根底にあるのは「人は変われる」という信念…少年院・刑務所専用の求人誌が描く未来
ライブドアニュースの看板犬「ドアふみ」が、世の中のソーシャルグッドな活動を取材する「ドアふみの社会科見学」。

今回は、日本初の
受刑者等専用求人誌「Chance!!」
を発行している株式会社ヒューマン・コメディ代表、三宅晶子さんに話を聞いた。

応募者が必ず使う「専用の履歴書」

応募者専用の履歴書を見てびっくり。入れ墨の種類、指詰め箇所…独特すぎるぜ!
Chance!!専用履歴書はヒューマン・コメディ公式HP、「Chance!!」で入手可能。
これは関東のある更生保護施設(※)で実際に使われているものを、ほぼ流用させてもらっています。施設に入るための面接を少年院や刑務所でするときに、こういった内容を聞くそうなんです。

※少年院を出た少年、仮釈放になった人、満期釈放になった人などが自立に必要な指導、支援を受ける施設
当然といえば当然だけど、なかなかハードな項目が多いなぁ。
もちろん履歴書だけですべてわかるわけではないので、あくまでも参考です。この人はちゃんとしてるな、と思っても、会社の備品を持ち逃げしたり、社有車を乗り逃げしたり、飛んじゃう(無断欠勤)とかよくある。「業界あるある」ですね。
「Chance!!」の詳細は記事後半の漫画でも解説中。

他人を変えるなんておこがましい

淡々と語る三宅さんだが、創刊までの道のりはそう簡単ではなく…
刑務所の中はインターネットが使えないから、彼らは紙媒体で情報を知るしかない。であれば、つくって配ってしまおうと思って、2018年3月に「Chance!!」を創刊しました。
しかし、創刊にいたるまでの三宅さんのプロフを見てみると、ものすごく紆余曲折を経てるよな…!
三宅さん:はは(笑)。
犯罪歴のある人を見捨てずサポートする原動力は、一体どこからきてるんだ?
いやいや私、“見捨てずサポート”なんてしてないですよ。この求人誌をつくってからの弊社のスタンスは、あくまでも「非行歴・犯罪歴のある人を雇用する企業の支援」なんです。企業の採用の支援、企業の教育の支援。

彼らを絶対に見捨てないとか、絶対に再犯させないなんて、私にはできないということに気づきました。
でも会社を立ち上げた当初は、社会復帰しようにも帰る場所がない人たちをサポートすべく始めたのでは?
それはそのとおり。でもね、やってみてすぐ「相手を変えるなんてことは、おこがましい」とわかったんですよ。変わることは本人にしかできない。再犯して刑務所に戻ってしまったら、まだ学びが必要なのかもね、って。

だから、相手が「二度と再犯しない」なんていうことは、信じていません。そんなの私だってわかんない(笑)。でもその人が本当に「もう絶対に二度と戻りたくない。絶対やり直す」と思ったら、やり直すことはできる。

実際に覚悟を決めて、雇ってもらった恩義を感じて一生懸命がんばる人も少なくありません。なかには課長となり、役員となって、社長の右腕になるような人もいます。その可能性を信じています。

素敵な社長たちとの出会いが糧に…

この活動をしていると神か!っていうような経営者の方々に会えるんですよ。それは「Chance!!」を続ける糧になってますね。

例えば、栃木のよくメディアにも出てらっしゃる大伸ワークサポートの社長さん。社長自身も懲役の経験があって「決して見放しません、待ちます」というスタンスです。

ここに就職した人は定着率が高いというか再就職率が高い。
再犯して刑務所へ戻っても、また社長にお願いして大伸ワークサポートに就職する人が多いんです。
「Chance!!」には各企業の社長からのメッセージが並ぶ。
すごい…けどフクザツ!
掲載希望の企業にはできるだけ訪問してるんですよ。私への対応=応募者への対応だと思うので、横柄な応対をされた場合には掲載しません。

過去がある人を雇うからってどこでもいいわけじゃない。会社の雰囲気も含めて、社員を大切にしている会社かどうかはかなり見ています。
それが定着率にも繋がると思うので。
やっぱりコロナ禍で求人は減った?
減りましたね。コロナ禍での運営はなかなか厳しい。でも私は、この会社からは報酬は得ていなくて、納棺師として仕事をし、そちらで収入を得ているので、割り切って会社を選べます。それはむしろいいことなんです。

掲載希望企業の社長がお金に見えたらこの活動はおしまいだから(笑)。

「絶対に罪を犯さない」と言い切れるか

検挙された人の約2人に1人が再犯者という話を聞いたことがあるけれど、これは今でも同じなんだろうか。
法務省の犯罪白書を見る限り変わっていません。
出所しても居場所がなかったり、つくり方がわからなければ、そうなるよなって気もするぜ。
そうですね…。罪を犯す人には、もう生まれた時点でスタートが違う人が大勢います。

今日明日食べるものがない家に生まれるとか。家庭がめちゃめちゃだとか、壮絶な虐待を受けて育ったとか、育児放棄されて施設で育ったとか。貧困や虐待などが背景にある場合が非常に多いんです。環境は選べません。

私は何不自由のない家庭で育ちましたが、「明日は我が身」だと思っています。

例えば天災で失業して家賃が払えない、病気になって働けなくなった、でも家族を養わなければいけない、そうなったとき「絶対に自分は罪を犯さない」って言い切れるだろうかと。

また、高齢者による池袋暴走事故のように、人生っていつ何が起きて自分が加害者にならないとも限らない。

だから、相手の背景や理由を想像したり、自分が加害者となったらどうかっていう「想像力」が大事だって思うんです。非行や犯罪に対してだけじゃなくて、今の世の中は想像力が足りなすぎる。想像力の欠如が、社会の不寛容さに繋がっています。

でも、人は、自分の身に起こっていないことを想像するのは難しいんですよね。
じゃあどうしたらいいかっていうと、「感謝」することかなと。今ある「当たり前の生活」は、自分の努力だけで成し得たことだろうか?っていうと、そうではないと思う。

犯罪をしなくても済む環境に生んで育ててくれた両親やおじいちゃんおばあちゃんや、自分を叱ったり導いたり関わってくれた人たちがいるからだと思うんですね。

今自分が罪を犯さなくても済むような環境で生きていられることに感謝できたら、もうちょっと寛容な社会になれるんじゃないかな。「想像力」と「感謝」ですね。

今後は教育の分野にもチャレンジ

創刊から3年半くらい経つけど、今後やっていきたい活動があったら教えてほしいぜ。
これは有料職業紹介を始めたときから思っていたことなんですが、結局いくら、こちらがいい会社を選んでも、きっかけをたくさんつくっても、本人が逮捕前と考え方を変えなければ同じ結果になる。

かっこいい先輩ができたり、結婚したり、そういうことで変わる人もいっぱいいるけど、でもそれだけでは変わらない人もいっぱいいる。

そこで、ここにきて教育に力を入れていこうと思うようになったんです。福岡にヒューマンハーバーそんとく塾という、出所者等の教育支援を行っている一般社団法人があります。そこで、正しい価値観や生きやすいものの見方、考え方を身につけるための教育プログラムを開発しているんですが、その指導者認定を受けました。まずは実績をつくっていこうと。
教育プログラムは某刑務所で来年1月から始めるそう。
出所前から、考え方を変えるきっかけをつくるってことか。
はい。でもこの教育によって「絶対に更生させてみせる」などとは思ってません。変わるか変わらないかは本人次第。スタンスとしても出所者支援ではなく、あくまで雇用主、企業側の支援です。

再犯防止とか定着率とかそういう目標だけじゃなくて、可愛がられて重宝されて、リーダー的な役割を果たしていくように、ひいては社会の役に立つように…というところを目標に見据えています。

これを読めば「Chance!!」がわかる! 中身を漫画でざっくり解説

今回の取材先:
株式会社ヒューマン・コメディ
「“人は変われる”と信じることのできる社会の実現」を目的に2015年7月設立。非行歴・犯罪歴のある人たちも、仕事をとおして社会に喜ばれるための採用・教育支援を行う。受刑者等専用の求人誌「Chance‼」は年4回発行。全国の少年院、刑務所239施設に配布している。
取材・文/ドアふみ
撮影・ドアふみの手伝い/編集部
漫画/龍たまこ