世界中に感染が拡大する新型コロナウイルスは、スペインにも深刻な影響をもたらしている。感染者数は20万人を超え、死者は2万5000人に迫っている(4月30日時点)。街のロックダウンは一部解除されたが、スペイン人にとって何よりの楽しみである、リーガ・エスパニョーラ再開を望む声も上げにくい状況だ。

 レアル・マドリードで活躍し、引退後もマドリードに居を構えるロベルト・カルロスは、その惨状を目の当たりにしてきた。現在、同クラブのアンバサダーを務めるロベカルが電話インタビューに応じ、リーガ・エスパニョーラ再開への展望や、マジョルカに期限付き移籍中の久保建英など注目選手について言及。さらに、親日家として日本の状況を憂い、「STAY HOME」の徹底を願うメッセージも寄せた。


リーガ挑戦1年目で3得点を挙げているマジョルカの久保建英  photo by Mutsu Kawamori

――まずマドリードの状況を教えて下さい。

「スペインでは3月27日からロックダウンが行なわれており、スーパーと薬局に行く以外は外出できない状況が続いている。用がないのに街に出る人はほとんどいないし、許されない。スペインではたくさんの死者が出て、1日で1000人を超えることもあったからね。

 ただ、今はその数もピーク時の半分以下になり、(4月26日からは)1時間以内であれば外出、散歩などが許可されるようになったんだ。少しずつではあるけど、徐々に規制は緩和されていくと思うよ」

――多くの方が新型コロナウイルスに苦しんでいますが、現在の心境は?

「マドリーの元会長であるロレンソ・サンス氏も、新型コロナウイルスに感染し亡くなってしまった……。彼が会長の時に、私はマドリーに加入したんだ。たくさんの思い入れがあるので本当に残念だよ。とにかく今は耐えること。それしかできないし、世界中がその意識を持たないといけない」


レアル・マドリードのアンバサダーを務めているロベルト・カルロス(写真:本人提供)

――日本でも緊急事態宣言が延長される方針が示されました。やむを得ず出勤する人もいますが、不要不急の外出を抑えきれていない状況です。

「感染が拡大する前、スペインでもやはり多くの人が外出していた。スペイン人の国民性は、”家でじっと過ごす”ことからはかけ離れているからね。その結果、どうなったかは周知のとおり。感染を防ぐためには、やはり家にいることがベストな選択になる。自分だけの問題じゃない。家族や友人、国を守るために必要な行為だ。ひとりでも多くの人の命を救うために、大切な人の命を守るためにも、『STAY HOME』は徹底するべきだね」

――あなたはどのように自宅で過ごしていますか?

「庭で子どもたちとボールを蹴ったり、ゲームをして遊んだりしているよ。これまでは忙しくてゲームをする時間もあまりなかったけど、あらためてやると面白いね。子どもたちと対戦したり、一緒にクリアを目指している(笑)。こんな状況だけど、家族、特に子どもたちと向き合う時間が増えたことはポジティブに捉えている」

――リーガ・エスパニョーラの再開時期についてどう考えていますか?

「いつ頃が望ましいのか判断する立場にはないけれど、6月のリーガ再開や、5月からの練習再開の許可が下りたという報道もあるように、そう遠くない未来だと思うよ。政府が発表した4段階の封鎖解除方針が、順調に進めば可能だろう。当然だけど、選手は誰ひとり手を抜くことなく再開に向けてトレーニングしていると思うよ。マドリーの選手達も個別でトレーニングに励んでいると聞いている」

――リーガ再開に向け、あらためて注目している選手を教えてください。

「カゼミーロは外せないね。彼は”マドリーの心臓”と呼べる選手だよ。驚異的な運動能力の持ち主だし、彼がいることでバランスが取れる。チームになくてはならない選手に成長したし、それはブラジル代表でも同じだ。他には、ともに19歳のヴィニシウスとロドリゴも、マドリーというクラブで自身の価値を証明している。まだまだ成長途中だが、高いポテンシャルを秘めているね。順調に経験を積んで、トッププレーヤーへの階段を上っていってもらいたいよ」

――やはりブラジル勢に注目しているんですね。

「ブラジルを愛しているからね(笑)。それともうひとり、今年1月にフラメンゴからマドリーに移籍した18歳のレイニエルも特別な才能を持った選手だ。彼もヴィニシウスやロドリゴと同じように若い選手だけど、ブラジルではかなり活躍して、クラブにタイトルをもたらしている。実績を積んでからのリーガ挑戦だから注目しているよ。スペインの環境に適応すれば、早い段階でトップデビューもあるかもしれないね」

――彼らと同世代の久保建英についてはどう見ていますか?

「開幕して数試合は適応に苦しんでいたが、リーガの環境に慣れ、試合をこなすことで徐々によくなってきている。具体的には、ボールを受ける際のポジショニングが変わったね。どこでボールを受けたら危険か、自分の能力が生かせるかを理解してきている。そこは変化しているし、工夫も見えるよ。

 久保の特徴が味方に伝わったことで、マジョルカはチームとしてもうまく機能するようになったと思う。マドリーに入団できる時点で才能は間違いないし、まだ若いので伸び代があるだろうから、このまま順調に成長していってほしいね」

――今後、サッカー界は厳しい状況に直面することが予測されますが、あなたの展望は?

「正直、先は読めない。フットボール界にも変化があるかもしれない。これはあくまで私の願望だが、できれば以前と同じような形で動き出してほしいね。ファンやサポーターなど、誰もが安心してスタジアムに足を運べる環境に戻ってほしいよ。これまで、サッカーに救われて、勇気をもらった人もたくさんいるはず。1日でも早くサッカーが日常に戻ってきてくれることを心から願っている」

――選手たちは十分な練習環境が確保できないなど、苦労しています。こんな時だからこそ、アスリートにできることはあるのでしょうか。

「今は世界中のアスリートが厳しい状況に立たされている。パフォーマンスを維持するためのトレーニング環境はもちろん、再開の目処が立たない中でメンタルを整え、モチベーションを保つことは非常に困難だ。

 ただ、アスリートにできることは、いいプレーを見せることに尽きると思う。試合ができる環境が整えられた時に、そこで一生懸命プレーすることで人々に大きなパワーを与えられる。だから、今はグっと堪えるしかない。もし自分がまだ現役だったら、弾丸フリーキックを決めてファンと一緒に喜びを分かち合うことをイメージして、モチベーションを保っていたと思うよ(笑)」

――最後に、日本のファンに向けてメッセージをお願いします。

「私は日本が好きで、何度も訪れているんだ。街は綺麗で、人々は礼儀正しい。ご飯も美味しいからいい思い出がたくさんあるよ。それだけに、日本の状況もニュースで見て心配している。今は世界中がひとつになる時だ。マドリーもバルサも、パリ・サンジェルマンやユベントスも関係ない。アルゼンチンとブラジルだってそうさ。しがらみを一切捨てて、ひとつになる時なんだ。日本のみんなも今自分ができること、やらなければいけないことを考えて、一緒に頑張っていこう」

取材協力:株式会社ワカタケ