親は受験期の子供にどう接するべきなのか。マンガ『ドラゴン桜』では、わが子を東大に合格させる親の共通点を紹介している。現役東大生ライターの布施川天馬さんが、その真意を解説する――。
写真=iStock.com/mizoula
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■受験期の子供に掛けるべき言葉

みなさんは、受験を控えるわが子にどんな言葉を掛けるべきだと思いますか。「頑張れ」とポジティブな言葉を掛けてあげるべきと思う人もいるでしょうし、時には「受からなかったらダメだ」と強い言葉でプレッシャーをかけるべきと思う方もいるかもしれません。

僕は常日頃から「受験生には干渉しすぎてはいけない」と言っていますが、「勉強はうまくいっているのかな」という焦りから、テレビを見てくつろぐわが子に「本当に大丈夫なの?」などと言いたくなる気持ちはわかります。

大学受験はとにかく時間もお金もかかります。日々進んでいるのかわからない勉強の進捗(しんちょく)を尋ねてみてもはぐらかされ、最終的な結果が出る日までむず痒い思いが続く日々。不合格で浪人ともなれば予備校の費用もかかりますし、精神的にも金銭的にも「できれば1回で終わってほしい」と望むのは当然と言えるでしょう。なので親は「受からないとダメだ」とハッパをかけるのです。

それが成功すれば「結果オーライ」ですが、もし何も声を掛けずに失敗となれば、どれだけ悔やんでも悔やみきれません。なにより、受験生に気を使い続ける地獄のような1年間がまた続いていくのだとわかった時の絶望はどれほどでしょうか。

■わが子の東大受験が気が気でない両親

では、東京大学などの難関大学にわが子を送り込むような親はどのように接しているのでしょうか。

実は、落ちこぼれたちの東大受験の様子を描いたマンガ『ドラゴン桜』にも、似たような一幕があります。東大を目指して勉強する、元落ちこぼれの水野と矢島という2人の生徒。彼らの親もまた、東大受験の当事者と言えるでしょう。

特に、矢島の親は大手製薬会社の社長という超エリート家族。彼の両親は、わが子の東大受験に向けて、どのような結果が待っているのか内心気が気ではありませんでした。以下のシーンは、東大受験の立役者である桜木を呼び出して、受験の様子を聞き出そうとした時の一コマです。

©︎三田紀房/コルク
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■「わが子が東大に合格してほしいに決まっている」

受験を控えた親の心構えを聞き出そうとする矢島の両親に対し、「自分の子供に東大に合格してほしいか」と質問を投げかける桜木。矢島の父はもちろん親からしたら東大に合格してほしいと思っているに決まっている、と答えます。

しかし、桜木いわく「それは違う」というのです。東大に合格させる親たちは、自分の子供に「合格してほしい」と思ってなどいないといいます。

それでは、受験を成功させる親はいったいどのように考えているのでしょうか。その答えは、以下の続きのシーンに書いてありました。

©︎三田紀房/コルク
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■東大に合格させる親は「どっちでもいい」と思っている

わが子を東大に合格させる親は、「東大に受かってほしいとは思っていない」という桜木。面食らった矢島の両親は「それでは、いったい何を考えているのか」と桜木に詰め寄ります。

桜木の答えは「受かっても落ちてもどっちでもいい」という一見すると非常に消極的なものでした。

「どっちでもいいなんて無責任だ」と桜木を責める矢島の両親ですが、桜木は、子供に対して冷酷かつ無関心であるように見えるこの態度こそが、子供のことを考えている正しい姿だと言い切ります。

その理由は、「合格してほしい」としか考えていない親は「合格か不合格か」という結果のみにとらわれているからであるというものでした。合格してほしいと考えるのは、ただの願望にすぎず、結果にしか関心がないからこそ、そのような態度を取れるのだろうというのです。

■「合格してほしい」と思う親は自分のことしか考えていない

確かに、受験戦争は親にとっても苛烈な戦いです。朝早くから夜遅くまで勉強し続ける受験生たちのコンディションが悪くならないように、常に気を配ってあげなくてはいけません。「落ちる」「滑る」というワードを禁句のように思っている方もいることでしょう。

ですが、桜木はこのような態度に警鐘を鳴らします。本当に頑張っているのは子供たち自身であるのに、その頑張りを認めずに、結果だけを求めるというのは、自分のことしか考えていないのではないか、これは親が子供におんぶされているような状態であって、「合格まで連れて行ってくれ」とわがままを言っているような状態にすぎないのだと――。

確かに、一浪の末東大に合格した僕からしても、親が無関心であったことは東大合格に大きく寄与していると思います。親からの「東大に受かってほしい」という思いは、たとえ声に出していなかったとしても、子供に伝わっていくものです。

しかし、誰よりもまず東大に合格したいと思っているのは、親ではありません。受験生本人です。自分自身のプレッシャーで押しつぶされそうになっているのに、どうして他人から発されるプレッシャーまで背負えるでしょうか。

■数字だけでなく過程を評価する唯一の存在

僕が思う受験生にとって一番助かる態度は、結果はどちらでもいいと思ってくれることです。そうして、頑張ったという結果を一緒に分かち合ってくれる。受験生にとって、それほどうれしいことはありません。受験戦争は孤独な戦いであるからこそ、その過程に注目して励ましてくれる人は、本当に貴重な存在なのです。

受験生にとって、親以外の大人は、自分を模試の点数や偏差値などの数字でしか評価してくれません。努力や過程が大事だと言いつつも、成績が低下したら「このままだと第一志望は厳しいぞ」などと問答無用に責め立てます。出した結果がどのようなものであるかにしか興味がない人々とは違い、唯一親だけは、結果だけにとらわれないで自分自身を見てくれるはずだと考えています。

模試の点数が悪くても、それを責めないようにしましょう。「大丈夫だよ、いつも夜遅くまで勉強しているんだから」と、いつも自身が見ている頑張りを一緒に分かち合ってあげる。そうすることで、お子さんの負担を大幅に軽減させることができます。

親に認められれば、子供もまた受験に対して前向きになることができるでしょう。そんな晴れやかな気持ちで受験に臨むことこそが、受験生にとっても親にとっても最上級なのです。

わが子の受験に対して、ついつい数字の結果を求めてしまってはいないでしょうか。それでは、いたずらにプレッシャーを与えているだけかもしれません。子供の受験の足を引っ張る存在ではなく、後押しをする存在になるためにも、ぜひ結果だけを求めるのではなく、過程を評価するようにしてあげてください。

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布施川 天馬(ふせがわ・てんま)
現役東大生ライター
世帯年収300万円台の家庭に生まれ、金銭的余裕がない中で東京大学文科三類に合格した経験を書いた『東大式節約勉強法 世帯年収300万円台で東大に合格できた理由』の著者。他にも『人生を切りひらく 最高の自宅勉強法』(主婦と生活社)、『東大大全』(幻冬舎)、『東大×マンガ』(内外出版社)、『東大式時間術』(扶桑社)などがある。
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(現役東大生ライター 布施川 天馬)