いま本場でプレイしている姿を一番見てみたい選手は、日ハムの大谷翔平選手だ。打つ方はともかく、投げる方は文句なし。もしも、足の方もイケるなら、つまりプロ野球選手ではなくJリーガーだったなら即、本場でプレイできているだろう。しかも安い移籍金で。
 
 彼が、日ハムの下部組織出身選手なら、つまり日ハムが一から育てた選手なら、球団が強い拘束力を持つことに納得するが、大谷選手は花巻東高を卒業してわずか3年目の選手だ。球団がこれまでに投資した額はたかがしれている。プロ野球は、雇用形態が球団優位にできているののである。
 
 日本人のプロ野球選手がアメリカに渡ると、日本球界の損失だと言う人が現れる。だが、そこで言う球界とは何を指すのか。ファンを含む言葉なのか。
 
 もちろん、ファンにはいろんなタイプがある。日ハムファンもいれば、日本のプロ野球全体が好きなファンもいる。さらに大きな意味での野球ファンもいる。一括りにすることはできないが、アメリカに行ってしまえば、ファンは球場でナマで見にくくなる。球場に、大谷見たさに頻繁に通うファンが、残念がるのは当然だろう。
 
 だが、テレビ観戦中心のファンにとっては好都合だ。彼の露出はアメリカに行った方がむしろ高くなる。先発する試合は、NHKがBSでフルカバーしてくれるはずなので、日ハムでのプレイより、しっかり見ることができる。それでも損失だろうか。大谷ファンも、野球ファンも逆に増えるのではないか。その雄姿を誇らしく感じる日本人は多いと思う。
 
 海外で活躍する日本人選手を見ることは、観戦者にとって至福の瞬間だと思う。ゴルフの松山英樹、テニスの錦織圭が、国内の大会にばかり出ていたら、逆にゴルフ、テニスの人気は下がる。スポーツ競技としてのステイタスも落ちる。それぞれの競技の普及発展を考えた時、彼らのような存在は必要不可欠なのだ。
 
 サッカー界には大谷はいない。錦織も松山もいない。しかし、数だけは多くいる。少なくともプロ野球に比べて、遙かに行きやすい環境が用意されているからだ。Jリーグの現状を考えれば、損失と言うべきはサッカー界になるが、それでも僕は損失だと思わない。それなりの選手が、本場欧州の、それなりのクラブで、それなりに出場す ることに、大きな価値を感じる。

 先述の通り、競技としてのステイタスを保つことに大きく貢献しているのだ。総合的なイメージアップをもたらしている。サッカーが格好いい競技に見えるのだ。

 日本のサッカー界で、一二を争う人気者、武藤嘉紀が欧州に行ったことは、まさにサッカーのイメージアップ、ステイタスアップに貢献する出来事だと思う。そこで、それなりに成功を収めれば、武藤自身もより格好よく見える。スター性はいっそう増すだろう。

 逆に、あまり格好よく見えないのは、年齢的には十分やれるのに日本に帰ってきてしまう選手だ。いろんな事情があるとは思うが、残念ながら都落ちに見える。

 中田英寿が29歳で引退したのも、そのあたりと大きな関係があるのではないか。彼の美意識の中に、日本でプレイする姿が存在しなかったからだと僕は見る。

 アメリカで出場機会に恵まれているとは言えない川崎宗則選手について、張本勲さんはしきりに帰ってくるべきだと主張しているが、やれるところまで頑張るその姿は、少なくとも僕には美しいものに見える。

 帰ってきてしまった選手の代表は、宇佐美貴史だ。レンタル期間が終了したための帰国といえば、それまでだが、もっと粘って欲しかったというのが実感。何と言ってもバイエルン時代、チャンピオンズリーグ決勝でベンチ入りまでした男だ。それは日本人で一番の出世頭に躍り出た瞬間だった。