<食生活や温暖な気候だけじゃない──身心の健康を生涯にわたって促進する独特の社会制度と今後の課題とは>

100歳まで長生きしたい? それならスペイン移住を考えたほうがよさそうだ。

ワシントン大学健康指標・評価研究所は昨年10月に発表した報告書で、2040年までにスペインが日本を抜いて世界一の長寿国になると予測した。2016年までに82.9歳だった平均寿命は85.8歳に延び、日本もシンガポールも上回ることになる。

スペインのバラ色の未来はほかの研究でも明らかだ。今年2月にブルームバーグが発表した「健康な国」指数は、平均寿命や食生活、さらに安全な水や衛生施設へのアクセスといった環境要因に基づいて、スペインを「世界一健康な国」と評価した。

スペインの高い健康度は有利な自然条件のおかげだ。気候は温暖で、伝統的で健康的な食習慣である「地中海食」の材料になる優れた農産物を生産する。

食から生まれた支え合い

とはいえ記録的な平均寿命は、充実した福祉制度や社会的な結び付きの強さの証明でもある。この国では、高齢者は公的医療制度のみならず、家族やコミュニティーの支援という形の恩恵を享受できるのだ。

スペインは西欧で長らく国民皆保険を確立している国の1つで、国内居住者は誰でも無料で救急医療やプライマリーケアを受けられる。昨年発足した中道左派の社会労働党政権は、住民登録や所得税納付をしていない移民にも受診の権利を保証する法令を制定した。

スペインの医療制度は、各地方が独自に運営しているのが特徴だ。その理由は、75年の独裁者フランコの死を機に民主化を進めた際、地方分権が取り決められたことにある。

しかし世界一の長寿国となる2040年以降も、この「スペインモデル」を維持できるかは怪しい。労働力人口は減少し、所得税収入が減るなか、福祉予算などが打撃を受けかねない。スペインの出生率は世界最低レベル。1人の女性が生涯に産む子供の人数の平均は1.3だ。

魚介類やオリーブ油を多用するヘルシーな食事 KISSENBO/ISTOCKPHOTO

魚やオリーブ油を多用し、心血管疾患の減少に効果的だと判明している地中海食に、スペイン人が背を向けつつあるのではないかと懸念する声も医師の間で上がる。ファストフードの広がりに加えて、新鮮な果物や野菜など、南欧ならではの伝統的な農産物の消費量が減っているとWHO(世界保健機関)は研究で指摘。スペインで現在、毎日果物を口にする子供の割合はわずか30%ほどだという。

ラファエル・ミンダー(ニューヨーク・タイムズ紙スペイン・ポルトガル特派員)