日本は自販機大国と言われている。街を歩けば、さまざまな種類の自動販売機が目に飛び込んでくる。しかし、利用の実態はどうなのか。飲料やタバコなどを“自販機”で買う機会が少なくなってきているのではないだろうか。

 全国清涼飲料連合会によると2000年代に入り、自販機1台あたりの売り上げ(パーマシン)は2018年度まで減少の一途をたどり、設置台数をみても、2014年の247万台から現在は233万台と5%以上減少している。清涼飲料自販機業界の現状と展望についてリポートする。

コンビニの脅威

 まず、全体を見ていこう。帝国データバンクが保有する企業概要データベース「COSMOS2」(147万社収録)から抽出した飲料等の自販機で扱われる商品を供給する企業は739社。2013年度から2018年度まで業績が判明した705社の総売上高をみると、2013年度から2014年度にかけて大きく減収。2015年度に回復したもののそこから2017年度まで減収傾向をたどっていた。2018年度の総売上高は再度一転、2兆6315億3800万円(前年度比17.4%増)となった。

 2017年度までの減収要因は、コンビニエンスストアやドラッグストアの店舗数の拡大が大きく影響しているといえる。わざわざ自販機で買わず、店に入って買い物のついでに、自販機よりも安価な飲料を買う購買パターンに消費者が変化してきたのは当たり前といえよう。

 また、コンビニ各社でスタートしたカウンターコーヒーの登場も、大きな要因となった。ドリップコーヒーの淹れたてならではの味わいとその安価さが消費者に人気を博している。
 自販機の減少で最もダメージを受けるのは自販機機械そのものを扱う中小企業の事業者。自動販売機業界は大手飲料メーカーの下請け、さらにその下請けがひかえており、すそ野が広い業界である。2018年度の売上高規模が判明した738社をみると、10億円未満が社数全体の約80%を占める。一方、売上高「1000億円以上」の大手企業の売上高が2018年度の総売上高の約65%を占めた。規模間の激しい格差がうかがえる。

 人手不足の問題も顕著だ。従業員数が判明した648社をみると、395社(構成比60.9%)が「1〜10人未満」の事業者。売り上げが減少するなか、人員増による営業力強化を図れないジレンマを抱える中小企業が多い。

大手間の差別化がカギ

 このようななかで、前年比増収となった2018年度。各企業をみてみると、猛暑の影響や、自販機部門以外のセクションでカバーした企業がみられた。これまでのダウントレンドを挽回すべく、省エネに対応した自動販売機の開発で消費電力量削減に取り組んだ企業もある。飲料メーカー間での提携により、異なる会社のブランドを同一の自販機で扱い販売網を拡大するなど、多角化の流れもみられた。

 今後、飲料ブランドを持つ大手メーカーが、いかに差別化を図っていくかがポイントとなるだろう。たとえば、独自のアプリでスタンプを貯めたり、スマートフォンのゲームと提携したりして購買行動を楽しいものにするエンターテインメント性の強化。また、健康志向の高まりを受け、健康飲料にフォーカスした自販機の開発のよりターゲットを絞ったラインアップでの差別化など、大手企業の取り組みが中小に好影響を与えるか否かも、注目されるだろう。

社会的使命感を持つ自販機へ

 近年、日本列島各地では地震や台風などの自然災害や、連日の猛暑など異常気象が発生している。その際に、自販機は重要な役割を担う。災害時の商品無償提供は、東日本大震災や熊本自身でも報告されている。「正直どこまでダウントレンドを食い止めることができるかはわからない。でも、自販機には社会的使命がある」(業界関係者)

 キャッシュレスも今後の注目点である。今年10月からの消費増税に伴うキャッシュレス・消費者還元事業で、政府はキャッシュレスの推進を図っている。キャッシュレスに対応した自販機は今後も増加していくという。来年の東京オリンピック・パラリンピックを前に、多言語化も加わり多様なニーズに対応できる自販機が、経済活性化に向けたきっかけをつかむかもしれない。

 日本においてはその存在が当たり前であり、違和感のないものとして認識されている清涼飲料自販機。今後もコンビニエンスストアの24時間営業問題解決の一助や、訪日観光客の観光地などでの利用頻度アップ、病院や福祉施設での利便性拡大など、さまざまな場で活躍が期待される。