3点しか取れなくても不安を感じさせなかった千葉黎明の凄味とは

 Aシード・千葉黎明が初戦を迎えた。やはり初戦は難しいと感じさせる試合だったが、それでも全く危なげない試合展開を見せたところ、千葉黎明の地力の高さ、安定感の高さを実感させられる試合だった。

 1番藤江 康太が痛烈な右前安打で出塁。さらに二死二塁となって、4番島村 篤史(3年)がストレートをはじき返し、痛烈な中前適時打で1点を先制する。だがその後、松戸六実の先発・石塚壮真(3年)が中々の好投手だった。テークバックを大きく取って、勢いよく投げ込む右の本格派でコンスタントに130キロ〜133キロを計測。昨秋見た時と比べても、5キロ以上スピードアップは遂げており、印象ががらりと変わった。

 コントロールも良く、ここぞというときに力強いストレートが投げられるのが強み。先制打を打たれた島村に対し、第3打席は力のある133キロのストレートで空振り三振を奪った時は思わず唸らされるようなストレートだった。スライダー、カーブ、チェンジアップと、縦、横、緩急の変化を上手く使える投手で、松戸六実バッテリーのコンビネーションに惑わされていた。

 苦戦しながらも千葉黎明が勝利出来た理由。それは間違いなく守備の良さにある。エース川口 廉(3年)は終始、制球が乱れることなく投げきることができていた。テークバックを小さく取って、振りだすフォームは豪快さはない。何か斎藤 佑樹や攝津正のような老獪さを感じる。川口のフォームには無理がないのが長所。動きが小さいフォームだが動作にぎくしゃくさがなく、スムーズ。だから球速が落ちることはない。初回は135キロ前後だったが、後半になってきて、135キロ〜139キロを計測するようになり、139キロは序盤よりも後半に出ることが多かった。これも無理のないフォームというのもあるのだろう。変化球はスライダー、カーブが中心だが、曲りが小さく、高めにすっぽ抜けるということはない。意図通りに投げることができているので、配球が組み立てやすいのだ。

 コントロールが良いと打たせて取る投球に徹しやすい。ただ勢いに任せて投げるだけではない。見ていて勝てる投手というのはこういう投手のことなのかを実感させられる試合だった。

 川口のリズムの良い投球に応えるように内野陣が安定した守備を連発。鋭いゴロが飛んでも、各内野手が軽快に裁くことができていたのだ。特に素晴らしかったのは遊撃手の佐々木海渡(2年)。右へ、左へ鋭い打球が飛んでいたが、しっかりと追いつき、そして送球のコントロールも良く、次々とアウトを演出。セカンドの藤江は大会前の取材でも、「佐々木の方がずっとうまいです。参考になります」と語るほど、佐々木の守備はかなり信頼をおけるものである。千葉黎明は佐々木に限らず、内野手の送球が安定していたが、これは普段からキャッチボールを意識して取り組んできたこと。全く綻びが見られなかった。

 そして6回裏には二死二塁の場面で、リードが大きい二塁走者を牽制でアウトにして切り抜けるなど、実に抜かりがない。それが7回表、島村の2点適時打につながった。島村は非常に勝負強い。懐が深い構えをしていて、シャープなスイングで低く鋭い打球を飛ばせる選手。第2打席、第3打席で凡退になっても、次の打席で修正をして適時打を打ったところ、簡単には終わらない強みがある。

 また春先からパワーがついてきたという1番の藤江も、打球の速さ、ボールを捉えるセンスはチーム内でもトップクラス。軽快な二塁守備、セーフティバントをきっちりと決めるセンスの良さ、そして隙さえあれば走れる盗塁技術、勇気と一歩先のプレーをしていた。

  そして川口は3安打完封勝利で危なげなく千葉黎明が3回戦進出を決めている。松戸六実は石塚の投球といい、内外野の堅い守備と非常に鍛えられていて、千葉黎明に十分に対抗していた。もし綻びが見えるチームだったら、もっと違う試合展開になっていたかもしれない。それでも終始、千葉黎明のペースで試合が進んでいった。千葉黎明の守備力の高さ、盤石の試合運び。これはなかなか作りだせないもの。

  今の千葉黎明は数年前とは別のチームのような安定感が備わっている。

 

(文=河嶋 宗一)

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