弾道ミサイルや核実験という単語が身近になった昨今ですが、いざ核ミサイルが飛んできたとき、迎撃することによりなにが起きるのでしょうか。過去の事例から実際のところを推測します。

核ミサイルを迎撃すると…?

 2017年9月3日(日)、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)は6度目となる核実験を実施しました。爆発規模は長崎型原爆の10倍以上に相当する250キロトンに達するとみられ、北朝鮮は威力の高い「水爆」の実験に成功したと見られます。

 また核実験の前後には、2度にわたって「火星12型」と称する弾道ミサイルの発射を実施。同ミサイルは日本本土上の宇宙空間を飛翔し、これを受け日本政府は「Jアラート(全国瞬時警報システム)」を鳴動させるなどの対応に追われました。北朝鮮情勢は、これまでにない緊迫した事態となっています。


航空自衛隊の地対空誘導弾ペトリオット(PAC-3)。写真はイメージ(画像:航空自衛隊)。

 2度の火星12型発射は日本本土を大きく飛び越える弾道であったため、迎撃は行われませんでしたが、今後の弾道ミサイル発射において日本に着弾するコースであれば「弾道ミサイル等に対する破壊措置命令」にしたがって迎撃が行われることになります。

 もしもこのとき、ミサイルに核弾頭が搭載されていたならばどうなるのでしょうか。核弾頭を迎撃したことによる核爆発の危険性は無いのでしょうか。

 結論から言えばその心配は無用です。現在日本が保有する迎撃ミサイルSM-3およびPAC-3は衝突エネルギーによって対象を破壊しますが、この衝撃によって核弾頭が起爆する確率はほぼゼロに等しいからです。

核爆発が起きる仕組みとは

 北朝鮮が保有する核弾頭の詳細については明らかになっていませんが、一般的な核弾頭の起爆は以下のようなメカニズムになっています。

 核反応のひとつ「核分裂」は、燃料として広く使われるプルトニウム239に中性子を照射することによって生じます。また核分裂自体が中性子を生み出すため、さらに別のプルトニウム239を核分裂させます。この連鎖反応が無制限に暴走した状態を核分裂における「核爆発」と呼びますが、この連鎖を引き起こすには多量のプルトニウム239を高密度に凝縮しなくてはなりません。

 そのため核弾頭にはプルトニウム239が数十個に小分けした状態で格納されており、起爆時には火薬の爆発によってすべてのプルトニウム239を中心部へと押し込み衝突・凝縮させます。これを「インプロージョン方式」と呼びます。

 インプロージョン方式はすべてのプルトニウム239が同時に中心部で衝突するよう極めて慎重なタイミングが要求されるため、迎撃ミサイルが衝突したことによる衝撃で起爆することは考えられません。

 実際に、核爆弾を誤って投下ないし核爆弾を搭載した爆撃機の墜落といった事故がこれまで数十回発生しており、いくつかの核爆弾を紛失していますが、こうした事故によって核爆発が発生した例は1件もありません。

核爆発しなくても実に迷惑な核弾頭、スペインでの事例

 核爆発の危険性はなくとも、迎撃によって破壊された弾頭はもちろん、核物質を含む破片となって地表へ落下することになります。したがって、迎撃してもなお依然として放射能汚染を引き起こす、「汚い爆弾」であり続けることになります。

 1966(昭和41)年1月17日にスペイン上空で発生した、アメリカ空軍B-52戦略爆撃機とKC-135空中給油機の空中衝突事故では、B-52に搭載されていた4個の核爆弾が落下しました。そのうち2個でインプロージョン用の火薬が炸裂し、核物質を飛散させ(核爆発は未発生)、その結果2万2000平方メートルの土壌を除去、かつ17万平方メートルの土壌について表層と深層を入れ替えるクリーンナップ作業が行われました。

 北朝鮮の核弾頭を、たとえば日本の国土上空で迎撃した場合も、スペインでの事例と同じように、地表に落下した弾頭を取り除く作業が行われることになるでしょう。迎撃に成功したあともなお、国は数日から数週間の外出自粛の呼びかけを行うはずです。その際は流言飛語に惑わされず、正しい情報を得たうえでこれに従うことが、その後の放射線障害を防ぐために重要となります。


弾道弾迎撃ミサイルSM-3を発射する海上自衛隊の「こんごう」。写真は演習の際のもの(画像:アメリカ海軍)。

 以上のように、たとえ迎撃に成功したとしても、核兵器による被害をゼロにすることは極めて困難であるのが実情です。しかしながら核兵器による死傷者のほとんどは、核爆発によって生じた熱線や爆風、破片、火災、放射線の急性被曝を原因とします。1945(昭和20)年の広島に対する原爆投下では、年末までに14万人が死亡しました。弾道ミサイルの迎撃はこれをゼロにすることもできるのですから、十分に大きな意義があると言えるでしょう。

【写真】イージスBMD能力を付加された「こんごう」


海上自衛隊のこんごう型護衛艦4隻は、イージスBMD(弾道ミサイル防衛)システムに対応するよう改修済。写真は同型護衛艦ネームシップ「こんごう」(画像:海上自衛隊)。