GAFAに代表されるプラットフォーム企業の利益は、どこの国で課税されているのか。中央大学法科大学院の森信茂樹特任教授は「課税をたくみに逃れる租税回避者としての姿はあまり知られていない。巨大な収益を上げながら、どの国からも課税されない『二重非課税』がいま大問題になっている」と指摘する――。

※本稿は、森信茂樹『デジタル経済と税』(日本経済新聞出版社)の一部を再編集したものです。

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アマゾンは日本政府にほとんど法人税を払っていない ※写真はイメージです - 写真=iStock.com/jetcityimage

■租税回避が引き起こす4つの大問題

インターネットの発達により、これまでにないビジネスモデルを持つ企業が現れ、デジタル経済が誕生しました。その代表的な企業がプラットフォーム企業で、GAFAと呼ばれるGoogle(グーグル)、Amazon(アマゾン)、Facebook(フェイスブック)、Apple(アップル)の4社です。

実は彼らには、世界経済の原動力となっているという顔に加えて、もう一つ別の顔を持っています。それは巧妙なタックスプランニングを考案して、自らの税負担を回避しているという顔です。

租税回避という言葉の意味は、ここでは「違法な脱税でもない合法な節税でもない、いわばグレーの分野の行為で、アグレッシブな場合(濫用的租税回避)には、私法上の取引そのものは有効であるものの、その結果もたらされる効果は認められない(税法上否認される)」という意味で使っています。

租税回避がなぜ問題かといえば、大きく四つの理由があります。

第1に、税負担の公平性が害され、正直者が馬鹿を見ることから、納税道義に大きな影響を与えるということです。

第2に、財政赤字に悩む国家財政に影響を及ぼすことです。国民の福祉をあずかる現代福祉国家としては、国境を越えた租税回避に対してて課税権を及ぼし税源を確保することが責務となり、企業と国家との間での大きな争点になります。

第3に、グローバル経済の下で企業の競争条件の公平性(レベル・プレイング・フィールド)が失われることになることです。米国の多国籍企業に見られるアグレッシブなタックスプランニングを放置することは、日本の多国籍企業との競争条件を不平等・不公平なものにしてしまうということでもあります。

第4に、優秀な人材が、社会的厚生という観点では意味のない租税回避という分野に投入されることは、人的資源上の無駄を生じさせているといえるでしょう。

ここではGAFAのうち2社を取り上げて、租税回避スキームを見てみましょう。

■巨大倉庫は恒久的施設にあらず

アマゾン・ドット・コム社(以下、アマゾン)は、千葉県などに100%子会社のアマゾンジャパン合同会社(以下、アマゾンジャパン)傘下の巨大な配送センター(倉庫)を持ち、日本で日本人を顧客とした大規模なネット販売ビジネスを展開しています。しかし、アマゾン本社は日本政府に法人税をほとんど払っていません。

配送センターを経営する日本法人(合同会社)も、納付している法人税額は極めてわずかだと言われています。つまり、消費税を除くと、グループとしては日本にはほとんど税金を払っていないということです。その理由は以下のスキームによります。

外国企業が日本で事業を行う場合、日本が課税権を発動するためには、当該外国企業が日本に何らかの課税の根拠(恒久的施設、PE)を持っていることが条件となります。これは「PEなければ課税なし」という国際課税の最も重要なルールです。その中で「倉庫はPEには当たらない」(正確には「倉庫のさまざまな機能を活用した活動の全体が、準備的・補助的なものである場合には、PEには当たらない」)というのが当時の国際課税のルールで、日本の課税権には服さない、つまり法人税は負担しないということなのです。

2009年に東京国税局が、アマゾンの物流会社を調査した結果、単なる倉庫以上の業務が行われていると認定し、PEとして課税処分を行いました。この事件について、双方とも結果を公表していないので詳細は不明ですが、アマゾン側は納得せず日米間の相互協議となり、その結果、日本側の主張はほとんど認められず、法人税はわずかしか負担していないと言われています。

このような課税の状況はドイツ、フランスなどでも同様です。そこで、このビジネスモデルについてOECD・BEPS(※)でも大きな問題として検討されました。その結果、2015年秋に公表されたBEPS最終報告書では、「人為的にPEの認定を逃れることを防止するために、租税条約のPEの定義を変更する」(行動7)ことが勧告されました。

(※)多国籍企業がその課税所得を人為的に操作し、課税逃れを行っている問題(BEPS)に対処するため、OECD(経済開発協力機構)が2012年より立ち上げたプロジェクト。

日本はこの勧告に従って、PE認定の人為的な回避に対応すべく、「これまでは、倉庫は準備的・補助的な活動としてPEではないとされていたが、倉庫の活動が相互に補完的な活動を行う場合には、各場所を一体とみなして準備的・補助的な性格かどうかを判断する」と税制改正を行いました。これによりアマゾンの倉庫は実質的に判断してPEに認定され得ることになりました。

しかし、この国内法の規定はまだアマゾンに適用されていません。その理由は、日米租税条約がこれまでのままで改定されていないからです。日本では条約が法律の効力を上回るので、日米条約を改定しなければ、アマゾンには課税できないままなのです。早急に米国と交渉を行う必要があります。

■どこの国からも課税されない巧妙な租税回避策

巨大なプラットフォーマーたちが行う租税回避のうち、最も巧妙だと言われているが「ダブル・アイリッシュ・ウィズ・ア・ダッチ・サンドイッチ」と呼ばれている仕掛けです。(図表)

グーグル社の例で説明しましょう。最初に米国本社は、アイルランドに2つの法人(子会社Aと子会社B)を設立し、そこに米国以外の市場で活用できるグーグルのライセンス(無形資産)を譲渡します。この時、A社と「共同で費用を出し合って開発しようとする契約(コストシェアリング契約、費用分担契約)」を結んで、米国本社に生じる譲渡益を可能な限り低くします。

A社はB社の保有するライセンスを管理するだけの持株会社(ペーパーカンパニー)ですが、B社はライセンスを使用してコンテンツを製造し米国外の国に販売している会社で、多くの従業員を抱える実体ある会社です。B社はA社にライセンスの使用許諾契約に基づく多額の使用料を支払い、これを損金に計上することにより、B社の所得を圧縮してアイルランドの法人税負担を低下させます。このように、B社が海外で得た収益の大部分が、A社に流れます。

一方、米国税法にある「チェック・ザ・ボックス・ルール」を使って、B社がA社の支店となる会社形態を選びます。これによりA社とB社は同一の会社となり、製造・販売の実態があるということで、米国のタックスヘイブン対策税制である「サブパートF条項」の適用除外要件を満たす(発動が回避される)ことになります。

さらにA社について、会社登記はアイルランドで行いますが、株主総会・取締役会などの活動の実態は、タックスヘイブンであるバミューダで行うことにします。アイルランドの法制度は「管理支配主義」と言われ、実際に法人を管理している場所で内国法人かどうかを区別するので、A社はアイランドで登記されているにも関わらず、バミューダ法人となるのです。

最後にオランダ法人Cを設立し、B社はA社へライセンスの使用料(ロイヤルティー)を支払う場合には、オランダ法人C社を経由させます。

これはA社がバミューダ法人(EU域外法人)なので、B社がA社に支払う使用料には、アイルランドの源泉税がかかるのですが、C社を介在させることにより、オランダの租税条約を活用することができるので、源泉税を回避することが可能になります。これは有利な課税条約を次々と活用していく「条約漁り」と呼ばれる行為です。

森信 茂樹『デジタル経済と税』(日本経済新聞出版社)

この結果、米国市場において自ら開発した知的財産(無形資産)に基づき、コンテンツの製造や販売を行ってあげる収益は、B社からオランダ法人C社を経由してA社にロイヤルティーの支払いとして入金されます。つまり米国外から上がる収益(法人利益)の大部分は、バミューダ法人のA社に留保され、そこはタックスヘイブンなので税金はかからず、グーグル社の税負担はほぼゼロになります。

A社はほとんど実体がない事業体で、米国からもアイルランドからも課税されない「真空地帯」で利益をプールするだけの会社なので、「キャッシュボックス」とも呼ばれています。これが「二重非課税」として問題とされているのです。

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森信 茂樹(もりのぶ・しげき)
東京財団政策研究所研究主幹
法学博士。中央大学法科大学院 特任教授。1950年広島生まれ、73年京都大学法学部卒業、大蔵省入省。英国駐在大蔵省参事、主税局税制第二課長、総務課長、東京税関長、2004年プリンストン大学で教鞭をとり、財務省財務総合研究所長を最後に06年退官。大阪大学教授、東京大学客員教授、コロンビアロースクール客員研究員などを歴任。ジャパン・タックス・インスティチュート所長。著書に『デジタル経済と税』『税で日本はよみがえる』(以上、日本経済新聞出版社)など
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(東京財団政策研究所研究主幹 森信 茂樹)