パン、パン、パン! パンイベント大盛況の謎

なぜ、皆こんなにパンが大好きなのでしょう?

パンのイベントは全国各地で頻繁に開催されています。都内近郊で2016年に開かれたパンイベントだけでも、

●パンのフェス2016(3月)
●カレーパン博覧会2016(3月)
●メロンパンフェスティバル(5月)
●パンイチ(6月)
●カレーパンフェス(8月)
●世田谷パン祭り(10月)
●青山パン祭り(10月)

と、さかんに開催されています。かつてパンまつりといえば、ヤマザキ春のパンまつりくらいで穏やかなものだったのですが……。

しかし、どのイベントも多数の人が詰めかけ、夕方に行ったら、ほぼ売り切れということが多いです。人が来すぎて、待たされた人や買えなかった人が多数発生、炎上することもありました。

世田谷パン祭り、メロンパンフェスティバルなどはそれぞれ入場まで長くて数時間待ちという事態に。カレーパン博覧会にいたっては、開始20分で売り切れてしまい、カレーパンを買えなかった人々の阿鼻叫喚状態に。

パンイベントに行こうと決めた瞬間から、人はパン欲を高め、パンを消化するための胃液を分泌。もう他のものでは満たされません。昔フランスで「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」という提案がありましたが、実際は「パンがなければブリオッシュを食べればいいじゃない」で、結局どちらもパンです。

■小麦を食べ過ぎると老化が早まる?

もともと小麦粉には依存症がある、という説があります。

『小麦は食べるな!』(日本文芸社 Dr.ウィリアム・デイビス著)は、パン中毒気味だった私が、半分パンから抜けるきっかけになった本(しかし、完全なパン抜きは難しいです……)。

この本によれば、体質にもよりますが、小麦を食べ過ぎることで体重が増えたり、糖尿病や心臓病の引き金になったり、老化を早めたりといった弊害が出る可能性があるそうです。

アメリカの症例なので日本人の体質や国産小麦はまた違うと思われますが、本の中で思わず引き寄せられてしてしまったのは、小麦の脳への影響に関する記述です。

「人によって小麦は依存症状を引き起こします」
「小麦は消化されてモルヒネ様化合物が生じ、脳のオピオイド受容体と結合します。その結果、報酬として穏やかな多幸感が生まれます」

小麦によってアヘンを摂取した時と似た快感が得られ、禁断症状も引き起こしかねないそうです。こうした記述が正しいとすれば、パンは食べる、というよりキメるものなのかもしれません。

たしかに、周りのパン好きの友人も「あ〜白くてフワフワしたものが食べたい!」と突然叫んだり、衝動的にパン欲にかられたりするようです。

実際、パンを食べると、口腔内で小麦粉と砂糖が甘さをふりまいて、ひとときの優しさや幸せに満たされます。しかし、私の場合、食べてしばらくしてだるくなります。そこからモチベーションをあげようとして、また甘いパンやクッキーに手がのびる、という悪循環に陥りがちです。

■ひとりで30個のパンを買い占める客、多数

パンブームは、日本を弱体化させるために仕組まれた陰謀なのではないかと思うくらいです。私も数年前までは、毎日朝昼、1日4個くらいパンを食べるパン漬け生活でした。海外からのパン屋が日本にオープンするとなると駆けつけ、パンのことしか見えなくなって、打ち合わせする相手をパン屋の開店の行列に並んでいて待たせてしまったこともありました。あの時はどうかしていました……。申し訳ありません。

様々な味や形に展開したパンは魅惑的で、人間のカルマそのものを象徴しているかのようです。

パン屋に度々並んで気付いたのは、パン好きは貪欲、ということです。パンイベントに午後に行くと買い尽くされているように、そのあと来る客のことなど考えず、ひとり10個、20個、一度で食べきれないほどの量を買うのです。おそらく冷凍保存するのでしょう。以前、人気のパン屋で前の女性客が30個くらい迷いながら買っていて、長時間待たされたときは、さすがにやりすぎだと思い、自らのパン欲を省みました。

自然療法士などによって書かれた『エンジェルデトックス』(JMA・アソシエイツ)という、スピリチュアル系な本を愛読しているのですが、ここにも小麦の害について書かれていました。

加工食品(ケーキやおかしなど)に必ずといっていいほど入っている小麦について「小麦は、あまりにも多く使われているのです。どんな食べ物でも大量に食べたり、頻繁に食べすぎたりすると、身体は炎症を起こします」。

グルテン(編注:小麦などの穀物の胚乳から生成されるタンパク質の一種)は「細胞同士をくっつけ、そのために身体の動きが鈍ってしまう」(同書より)。

たぶん、小麦のグルテンはくっつく性質があるので、食べると次々欲しくなってしまうのでしょう。私もここ数年はパン依存から抜けるため、パンの代わりにおにぎりを食べるようにしています。グルテンの粘着性を断ち切ろうとして、途中にせんべい(米菓)を挟んだりして……。(でも、結局パンとせんべい両方食べて体重が増える結果に)

同書には、小麦やグルテンを手放せるように大天使ラファエルに祈る瞑想法も紹介されていました。小麦を完全に断つと食べるものがなくなってしまうので、まだ天使に助けは求めていません。

■野菜好きを怯えさせる“パン中毒者”

先日も、気持ち的に少し距離を置きつつ、青山パン祭りに行きました。

午後に着いたら、やはり人気のパンはほぼ買い尽くされて、何もないブースも多数。そんな中、買えたと思ったらすぐ近くの渋谷のパン屋でした……。パン好き、意外と冷静に産地をチェックしています。

すぐ隣の広場では毎週恒例のファーマーズマーケットが開催されていました。八百屋の女性客が「こんなに混んでるの、パン祭りのせい?」と言うと、八百屋のおじさんが「そう。パン、やばいよね」と、声をひそめました。

野菜好きの人々を怯えさせるパン好きの勢い。パンの中毒性(及び快感)と無縁そうな彼らがうらやましくもあり、気の毒でもあります。

(コラムニスト 辛酸なめ子=文・イラスト)