大分にある「サウナのまち」が話題 “温泉がない”を逆手にとった町おこしが凄かった
おんせん県・大分にありながら温泉がない不運な町、豊後大野市(ぶんごおおのし)。

そんな逆境にもめげず今年7月、「サウナのまち」宣言を高々と行った。
地元のカフェやキャンプ場などが、雄大な自然環境を生かした「アウトドアサウナ」を続々と設立。今まさに、生まれ変わろうとしている。

世の中のソーシャルグッドな活動を取材するライブドアニュースの看板犬・ドアふみは、この一見開き直りともとれるユニークな「地方創生」に注目。仕掛け人である「
おんせん県いいサウナ研究所
」の所長、高橋ケンさんに話を聞いた。

解放感ヤバい! おんせん県にできた「サウナのまち」

大分県といえば温泉なのにここには湧かないのか…。
そうなんです…。

でもね、温泉は湧いていませんが、豊後大野市には「アウトドアサウナ」があるんです!

一度味わうとやみつきになりますよ!
やみつきに…?
現在市内には5つのサウナがあります。どういうものかというと…
世界で唯一、水中鍾乳洞を水風呂にできるサウナ(稲積水中鍾乳洞)
水温は通年16℃でサウナに最適です!
宿泊施設・ロッジきよかわのテントサウナは、川が水風呂(JOKI SAUNA)
サウナで蒸されたら目の前の川にダイブしちゃってください!
360度自然に囲まれる外気浴はアウトドアサウナの醍醐味です。
一番のこだわりは、全施設「薪サウナ」を採用しているところ。熱が柔らかく、温度と湿度の変化を楽しめるのが特徴です!
俺の知ってるサウナとぜんぜん違うぜ…。
この「サウナのまち」を発展させるべく、地元の民間事業者で立ち上げた協議会「おんせん県いいサウナ研究所」で情報発信などを行っています。
景色を楽しみながらリフレッシュできるのが魅力

豊後大野市はサウナの本場「フィンランド」に似ている…?

自虐あふれる広告も展開
何がキッカケでこの取り組みを?
僕は2017年に東京から移住し、ゲストハウスの運営を始めました。でも当時、直面したのは、豊後大野市に観光客を呼び込む難しさでした。

市の人口はたったの約3万4000人で、高齢化も進んでいます。温泉の恩恵によって地域経済に元気がある近隣の市に比べると、観光資源に乏しく町にはあまり活気がありませんでした。
なるほど…。そりゃ経営は難しいよな。
どんなことをすれば、温泉がなくても観光客が来たいと思える場所になるだろう。

とことん考え抜いたとき、「なにもないけど自然だけはある。財産はこの自然そのものだ!」という結論に行き着きました。
緑豊かな豊後大野市。東洋のナイアガラと呼ばれる「原尻の滝」もある
それとサウナはどうつながるんだ?
その頃、個人的にサウナに熱中していて(笑)。

雪こそ降りませんが、雄大な自然を持つ豊後大野の地域性はサウナの本場「フィンランド」に似ていることに気づいたんです。

これを利用すれば都会では味わえない圧倒的なサウナ体験を生み出せると確信しました。
豊後大野とフィンランドを重ねるとは…それだけサウナが好きだったんだな。

「町ごと」盛り上げなきゃ意味がない

自分の宿にサウナを作るだけじゃなくて、市を巻き込むのはすごい行動力だな。
観光に来てもらうには「豊後大野市=サウナ」という地域イメージを多くの人に持ってもらうことが大事です。

「いいサウナ研究所」の立ち上げ後、そうした思いを豊後大野市長に提案すると「面白い!」と。その結果、市をあげての「サウナのまち」宣言が実現できました。
宣言時の様子。市長(中央)との距離の近さが伺える
サウナには地域全体が関わっています。たとえば、サウナで使用する薪は豊後大野市の名産品である原木しいたけの原木です。使わなくなった木を買いとっているんです。

また、市内に2つある小屋サウナはすべて廃材で作っています。

捨てられる木を再利用でき、お金も回る。地域内でいろんなものを循環できるように工夫しています。
小屋サウナ「トゥーリトゥーリ」。制作費用はたった4万円!
ゲストハウスLAMPにある小屋サウナ「リビルドサウナ」
資源の有効活用だけじゃなく、経済の回し方まで考えてるのか…。
町全体で人も資源も利益も循環しないと、本当の意味での魅力的で持続可能な町づくりにはならないですから。

「編集者」の企画力がいきた町おこし術

どうしてそんな次々とアイデアが生まれるんだ?
じつは僕、前職は東京で雑誌の編集者をしていたんです。サウナ研究所の所長として奔走する今、地方創生って「編集」と似ていると感じています。
地方創生と編集が似てるだと?
編集者ってとにかく調べまくって企画の種を探すんです。町おこしも同じ。地域を知る、素材を集める、それがすべてのスタートです。

そして集めた素材をどう組み合わせていくのか。一番わかりやすい手法は、「足す、引く、掛ける、割る」です。

たとえば、「温泉×まんじゅう=温泉まんじゅう」や、「北海道のご当地シャケ+鍋=石狩鍋」といった感じです。

豊後大野の場合は「おんせん県」−「温泉」=「サウナのまち宣言」といった感じでしょうか(笑)。
確かにこれは、地域に詳しくないとできない企画だな。

この町にサウナが必要なもう一つの理由

町おこしでは良い企画を考えながら、過疎化や高齢化の問題とも向き合わないといけないよな。
よく地方では人口流出を嘆く声を聞きます。

でも僕は、若者が都会に出ることは良いことだと思います。一回外に出ることで地元の良さに気づくことも多いですから。

だから、いつか帰りたいと思える魅力ある町にしておけばいい。
その意見は新しいな。
じつはこの先、豊後大野市はサウナの本場であるフィンランドの都市と姉妹都市協定を結びたいという野望があるんです。

フィンランドの「福祉」や「教育」に関する知恵やノウハウを持ってきて充実させることができたら、移住者も増えると思うんですよね。

そのためにも「サウナのまち宣言」が必要だったんです。これが僕の考える町づくり、豊後大野が生きる道だと思っています。
かっこいいな! その野望が実現できるよう応援してるぜ!

まさに沼! 「アウトドアサウナの魅力」を漫画で解説

「ドアふみの社会科見学」は、毎回漫画にもなるんだぜ。今回は「アウトドアサウナの楽しみ方」を聞いてみた。合わせて読んでくれよな。
今回の取材先:
おんせん県いいサウナ研究所
大分県にありながら温泉の出ない町・豊後大野市で発足したアウトドアサウナ協議会。豊後大野市の豊かな自然を生かした川サウナや鍾乳洞サウナ、廃材を使ったサウナ小屋などを展開。本場フィンランド式のサウナが楽しめることで、全国のサウナーたちの注目を集める。不定期で、サウナフェスやイベントも開催。
取材・文/ドアふみ
撮影・ドアふみの手伝い/編集部
漫画/ナナイロペリカン