「「完璧なクリスマスツリー」は、こうして“科学的”につくられる」の写真・リンク付きの記事はこちら

冬が来るたびに何百万人もの人々が、厳選された常緑針葉樹の数々を米国のいたる所で精査し、最終的にひとつを選ぶために農場や駐車場の一角を訪れる。もちろん、クリスマスツリーを買いに行くのだ。

クリスマスの季節を彩る理想的なツリーを探して、トウヒやマツ、モミなどをあちこち見て回るのは、広く行われているこの季節の楽しみといえる。

全米で販売されるツリーの数は年間3,000万本近くに上る。多くの人々は完璧なツリーを選ぶことに慣れている。色やサイズ、形、針葉の状態、枝の茂り方などから選ぶのだ。

「最高の1本」を生み出す遺伝学と培養技術

だが実は、家庭に迎えられる「針葉樹のお客さま」を毎年選ぶ作業の裏には、膨大な科学が隠れている。

バート・クレッグにとって、ツリーを完璧なものにする条件を正確に特定することは、ホリデーシーズンの習慣というよりは仕事の大きな一部だ。彼はミシガン州立大学で森林学を研究し、クリスマスツリー生産の専門家としても有名な人物である。

クレッグの仕事は、主にふたつの分野に及ぶ。遺伝学と培養技術だ。「基本的には、どうすればさらによいクリスマスツリーにつながる種(しゅ)と種子供給源を特定できるのか、そしてさらによいツリーを生産するために、栽培者たちは農場をどのように管理すればよいかということです」と彼は言う。

クレッグが同僚とともに進めている研究は、いまから10年後に人々が地元で購入するクリスマスツリーの種類に影響を与えることになるだろう。例えば、彼が実施しいる耐寒性の実験のひとつは、ミシガン州立大学の植物・土壌科学棟の地下にある箱型冷凍庫で進められている。

「研究しようと思う木から若枝の束を集めて冷凍庫に入れ、1時間ごとに温度が3℃ずつ下がるように設定します」とクレッグは説明する。60分ごとの時点、つまりマイナス3℃、マイナス6℃、マイナス9℃、マイナス12℃などの時点で数本ずつ取り出し、冷凍庫の最低温度であるマイナス45℃まで続ける。そしてこれらのサンプルを培養するのだ。

鍵を握る寒さ耐性と、最適な窒素量

1週間後にサンプルを検査して、どれが茶色になり始めているか(損傷を受けていることを示す)、何℃でそうなったかを調べる。ある木が茶色になるまでの温度が低いほど、その木は極寒の気候に対する耐性が高いと考えられる。そして耐性が高いほど、その木は育成途中で複数回の冬に耐えることができ、リヴィングルームにふさわしいよう美しく育つ可能性が高い。

「こうした実験によって、新しい種(しゅ)や種子供給源の選択を考える場合に、迅速に判断ができます。特定の場所にその木が十分耐えられるかどうかを判断するために、20年に一度の厳冬を待たなくてよいのです」とクレッグは述べる。

寒さへの耐性は、完璧なクリスマスツリーを目指してクレッグが研究している針葉樹の数多くの特徴のひとつに過ぎない。そのほかに、木の大きさと色などの特徴もある。

大きさと色について栽培者たちは、肥料を頻繁に与えることで対処している。定期的に肥料を施すことで木々の緑色を保ち、1年に1フィート(約30cm)のペースで成長させるのだ。

しかし、これまで栽培者たちは肥料を過剰に与えすぎていた。以前の指針では1エーカー(約4,000平方メートル)あたりの窒素肥料が約300ポンド(約136kg)と定められていたが、これは木が必要とする量よりもかなり多い。

過剰な窒素は、地中の微生物によって硝酸塩に変えられる。この硝酸塩は木の根よりも深い部分の土まで浸透し、地下水に侵入してしまう。

クレッグの研究室では、栽培者がそれぞれの木の大きさや種、樹齢に応じて肥料を与えることにより、肥料必要量のうち3分の2を削減できることを示してみせた。その結果、ツリーは前よりも緑色が濃くなり、窒素の流出が減り、栽培者はより多くの利益を得られるようになった。

どれだけ多くの針葉が残るのか?

針葉の保持という問題もある。どれだけ多くの針葉が枝についたまま残り、どれだけがツリーの下に置いてあるプレゼントの上に降りかかってしまうかということだ。クレッグのチームでは、各種のモミから小枝を採取し、大学構内にある園芸学科の農場に並べておくことでこれを評価している。

週に一度、研究者が確認に回り、枝に沿って針葉を優しく引っ張り、針葉が何本落ちるかを数えるのだ。

「見て回って、引っ張るだけです。針葉が何本落ちるかに基づいて、評価尺度を設定しています」とクレッグは述べる。「フラセリーモミは6週間飾ることができ、針葉は1本も落ちません。ノーブルモミも同様です。これが米国北西部の人々がノーブルモミを好む理由のひとつです」

さらに結実と、その対処という問題もある。松ぼっくりのような実が付くことは、クリスマスツリーに関しては望ましくないのだ。「一般の人から見れば、なぜそれが問題なのかと思うでしょう」とクレッグは説明する。「それは理解できます。これは少し専門的なことです。しかし結実は、おそらくこの米国中西部の栽培者たちが直面している唯一で最大の問題なのです」

大量の花芽という“大敵”

フラセリーモミを例に挙げよう。これは、米国ではオレゴン州に続く2番目と3番目に大きな栽培地であるノースカロライナ州とミシガン州の栽培者たちが好んで選ぶ木だ。

自然の状態では、ほとんどのモミは樹齢が15年になるまで結実しない。しかし農場では、その大部分で、わずか数年目に実がつくようになる(伐採は10年目を迎える前に行われる)。

モミは春になると花芽を出し、夏の間に実を成長させて木から資源を奪う。つまり、個々の木の成長より繁殖のほうが優先されるため、木は実をつくることにエネルギーを注ぐ。しかし、実はいつまでもくっついているわけではない。秋になるとバラバラになって、見苦しい破片となって木に降り注ぐのだ。

このため栽培者たちは、春の間に花芽を摘み取る。これは手作業で、それほど難しいものではない。適切な時期にやれば、ひねるだけで小指ぐらいの大きさの小さな花芽がすぐに落ちる。ただし、これが永遠に続く。1本に数百個の小さな花芽が付くこともあるのだ。大きいものになると1,000個も摘み取ることになるかもしれない。

生物学的な効果と経済性のバランス

米国各地で莫大な数のモミが栽培されており、そのほとんどで何らかの結実が起きるのだから、実の数はとんでもなく多いことになる。この問題の防止には、モミの内部にある、結実を促進させるホルモンの作用を弱める植物成長調整剤が役立つとクレッグは考えている。彼は過去数年にわたり、理想的な調整剤と最適な塗布方法の特定に取り組んでいる。

最も新しい対処法は、完全ではないものの、結実を半分近く減らすことができるという。さらに、ツリーの見栄えをよくして枝を密にするという「嬉しい副作用」もある。

最大の問題は、成長調整剤の塗布にまだ経済的な意味が生まれていないということだ。「生物学的には効き目があるのですが、コスト効率をよくするところまで行っていません」とクレッグは述べる。

現在行われているクリスマスツリーに関する科学的な取り組みのなかで最も野心的なものは、おそらく複数機関によるプロジェクト「CoFirGE」だろう。これは「Collaborative Fir Germplasm Evaluation(共同研究によるモミの遺伝資源評価)」の略語で、クリスマスツリーに適した新しい種のモミの特定などを目標に掲げた全米規模の取り組みだ。

トルコのモミの木が全米を席巻?

モミの種は世界中に30〜40種ほどあるが、北米のクリスマスツリー市場向けに現在栽培されているのはその一握りに過ぎない。現在最も人気の高い2種であるフラセリーモミとノーブルモミは、いずれも根腐れという症状に悩まされている。水生菌類のエキビョウキンが原因で起きるもので、感染した木は数日で枯れる場合もある。

こうした根腐れは、米国最大のクリスマスツリー栽培地である各州で現在大きな問題になっているが、トルコのモミの木には、根腐れに対する耐性がある。そこで、CoFirGEプロジェクトを通じて、トルコのモミ数種が、ミシガン、ペンシルヴェニア、コネティカット、ノースカロライナ、ワシントン、オレゴンの各州で栽培され、米国の気候にどのくらい順応できるかの研究が行われているところだ。

今度あなたが地元の駐車場の一角に並べられた針葉樹の間をぶらつくときには、こうした話を思い出していただきたい。覚えておいてほしいのは、売り場を訪れる人々が、地元の品揃えの色や形、新鮮さなどを見定めるずっと前から、クレッグのような科学者たちが、冷凍庫にモミを入れたり、マツの針葉を引っ張ったりしているということだ。

それもこれもすべて、さらに完璧なクリスマスツリーを追求するためなのである。