いよいよ11月12日(土)より公開されるアニメーション映画『この世界の片隅に』。すでにあちこちから「今年ベスト1」という声も多数聞こえてくる注目作だ。

11月8日、公開に先駆けて、のん(主演声優)、片渕須直(監督)、コトリンゴ(音楽)をスペシャルゲストに迎えたライブ付きプレミア試写会が東京・草月ホールにて開催された。


こうの史代によるコミックに惚れ込んだ片渕監督が6年かけて完成にこぎつけたという本作。戦時中の広島・呉を舞台に、激しくなる戦火の中、日々を前向きに、健気に生きる主人公のすず(のん)と周囲の人々の姿を描く。

広島・呉を何度も訪れて綿密にリサーチを重ねた片渕監督は、プロモーションで北海道を訪れた折、「しまった、敵地に乗り込んでしまった(北海道は日本ハムファイターズのフランチャイズ)」と思うほど広島に身も心も染まってしまったのだとか(監督は大阪出身)。

のんは呉について「坂がたくさんあった」と振り返り、作品を鑑賞した地元の人たちから「方言がすごく自然だったと」言われたのが、とても嬉しかったとのこと。話しながら手で坂のポーズをしているところがカワイイ。


ちなみにこの日は試写に来場した一般のお客さんも写真撮影OK!(フォトセッションのみ)

OPテーマ「悲しくてやりきれない」(ザ・フォーク・クルセダーズのカバー)、EDテーマ「たんぽぽ」ほか、すべての音楽を担当したコトリンゴは、完成した作品で流れる自作の音楽について「自分で自分をほめてあげたい」と照れながら語ると、片渕監督はニヤリ。「この映画の音楽は、すずさんの心の中から漂い出てくるようなのですが、コトリンゴさんのメロディーがそういう感じになっていたと思います。素晴らしい楽曲をありがとうございました」(片渕監督)


のんが「コトリンゴさんの曲が聴こえてくると、直接心の中に映像の風景が流れ込んでくる感覚があって、すごくシビれました」と褒めると、「うれしいです」と本当にうれしそうにするコトリンゴ。片渕監督は2人の会話を聞いているのがお好きなようで、「フワフワッとした雲の上にいるような気持ちを味わえる」とのこと。たしかに2人とも、のんびりした浮世離れした感じの話し方だ。


OPテーマの「悲しくてやりきれない」は、製作が始まった2010年頃から片渕監督の中では「絶対に映画の中で使いたい」と決めていたそう。「『悲しくてやりきれない』が流れてくると、自分自身が共鳴して、気持ちが満たされて涙が出てきます」(のん)

また、映画を作り終わった後、「これでは終われない」と思っていたときに「たんぽぽ」を聴いたところ、「この物語を終わりにできる要素が全部そこにあった」と感じて、その日のうちにエンディングに絵をつける作業を一気に行ったという。「のんちゃんがセリフを言えば絵が変わったし、コトリンゴさんの音楽が入っても絵が変わったんです」(片渕監督)


ここからは、ピアノ弾き語りによるコトリンゴのスペシャルライブ。最初の一声で一気に場内の空気を変える。のんも片渕監督も傍らで観客と一緒に聴き入っている。



ライブ後、「6年分全部がこみあげてきた」と目をうるませる片渕監督。のんは「本当にすごくて。コトリンゴさんの声が聴こえた瞬間、心臓がギュッとつかまれたみたいになって、息をするのを忘れてしまいます」と賛辞を送った。

最後の3人からのメッセージ。

片渕監督「1944年とか45年とか、遠い昔の話のようですが、たぶん遠くではないということが、この映画を通じてわかっていただけると思います。ここに写っている、すずさんのまわりの世界は、この場所に行っても見られませんが、見られないだけで、いつまでもそこにある場所のような気がします。今日はその場所にみなさんをご案内しますので、そこですずさんと一緒にごはんを召し上がっていただいたり、空を見上げていただいたり、風に吹かれていただいたりしてみてください」

コトリンゴ「私も何度も観ているのですが、今日観たら、また観たくなると思います。『すずさんに会いたいな』『映画の雰囲気に包まれたい』と思うんです。最後はちょっとコワいところもあるんですが――。また後日、観に来たくなったら、いつでも観に来てくださるとうれしいです」

のん「普通に生活するとか、普通に生きるとか、“普通”ということがすごく幸せなんだな、とジーンと心に残る映画だと思います。どんなことがあっても生きる日々はめぐってきます。その大切さを感じる映画です。ぜひ、最後まで観ていってください」



(大山くまお)

『この映画の片隅に』
11月12日(土)テアトル新宿、ユーロスペース他全国ロードショー
『劇場アニメ「この世界の片隅に」オリジナルサウンドトラック』(CD)11月9日発売
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(C)こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会