東芝の半導体事業は海外ファンド(ベインキャピタルかKKR)主導での売却となりそうですが、刺激的な金融メルマガ『闇株新聞プレミアム』はかねてよりこの成り行きに「海外ファンドに売却された日本企業はロクなことにはならない」と警鐘を鳴らしています。そこで今回は海外ファンドによる買収→再上場で“世間的には”成功例とされている「すかいらーく」と「スシローグローバルHD」(旧あきんどスシロー)で、何が行われてきたかを見てみます。

野村証券が持ちきれず外資に売られた
すかいらーくが歩んだ苦難の道

すかいらーくは、2006年9月に経営不振を理由に経営陣によるMBOで上場廃止となりました。これは当時の経営陣がほんの一部を出資したためMBOとされていますが、実際には野村證券が特別目的会社を通じて買収したTOB(LBO)で創業者はまもなく放逐されています。

TOB価格は当時の株価に27%のプレミアムを上乗せしたものでしたが、全株取得にかかった費用は2719億円でした。当時のすかいらーくは860億円の負債を抱えており、TOB成立後には(すかいらーくをTOBした)特別目的会社とすかいらーくが合併し負債総額は2200億円にもなり、自らの株式を買うために支払った「のれん」を1500億円近く抱えました。

ところが2011年、東日本大震災後の経営悪化で野村證券が持ちきれなくなりベインキャピタルに全株式を1600億円で売却しました。ベインキャピタルが買収に費やした費用のうち自己資金は600億円、残り1000億円は借金による調達だったと見られます。その1000億円は買収後にすかいらーくに押し付けられました。

つまり、非上場となったすかいらーくは買収されるために作られた負債を、自らがせっせと返済する苦難の道を歩まされることになったのです。たった600億円自腹を切っただけのベインキャピタルに全株式を握られて……。

 この状態ですかいらーくは2014年10月に再上場となったのですが、これはベインキャピタルが持ち株を売り出すために利用されたものです(すかいらーくの財務体質を改善する新株発行は見送られた)。売出価格は1株1200円でしたが、初値は公募割れの1143円。この時点の時価総額は2219億円で、上場廃止時に比べても企業価値は向上するどころか逆に減少していたことになります。

「市場や一般株主を気にせず思い切った経営判断ができるようにして企業価値を回復させる」というMBOの言い訳が、いかに「嘘っぱち」であったかわかります。

ベインキャピタルは自腹をきった600億円は再上場できれいに回収し、残る株式も順次売却してこれまでに累計2100億円ほどを手にしています。まだ4000万株ほど残っているようで最終的には2700億円ほどを売り抜け、2000億円以上「荒稼ぎ」となるはずです。

しかも、すかいらーくは現在も、ベインキャピタルのために1株あたり年間40円(利回りにすると2.5%!)もの配当を支払い続けているのです。ベインキャピタルが全株を売り抜けた後は、減配やのれんの償却など波乱材料がボロボロと出てくることは火を見るより明らかです。

時価総額は膨らんだけれど、企業価値は…
スシローはなんのために稼いでいるのか!?

 スシローグローバルHD(旧あきんどスシロー、以下スシロー)は2008年9月にユニゾン・キャピタルが65%のプレミアムを上乗せし、総額212億円でTOBされました。

 ユニゾンの自己資金は30億円ほどで多くは借り入れによって調達された資金でしたが、ご多分にもれずその負債は買収後にスシローが負わされました。

 そのユニゾンは2012年9月に英系ファンドのペルミラに、なんと全株を10億ドル(当時の為替で786億円)で売却してしまいました。つまり、212億円が4年間で786億円に「化けた」わけですが、これはスシローの企業価値が増大したわけではなくユニゾンがペルミラに「吹っかけた」だけです。

 ペルミラが買収に費やした786億円のうち536億円ほどは借金による調達で、言わずもがな買収後にはスシローに押し付けられました。スシローは自らの事業拡大にはなんの関係もないペルミラが作った負債を返済するため、営業キャッシュフローのほとんどをつぎ込んでいたようです。「企業価値の向上」などできようはずがありません。

 ペルミラは水留浩一氏(日本再生支援機構から日本航空に副社長として送り込まれていた人物)を社長に据え、さらに高値で再転売しようとしましたがこれはさすがに無理があり、再上場させて回収することにしたようです。

 そこで今年3月にオーバーアロップメントを加え1542万株(全株数は2745万株)を1株=3600円で一気に売り出し、555億円を吸い上げました。ペルミラがスシロー買収に使った自己資金は250億円ほどでしたので、すでに300億円ほど利益が出てさらに900万株ほどの「コストがタダ以下の株券」が手元に残っているわけです。

 スシローの時価総額は2008年の212億円から1000億円近くまで膨らんでいますが、外資ファンドが自らを買収するために作った借金返済を最優先にしている企業の価値が、本当にここまで回復しているでしょうか? 

 2017年6月期の決算短信では(本決算は9月末なので9か月の決算)純利益が43億円あるものの、長期借入金が457億円もあり、1年前の488億円から30億円以上減っています。事業には何の関係もない借入金の返済に収益のほとんどを充てていることがわかります。おそらくペルミラが全株を売却した後の株価は大変に厳しいものとなるでしょう。

 つまり(海外に限りませんが)ファンドが主導して企業を買収すると、本来は一般株主に帰属するべき利益がすっかりとファンドに掠め取られるだけでなく、その利益そのものも不要な経費(金利、弁護士報酬、プロと称する経営者のスカウトなどのため)で大きく減額となるのです。

 東芝の半導体事業でベインキャピタルあるいはKKRが行おうとしていることは、こういった事例の「さらに大規模でえげつないもの」でしかありません。

刺激的な金融メルマガ『闇株新聞プレミアム』は株価の上がった下がったを解説するだけのメルマガではありません。あらゆる筋から情報を集め、背後にある人間たちの思惑を探りながら巧妙に隠された見えにくいところに光を当て、なぜそうなっているのかをリアルタイムに読者のみなさんと考えていきます。毎週届く読み応えたっぷりの情報にあなたも触れてみてください。