●5Gについて、あなたは、どのくらい知っていますか?
みなさんは、第5世代移動通信システム「5G」についてどの程度知っていらっしゃるでしょうか。

3月末より、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの移動体通信事業者(MNO)3社から一斉にスタートした5Gサービスは、テレビCMなどで大々的に宣伝はしているものの、その実態についてはあまり周知が進んでいないようにも思われます。

例えば5Gは「高速大容量」とよく言われますが、その実際の速度や環境による速度の違いなどは、あまり知られていません。
また5Gでスポーツ観戦が一層楽しめるようになる、とは宣伝していますが、なぜそうなるのか? それらは十分に説明されていないことも多いようです。

今回は、そんな5Gにまつわる素朴な疑問や誤解されやすい点を、一問一答式で解説していきます。


5Gの「なぜ?」に答える

●5Gになると、映画や4K動画も一瞬でダウンロードできるの?
5Gでよく聞かれるのが、大容量の動画コンテンツなどが瞬時にダウンロード可能になる、という謳い文句です。
たしかに、純粋な5Gネットワークを使用する「5G NR」方式では、理論値で2時間のHD映画でも、わずか2〜3秒でダウンロードすることも可能ということになります。

しかし、これはあくまでも「理論値」で、というお話です。

実際に一般の利用者がダウンロードする際には、もう少し時間がかかり、数十秒程度だと思っておくと良いでしょう。
それでも、現在の4G回線よりは数倍も高速になることは間違いありません。

しかし5Gと言いつつ、4G回線とあまり変わらない通信速度しか使えない5Gエリアもある点があることにも注意しましょう。
商業的な5Gサービスでは、スムーズなエリア展開を行うために、通信の基幹部分を5Gネットワークではなく、従来の4Gネットワークで行っているMNOがあります。

例えばNTTドコモは、現在4Gサービスとして利用しているLTE方式やLTE-Advanced方式を発展・進化させた「eLTE」(enhanced LTE)という方式を、5Gサービスとして提供しています。

従来のLTEおよびLTE-Advancedよりは高速な通信が可能ですが、5G NRによる通信よりはかなり速度が落ちます。
速度の実測値は測定場所や時間帯によって大きく変わるために参考程度になりますが、
・5G NR:約500Mbps〜700Mbps
・eLTE:約100Mbps〜200Mbps
これくらいの速度差は存在します。

そのため、5G対応スマートフォンの画面上では「5G」と表示されていても、思っていたほどの速度が出なかったり、映画のダウンロードが遅かったりする場合があります。
現状では5Gエリアだからといっても、常に高画質動画が数十秒でダウンロードできるとは限らないことを覚えておきましょう。


ステータスバーの「5G」とは、飽くまでも商用サービスとしての5Gという表記である点に注意

●5GでVRの画質は劇的に向上する?
例えばNTTドコモの「新体感ライブ CONNECT」や、ソフトバンクの「LiVR」のような、ストリーミング映像を利用したVRコンテンツなどであれば、
配信元の映像ソースが4Kや8Kであっても5Gの高速大容量回線で十分に受信可能であるため、画質は大きく向上すると考えられます。

ただし、再生する側の端末(スマートフォンなど)が4K映像や8K映像に対応していなければ、あまり効果はありません。

また、CGによるヴァーチャル空間を作り出すタイプのVRコンテンツは、映像をストリーミング配信しているわけではないので、画質の向上と5Gはあまり関係しません。
CGデータのダウンロードなど、コンテンツ自体の読み込みが速くなるなどの恩恵はあるでしょう。


KDDIが3月に行ったVRイベントの様子。こういったCG空間の表現は5G回線であっても向上しない

●5Gで家庭用ゲーム機は必要なくなるの?
5Gの高速大容量通信を活かしたキラーコンテンツの1つとして期待されているのがクラウドゲームです。
クラウドゲームとは、オンラインのサーバー上にゲーム機があり、そのゲーム機からの映像を手元のスマートフォンなどに送信してゲームを遊ぶものです。

その仕組みから、非常に高品質な家庭用ゲームやPCゲームをスマートフォンなどでいつでもどこでも遊べるようになる、というのが最大のメリットです。
また、自分でゲーム機を用意する必要がなくレンタル方式でゲームを借りて遊ぶというスタイルになるため、ゲーム機やゲームソフトを購入する費用が不要となります。

これだけを聞くと「家庭用ゲーム機はもう要らないのでは?」と考えてしまいがちですが、実際はそこまで万能なものではありません。

例えば画質です。
クラウドゲームは、いわば「ストリーミング動画を操作するゲーム」です。
・サーバーから送られてくる映像に対して操作を行う
・操作情報をサーバーに送信する
・サーバーは操作情報を元にゲームを動かす
・動かした映像を再び端末へ送信する
こういった処理を超高速で行うことでゲームが成立しています。

送られてくる映像は、ストリーミング配信の映画などと同じように圧縮されているため、どうしても画質が若干落ちます。また、通信状況や通信環境によっては十分な速度が出せず、画質が落ちてブロックノイズなどが発生します。
こういった画質低下は動きの激しいゲームほど顕著で、その画質差はどうしてもオフラインで遊ぶ家庭用ゲームなどにはかないません。

操作に対する遅延の大きさも問題です。
「映像送信→(遅延)→操作送信→(遅延)→ゲーム処理→(遅延)→映像圧縮→(遅延)→映像送信」
このように、クラウドゲームではすべての処理に細かく遅延が発生するため、全体としてかなり大きな遅延となります。
5G自体は低遅延性が特徴でもあり、その通信による遅延は数ミリ秒〜十数ミリ秒程度と非常に小さいのですが、それでも格闘ゲームやシューティングゲームを行うには若干厳しい数値です。
これに映像の圧縮遅延なども重なると、通信環境によっては快適なゲームプレイができない可能性もあります。

一方、RPGやノベルゲームのようにゆっくりと操作できるタイプのゲームであれば、画質の劣化や遅延はあまり気になりません。

家庭用ゲームやPCゲームは場所に縛られる代わりに、最高の画質と遅延のない操作が最大のメリットです。
クラウドゲームとは、用途やプレイスタイルによって使い分けられる時代になるでしょう。


楽天モバイルによるクラウドゲームのデモ。格闘ゲームでも1人プレイであれば比較的普通に操作できるが、これがネット対戦ともなると若干厳しそうではある

●5G対応スマートフォンはバッテリーの持ちが悪い?
現在発売されている機種や、今夏にかけて発売が予定されている機種に限って言えば、バッテリーの持ちが極端に悪いといった機種はありません。
MNO各社が現在ラインナップしている5G対応スマートフォンのほとんどがハイエンド機種で、バッテリー容量も非常に大きいためです。

また、通信速度が速くなることでバッテリー消耗が大きくなるのではないか?
こうした心配もでてきます。
しかし、高速通信性によって大容量コンテンツも瞬時にダウンロードが終わるため通信にかかる時間が相対的に減ることから、バッテリー消費はそれほど上がらないとも考えられます。
延々と何時間も4K動画のストリーミング配信を受信し続けるといったような使い方でもしない限り、5G対応スマートフォンだからバッテリー消費が激しくなる、といったことはないと考えて良いでしょう。

ただし、機種がハイエンドである場合、その性能をフルに使うゲームアプリなどを酷使する場合は別です。
ディスプレイ性能でも90Hz駆動や120Hz駆動といった高リフレッシュレートの端末があり、こういった高性能ゆえのバッテリー消耗の大きさは当然あります。
5Gだからではなく、ハイエンド機種だからこそのバッテリー消費の多さは理解しておきましょう。


ゲーミングスマホと呼んでも良いほどの高性能を誇るシャープ製5Gスマートフォン「AQUOS R5G」。その性能をフルに引き出せばバッテリー消費は非常に大きくなる

●5Gの「同時多接続」って何?
5Gには、高速大容量や低遅延といった特徴に加えて「同時多接続」という特徴もあります。
これは、スマートフォンなどの端末同士が多数接続し合えるようになるわけではなく、1つの通信基地局に対して多くの端末が接続できるようになる、というものです。

例えば、4Gでは1つの基地局に最大で1000台程度の端末が接続可能ですが、5Gでは最大2万台、1平方kmあたりでは100万台もの端末が同時に接続可能になると言われています。

こういった同時多接続性のメリットを活かせるのが、都市部の駅のホームやイベント会場、スポーツスタジアムなど、人が密集する場所です。

従来の4Gであれば、接続過多によって通信しづらくなったり、極端に通信速度が落ちたりする状況であったりしても、5Gでは快適に通信が利用可能になるということです。

実際、MNO各社は5Gのエリア展開を都市部の駅や公共施設から進めており、高速通信性よりも同時多接続性を活かした通信トラフィックの分散を狙っていることが示唆できます。


KDDIの5G計画でも、広域エリアは4Gでカバーしつつ5Gエリアをスポット的に配置することで、質の高いネットワークを構築しようという意図が見て取れる

●「5GとIoTの相性がいい」というのはどういうこと?
BtoBなどのビジネスソリューションの分野で、よく「IoTは5Gで飛躍する」といったセールストークをよく目にします。
5GとIoTに技術的な関連があるわけではなく、その通信特性からIoT機器の通信システムとして5Gが適している、ということです。

前述のように、5Gには「同時多接続」という大きな特徴があります。
スマートフォンに限らず、万単位の通信機器が同時に1つの基地局に接続しても通信障害を起こしづらいため、家電製品や自動車、その他ありとあらゆる生活用品に組み込まれたIoTモジュールの通信システムとして最適なのです。

また、5Gでは「ネットワークスライシング」と呼ばれる基地局の仮想化技術が積極的に活用されようとしています。
これは1つの物理的な基地局を、
・大容量コンテンツを継続的に送り続けるストリーミング配信用
・小さなデータを大量かつ断続的に送信するIoT機器用
このような用途ごとに基地局を仮想化することで、お互いのトラフィックが干渉しないようにするのです。

これによって、
・通信回線を効率よく利用することが可能になる
・利用方法に応じた専用の基地局チューニングが可能になる
・IoT機器と回線をパッケージ化したソリューションビジネスが可能になる
・仮にストリーミング配信用の仮想化基地局が混雑しても、IoT機器用の仮想化基地局は影響を受けない
こういったメリットが生まれます。

大容量通信と同時多接続を可能にした5Gだからこそ、ネットワークスライシング技術は開花したと言っても良いでしょう。


KDDIによるネットワークスライシングの技術デモ。スライス1ではIoT機器による非常に小さなデータ送信を、スライス2では大容量のストリーミング映像配信を行っている

●正しい知識で快適な5G生活を
今回は、一般によく聞かれる疑問や、コンテンツ利用においてあまり理解されていない技術的な説明を中心に行いました。

5Gは4Gまでの通信システム世代とは大幅に異なる、大変革の世代となります。
それだけに、「4Gより少し速くなった程度では?」といったような単純な誤解も頻繁に聞かれます。

今夏には5Gスマートフォンも続々と登場し、いよいよ一般的な通信回線として認知されていく中で、ぜひとも正しい知識と理解のもと、快適な5G生活を送っていただきたいと思います。


執筆 秋吉 健