スーパーエース・西田有志 
がむしゃらバレーボールLIFE  Vol.2(4)

(第3回:石川祐希に頼んだ「買い出し」や直接対決も語った>>)

 今シーズン、男子バレーボール日本代表の左腕エース・西田有志は、イタリアリーグ1部のセリエAで濃厚な1年を過ごした。

 ビーボ・バレンティアのメインのオポジットとして活躍したが、西田のケガによる離脱、新型コロナウイルス感染者が出たこともあってチームは苦しんだ。3月13日には、同じくセリエA初挑戦した郄橋藍が所属するパドバと対決。郄橋がリベロとして出場した試合は競り合いになったものの、ビーボが敗れて2部降格が決まったリ。


セリエAに初挑戦した西田

 セリエAでの日本人対決は、昨年11月の石川祐希(ミラノ)に続いて2回目だったが、シーズンが終わって帰国した西田に郄橋との対決について聞くと、少し考えて次のように答えた。

「あまり個人を意識することはないですが、世界トップのリーグで日本人選手が直接対決できるのは素晴らしいし、嬉しい。藍は本来のポジションではなかった(本来アウトサイドヒッター)ですけど、守備の良さが"売り"でもありますし、それをしっかりアピールできていると感じました。

 僕も日本代表のユース時代にリベロを経験していますけど、『アタッカーなのに......』とは思いませんでした。どんなポジションでも、試合に出られたらそれでよかった。藍とは試合後に『調子どう?』くらいの会話しかしなかったので本心はわかりませんが、たぶん同じような思いだったんじゃないかと思います」

 日本代表の練習や紅白戦などを除き、敵チームとして西田のサーブを受けるのが初めてだった郄橋は、試合後に「少しビビった」とコメント。それに対して西田は、「高校以来の対決だったので、楽しくやれたかな。まぁ、高校の時の試合は練習試合だったので、藍の印象はほとんど残ってないんですけどね」と笑顔を見せた。

 対戦前には、FIVBの公式アカウントである「バレーボールワールド」もSNS上で2人を紹介するなど、「注目されてるのを感じた」という。

「僕たちのチームは降格するかどうかの"崖っぷち"だったし、対決を楽しむのは難しかったです。ただ、そうやって取り上げてもらえるのは光栄だし、今後も注目に値するような選手でありたいと思います」

 試合は郄橋が所属するパドバが勝利したが、その試合のMVPに選ばれたのは西田だった。もしかすると、このMVPはその1試合だけではなく、シーズンを通しての頑張りに対してのMVPだったのかもしれない。

 西田はケガによる離脱があったにもかかわらず得点ランキング17位、サーブ得点ランキングは3位につけた。13チーム中12位となったチームにおいて、孤軍奮闘していたことがわかる。西田自身、今シーズンの手応えはどうだったのか。

「よく戦いきれたとは思います。ただ、ケガもあって思うようなプレーができなかったことは、チームが降格した要因のひとつでもあるので、心境的には複雑ですね」

 ビーボの会長も、今季にチームが低迷した理由として、「ブラジル代表のダグラス・ソウザがチームに馴染めずに離脱したこと、あとは西田のケガが大きかった」と話した。それだけ西田の存在が、チームにとって大きなものだったということだろう。

「チームから信頼してもらっているのを随所に感じました。なかなか僕が結果を出せない時でも、しっかりと起用してくれたので感謝しています。加入1年目からこれだけ使ってくれることはなかなかないことだと聞いていますし、ためらいなく起用してくれたことが嬉しい。その中で、これまで以上に"考えて"プレーができていたと思います。

 言葉の壁も、苦しんだのは最初だけでした。最初は英語で、だんだんイタリア語でもコミュニケーションが取れるようになった。チームメイトは優しくて、『うまい。ちゃんとわかるよ』と褒めてくれるので、もっとイタリア語で話そうという気持ちにさせてくれる。リーグの最後のほうは、練習や試合中のやりとりもイタリア語でした。ちなみに、美容室もイタリア語で好みの髪型にしてもらえるようになりましたよ(笑)」

 シーズンを通して成長できた点についてはこう語る。

「イタリアに渡った当初より、筋肉もついて体重が5、6キロくらい増えました。日本人選手は、海外の選手に高さとパワーで負けていると言われていますが、高さはなんともならない部分があっても、パワーはそうじゃないという自信が持てましたね。その点は、海外選手との差が埋まりつつあるのかなと。

 攻撃面はより強力になったと思いますし、それを得点やサーブ効果率など数字として残せたのはよかった。ケガをしていなかったらもっとランキング上位に食い込めたと思うので悔しいですけど、しっかりと自分をコントロールしながらプレーできたと思います」

 西田が1年を過ごした街には日本料理の店がなく、帰国の際に食べた飛行機の機内食が久しぶりの日本食だったという。シーズン中もしっかり自炊し、日本食が恋しくなることもなかったようだが、「帰国後もあらためて日本食を食べて、『あぁ、自分は日本人やな』ってしみじみしました(笑)」と振り返った。

「この1年、いい意味で"海外"を感じられました。イタリアに行ったばかりの時は寂しくて自然と涙が出ることもありましたが、そこからチームに溶け込んでいったり、いろんな街を回ったり。街ぐるみでクラブを精一杯サポートするという、日本にはない光景も新鮮でした。

 日本語の応援ボードを出してもらえることもあった一方で、アジア人全体に対する"特別な見方"を感じることもありました。ただ、『これこそリアルな体験。これを乗り越えることがまた力になる』と前向きに捉えています」

 現在、日本代表は6月7日から始まるネーションズリーグに向けて準備を進めており、西田は第1週のメンバーに名を連ねた。その翌週以降も主力としての活躍が期待されるが、自らの役割について次のように語った。

「海外チームに、日本は強いという印象を与え続けたい。そのためには、アグレッシブにさまざまなことに取り組むことが大事だと思いますし、僕が先陣を切って、みんながアグレッシブにやれるようにしたいです。

 具体的には、高さ、速さ、パワーなどトータルで"日本ぽくない"バレーにも挑戦する必要があると思っています。『そこで海外チームと張り合っても......』という意見はあるでしょうが、現段階で"日本バレー"だけでは強豪国には勝つことが厳しいわけですから。何を変えるのか、という点は、海外で長く指導をしていた(フィリップ・)ブラン監督の意見をどんどん取り入れていきたいですね。海外バレーのよさを、日本人選手でも表現できるように、僕もイタリアでの経験を少しでも還元していきたいです」

 ネーションズリーグの後には、世界選手権も控えている。目指すは、29年ぶりに決勝トーナメントに進出した東京五輪でのベスト8よりもさらに上だ。

「それがパリ五輪にもつながっていくと思うので」

 イタリアで逞しさを増したエースが、2年後に向けて日本代表をけん引する。