元短距離選手の伊藤友広氏が解説、トップ選手もやっている練習とは―

 コンマ1秒でも速く走りたい、徒競走で1等賞になりたい――。

子供の頃の運動会や短距離走でそう思ったことがある人は少なくないだろう。しかし「速く走る」ためのノウハウを自然と身につけることは難しい。気負いが力みにつながってしまうケースもある。それではどのような意識、トレーニングが有効なのか。かつてオリンピックに出場した実績を持つ陸上選手がその“ヒント”を明かした。

 走るスピードを上げるにはどうしたらいいのか。解説したのは2004年アテネ五輪日本代表として男子1600メートルリレーに出場した伊藤友広さんだ。

 高校時代に国体(少年の部)400メートルで優勝。法大進学後は国体・成年男子400メートルを制し、アジアジュニア陸上競技選手権の1600メートルリレーでもアンカーを務め、優勝。4年時にはアテネ五輪の1600メートルリレーメンバー入り。決勝ではメダル獲得こそ逃したものの、3位のナイジェリアにわずか80センチまで迫り、過去最高となる4位に入賞した。現役引退後は、国際陸上競技連盟の公認指導者資格(キッズ対象)を取得し、400メートルハードルの日本記録保持者で計3度の五輪に出場した為末大さんらとともに、子供たちへの指導などを行っている

 全国各地を回っての指導も実施。そんな伊藤さんは先月行われた「東北『夢』応援プログラム」で東日本大震災の被災地となった岩手県宮古市の高浜小学校で小学生25人に約2時間、講義を行なった。その際、走るスピードについてこう話した。

能力やセンスだけではない、「誰でも速く走れるようになれる」コツは…

「走る速さというのは、生まれつきの能力だったり、センスで決まっているんじゃないかって思われがちなんですけど、実はそうではないんです。半分くらいは走り方を改善するだけで、誰でも速く走れるようになります」

 誰でも速く走れる――。そう話す伊藤さんが重要な練習に挙げたのは「ジャンプ」と「スキップ」だった。

「自分の身体を弾ませて走るのが大事なんです」

 伊藤さんがバウンディングとスキップを披露すると、その一歩の歩幅の大きさを見た子供たちは、一様に驚きの色を浮かべた。全身をバネのように使うスキップ。これは世界のトップクラスで戦うスプリンターにとってベースになるものだという。

スキップする時のポイントは…

 確かにリオ五輪や世界陸上のテレビ中継などを見ていると、ウォーミングアップなどで選手たちが弾むようにスキップしているシーンを見かけることが多い。それは“地面を蹴る”というイメージとは逆の発想なのだ。

「足が速くない人は、自分の足で蹴って進むイメージなんですね。一方でジャンプする時はアキレス腱がうまく使えていて、バネみたいな役割をしています。このアキレス腱の動きは走る時も同じで、うまく作用させられるとスピードも出るし、無駄な力を使わずに効率的に走れるようになるんです」

 跳ねるように走ることがスピードアップに直結する。伊藤さんが例に挙げるのは日本人選手初の100メートル9秒台が期待される桐生祥秀(東洋大)だ。

「桐生選手などのように100メートルを10秒前半、もしくは9秒台で走る選手は、走っている時に地面に何秒くらい足がついているかというと、だいたい0.1秒くらいです。彼らもジャンプの練習をしていますが、ジャンプする時は1.0秒も地面に足がついていなくて、一瞬だけなんです」

 それでは実際にスキップする時の“コツ”はどこにあるのだろうか。

「大事なのは“足が入れ替わる位置”になりますね。『何も意識せずにスキップしてください』と言うと、自分の体の後ろの方で入れ替えてスキップする人が多いです。実はそうではなくて、“自分の体の前で”足を動かしていきます。自分の体の前で足を動かすことで、身体を前に弾ませていくことに繋がっていきます」

スキップをする時に体の前後どちらで足を跳ね上げているかを意識している人はそう多くないかもしれない。

 速く走るために必要なのは「力を瞬間的に使う、効率的な走り方」だと伊藤さんは話す。その “秘訣”は、かけっこが速くなりたい子供たちにとって価値あるアドバイスに違いない。