プラス&ぺんてる連合とコクヨの争いは、今後の業界再編にも大きな影響を及ぼしそうだ(編集部撮影)

総合文具業界トップのコクヨ(2018年度売上高3151億円)と、業界2位のプラス(同1772億円)が、筆記具4位ぺんてる(同235億円)の株の争奪戦で激しい攻防を繰り広げている。

11月15日、コクヨがぺんてる株を1株3500円で買い受ける方針を示すと、プラスは11月20日、単独出資で立ち上げたジャパンステーショナリーコンソーシアム合同会社(JSC)がコクヨと同額の3500円で買い受ける方針をリリースした。

これにコクヨは即座に反応し、買い付け価格を3750円に引き上げると発表。一歩も引かない姿勢だ。

狭間で揺れ動くOB・OGたち

コクヨの強みは厚い資本に裏打ちされた事業構想、そしてぺんてる株の38%をすでに保有する筆頭株主である点にある。対するプラスは、ぺんてるの現経営陣に請われた「ホワイトナイト」という役回りだ。11月23日付の日本経済新聞でプラスの新宅栄治常務取締役は、「(ぺんてるとは)経営において非常に共感できる関係」とし、ぺんてるの和田優社長も「プラスとは6年の付き合いであうんの呼吸」と相思相愛ぶりをアピールした。

プラス&ぺんてる連合vs.コクヨ。両陣営の狭間で今、揺れ動いているのが、ぺんてるのOBやOGたちだろう。未上場会社であるぺんてるにはOB・OGの株主が多いとみられる。OBやOGたちは、「ぺんてるの未来」をどちらに託すのがいいのか、考えあぐねている。

「コクヨ株式会社が、突然、ぺんてるに対して敵対的な買収を始めています」「経営陣も、コクヨの、突然かつ一方的な動きに大変困惑しているとのことです」

ぺんてるの株主に宛てられた、11月20日付けの手紙。差出人は、ぺんてる元社長の水谷壽夫氏だ。

「株主の皆様へ」と題する手紙は、次のように続く。

「ぺんてるの経営陣は、ぺんてるのために、株主の皆様のために、プラス社からの提案であるジャパンステーショナリーコンソーシアム合同会社(JSC)による当社株式の買受け提案を承諾しました。是非、コクヨへの敵対的な買収の提案に応じることなく、ぺんてるの経営陣が最善と考えるJSCからの買受けにご応募いただきますよう、そして、将来にわたりぺんてるの価値を守っていただきますよう、ひたすらにお願い申し上げる次第です」

水谷氏は今年6月に開かれたぺんてる株主総会の前にも、経営陣に自社株買いを求める株主提案がなされたことに、「(この提案が通れば)会社の存続そのものを危うくしかねない」と、提案に賛成しないよう株主やOBたちに呼びかける役を買って出た。ぺんてる経営陣にとっては、どこまでも自分たちの味方をしてくれる後ろ盾のような存在だ。

暗証に乗り上げたプラットフォーム構想

一方、11月24日付で「ぺんてるを愛する皆様へ」というメッセージを出したのが、ぺんてる元専務でOB会の会長を務める池野昌一氏だ。

池野氏は「今回のコクヨとプラスの一連の騒動に多くのOBの方々がご心配され、株主の皆さんも頭を悩ませていらっしゃることでしょう。私にもOBの方々から相談が寄せられています」とOBらの苦悩を推し量る。そのうえで、「私は、現在のぺんてる経営陣の考え方には大反対です」とプラス&ぺんてる連合に反対する意向を示した。


池野昌一氏がぺんてるの株主に送った手紙(編集部撮影)

その趣旨は、JSCが買い取った株は実質的にプラスのものになるが、それでいいのかというもの。「プラスの昨今のM&Aは、その結果をみても乗っ取りに近いようなブランド軽視の事例もあります。そしてぺんてるの有力卸チャネルの皆様もプラスの強引なやり方(メーカー販社連合)には強く反発しています」。

メーカー販社連合とは、プラスとぺんてるの2社が軸となって国内営業窓口を一本化し、新たなプラットフォームを築く構想のことだ。これまで文具メーカーはそれぞれ独自の卸・販売店網を築き上げてきた。それを両社で統一して、国内販売の強化を図ろうとした。

販社連合にはもう一つの狙いがある。「対コクヨ」政策だ。連合にはプラスとぺんてるのほか、ラベルプリンタ「テプラ」をヒットさせたキングジムや、「セロテープ」で有名なニチバンなども合流する構想があった。そうした連合を作ることで、規模に勝るコクヨに対抗しようとしたのだ。販売連合はプラス経営陣が主導する形で進められ、昨年5月には新社名案を「コーラス」と発表、社長にぺんてるの和田氏が就く案までできあがっていた。

ところが、足下から反旗が上がる。ぺんてる社員、とりわけ販売畑の従業員たちが、「これまで協力してくれた卸売会社を裏切ることになる」「雇用が維持されるのか不安が残る」といった理由で反対したのだ。全国の文具流通業企業の大手複数社からも反対声明が出され、販社連合は暗礁に乗り上げた。

ぺんてるの経営陣も、そのトラウマは癒えていない。コクヨがぺんてるを子会社化すると発表した翌週の11月18日、ぺんてるの和田社長は一部の幹部社員向けにメッセージを送っているが、そこで販社連合についても触れている。

和田社長は、「プラットフォーム会社について、その実施については一切検討を行っておりません。皆様に以前お話させていただいた通り、プラットフォームは社内でのコンセンサスが得られない限り、プラス社との協議は行いません」と念を押すように説明している。

それに対して池野氏は、「ぺんてるというブランドや社員たちを守るという意味でも、まずは状況を冷静に見極められたうえで、今の経営陣の判断に異を唱え、安易に現経営メンバーやプラスの誘いに乗られないようにお願い申し上げます」と、メッセージを締めくくっている。

池野氏は長年、ぺんてるの営業のリーダーを務め、OB会の「ご意見番」的な存在でもある。それだけに池野氏の言葉には一定の重みがある。そして今回の混乱の遠因には、国内の営業戦略を巡るぺんてる社内の対立があるのだ。

プラスは他社にも出資を呼びかけ

水谷氏の必死の訴えと、冷静な判断を求める池野氏の呼びかけ。ぺんてるOB・OGは揺れている。


ぺんてるのOBやOGはどのような判断を下すか(記者撮影)

過半の株式取得を目指すコクヨに対し、プラスはぺんてるの資本的な独立を維持する方針。さらにプラスは「(JSCに)他のメーカーの参画を期待しております」と、他社にも出資を呼びかけている。一部報道では、新販売連合への合流も検討されたキングジムやニチバンがJSCに参画する意思があるとされた。

キングジムもニチバンも今後のJSC参画には含みを持たせているが、現在までのところ、両社は報道内容を否定している。12月中旬にも決着がつくコクヨとの株争奪戦には、プラス1社だけで臨むことになりそうだ。

総合文具業界1位と2位によるぺんてるの争奪戦は、今後の業界再編にも影響を及ぼす。キャスチングボードを握るぺんてるのOB・OGたちは、「ぺんてるを愛する」がゆえに、しばらくは苦悶の日々を過ごすことになる。