ラテン語こそ世界最高の教養であるーー。東アジアで初めてロタ・ロマーナ(バチカン裁判所)の弁護士になったハン・ドンイル氏による「ラテン語の授業」が注目を集めている。同氏による世界的ベストセラー『教養としての「ラテン語の授業」ーー古代ローマに学ぶリベラルアーツの源流』(ハン・ドンイル著、本村凌二監訳、岡崎暢子訳)は、ラテン語という古い言葉を通して、歴史、哲学、宗教、文化、芸術、経済のルーツを解き明かしている。韓国では100刷を超えるロングセラーとなっており、「世界を見る視野が広くなった」「思考がより深くなった」と絶賛の声が集まっている。本稿では、本書より内容の一部を特別に公開する。

世界のエリートが「ラテン語」を猛勉強する理由

 ヨーロッパをはじめとする西洋国家の教育において、ラテン語学習は今日でも重視されています。

 例えばイタリアでは、他のヨーロッパ諸国と同様、中学校から高校に進学するとき、「大学進学を見据えて高校でしっかり勉強するのか」、または「職業的な専門知識や技術を身につける高等専門学校に進むのか」を決めなければなりません。

 イタリアには大学入試がなく、大学に入学するためには「マトゥリタ maturità」という高校卒業資格取得のための国家試験に合格する必要があります。でなければ卒業証書「ディプロマ diploma」ももらえません。ところが、このディプロマ取得が一筋縄ではいきません。

「古典語能力」の試験があり、そこでラテン語の実力が試されるのです。試験会場には、チェックを受けた辞書と筆記用具以外は持ち込めません。

 ヨーロッパの高校生たちにとってラテン語とは、消滅した過去の言語ではなく、大学進学のカギを握る重要な科目なのです。現地の書店の教材コーナーに、さまざまなラテン語の参考書が並んでいるのもそんな理由からです。

 さて、マトゥリタを通過したイタリアの若者たちは、医学部などの専門的な学部を除けば、どこの大学のどの学部でも自由に志願することができます。だからといって、学生はむやみに名門大学に進学しません。卒業が容易ではないからです。

 大学入学と同時に卒業が保証されているような韓国の大学とは違い、ヨーロッパの大学は、国ごとに若干の違いがあるものの卒業は非常に困難です。イタリアの場合、大学を卒業できるのは入学した学生の2〜3割程度と、わずかな学生しか卒業証書を手に入れられません。

 このような理由から、海外で中・高等学校生活を過ごした韓国人学生の中には、ヨーロッパの大学ではなく、あえて韓国の大学を選ぶ人もいます。私が彼らに対し「(ヨーロッパより楽な)韓国で大学生活を送っているのだから、その分もっと真剣に勉強しなさい」と口酸っぱく言うのはそういう理由からです。

(本原稿は、ハン・ドンイル著『教養としての「ラテン語の授業」ーー古代ローマに学ぶリベラルアーツの源流』を編集・抜粋したものです)