ホンダの新システムは「レベル2」のシステムとどう違う?

 ホンダは2020年11月11日、「自動運転レベル3に求められる国土交通省の型式指定を取得した」と発表しました。システム名は「トラフィック・ジャム・パイロット」で、最初に搭載するのは最上級セダン「レジェンド」です。2020年度内の発売を予定しています。

ホンダの自動運転技術はどこがどのように凄いのか(写真は「レジェンド」の現行モデル)

 これにより、ついに本格的な自動運転車の量産化が決まったというわけです。

【画像】搭載される「レジェンド」ってどんなクルマ?(23枚)

 自動運転レベル3については、メルセデス・ベンツの新型「Sクラス」でも導入されますが、サービス開始は2021年後半を見込んでいるため、レジェンドは事実上、世界初のレベル3自動運転量産車になる見込みです。

 日産「プロパイロット2.0」やテスラ「オートパイロット」、さらにスバルの新世代「アイサイト」とそのアップグレード版「アイサイトX」などは、現時点で自動運転レベル2です。

 レベル2でも、ハンズフリーでの走行は可能ですが、運転者は車外に対して常に注意を払う必要があります。

 これが、ひとつ上のレベル3になると走行中の車内の状況が大きく変わり、走行中に運転以外の行為をおこなうことが可能になるのです。

 これを、セカンダリー・アクティビティと呼びます。具体的には、スマートフォンの使用、読書、動画の視聴、さらに飲食などが含まれます。

 なぜ、こうしたことが可能なのでしょうか。ながらスマホが厳罰化されたばかりなのに、ちょっと分かりにくい感じがします。

 背景にあるのは、レベル3では“運転の主体が運転者からクルマ側のシステム移行する”という点です。

 つまり、レベル3では運転席にいる人は運転していないことになるため、走行中にスマホを使っても、運転し“ながらスマホ”には相当しない、という考え方です。

 ただし、レベル3には「走行環境条件(ODD)」と呼ばれる条件があります。

 例えば、高速道路かどうか(場所)、走行速度、天候などのことです。走行環境条件のなかでは、運転者は車内のスイッチを操作することで、レベル3走行に移行することができます。

 その反対に、走行環境条件から離脱することを、音声や車内の各種表示などによって、クルマのシステムが運転者に運転を要求してくる場合があります。これを、テイク・オーバー・リクエスト(TOR)といいます。

 テイク・オーバー・リクエストが発生するのは、例えば、高速道路の料金所を出て一般道に入るとき、豪雨や降雪で車載センサーの感知能力が下がったときなどがあります。

 つまり、レベル3では、テイク・オーバー・リクエストが発生することを前提としているため、走行前や走行中の飲酒や、走行中に深い睡眠に入るような姿勢をとることはできません。

レベル3の自動運転で想定される今後の問題点とは

 さて、ホンダのトラフィック・ジャム・パイロットですが、技術面について詳細はまだ公開されていません。

世界初の自動運転レベル3装置を搭載することになったホンダ「レジェンド」(写真は現行モデル)

 ただし、2019年7月にホンダが一部報道関係者向けにおこなった次世代技術説明会「ホンダミーティング」(於:埼玉県和光市)で、ホンダ幹部はレベル3自動運転に関する技術を紹介しました。

 それによると、量産初期に想定している走行環境条件は「高速道路での渋滞時」としていました。

 今回発表されたシステム名に含まれる「トラフィック・ジャム」とは渋滞を意味するため、GPSや高精度三次元地図などによる位置情報や、ETCとの連携によって、高速道路を走行していることを判断するのだと思われます。

 渋滞時と判断する走行速度ですが、現状では自動車技術会など業界団体での定めた速度はありません。

 そうしたなかで、例えばスバルが新型「レヴォーグ」に搭載した「アイサイトX」のレベル2・ハンズフリーも高速道路での渋滞時を想定しています。スバルによると、設定速度は「時速55km以下」ということです。

 ホンダのトラフィック・ジャム・パイロットもこれに近い速度域で、こちらはレベル3になると考えられます。

 最後に、自動運転レベル3における大きな問題点を指摘したいと思います。それが、「法定速度の順守」による、レベル3以下の車両との混走の難しさです。

 レベル2までは、アダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)の設定速度は、あくまでも運転者が決めるものであり、法定速度以上でも設定は可能です。

 一方、レベル3の場合、GPSや高精度三次元地図による位置情報、またカメラによる標識認識により法定速度を認識し、法定速度を守って走行します。

 周知の通り、高速道路でも一般路でも、実際の交通流である実勢速度と法定速度には開きがあります。場所によっては、その開きが大きい場合もあります。

 そうしたなかで、レベル3で走行すると、まるで低速走行車のようなイメージになってしまい、状況によっては危険な場面に遭遇するかもしれません。

 そのため、ホンダとしては、まずは渋滞時という走行環境条件を設定したと考えられます。

 今後、レベル3の走行環境条件での速度設定を上げる場合、周囲のクルマにもスピードリミッターをかけるなどの議論も必要になってくるかもしれません。