【木村ヒデノリのTech Magic #124】 Hasselbladを使い始めると挑戦したくなるのがフィルムでの撮影だ。もちろん過去に紹介した「CFV II 50C」を使えば効率よく撮影ができる。失敗も少ないので実用的なのだが、クロップされてしまうという1点において不満が残る。せっかくならHasselbladの代名詞である6×6の正方形で、ファインダーいっぱいに映し出された被写体を切り取りたいところだ。
これを叶えるにはフィルム撮影しかないが、難易度とコスパを考えると二の足を踏む。結局純正のインスタントフィルムバック(ポラロイドバック)に行き着くが、これも「Fuji FP100C」というフィルムの製造中止により道を断たれてしまった。Hasselbladで手軽にフィルムを楽しめる方法はないのかと調べ続けていると、同じ想いでポラロイドバックを作ってしまったフォトグラファーがいた、John Kawasa氏だ。
同氏が開発したHassyPBはなんとチェキのフィルムをHasselbladで使えるようにするという。Carl Zeissの高品質な光学系を活かして写し出される写真は、他のポラロイドカメラでは味わえないシャープさと美しいボケを演出してくれる。発売されてから半世紀経っているカメラにこうした新たな選択肢を追加できるのがHasselbladモジュラーシステムの真骨頂だろう。
Hasselbladを使い始めて驚かされるのがモジュラーシステムの利便性の高さだ。他のオールドカメラが実用で使いづらくなってしまうのに比べ、Hasselbladのカメラが現役なのはこのモジュラーシステムによるところが大きい。レンズに加え、フィルムバックやファインダーも自由に交換ができるので、自分の用途にぴったりの1台が作れるのと同時に、新しい技術が使える意味でも楽しみが増える。
2013年に製造中止がアナウンスされたVシステムだが、その直前の2008年にコシナからClassicが冠されるレンズが発売されるなど、最近まで実用機として使われ続けた側面がある。また、筆者が何回か紹介している「907X 50C」に使われるセンサー部分、CFV II 50CはVシステムの製造がされなくなった2020年に登場してなおVシステムでも使える仕様になっている。このように古き良きカメラの描写を現代でも実用品として活用することができるのがHasselblad最大の利点だ。
こうしたHasselbladモジュラーシステムの利点を活かして開発されたのがHassyPBだ。発案者はタイのフォトグラファー、John Kawasa氏。同氏の豊富な知識とHasselbladへの愛が生んだこのインスタントフィルムバックは、Hasselblad Vシステムに失われた「インスタント写真を撮る」という体験を見事に復活させたのだ。
SQUAREのフィルムを選んだ点にもJohn Kawasa氏のHasselblad愛が感じられる。他社でもinstaxフィルムを活用したデジタルバックを開発しているものの、スクエアタイプで撮れるものは他にない。Vシステムの特徴だった正方形で撮れるというのはそれだけで購入の動機になる非常に良いコンセプトだ。現状デジタルバックでは横長にクロップされてしまうため、ファインダーで見ている全ての風景が収められるというのは魅力的だ。
instaxフィルムを採用した利点は他にもある。instaxシリーズのフラッグシップ機である「instax mini EVO」はコンデジ市場で大ヒットしており、当初計画の2倍以上売れているそうだ。このためinstaxフィルムはラインナップが充実、スクエアタイプも通常モデルに加え、ブラック、レインボー、ホワイトマーブル、スターイルミネーションなどさまざまなデザインから選ぶことができる。
また、カラーだけでなくモノクロフィルムがあるのもHassyPBの用途にはぴったりだ。「今日はモノクロだけ」というように、あえて縛りを作ってストリートスナップに出かけるのも良いだろう。さらにHassyPBを複数台用意すれば一つはモノクロ、一つはカラーといった使い分けができるようになる。通常instaxカメラでは1本フィルムを使い切るまでフィルム交換ができないが、Hasselbladモジュラーシステムが使えるHassyPBなら途中でのフィルムチェンジが可能。instaxフィルムの利点を活かしながら、instaxカメラを超える運用ができるのがHassyPBのすばらしいところだ。
instaxカメラで実現できない楽しさは他にもある。HassyPBを使えばHasselbladで使えるアクセサリー類は全て活用できるので、表現の幅がぐんと広がる。さまざまなレンズで撮影ができるのはもちろん、偏光レンズなどのフィルター類や、露出計つきファインダー、マクロ撮影用エクステンションチューブなども活用できるので、シチュエーションに最適なセッティングに追い込むことができる。
全てマニュアル設定での撮影となるため、instax純正カメラよりは格段に難易度が上がるが、そのぶん綺麗に撮れた時の感動はひとしお。基本的にどのレンズでも絞りがF16以上での撮影はフォーカスを無限遠にするだけなので、最初はそこから始めると良いだろう。
ただ、デメリットもいくつかある。前述したようにF16以上であればフォーカスは無限遠にするだけなのだが、F11以下ではレンズごとにフォーカスシフトが必要になるので撮れるようになるまでコツが必要だ。例えば、Hasselbladでポピュラーな80mmレンズで撮る場合、ピントを合わせたい距離が0.90-1.3mまでの間は2倍の距離として合わせる必要があるのだ。これはinstaxフィルムの構造上起こってしまう回避できない問題なので慣れるほかない。ただ、20枚ほどとれば傾向がわかってくるので筆者はそこまで気にならなくなった。
もう一つ、これも構造上の問題だが黒い縁が写り込んでしまう現象がある。これはinstax SQUAREの画面サイズが62mm×62mmなのに対し、Hasselbladのフォーマットが58mm×58mmなことが原因だ。F値が小さければビネットのように写るのであまり気にならないが、F16以上で撮る際には考慮しておく必要がある。
このようにいくつか気をつけなければならない点はあるものの、Hasselbladでインスタントフィルムが使えるという体験にはそれを上回る価値があると感じた。購入はwww.hassypb.comのサイトへいき、WhatsAppかFacebook Messengerで連絡するとPayPal経由で支払い、送料55ドルで日本へも発送してくれる。PayPal経由なら万が一の補償もあるので安心だ。今ならまだ数量限定で285ドルで買えるようなので気になる方はチェックしてみてほしい。
さらに朗報がある。昨日直接John Kawasa氏に取材したところフォーカスシフトなどのデメリットを解消した新モデルを来年に向けて開発中とのことだ。現モデルの完成度から考えると新モデルには期待して良いだろう。Hasselbladの修理まで手掛ける同氏ならではの発想で作る製品を応援する意味で現モデルを購入しつつ、次モデルを待つのはどうだろうか。(ROSETTA・木村ヒデノリ)
■Profile
木村ヒデノリ
ROSETTA株式会社CEO/Tech Director、スマートホームブランドbentoを展開。
普段からさまざまな最新機器やガジェットを買っては仕事や生活の効率化・自動化を模索する生粋のライフハッカー。2018年には築50年の団地をホームハックして家事をほとんど自動化した未来団地「bento」をリリースして大きな反響を呼ぶ。普段は勤務する妻のかわりに、自動化した家で娘の育児と家事を担当するワーパパでもある。
【新きむら家】
https://www.youtube.com/rekimuras
記事と連動した動画でより詳しい内容、動画でしかお伝えできない部分を紹介しています。(動画配信時期は記事掲載と前後する可能性があります)
これを叶えるにはフィルム撮影しかないが、難易度とコスパを考えると二の足を踏む。結局純正のインスタントフィルムバック(ポラロイドバック)に行き着くが、これも「Fuji FP100C」というフィルムの製造中止により道を断たれてしまった。Hasselbladで手軽にフィルムを楽しめる方法はないのかと調べ続けていると、同じ想いでポラロイドバックを作ってしまったフォトグラファーがいた、John Kawasa氏だ。
同氏が開発したHassyPBはなんとチェキのフィルムをHasselbladで使えるようにするという。Carl Zeissの高品質な光学系を活かして写し出される写真は、他のポラロイドカメラでは味わえないシャープさと美しいボケを演出してくれる。発売されてから半世紀経っているカメラにこうした新たな選択肢を追加できるのがHasselbladモジュラーシステムの真骨頂だろう。
●モジュラー式の真骨頂、Hasselbladだからこそ作れる新たな選択肢
Hasselbladを使い始めて驚かされるのがモジュラーシステムの利便性の高さだ。他のオールドカメラが実用で使いづらくなってしまうのに比べ、Hasselbladのカメラが現役なのはこのモジュラーシステムによるところが大きい。レンズに加え、フィルムバックやファインダーも自由に交換ができるので、自分の用途にぴったりの1台が作れるのと同時に、新しい技術が使える意味でも楽しみが増える。
2013年に製造中止がアナウンスされたVシステムだが、その直前の2008年にコシナからClassicが冠されるレンズが発売されるなど、最近まで実用機として使われ続けた側面がある。また、筆者が何回か紹介している「907X 50C」に使われるセンサー部分、CFV II 50CはVシステムの製造がされなくなった2020年に登場してなおVシステムでも使える仕様になっている。このように古き良きカメラの描写を現代でも実用品として活用することができるのがHasselblad最大の利点だ。
●instax SQUAREフィルムが絶妙に演出する6×6の良さ
こうしたHasselbladモジュラーシステムの利点を活かして開発されたのがHassyPBだ。発案者はタイのフォトグラファー、John Kawasa氏。同氏の豊富な知識とHasselbladへの愛が生んだこのインスタントフィルムバックは、Hasselblad Vシステムに失われた「インスタント写真を撮る」という体験を見事に復活させたのだ。
SQUAREのフィルムを選んだ点にもJohn Kawasa氏のHasselblad愛が感じられる。他社でもinstaxフィルムを活用したデジタルバックを開発しているものの、スクエアタイプで撮れるものは他にない。Vシステムの特徴だった正方形で撮れるというのはそれだけで購入の動機になる非常に良いコンセプトだ。現状デジタルバックでは横長にクロップされてしまうため、ファインダーで見ている全ての風景が収められるというのは魅力的だ。
●トレンドのチェキのフィルムだからこその楽しさもある
instaxフィルムを採用した利点は他にもある。instaxシリーズのフラッグシップ機である「instax mini EVO」はコンデジ市場で大ヒットしており、当初計画の2倍以上売れているそうだ。このためinstaxフィルムはラインナップが充実、スクエアタイプも通常モデルに加え、ブラック、レインボー、ホワイトマーブル、スターイルミネーションなどさまざまなデザインから選ぶことができる。
また、カラーだけでなくモノクロフィルムがあるのもHassyPBの用途にはぴったりだ。「今日はモノクロだけ」というように、あえて縛りを作ってストリートスナップに出かけるのも良いだろう。さらにHassyPBを複数台用意すれば一つはモノクロ、一つはカラーといった使い分けができるようになる。通常instaxカメラでは1本フィルムを使い切るまでフィルム交換ができないが、Hasselbladモジュラーシステムが使えるHassyPBなら途中でのフィルムチェンジが可能。instaxフィルムの利点を活かしながら、instaxカメラを超える運用ができるのがHassyPBのすばらしいところだ。
●Hasselbladの豊富なレンズ、アクセサリー群で広がる創作の幅
instaxカメラで実現できない楽しさは他にもある。HassyPBを使えばHasselbladで使えるアクセサリー類は全て活用できるので、表現の幅がぐんと広がる。さまざまなレンズで撮影ができるのはもちろん、偏光レンズなどのフィルター類や、露出計つきファインダー、マクロ撮影用エクステンションチューブなども活用できるので、シチュエーションに最適なセッティングに追い込むことができる。
全てマニュアル設定での撮影となるため、instax純正カメラよりは格段に難易度が上がるが、そのぶん綺麗に撮れた時の感動はひとしお。基本的にどのレンズでも絞りがF16以上での撮影はフォーカスを無限遠にするだけなので、最初はそこから始めると良いだろう。
●第二世代にも大いに期待したい完成度・実用度の高いポラロイドバック
ただ、デメリットもいくつかある。前述したようにF16以上であればフォーカスは無限遠にするだけなのだが、F11以下ではレンズごとにフォーカスシフトが必要になるので撮れるようになるまでコツが必要だ。例えば、Hasselbladでポピュラーな80mmレンズで撮る場合、ピントを合わせたい距離が0.90-1.3mまでの間は2倍の距離として合わせる必要があるのだ。これはinstaxフィルムの構造上起こってしまう回避できない問題なので慣れるほかない。ただ、20枚ほどとれば傾向がわかってくるので筆者はそこまで気にならなくなった。
もう一つ、これも構造上の問題だが黒い縁が写り込んでしまう現象がある。これはinstax SQUAREの画面サイズが62mm×62mmなのに対し、Hasselbladのフォーマットが58mm×58mmなことが原因だ。F値が小さければビネットのように写るのであまり気にならないが、F16以上で撮る際には考慮しておく必要がある。
このようにいくつか気をつけなければならない点はあるものの、Hasselbladでインスタントフィルムが使えるという体験にはそれを上回る価値があると感じた。購入はwww.hassypb.comのサイトへいき、WhatsAppかFacebook Messengerで連絡するとPayPal経由で支払い、送料55ドルで日本へも発送してくれる。PayPal経由なら万が一の補償もあるので安心だ。今ならまだ数量限定で285ドルで買えるようなので気になる方はチェックしてみてほしい。
さらに朗報がある。昨日直接John Kawasa氏に取材したところフォーカスシフトなどのデメリットを解消した新モデルを来年に向けて開発中とのことだ。現モデルの完成度から考えると新モデルには期待して良いだろう。Hasselbladの修理まで手掛ける同氏ならではの発想で作る製品を応援する意味で現モデルを購入しつつ、次モデルを待つのはどうだろうか。(ROSETTA・木村ヒデノリ)
■Profile
木村ヒデノリ
ROSETTA株式会社CEO/Tech Director、スマートホームブランドbentoを展開。
普段からさまざまな最新機器やガジェットを買っては仕事や生活の効率化・自動化を模索する生粋のライフハッカー。2018年には築50年の団地をホームハックして家事をほとんど自動化した未来団地「bento」をリリースして大きな反響を呼ぶ。普段は勤務する妻のかわりに、自動化した家で娘の育児と家事を担当するワーパパでもある。
【新きむら家】
https://www.youtube.com/rekimuras
記事と連動した動画でより詳しい内容、動画でしかお伝えできない部分を紹介しています。(動画配信時期は記事掲載と前後する可能性があります)
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