2020年8月、ニコンのミラーレス一眼のラインナップにフルサイズのイメージセンサーを搭載したベーシックモデルの「Nikon Z 5」が加わった。

これまでフルサイズモデルには高画素機の「Nikon Z 7」、オールマイティの「Nikon Z 6」があり、そしてエントリーユーザー向けのAPS-Cサイズのセンサーを搭載した「Nikon Z 50」があったわけだが、新製品のZ 5はその間に収まるモデルである。

価格は10万円台前半のZ 50、10万円台後半のZ 5、20万円台前半のZ 6、そして30万円台後半のZ 7となる。静止画撮影ならば、風景撮影や人物撮影にも最高の結果が残せる有効画素数4575万画素のZ 7が頼もしい。


十分、高画素機であると言える2450万画素のNikon Z 6


価格差が大きいこともあり、有効画素数2450万画素のZ 6はどうしても格下のモデルという印象をうけてしまう。画素数が近いZ 5は、Z 6の価格差からお買い得モデル感が強まり、さらにZ 6の立ち位置が微妙となっているのである。

しかしながら、Z 6にはZ 7やZ 5にはない尖った特徴を持つ製品なのはご存じだろうか?

現在のミラーレス一眼は、静止画撮影用途だけではなく、動画撮影用にも広く使われるようになった。
Z 6およびZ 7も4K動画記録に対応しており、レンズ交換式カメラの特徴を活かして、様々なレンズを駆使して映像制作を行うことが可能だ。

動画の解像度は映像規格に基づいており、FHD(1920×1080ドット)や4K(3840×2160ドット)が一般的だ。つまり、もとのカメラの画素数に関係がないということは、高画素であるZ 7はZ 6に対する優位性はないのである。

・・・と、言いたいところだが、
Z 6はFXフォーマット(35mm判フルサイズ)なら全画素読み出しによる解像感を得ることができる。
一方のZ 7はFXフォーマットではなく、一回り小さいDXフォーマット(APS-Cサイズ)でのみ全画素読みだしに対応する。

実は、4K動画撮影の画質に関する部分では、Z 6がZ 7を上回るのである。




高画素機の画像読みだしと処理に関するパフォーマンスの差が出たわけだ。
わかりやすく説明するなら、2450万画素のZ 6はデータが軽く、秒間30コマの動画の処理に余裕がある。

とはいえ、この全画素読みだしによるオーバーサンプリング画質と、ピクセルビニングよる画素を間引いた画質では、暗所での撮影など特殊な条件下で若干影響が出る程度でZ 7のFXフォーマットでも十分綺麗な映像を撮影可能だ。

と、フォローしておきつつ、このイメージセンサーの違いが新機能によって決定的にでることになる。2019年12月よりアップデートサービスで提供開始となった新機能、RAW動画撮影機能(有償:税込33,000円)でさらに大きく差が付いたのである。


HDR対応5インチモニターレコーダーのAtomos Ninja V


RAW動画撮影機能とは、Atomos製の5インチモニターレコーダー「Ninja V」とZ 6/Z 7をHDMIケーブルで接続し、撮影後に編集可能な12bit RAW動画を記録するというもの。

Z 7はFXフォーマット時にFHD(1920×1080ドット)のRAW出力に対応し、4KはDXフォーマット時のみとなる。Z 6はFX/DXフォーマットどちらでも4Kの動画出力に対応する。

たとえば4Kの素材撮影時に、背景を大きくぼかす演出が欲しい場合はFXフォーマットを、望遠撮影をする際にはDXフォーマットで撮影するという選択が可能だ。

4K動画撮影においてZ 6の自由度の高さは、Z 7をも凌駕しており静止画のZ 7、動画にも強いコストパフォーマンスが高いZ 6という立ち位置が見えてきた。


さて、実際にRAW動画を撮影するにはどうすれば良いのだろうか?
今回はZ 6とAtomosのNinja Vを使ってみたので紹介したいと思う。

RAW動画を記録するNinja Vは、タッチパネル付きの10bit HDR対応の5インチモニターがベースとなる。
このモニターには、PCパーツでお馴染みのシリアルATA(SATA)端子があり、この端子に2.5インチ SATAのSSDを付属のケースで接続するか、高い堅牢性を持つ「AtomX SSDmini」規格のSSDを接続して映像を記録する。

バッテリーは、ソニー製ビデオカメラ用のNP-Fシリーズを使用する。収録時間にあわせて、バッテリー容量が選べること、そしてこのバッテリー自体がビデオカメラ以外にLEDライトや様々な機材のバッテリーとして流用されていることが便利なのである。

Z 6およびZ 7の方は、前述したとおりRAW動画出力機能の有償設定サービスを受ける必要がある。




RAW動画出力機能が追加されたZ 6は、設定の「HDMI」の階層を進めると「RAW出力設定」が追加されるので、ここでRAW出力設定を行う。




RAW出力する解像度も細かく設定できるので、4K記録を行う場合は4K解像度とフレームレート、そして出力するイメージセンサーのサイズ「FX(フルサイズ相当)」、「DX(APSCサイズ相当)」を選択する。

Ninja VをZ 6でコントロールするために外部記録制御もオンにしておく。こうすることで、Z 6の動画撮影ボタンでNinja Vをコントロールできるようになるのである。




最後に、カスタムメニューから「半押しタイマー」を選択し、「制限なし」にすることZ 6のモニター出力が自動的にオフにならないようになる。ただし、長時間の撮影や屋外の撮影などで高熱になった場合は、この設定にかかわらずシャットダウンすることがあったので、撮影中のモニターチェックは必須かも知れない。

Ninja V側の設定で重要なのが、Z 6/Z 7のRAW記録に対応する最新のファームウェアにしておくことである。

最新のファームウェアに更新したNinja Vの記録する形式を「ProRes RAW」に設定し、Input Triggerの設定を「HDMI」にすることで、Z 6からの撮影開始・停止のコントロールが可能となる。

記録する形式が通常のProResの設定であっても、Z 6側のHDMI出力がRAWになっている場合は、Ninja VがZ 6との接続を認識した際にRAW記録をするかどうか訊ねてくるので、記録形式でミスをすることは少ないだろう。




それぞれの初期設定が済んだら、Z 6(HDMI-mini/Type-C)とNinja V(HDMI Type-A)をHDMIケーブルで接続する。Ninja Vはホットシューにアダプターを使ってマウントできるほか、ケージを双方に装着することで扱いやすい位置にマウントすることも可能だ。

使用感は、Ninja Vの重さが増すものの、5インチの大画面で露出やピント位置の確認ができるためやはり安心感が違う。記録操作も、露出とフォーカスを合わせてZ 6の動画撮影ボタンを押すだけなので扱い易い。

注意事項としては、イメージセンサーのそのままを記録するRAW出力であるため、歪曲・収差などの補正機能やデジタル手ブレ補正など、Z 6の画作りが全く反映されないことである。

さらに、撮影時間が4K30Pの場合は約18分でストップしてしまうため、長時間の撮影の場合、18分以内に一度止めて、また撮影を再開するなどのオペレーションが必要になる。これは双方の熱対策なのかも知れないが、残念な点でもある。なお、Z 6は映像を出力しているだけなので、30分以上撮影してもバッテリー消費が少ないようである。




撮影したデータはMacなら「Final Cut Pro X」、Windowsの場合は「EDIUS Pro 9」、そして「Adobe Premiere Pro」、「Adobe After Effects」で編集可能である。
これらのビデオアプリケーションで開いたProRes RAWデータは、従来の映像データとして扱うことができる。もちろん、GPUの支援が必要ではあるが、RAWデータであることを意識することなく、プレビューやカット編集を進めることができた。

そしてRAWデータである強みは露出や色味を調整しても、カラーバランスが大きく崩れることなく目指す色を達成できる点だ。これは、本体記録では8bit(256段階)の階調でしか記録できないのだが、RAW記録の場合は12bit(4096段階)の階調を持っていることが大きい。

表現が稚拙で申し訳ないが、ビデオ圧縮されていない映像は1枚1枚が写真そのものであると感じた。



Nikon Z 6 + Atomos Ninja Vで撮影したRAWデータをストレートに出力した動画

##キャプション:

ビデオアプリケーション側がまだまだ静止画ほどRAWデータに直接アクセスする機能を持っていないため、静止画ほど映像を作り込めるわけではないが、例えばAdobeのアプリケーションならLightroomやPhotoshopのCamera RAWに近い現像機能があれば、写真家がもっと簡単に動画の世界に近づけるのでないだろうか。



色があまり出ない曇天でも写真のようにイメージに調整可能だ


Nikon Z 6のRAW動画は、編集素材のクオリティーの高さと編集耐性に将来性を感じた。なんども撮影しているような場所であれば、ホワイトバランスや露出などある程度は覚えることができるが、初めて撮影する場所では録ってみないと分からないという状況もある。

そうしたシチュエーションでもRAW動画ならよほど白飛びなどしていない限り、後で調整可能であるため、撮影時は露出に注意しつつカメラワークに集中することができるのが強みである。

Nikon Z 6およびZ 7のRAW動画は、映像のクオリティーを高めたいユーザーにオススメしたい機能だ。そしてZ 6はZ 7にはない動画の強みが出たことで、その価値を高めたことを再認識することができた。

あらためてNikonのミラーレス一眼Zシリーズは、
・高画質静止画撮影用のZ 7
・静止画動画ともにオールマイティなZ 6
・20万円を切った小型軽量のフルサイズモデルZ 5
・手軽に使えるAPSCサイズイメージセンサー搭載のエントリーモデルのZ 50
というラインナップとなった。
これからミラーレス一眼を検討している場合は、自分の目的にあった製品を選んで欲しいと思う。


執筆  mi2_303