Z世代が買い物をするときに重視することとは(写真:Getty Images)

一通りモノが行き渡った今、ニッチだけど共感性の高い商品が局所的ヒットを飛ばす。ドハマりする小集団と、何も知らないその他大勢という市場構造。その原動力ともいえるのが、1990年代後半〜2000年代後半生まれのZ世代だ。彼らが世界の消費者の40%を占める今、企業はどう向き合うべきか。『世界のマーケターは、いま何を考えているのか?』を書いたブランドリサーチャー 廣田周作氏に聞いた。

孤独感や閉塞感が強まっている世代

──Z世代をどう見ていますか?

デジタルネイティブ世代でSNSでつながりやすくていい、と上の世代は思いがちだけど、逆につながりが容易に見えてしまう地獄がある。クラスメートがパーティーで盛り上がっているインスタグラムを見て、自分が除外されているのを知る。友人はフォロワーが10万人いて自分は3人だけとか、容赦なく可視化され突きつけられる。一方で、何か書けば知らない人からコメントで攻撃される。

さらにコロナ禍で人と会う機会が減り、ちょっと言葉を交わす程度だった“弱いつながり”の友人知人と関係が途切れてしまった。実は、人生における有益な情報は、同じ価値観ではない弱いつながりの人から得ることが多い、という研究があります。友達づてに新しい人と知り合う機会も激減した。

リアルでもデジタルでも孤独感や閉塞感が強まっている。Z世代に平均像などないし、彼らをひとくくりにはできないけど、そうしたメンタルヘルスの問題が確かに存在する。そこを切り捨てることなく、共感を持って真摯に向き合っていく必要があると思う。

──企業に対する消費者としての目線も、従来とは違ってくる?

これまで企業は、イベントの開催でどれだけ集客したかを競っていたけど、今は、参加者がそこを安心して過ごせるいい“居場所”と感じたかどうかが重要になっている。若者がイケてると感じるブランドは、信頼できる人々が運営し、近い価値観で、孤独に向き合ってくれる、生き生きとしたコミュニティーの感覚を持つもの。彼らと長期的な関係をつくる意味で、そういう場を企業は考えなきゃいけなくなっている。ファンになり応援していこうと思ってもらう価値は、これまで以上に大きい。

買い物は「意思表明」をする投票

──「消費アクティビズム」という言葉を最近よく目にします。

彼らにとって買い物は、自分たちの意思表明をする投票です。品質のよさに加え、提供する企業・ブランドの姿勢に共鳴し購入する行動を通して、社会の課題解決に貢献したいと本気で考える。


廣田周作(ひろたしゅうさく)/1980年生まれ。東京大学工学部卒業後、NHKに入社しディレクター。2009年電通へ移り、マーケティング、新規事業開発・ブランドコンサルティング業務。18年に企業のブランド開発を行うHenge Inc.設立。イノベーションリサーチのイギリスStylus Media Groupチーフコンサルタント、Vogue Businessの日本市場ディレクターも兼任。(撮影:梅谷秀司)撮影:)

自分たちの未来は自分たちで変えられる、消費力で悪い企業を淘汰しようと。未来の安心を約束し、自分が“推せる”かどうか。さらに、障害者にも平等にサービス提供されるかなど、Winner takes all(勝者総取り)の時代は過ぎ、Winner includes all、多様な価値観を包摂するサービスの提供者が勝者になっていくと思います。

SNSを通し経営者の思想や発言、従業員の様子ほか具体的な企業行動が見えやすくなった。社会を変えていこうという、本気の姿勢や勇気が求められています。

──やってるふりは通用しない?

例えばSDGs。広告代理店から「うちにいいソリューションあります」と提案され、研究開発や事業改革、アップサイクルのエコシステムなどの議論より先に、プロモーション予算で広告キャンペーンを打ってないか。だとしたら、薄っぺらいと思われるだけ。

実際、消費者からそっぽを向かれた例は海外でたくさんあります。アメリカの黒人女性歌手リアーナが自分の肌色に合う化粧品ブランドを立ち上げ、多くの女性たちから熱烈に支持された。それを見た大手メーカーが即刻まねして色数を増やしたけど、鳴かず飛ばすだった。

成功例をパクっただけ、本気で問題を考えてないよね、と見破られた。SNSで経営者の考えが見えてしまう時代なんです。言うこととやることが一致しているかちゃんと見られている。消費アクティビストたちがその矛盾を告発し運動が起きるので、今とてもセンシティブな問題になっています

──自分たちがどんなブランドか、ストーリーを語ることも重要だと。

中でも大切なのは未来を語ること。日本企業は過去と現在は上手だけど、未来語りが苦手です。テレビCMで自動車会社トップが熱く語るのはいい取り組みではあるけど、生活者に何が約束されるのかはいま一つ伝わらない。

例えばアメリカのテスラ社は、環境負荷を低減することに加え、将来的に自動運転技術が実装されたEVを持てば、使わないときはロボットタクシーとして貸し出して収入が得られるとか、期待できる青写真を提示してくる。そういう物語って、自分にどう関わってくるかイメージできたときに感動があるけど、日本企業の場合、壮大な風景でも画素数が少なくて、何が描かれているのかよくわからない。

日本でZ世代ブランド目立てないワケ

──本書の大きな魅力はZ世代から支持されるブランド事例の数々ですが、ほぼ欧米の話ですね。

本では少し触れただけですが、2017年にアメリカ・ロサンゼルスの若者数人が立ち上げた「マッドハッピー」というアパレルブランドがあります。メンタルヘルスがテーマなのですが、そこにフランスのLVMHグループが出資、一気に拡大した。小さな芽にメジャー資本がお金を投入し大きくすることで、若者発信のオルタナティブなカルチャーが育まれ根付いていく現象が、アメリカではダイナミックに起こっています。


日本にもZ世代が支持する小さなブランドは多数あるんです。ただシニアがピックアップできず、マスコミもリーチできてないので無名なだけで。例えば「NEUT」というメディア。ダイバーシティーや在日外国人との共生、セルフケアやセクシュアルウェルネスの話などをしっかり取り上げている。

けど大手メディアは自らの大看板を死守することに躍起で、ヒップホップで言う、次の世代を“フックアップ”することなどには気が回らない。ヒップホップでは、売れてるおじさんラッパーが有望な若手を発掘し、コラボすることでさらに評価が高まる。若い子は一躍名が売れるし、互いにメリット大。日本はまだ、みんなで一緒に坂道下っていこう、みたいな空気だけど、アメリカでは新しい芽が次々育ちつつあることを伝えたかった。