新型コロナウイルスの再拡大でテレワークの再開・継続をする企業も多い中、テレビ会議システムなどを通じてのハラスメント行為「リモートワークハラスメント(リモハラ)」が問題となっています。その実態や対策について、社会保険労務士の木村政美さんに聞きました。

長時間の飲み会も該当

Q.リモハラとは、どのような行為を指すのでしょうか。

木村さん「リモハラとは別名『テレワークハラスメント(テレハラ)』ともいい、在宅勤務中、ウェブカメラに映る相手のプライベート空間や生活の様子、容姿、服装のほか、マイクを通して聞こえる相手、およびその同居人の生活音などに対して、業務の適正な範囲を超えて否定的・威圧的な言動をしたり、相手に対して性的な言動をしたりするといった嫌がらせ、いじめ行為を指します。

具体的には、次のような行為が該当します。

・上司が決めたオンライン飲み会を長時間続けたり、飲み会の回数が多かったりする(嫌がる部下を強制参加させた場合、アルハラにも)。

・上司が部下に対して必要以上にプライベートを詮索する。

・ウェブの面談ツールを常時オンにすることを強要したり、短い間隔でのチャット報告を指示したり、常にビデオ会議にログインするよう指示したりして、常に監視下に置く。

このうち、常時、ビデオ会議にログインさせるのは会社側の準備不足が原因の一つと考えられます。緊急事態宣言を受けて急きょ、リモートワークに踏み切った企業が多く、企業や管理職は試行錯誤しながら業務を進めていると思います。そもそも、上司がリモートワークの経験がないため、部下の管理方法が分からず(社内勤務と違い部下の様子が見えないので、きちんと仕事しているか否か分からない)、監視を強めていることが考えられます。

リモートワークの適切な進め方が浸透するに従って、徐々に改善されるとは思いますが、度の過ぎた監視状態を続けていると、リモハラとなる場合があります」

Q.リモハラは法律的にも問題となりますか。

木村さん「リモハラの中で特に多いのがパワハラとセクハラですが、パワハラに関しては、いわゆる『パワハラ防止法』が2020年6月1日に施行されました(中小企業は2022年4月施行)。

この法律は、事業主にパワハラ防止措置を義務づけるとともに、行政は履行確保を図るため、企業に事実確認など書類の提出・報告を求めることができるというものです。報告をしなかったり、虚偽報告をしたりした場合は20万円以下の罰金、また、企業の措置が不十分であれば、行政指導の対象になり、勧告してもなお従わない場合は企業名公表となります。

セクハラに関しては、男女雇用機会均等法で事業主の雇用管理上の措置義務として、『雇用主の方針の明確化や周知啓発を行う』『相談窓口設置などセクハラへ適切に対応するために必要な体制づくり』『セクハラに関わる事後の迅速かつ適切な対応』が求められています。違反した場合、行政の指導を受けますが、罰則はありません。

しかし、パワハラ、もしくはセクハラがあった場合、被害者が加害者と会社を刑法、もしくは民法等の法律違反として訴え、場合によっては損害賠償を求められることもあります」

Q.リモハラ被害に遭わないために、従業員側が注意すべきことを教えてください。

木村さん「従業員自身ができるリモハラ対策には、大きく分けて2つあります。

1つ目はウェブカメラに映る自分自身や周囲の画像に気を配ること。具体的には、社風にもよりますが、服装や身だしなみを整える(カジュアルすぎない服装にする)▽仕事場所の背景が映り込まないようにする(プライバシーを想像させないようにする)▽業務中、トイレなどで中座するときには画面を非表示にする――などです。

2つ目は生活音など音に対する対策です。具体的には、テレビ会議や打ち合わせを行う場合、自分が発言するとき以外はミュートにして、必要以上に音声情報を与えない▽業務中に同居家族の生活音が入る場合は(子どもの声など)上司に対して事前に事情を説明し、了承を得ておく――といった工夫が考えられます」

Q.被害に遭ってしまったときは、どのようにすればよいのでしょうか。

木村さん「リモハラの場合も、対処方法は職場でパワハラやセクハラを受けた場合と同じです。順序としては、

(1)会社の上司(上司にリモハラされているのであれば、その上席の管理職)や社内のハラスメント相談窓口に相談する(リモハラの場合、上司が部下全員に行っている場合があるので=度の過ぎた監視や、オンライン飲み会の強要など=部下同士、横の情報交換を行い連名で改善を求めることも効果的です)。

(2)社内で相談できる状況がなかったり、相談したが解決しなかったりした場合、労働局や労働基準監督署に設置されている『総合労働相談コーナー』に相談する。

(3)その他として、法テラスや、労働問題に詳しい弁護士などの専門家に相談する方法も。

相談する際は、リモハラを受けていることを証明する記録を取っておくことが重要です。被害内容の記録文章、加害者からのメール、会話の録音や録画などは残しておきましょう」

リモハラへの自衛策は?

Q.上司や会社の側がリモハラをしない、起こさせないようにするため注意すべきことを教えてください。

木村さん「会社側はリモートワークを行う際、環境を整えることが重要です。労務管理面では、リモートワークに関する就業規則などの制定、業務の手順等は社内マニュアルを作成し、管理職と従業員に周知、理解してもらうことが必要となります。

社内の運用方針がはっきりしていないと、リモートワークに慣れていない上司が部下に対する的確な業務指示ができず、その結果、過剰な監視につながることで『リモハラ』と取られやすくなります。また、リモートワークに関係する管理職を対象に、リモハラ防止に関する研修を行うことも有効な手段でしょう」

Q.相談を受けた実例はありますか。

木村さん「実際に相談を受けた例は今のところありませんが、ネット上では、コロナ対策で在宅勤務を行う企業が増加するとともに、リモハラを受けた社員の記事をよく見かけるようになりました。

ハラスメントの内容を見ると、大きく分けて(1)上司の権限を越えた監視(2)上司から部下、先輩から後輩へのセクハラ言動が多いようです。また、(3)オンライン飲み会の場合は強制される例もありますが、たとえ参加自由であっても終了時間が決まっておらず、夜中まで付き合わされて困っている例がありました。

(1)(3)は当事者への注意や指導で改善されることが多いですが、(2)は加害者がほんの軽口で発した言葉でも、被害者は深く傷つき、メンタルヘルス不調を起こす場合もあります。セクハラが露見した際、企業としての対処を誤ると、加害者を懲戒処分するだけでは済まず、企業側も責任を問われることになります(慰謝料の請求等)」