1月29日に新たな料金プランを発表した楽天の三木谷社長(撮影:尾形文繁)

第4の携帯キャリアである楽天モバイルが料金戦略を大きく転換した。これまで同社は「容量無制限で月額2980円」の単一料金プランを前面に打ち出していたが、1月29日に発表した新プランは、利用データ量に応じて料金を4段階に分けた。1GB(ギガバイト)以下は無料、1〜3GBは980円、3〜20GBは1980円、20GBを超えると2980円という体系だ。

「もともとの(単一)プランを作ったときは、どちらかというとスマートフォンでネットをたくさん使う人向けだった。ただ、実際はたくさん使う人もいれば、あまり使わないのに料金が高くなっている人がいる」。楽天の三木谷浩史社長は発表会見で、料金を4段階に分けた背景をそう語った。

総務省の調査によれば、スマホユーザーのうち毎月の利用データ量が5GB以下の人は66%に上る。楽天としては、いわゆる「ガラケー」から移行したばかりであまりデータ通信を使わない人から、高速通信の5G(2020年9月からサービス開始)で大容量を使う人まで幅広くカバーしたい考えだ。

ドコモの先制攻撃で他社も追随

これで通信大手4社による料金値下げ競争はいったん打ち止めだろう。もともと、口火を切ったのは最大手のNTTドコモだった。2020年12月3日、就任直後の井伊基之社長がお披露目した新プラン「ahamo(アハモ)」は20GBで月額2980円(サービス提供は2021年3月から)という価格設定で業界を驚かせた。データ量が無制限とはいえ、同じ価格の楽天には脅威となった。

楽天と既存大手の最大の違いは、ネットワークのつながりやすさにある。2020年4月から本格サービスを開始した楽天は、2021年1月時点における4G回線の人口カバー率が73.5%。他社はすでに99%を達成しており、5G網の整備でも先を行く。楽天の場合、自社エリア外では提携するKDDIの回線につなぐことになっており、その場合は月5GBを超えると速度制限がかかる。

「(4Gの人口カバー率は)今年の夏には96%に達成する見込み。凄まじい勢いで開通が進んでいる」と三木谷社長は話す。ただ、自社回線の現楽天モバイルに移行すれば先着300万人が1年間無料になるにもかかわらず、ドコモ回線に接続するMVNO(仮想移動通信事業者)である旧楽天モバイルのユーザーはいまだに100万人いる。移行の煩雑さだけでなく、つながりやすさに懸念する層がいるからだろう。

ドコモに続き、ソフトバンクとKDDIも対抗策を打ち出している。2020年12月22日にはソフトバンクが傘下のLINEモバイルを吸収する形で、ドコモと同じく20GBで月額2980円の新プラン「SoftBank on LINE」を発表。コミュニケーションアプリ「LINE」の通信は利用データ量に含めないという「売り」を強調した。

年が明け1月13日にはKDDIも新プラン「povo(ポボ)」を発表した。こちらはドコモとソフトバンクがつけている「1回5分以内の通話は無料」をオプション(月額500円)にすることで、20GBで月額2480円という料金にした。

今後の焦点は事業者間でユーザーの乗り換えが進むのかどうかだ。アハモは1月11時点で事前の予約者数が55万人に達した。ドコモは2020年7〜9月の契約が20.9万件の純減だったので、一見するとアハモの引き合いは上々ともいえる。

【2020年2月10日17時45分追記】初出時、ドコモの2020年7〜9月の純減数が誤っていました。お詫びして訂正いたします。

だが、ドコモはこの予約者数の内訳(既存プランのユーザーと他社ユーザーの比率)を開示していない。井伊社長はアハモの発表時に「(他社に奪われた)若い世代を取り戻さないといけない」と語っていたが、狙い通りいったのかはまだ不明だ。仮にアハモに切り替えたドコモユーザーの割合が多ければ、顧客単価の下げ圧力が強まるだけだ。

抜本的な打開策が必要

ドコモ、KDDI、ソフトバンクの各社は20GBの中容量帯だけでなく、大容量帯も1000円前後値下げした。つまり楽天以外の料金プランはほぼ横並びだ。値下げ競争が一巡した後は、サービス面での差別化が重要になる。

先述の通りソフトバンクの新プランではLINEの利用はビデオ通話などを含めて無制限だ。KDDIのポボには「24時間データ使い放題を200円で買う」といった、さまざまな有料オプションがある。後発の楽天はもともとネット通販の「楽天市場」など広範なサービス群を持ち、多くのポイントが貯まることを訴求する。実際、楽天モバイルのユーザーのうち55%が楽天市場を利用しており、「モバイルが“楽天経済圏”で非常に重要になる」(三木谷氏)。

一方のドコモは、2980円という料金発表時の衝撃は大きかったものの、結果的にアハモのプランには目立った特徴がなく、他社の対抗プランが出そろった中では「新味」が薄れた。井伊社長は昨年12月の東洋経済のインタビューでサービス戦略について、「今までのドコモだったらやらなかったことを思い切ってやる」と話していたが、顧客獲得を推し進めるうえでサービス面での打開策が早急に求められそうだ。