「何を考えているかわからない若者」を知るヒントを探ります(xiangtao/PIXTA)

すぐ答えをほしがる、何がモチベーションかわからない、怒るとパワハラと言われる、急に辞めてしまう……。新入社員や若者とどのように接すればいいのか悩んでいる人も多いのではないでしょうか。『なぜ最近の若者は突然辞めるのか』を一部抜粋し再構成のうえ、そのヒントを探ります。

「3年で3割辞める」は30年前から変わらない

最近の若者はすぐ辞める、という声が、あちこちから聞こえてきます。

よく新卒は、3年で3割辞めるといわれます。厚生労働省の「新規学卒者の離職状況」によると、2015年3月のスコアは31.8%(大学新規卒業者の3年後離職率)ですが、実は30年前からのデータを見ても、3割前後で推移していることに変わりはありません。3年で3割辞めるのは30年前からほとんど変わらない傾向なのです。

若者は職場に「辞めます」と切り出すずっと前から悩み、働きながら転職活動を始めます。そしてこのご時世、今より(スペック上で)よい(と思われる)次の職場が見つかります。その段階で職場に打ち明けるわけです。辞めます宣言が出てしまったら、すべてはもう後の祭り。考え直してくれることは、ほとんど望めません。

転職のしやすさが若者の離職を後押ししているのは確実ですが、彼らが突然辞める理由はそれだけではありません。若者たちの話から見えてくるのは、彼らもまた年の離れた先輩や上司に対して、「何だ、この人?」「やってらんねー」と絶望している現実です。

ただ、彼らはそうした本音はなかなか口にしません。いったい何が若者の「不満ポイント」になっているのでしょうか? 「よかれと思うオトナ」vs「それが不満な若者」になってしまっている典型的なケースを見てみましょう。

「メール送付のリマインド」問題

生活用品メーカーの営業部。浜野課長(男性・44歳)は、昼の休憩から戻った入社2年目の中島くん(男性・24歳)に声をかけた。お客様から依頼された注文内容の変更の件についてメールで報告があったが、口頭での報告がなかったからだ。

「中島、ちょっといい? あのさ、大事なことはメールだけで済ませないほうがいいよ。申し訳ないんだけどさ、俺には1日に何十通もメールが届くんだよね。もし埋もれちゃってたら、お客様にも大きな迷惑をかけることになるでしょ?

メールを送ったら一声かける。そのほうが丁寧だし、後でトラブルにもならなくて済む。受け手の立場になって想像力を働かせてみてほしい。たかがメールと思うかもしれないけど、こういうのって一事が万事だからさ」

食い違う両者の言い分

中島くんは、「申し訳ありません」と謝ったが、いまいち納得していない表情だった。このケースでの両者の言い分は、こうなります。

【浜野課長の言い分】
最近の若いやつは、丁寧なコミュニケーションができないんだよな。こういうホスピタリティが発揮できてこそ、一人前のビジネスマンだっていうのを、教え続けなきゃいけないんだろうな……。

「メールを送ったので確認してください」と念押ししておくことは、仕事を円滑に進めるうえで大事なプロセスだ。社内コミュニケーションだけじゃない。お客様との関係性構築にも役立つ気配りだ。だいたい、メールを一方的に送っておいて何もフォローしないなんて失礼だろ。何か問題があったときに「メール見てなかったんですか?」なんて相手のせいにできるわけない。

【中島くんの言い分】
一声かけなかったほうが悪いっていうなら、メールを送る意味なくね? 確実に一度で伝わって、ちゃんと履歴も残るからメールがいいわけでしょ。それに浜野さんが席にいないことだって多いし、報告が遅くなったら今度は「遅い!」って怒るじゃんか。

そもそも、なんで見落とす前提になってるわけ? 「俺は見落とすんだ!」って、自分は能力がないってことじゃん。そんなに偉そうに言うこと? 仕事のメールなんだから見落としちゃダメでしょ。俺が浜野さんのメールを「見てませんでした」とか言ったら絶対怒るよね。

いかがでしょうか。もちろん浜野課長もメールを軽んじているわけではありません。メールに口頭報告をプラスしてほしいと言っているわけです。しかし、中島くんの主張も正論ではないでしょうか。

1日に何十通、いや100通以上ものメールが届くのが当たり前の時代。これは私たちの世代には、確かにうっとうしいですよね。かくいう私も、つい見落としてしまうのではという恐怖の中で日々を送っています。でも、若者たちはスマホを武器に、毎日もっと多くの情報を得て、それを超高速で処理しています。そこでは、「見ていて当たり前」であり、見落としたほうが悪いのです。

一方で、上司からすると「自分の若い頃は、上司や先輩の都合に合わせて臨機応変に対応してきた」という自負があるのかもしれません。でも「そういう対応や気配りができるのが、仕事ができるやつだ。だからお前のためにオトナのマナーを教えてやってるんだ」などと思っていたら大間違い。若者は「俺が先輩なんだから、コンビニでパン買ってこい」と言われるスクールカーストと同等の不条理を感じています。さて、次の例を見てみましょう。

中堅食品会社の商品開発部。商品開発部は花形部署であり、いくつかのチームがそれぞれ新商品の開発を巡りしのぎを削っている。「女性に喜ばれる商品開発」を担うチームでリーダーを務めている木村係長(女性・40歳)の下には、新しく配属になった新人の藤原さん(女性・22歳)がいる。まじめな子なのだが、すぐに答えをほしがるのがイマドキだ。

私たちの頃は…

「私たちの頃は、すっごい厳しかったんだから」

ことあるごとに、つい口にしてしまう。今ほど丁寧に仕事を教えてくれることはなかったし、先輩のやり方を見て盗んでいくのが当然。その姿勢が今の若手には足りないのではないかと悩んでいる。

先日も、ある案件の市場調査を藤原さんに頼んだら、予想どおりの答えが返ってきた。

藤原:「市場調査って初めてなんですけど、どういうデータを調べたらいいんですか?」

木村:「うーん、藤原さんが必要だと思うデータでいいよ。まずは自分で考えてみてよ」

藤原:「え、ああ、はい……。そしたら、過去に作った調査書類のテンプレみたいなの、どこかにないですか?」

木村:「あると思うけど、別に形が重要なわけじゃないから、まずは簡単にでも自分で作ってみてほしいの」

またこの問答か。以前にも社内資料のテンプレをほしがったので渡したら、肝心な人の名前を直し忘れていたことがある。もうちょっと考える習慣を身に付けてほしいんだけど……。

この木村係長の気持ちは、よくわかる人が多いのではないでしょうか。

【木村係長の言い分】
最近の若い子って、とにかく答えを知りたがる。私からすれば「わからないので教えてください」なんて、恥ずかしいくらいだ。むしろ言われたこと以上のことをなんとか返して、それで認めてもらいたいって気持ちのほうが強かったけど。

正直、答えまで教えていたら時間がもったいないし、ほかの人に頼んだほうがよっぽど早いじゃない。だけど育てていくことも私の仕事だから、なるべく考えさせようとしているのが伝わらないんだろうな。

とにかく、どうしたいのかよくわからないのよ。言われたとおりの作業はやりがいがないとか言うくせに、考えてと言ったらテンプレがほしいと言う。それで「この職場では成長できない」とか言い出したら、本当に頭にきちゃうかも。

【藤原さんの言い分】
答えがあるなら、まずそれを参考にするほうが無駄がなくていいと思うんだけど。考えて出したこともあるけど、結局いろいろ直されて木村係長の答えになったじゃない。その間の私の時間と手間ってなんなの?

考えることが大事なのはわかる。だけど、それとテンプレを使わないことは違う話じゃない? 考えなくていいところは省いて、考えるべきところに時間を割くべきだと思う。

若者は言われたことしかやらない、といった意見は本当に多くのオトナから聞きます。しかし私がインタビューした若者たちは、意外と「とりあえずやってみてと任されるほうが、やりがいを感じる」とも言います。女子大生のIさん(20歳)はこんなふうに話していました。

「仕事を投げられるのは、すごい好きかも。とりあえずやってみろ、みたいな。そういうふうに言われると、とりあえず自分の裁量でやってみます。それでダメだったら戻してくれれば、という感じがいいです。逆に、全部手順が決まっているとやる気がでない。宅配チェーン店のバイトは、マニュアルどおりの作業しかなくて、つまらなくて辞めました」

自分で考えるのはいいけど、結局答えが決まっているなら、考えるだけ無駄。自分の考えた結果が成果物にちゃんとつながるなら意味がある。おそらく、そんなところが若者にとっての線引きなのです。

若者の「心の中」を読み解くキーワード

若者の「典型的な不満ポイント」について見てきましたが、今度はマネジメント層の悩みについて考えてみましょう。何人かのマネジメント層に「若者の何にいちばん悩んでいるのか」と聞いてみたら、こんな回答に多くの票が集まりました。

「めちゃめちゃ気を使わないといけないのが、いちばんしんどい」

立場が上のはずのオトナが若者に気を使わないといけないという、妙な逆転現象が起こっているのです。若者がなぜ不満をためるのか、どうすればやる気になってくれるのか、上司に何を求めているのか。そんな心の中が見えずに悶々としていては、ストレスがたまる一方です。

若者の心の中は、彼らが住む「SNS村社会」を読み解いていくことで見えてきます。彼らは早くからスマホを手に、SNSの中で人間関係を築き、SNS的なコミュニケーションを身に付けてきました。その特性は大きく5つに分類されます。

「過剰忖度」
「相対的自意識」
「ヨコ社会」
「イミづけ」
「時間価値」

この5つの特性ごとに若者の考え方や価値観を深掘りし、20のキーワードに整理しました。これらを職場の若者に当てはめてみると、「もしかしてアイツはこんなことを思っているのかも」というヒントが見えてくるはずです。ここではそのうちの3つを抜粋して紹介しましょう。


ウザいと思われたくない! #セルフツッコミディフェンス

インスタグラムを見ていると、こんな投稿が見つかります。写真は“映える”旅先で撮られた女の子グループのキラキラしたセルフィ。いくつも並べられたハッシュタグの中には「#リア充アピール」の文字。


うかつに投稿して「出た、リア充アピール」「意識高い(笑)」「人と違う自慢、ウザい」などと思われたらショック。だからこそ、一見よくわからない、そしてある意味で非常に高度なセルフツッコミ的防御術を身に付けるようになったのです。

自分でリア充って言っちゃうんだ……と一瞬たじろぎますが、これには理由があるのです。

実は、友達から「うわ。リア充アピールしてるよ」と言われないように、先回りして予防線を張っているんです。若者たちは、自分の一挙手一投足が他人に見られている意識を強く持っています。「友達が見たらどう思うか」をつねに考えてしまうのです。

「それって、やる意味あるんですか?」

理不尽と書いて無能上司と読む #モクテキ原理主義

「それって、やる意味あるんですか?」

職場で若者をマネジメントする人ならば、多くの人が聞いたことのあるセリフではないでしょうか。イラッとして「いいから言われたことを黙ってやれ!」と言いたくなる人もいるかもしれません。でも、それは一番のタブー。若者にとっては、物事の「意味づけ」がなにより大事だからです。

昨今、マネジメントではよく「目標より目的で語れ」といわれます。例えば「うちの店で売り上げ100万円目指そう!」と言っても、若者は動いてくれません。「私たちの仕事は、お客様のためにあります。お客様の満足が、私たちへの信頼となり、その信頼の積み重ねが100万円の売り上げになるのです」と説明して、やっと腹に落ちるといった具合です。


物事の大小にはこだわりはありません。たとえ小さなことでも、誰かのためになるとわかれば真面目にやりきります。一方、理不尽なことにはものすごいアレルギー反応を示します。

オトナであっても無意味なことはやりたくなくて当然です。しかし仕事においては「とにかくやれ!」という理不尽が通用していました。なぜなら、経済が右肩上がりの時代には、やれば必ずリターンがあると信じられたからです。

しかし今は、先行き不透明な時代。とにかくやってもリターンが返ってくる保証はありません。若者はただ働きたくないのではなく、「やり損」になるリスクを避けるために、ひたすら合理性を求めるのです。

石の上で3年も費やすムダ #石の上にも3分

何事も続けることで道が開けると信じて、「石の上にも3年」を地で行っていた時代もありましたが、今の若者は3年も時間を無駄にできません。せいぜい3分です。オトナは時折、若者に修業の機会を与えようとします。

無駄なく最短ルートで成長したい


「まずは1回、自分で考えてみてよ。それから打ち合わせしよう」

なんでもすぐに答えをほしがるな。自分で考えるようになってほしい。そうした悩みの時間や、立ち止まって考えること、それが経験値となって成長につながる。そんな思いで、あえて課題を与えるわけです。

しかし残念ながら、若者にその思いは届きません。「なんだこの無駄なやり取り」と思われるのがオチです。彼らは「無駄なく最短ルートで成長したい」と考えているのです。


インターネットやSNSには、さまざまな情報が存在します。そこには仕事の解もたくさんあると、彼らは信じています。自らが難しいことに挑んで無駄に時間をかけるより、SNS上の友達から答えを聞けばいい。そのほうが仕事も捗るとナチュラルに考えているのが若者です。

5つの特性と20のキーワードから、若者がいったい何を望んでいるのかが見えてきます。彼らは、お互いにフラットな人間関係である「ヨコ社会」を基盤に、「周囲の評価が怖い」けど「自分を見てほしい」という葛藤を抱え、無駄なく合理的に生産性の高い活動をしたいというこだわりを持っているのです。

こうした若者の価値観に立脚してコミュニケーションをとることで、「何を考えているかわからない若者」に対するオトナの悩みやストレスは解消できるでしょう。