleのいいところは、アレンジがぶっとんでるところ」──その”ぶっとんでるアレンジ”をプロデュースする常田が、見事なバイオリン・ソロを披露した。この曲は、今日この日のために常田自身が書き下ろしたオリジナル曲だ。重音奏法(同時に複数の弦を鳴らす奏法)を駆使し、クラシックの無伴奏曲のようなテクニックとモダンなメロディライン、コードを合わせた一曲は、会場に新鮮な風を吹かせてくれた。

常田のソロの余韻が冷めぬ中、さりげなく現れた加藤。なんと、新たなシンガーを引き連れての登場。会場から黄色い歓声が上がる。清水翔太の登場だ。

加藤と清水といえば──という期待通り始まった「Love Forever」。常田もストリングスに立奏で参加するという、豪華なアンサンブルだ。ピアノのみが伴奏する清水のソロは伸びやかで、加藤と清水の掛け合いが会場のボルテージをMAXにする。圧倒的な歌唱力のデュエット。ラストには常田のソロも入って鮮やかにしめくくる。

常田、清水の2人がステージを去り、いよいよ、今夜のライブも残り3曲に迫ってきた。
加藤も会場も名残惜しい中スタートしたのは、「Aitai」。“どうして私じゃないの?”嘘でもいいからあの子より私を好きだと言って”と、振り向いてくれない相手への苦しい思いを歌う加藤。石井のおだやかなバイオリン・ソロがさらに切なさを掻き立てる。『With ensemble』のアレンジver.は、歌の奥にある思いをつかんで、ぎゅっと出してくれるのだという。

「ほんとの僕を知って」では、ヴィオラ・バイオリン・コントラバスの4名が抜け、チェロとピアノの編成に。一見、王道に見えるピアノのコード進行にも少し濁りが滲む。安定感のあるチェロ・島津由美のソロがフレーズを作り、コーラスのわずかなハミングが加藤に呼応する。ラスト、“不細工でも不恰好でも”というフレーズに力が入る加藤。