YouTube上で広告を通じて収益を得ることができる「YouTubeパートナープログラム」へのチャンネル参加基準が厳しくなったことで、ブランドたちは一時的に安心感を持っていた。しかし、参加チャンネルの数が少なくなったからといって、ブランドにとって安全な場所になるわけではないことに、彼らは気づきはじめている。

新しい参加基準では、チャンネルが1000人以上の登録者を持ち、4000時間以上の再生回数を記録していなければ、クリエーターは広告収入プログラムに参加することはできない。これを持って、ブランドの安全性につながると、YouTubeは広告主にアピールしたかったようだ。この変更をYouTubeは「厳しいが必要不可欠である」と形容しており、広告主たちもほとんどが同意したようだった。

しかし、マーケターたちのなかには懐疑的な意見を持っているものもいる。フォロワー数の多い、人気のインフルエンサーたちにプログラム参加を絞っても、必ずしもブランド安全性を保証できないのではないかと、彼らは感じている。大人気ユーチューバーのローガン・ポール氏が富士の樹海で撮影したビデオが大問題となったことは記憶に新しい。

「コントロールは困難」



インフルエンサーマーケティングのプラットフォームであるソーシャルサークル(Social Circle)のクライアントたちは、YouTubeの今回の変更に「興味を持って」注目しているという。参加チャンネル数が減り、より全般的なコンテンツを扱うチャンネルが相対的に増えることで、オーディエンスをターゲットする能力が減るのかどうかを彼らは注視している。ソーシャルサークルのCEOであるマット・ドネガン氏は「(広告が)大量に表示されて1000人に無視される、ということをしたいのか、たった20人にリーチする、ということをしたいのかという問題だ」と語る。

レストランチェーン、ピザエクスプレス(PizzaExpress)はYouTube上で小規模なクリエイターたちの数が減る、という今後の予想にふまえてコンテンツプランを開発しているという。ピザエクスプレスのシニアマーケティングマネージャーであるティム・ラブ氏によると、ローカルなレベルで有効なインフルエンサーを見つけるのが困難になるであろうとのことだ。ラブ氏によると、今年は新しいYouTube上のタレントを見つけるためのガイドラインの開発に、より時間と予算をかけていくようだ。ブランドのためにカスタムコンテンツを作ってくれるインフルエンサーと、時間をかけて協働していくことをピザエクスプレスのマーケティングチームはこれまでも求めていた。

ラブ氏は、インフルエンサーのフォロワー数やリーチ規模がマーケターの目をくらませるような時代は終わりつつあるという。「チャンネル登録者数が非常に大きいものの、リスクを抱えているようなインフルエンサーとコラボレーションをするために巨額のお金をつぎ込む。そんなことを我々がし続けていきたいかどうか。最近のYouTubeの変更は、その点で大きな影響を持っている」と、彼は説明してくれた。

小規模クリエイターたちの広告収入を停止することは、YouTubeが抱えるブランド安全性とブランドの適切さというより大きな問題を無視している。「一つひとつ手作業でチェックしない限りは、自分たちの広告がどのチャンネルに現れるのか、またそれらのチャンネルが広告主にとって適切かどうか、をコントロールするのは困難になるだろう」と、ラブ氏は言う。

「テレビと同じ間違い」



YouTubeが(プログラム参加)チャンネル審査の対象を狭めたことは、ブランドの利益となるとYouTubeは主張している。プログラムに参加するための基準が高まるほど、広告が表示されるまでに必要な時間とチャンネルが提供するコンテンツの数が増え、チャンネルについてYouTubeが知るべき情報が増えることになると、ナダブ・ペリー氏は1月30日に開催されたイベント「ザ・エクスチェンジ・ラブ(The Exchange Lab)」で語った。ペリー氏は欧州、中東、アフリカにおけるYouTubeのプロダクト、ソリューション、イノベーション部門の責任者である。彼は「もしも、この高い参加基準が数年前から存在していれば、我々が見てきたニュースはどれも起きなかっただろう」と語る。

これに対し、インフルエンサーたちは、有名なクリエーターと小規模なクリエーターの間の格差がさらに広がり、YouTubeが彼らにとって活用し辛いプラットフォームになるのではと心配している。YouTube上のセレブリティーであり、ソーシャルサークルのクリエーターコミュニティマネージャーであるベッキー・クルーエル氏は今回の変更で、クリエイターたちが急に借金まみれになったり、家賃が払えなくなるといった事態は起きないものの、「才能がある若い人々が作るYouTubeチャンネルの数を減らす、象徴的な変化となると思う」という。ほかのインフルエンサーたちも同様の懸念を表明しているが、広告主たちの最初の反応はそれよりは主観的なものであった。広告のパフォーマンスの良いトップ・ンテンツを保護し、小規模なクリエイターたちを切り捨てるというYouTubeの決断を広告主とエージェンシーたちは歓迎したのだ。

「私がとても心配しているのは、YouTubeが広告主に与える力が大きくなりつつあり、長いあいだテレビが犯してきた間違いと同じ間違いを犯そうとしていることだ。テレビは収入を増やすために広告主にコンテンツ内容をコントロールさせてしまった」と語ったのは、チャンネル登録者数で世界上位50位に入るYouTubeスター、フェリペ・ネトー氏だ(ソーシャルブレード(SocialBlade)調べ)。「広告主たちはコンテンツを理解していない。彼らはオーディエンスを理解していない。なので、エンターテイメントにおいて何が台頭し、何が消えていくか、それを決める力を広告主たちに与えてしまうと、最終的にはエンターテイメントが死んでしまうだろう」と、彼は語った。

Seb Joseph(原文 / 訳:塚本 紺)