『BEASTARS』にはなぜ海外ファンが多いのか? 監督×制作Pが明かす、「動物」を描く先にある「言葉」の魅力

2016年に『週刊少年チャンピオン』で連載がスタートした、若き動物たちの群像劇『BEASTARS(ビースターズ)』が、2021年1月に発売された22巻で堂々の完結を迎えた。

「マンガ大賞2018」などさまざまな漫画賞を受賞し、シリーズ累計発行部数は500万部を突破(2020年10月時点)。2019年12月まで放送していたTVアニメ第1期に続き、第2期が1月から放送中。Netflixでの世界配信も行われ、国内のみならず、国外からも大きな反響を呼んだ。

擬人化された肉食動物と草食動物、さらには海洋生物が暮らす社会。ハイイロオオカミの主人公・レゴシ(CV:小林親弘)は、ドワーフウサギの少女・ハル(CV:千本木彩花)との恋を通して肉食獣である己と向き合い、心の平穏を取り戻したかに見えた。だが、学園内で起きた食殺事件の真相、裏市で見た“社会の裏側”に触れ、第2期からはさらなる試練へ身を投じる。

ライブドアニュースでは、第1期から監督を務めている松見真一、制作プロデューサーのキム・ヒョンテにインタビュー。さまざまな動物キャラクターが織りなす群像劇は、その世界観と共に、幾重にも張り巡らせた心理描写がポイント。映像化困難な原作を、どのように表現したのか?

ふたりの言葉を通して、『BEASTARS』の魅力の真髄に迫る。

取材・文/川俣綾加

原作とアニメのキャッチボールで作られた作品

TVアニメ『BEASTARS』第1期は大きな反響がありましたね。放送を終えたあとの心境はいかがでしたか?
松見 反響で面白いなと思ったのはYouTubeの動画でした。たとえば海外のファンの中には、日本のアニメを観ている自分の様子を動画で公開している人がいますよね。僕らが「日本だとこういう反応だろうな」と想像していたシーンでも、国が違えば「そこに反応してくれるんだ」とか、「そういう部分は嫌いなんだ」とか、意外な発見があったりして。最後には視聴した感想もしゃべってくれるので、制作側としては興味深く見ていました。
キム 原作となる漫画が非常に面白いので、放送が始まった当時からアニメも必ず反響があるはずだと期待感を持っていました。放送中もリアルタイムでSNSをチェックして、作中のここぞというポイントで反応があるたび、すごく嬉しかったです。僕らの期待通りに、ファンのみなさんが作品の本質をきちんと観てくださった印象がありますね。
「ここぞというポイント」は、たとえばどんなシーンでしたか?
キム 第1期でしたら、第1話の冒頭とラスト。同じ絵でありながら、冒頭はレゴシのセリフから始まって、ラストはハルのセリフで終わる。それに気づいてくれた方もいました。

逆に意外だったのは、シシ組が登場するシーン。第1期だと、それほど重要なキャラクターではなかったのですが、ファンのみなさんの思い入れが伝わってきました。
▲第14話(第2期)のカット。ライオンたちで構成しているシシ組。この世界の裏社会を生きる存在だ。
原作にまつわる話題といえば、2020年10月に連載が堂々の完結を迎えましたが、こちらについてはいかがでしょう?
キム ひとりのファンとしてレゴシを最後まで見届けたい気持ちが強かったので、すごくいい終わり方で楽しませていただきました。アニメがどこまでやれるかはわからないのですが(苦笑)。
松見 TVアニメの制作を板垣先生と話し合いながら一緒に進めていたのですが、じつは、先生が「食殺事件の犯人探しは2クール分(全24話)に収まるくらいの長さにしよう」と、意識して原作を描いてくださったみたいなんです。
そうだったんですか!
松見 はい。僕らも先生に「そこまではアニメもきちんと追いかけます!」とお伝えしまして。なので、2クールやるのは初期からの決定事項でした。そこから先の話は板垣先生とも全然していないんですけどね。
原作があってTVアニメの制作が決まり、TVアニメを受けて原作の構成も変わった。原作とアニメのキャッチボールで作品ができていったのですね。
松見 聞いた話によると、板垣先生がアニメをご覧になって影響を受け、原作にも変化があったらしいので、とても面白いしありがたいですよね。

海外でも大きな反響を生んだ、動物たちのヒューマンドラマ

先ほど海外ファンの反応について興味深いとおっしゃっていましたが、アニメの反響の大きさをどう受け止めていますか?
松見 海外の方々がどれくらい作品を観て、どう感じてくれるのか、そこを意識して作っているわけではないので僕たちにはまったくわからないものなんですよ。

だから予想以上に楽しんでくれてよかったです。海外では動物モノのアニメってたくさんあって、子どもたちを中心に親しまれていますから。
たしかにディズニーを始め、動物を描いた海外アニメが数多く存在していますよね。制作する際、参考にされたのでしょうか?
松見 僕はまったく意識していませんでしたね。
それはどうしてですか?
松見 『BEASTARS』は原作の時点から、何よりもまずヒューマンドラマを描いています。ヒューマンドラマを動物の擬人化として描くことで、単純に人間で描いたときとは違う切り口で見せられる。

根本は同じでも、違う見方を提示できる点が海外の方々にとって面白かったのかもしれません。
▲第15話(第2期)のカット。作中の動物たちは人間と同じように、さまざまな感情を見せてくれる。
登場キャラクターがもしも人間だったなら、観る側も容姿や属性にとらわれてしまうけれど、動物を擬人化することで普遍性が生まれた、ということでしょうか?
松見 普遍性もありますね。また、人間という属性を捨て、肉食・草食動物に置き換えることで「もしも自分たちが彼らだったら、悩みや問題にどう向き合っただろう?」と想像させることもできます。人間のままの姿だったら感じられない「何か」を身近にとらえたりと、いろいろな見方ができる。多様性に富んだ海外だと、そういった部分に重ねて観た人もいたのではないでしょうか。
キム 松見さんの話にもありましたが、『BEASTARS』は基本的に、動物の姿を借りた人間の物語だと思っています。人間には人種、言葉、文化、たくさんの差異がある。肉食動物や草食動物の関係も、見る人次第でさまざまな違いとして受け止められますよね。それがこの作品にある普遍性だと思います。
動物のキャラクターにすることで、誰もが“自分ごと”を見出せるようになり、共感しやすくなりますね。
キム そうですね。そのうえで、「この社会でどうやって一緒に生きていくか」をちゃんと物語の世界観に盛り込んでいることが、日本だけでなくさまざまな国のみなさんの心にも響いたんじゃないかと思いました。
▲第13話(第2期)のカット。写真左は主人公のハイイロオオカミ、レゴシ。同右はドワーフウサギのハル。

動物の表情は、顔だけでなく体全体で表現する

『BEASTARS』のアニメを制作する際、いちばんの課題は何だったのでしょうか?
松見 (制作会社の)オレンジさん(※1)って、もともとロボットものが多かったんですよ。2017年に作った『宝石の国』で初めて人間、ただしくは人間に近い存在を描くことに挑戦しましたが、近年はずっと3DCGで人間らしさをどう表現するか、研究を続けてきたんです。

ところが『BEASTARS』は動物ものですから、そうしたノウハウが通じない。動物によって鼻面が長かったり、口が大きかったりと、人間と同じようにはいきませんから。そこをいかに開発するかが最初の問題でした。

また、『BEASTARS』はキャラクター数も多い。どうすればTVシリーズのスパンでこなしていけるか、その方法論は、実際に制作を始めなくてはいけない時間ギリギリまで悩みました。悩んだというか、なかなか決まらなかったんです。
※1 2004年設立の3DCGアニメ制作会社。これまでに『創聖のアクエリオン』、『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』シリーズ、『マクロスF』など、多数の作品のCGディレクション・CGカットを担当。元請作品としては『宝石の国』を始め『ソラノカナタ』、『Mr.AFFECTiON/IDOLiSH7』、『そばへ』など。
しかし、実際に映像で描かれているレゴシたちは、とても表情豊かに見えます。
松見 オレンジさんが主にモーションキャプチャ(※2)をベースにしてアニメーションを作っている会社なので、今回初めての試みとして、表情はフェイシャルキャプチャをベースに、人間の顔を動物に当てはめていく方法で進めました。これがうまくいけば、ヒューマンドラマの表現は人間に対する演出をベースに作ることができるな、と。

「これでうまくやれるから大丈夫」とGOサインが出たわけではなく、チャレンジングな意味でのGOサインだったので、非常に不安ではあったのですが。
※2 カメラやセンサーによって、実際の人間の動きをデジタルデータとして収集する技術。CGで作られたキャラクターに反映させることでリアルな動きを表現でき、近年ではアニメやゲームに限らず、VTuberなどにも幅広く利用されている。フェイシャルキャプチャは、そのキャプチャ技術によって顔の表情をデジタルデータ化すること。
▲第15話(第2期)のカット。
実際に進めてみての手応えは?
松見 うまくいったと思っています。ただ、やはり動物と人間では顔の動き、目や口の大きさも全然違うので、そこをどう動物に換算していくか。レゴシみたいにボソボソとしゃべる性格なのに、やたらと口がでかいキャラクターはどうしていくかなど、進めているうちに少しずつ変わっていった部分もあります。
ということは、レゴシの口の動きも、(第1期の)第1話と第12話をよく観察すると違っている?
松見 微妙に違うんですよね。それは作っているスタッフ側が慣れてきたのもあります。「具体的にどこが?」と聞かれると難しいのですが、的確な表現がきちっとできるようになったかな。

フェイシャルキャプチャって、思った通りに表情すべてをキャプチャできるわけじゃないんです。自分が悲しい表情をしたからといって、動物でも悲しい表情を再現できるかといえば、そうはならない。だから手を加えて「レゴシだったらこういう表情にしないと悲しく見えない」や「笑ったときに口角を上げられる動物かどうか」などと、見極めなくてはいけません。

もうひとつ、ドワーフウサギのハルに関しては白目がありません。つまり、目をキョロキョロと動かす表現ができないんです。じゃあ何で表現するか?と考えたら、ウサギだから耳を使っていく。耳で表情をつけるなんて人間ではできない表現ですから、これも手探りです。

そういう制作過程の中でアニメーターも次第に慣れてきて、「こういうときは耳をこう動かしたらいいんだな」と表現の幅が広がったと感じます。
▲第18話(第2期)のカット。
感情表現をつけるのが難しかったのは、やっぱりハルですか?
松見 大変といえば大変でしたね。板垣先生にも「どうやって表情をつけていますか?」と聞いてみたら、「眉毛で動きをつけたり、微妙に目の位置を変えてみたりしてます」とおっしゃっていました。でも、3Dモデルだとパーツの位置をしょっちゅう変えることはできないので。
個人的には、手の動きからキャラクターの感情表現が伝わってくるなと。手の表現は意識していますか?
松見 いや、僕は手で感情を表現しようっていうのはなかったですね。
キム 僕の考えでいえば、(第1期の)第3話でルイ(CV:小野友樹)の部屋に呼ばれたレゴシが、ルイの前で身振り手振りを交えつつ話をする場面がありますよね。手の芝居が目に留まったのはたぶん、レゴシの手自体が、レゴシの心と正反対だからだと思うんです。もともとレゴシが持っている本能の部分が手に現れているからかもしれません。
▲第3話(第1期)のカット。草食動物のルイ(アカシカ)は、鋭い爪を持つレゴシの手から視線を外すことができない。
『BEASTARS』ならではの、動物の動きのつけ方ってあるのでしょうか。
松見 海外の動物アニメーションとの比較でいえば、先ほども少し触れましたが、海外の作品は基本的にターゲットの年齢層が低いものが多く、子どもにもわかりやすい表現になりやすいと思います。オーバーリアクションのような、誰が見ても伝わる動きですよね。

でも、『BEASTARS』は原作の持つ魅力や性質から、そういった表現はできない。強引にやっちゃう選択肢もあるんですが、やってしまうと『BEASTARS』からは外れてしまいます。

また、「『BEASTARS』のよさは表情だけではない」という気持ちもあって。この作品の魅力は「言葉の力」でも表現していることなので、表情ですべてを表さずともセリフと合った演技ができれば、十分に演出意図は伝わるはずだと思っていました。
「アニメイトタイムズ」の記事によると、松見さんは映画『平成狸合戦ぽんぽこ』(1994年公開)に演出として携わった際、故・高畑勲監督と「表情の変化がない動物をどう表現するか」についてお話されたそうですね。そういった部分も参考に?
松見 『平成狸合戦ぽんぽこ』も、『BEASTARS』も、ターゲットは低年齢層ではなかったので参考になる部分はあったと思います。実際の動物は顔で表現しないで、尻尾を振って嬉しそうするなど、いろいろな部位が動きます。それをやれるのが動物アニメーションでもあるから、表情に限らず動物に合わせたさまざまな表現を探しました。
▲第1話(第1期)のカット。作品には草食と肉食、さまざまな動物たちが登場する。

原作の魅力である“多重性”を、どうやって伝えるか

先ほど「言葉の力」と松見さんは言いましたが、具体的にはどういったものでしょうか。
松見 『BEASTARS』は、口に出している言葉とモノローグで語る言葉、両方がとても重要です。モノローグの数もとても多く、しかも頭の中で考えているモノローグと、心の中で思っているモノローグの2種類があります。

それに加え、ひとりのキャラクターが複数の立場で会話をするモノローグもある。そういった“多重性”をどう映像に落とし込むか、難しさはありましたね。
頭で考えるモノローグは理性を語り、心で感じるモノローグは本能を語っていますよね。モノローグが多いと、もう少し絵で表現したほうがいいのかなど、バランスの取り方が難しそうです。
松見 板垣先生から「書いた言葉はできるだけ忠実に残してほしい」とリクエストをいただいていたので、できるだけ原作の言葉は忠実に、そのまま活かそうと心がけていました。画面を分割する手段をとったのも、多重性を表現できるからです。

先ほど言ったように、登場キャラたちの視点がくるくると動くと、「誰が、何を、どの視点で、どう思っているのか」がわかりにくくなる。それを整理しつつ見せてくれるのが画面分割です。感情や考えが刻々と変化していくさまを見せられるようにしました。実際、うまくいったなと思います。
キム 制作が始まる前、モノローグが多い映画を見つけては「これ観ましたか?」「こういう感じはどうですか?」と松見監督に観てもらいました。そうやって、モノローグの多さをどう表現するのか話し合ううちに、松見監督から提案いただいたのが画面分割でしたね。

たとえば第1期第2話の、レゴシの表情のうえにハルが園芸部の活動をする様子を何枚も重ねて、モノローグを入れて画面を動かすシーンは、観たことのない映像になっているのではないでしょうか。
▲第2話(第1期)のカット。ハルを見ながら考えるレゴシのモノローグを、頭部を透過することで表現。
言葉の力といえば、アニメのサブタイトルは『学園の心臓部は庭園にあり』(第1期第2話)や『ゆきゆきて 夏のネオン街』(第1期第11話)など表現が面白いですよね。こちらはすべて板垣先生が考えているとか。
松見 シナリオの打ち合わせ中に、板垣先生から「サブタイトルってどうやってつけてるんですか?」と聞かれたことがあったんですよ。

実際、先生の書くサブタイトルって、とても詩的で独創的。シナリオライターとも「あれ、なかなか書けないよね」って話していて。そういうサブタイトルってあまり見ないし、面白いんじゃないかと思っていたんです。

原作の連載でも、編集者に原稿を渡すときに原稿袋にサブタイトルを考えて書くと言っていたので、「アニメでも同じように、シナリオが上がったら最後にサブタイトルをつけてもらえませんか?」とお願いしました。
先生から上がってきたサブタイトルに対して、松見さんから何かオーダーを出すことは?
松見 なかったですね。考えていただいたものをそのまま使っています。
キム 板垣先生が書いてくれたサブタイトルはそのまま使っていますが、話の冒頭に出すか、最後に出すかは松見さんと悩みましたよね。
松見 たしかに、冒頭に出すとネタバレになる場合もあるし、サブタイトルでその話数を終わらせるとすごく引き締まることもありますから。アタマにするかシメにするかは話数によって違いましたね。
▲第15話のカット。

OPもEDも一丸となって『BEASTARS』を発信できた

第2期ではオープニングテーマに『怪物』、エンディングテーマに『優しい彗星』と、どちらもYOASOBIを起用しています。板垣先生が書き下ろした小説をもとに曲を作っていて、これも「言葉を大切にする」につながっているように感じます。
キム 僕はあまり音楽を聴かないこともありYOASOBIさんを最近知ったのですが、「小説から音楽を作る」ってすごく魅力的ですよね。 アニメの主題歌は、本編とかけ離れた歌詞が流れるなど、作品と融合せず別々に動いているケースもあります。

でも本作は、板垣先生が書き下ろした小説をもとにしたYOASOBIさんの歌から、オープニングやエンディングの映像が作られています。歌詞も曲も映像もひとつとなって『BEASTARS』を発信しているのが特徴的ですよね。
第1期のオープニング映像はドワーフ(制作会社)によるコマ撮りアニメーション、エンディングはハイパーボール(制作会社)による週替わりで違う映像を見せるものなど、多彩な仕掛けで話題になりました。こういった取り組みにはどのような意図があったのでしょうか?
キム ネット配信でもTV放送でもオープニングやエンディングは飛ばされやすい部分なので、視聴者が観たくなるような映像にすることで、最初から最後まで1話分をしっかりチェックしてもらうことは目標にしています。

それと同時に、いろいろな映像表現に挑戦したい気持ちもありました。第1期のオープニングで使う映像をどうするか考えたとき、僕がマッドハウス(アニメ制作会社)に在籍していた当時、『四畳半神話大系』(2010年)で素晴らしいオープニングを作ってくれたサイクロングラフィックス(アニメ制作会社)の加藤道哉さんを思い出し、声をかけました。コマ撮りは加藤さんからの提案です。
コマ撮りは時間も予算もかかるイメージです。
キム かかりますね。オープニングアニメでそこまでやるのは厳しい面もありますが、各方面から理解が得られて納得できる範囲で進められました。

一方で、第2期をどうするかは迷いましたね、第1期のオープニングアニメーションの反響がこんなに大きくなると予想してなかったので。もちろん嬉しい驚きではありました。
第2期のオープニングでもコマ撮りを採用するかどうか、ということでしょうか?
キム やったほうがいいのかなと検討はしたんです。コマ撮りも選択肢にはありましたが、やっぱり雰囲気をガラッと変えたアニメにして、前とは違った印象を持たせたい。第1期のエンディングアニメを担当してくれたハイパーボールさんと相談して、最終的に今の形になりました。

日本語がわからない視聴者にも、演技が伝わる声優を

映像面について、第2期で新たな挑戦は?
松見 第1期を制作する中で、「こうすればこれが表現できる」を掴んで続けてきたので、第2期も基本的には同じように取り組んでいます。ただ、第1期の最初の頃と比べたら、全然違って見えるかもしれません。挑戦というよりも、作業ペースが上がったとか、確信を持ちながら作業が進められている面ではありますね。
第2期ではチェリートン学園の警備員・ロクメ(CV:くじら)が登場しました。巨大なガラガラヘビの動きを通して感情などを表現する難しさはありましたか?
松見 ロクメはそれほど感情豊かではないし、爬虫類は表情がわかりにくいほうがいいから、表現する難しさはとくに感じなかったです。

ただ、原作を読んだ段階ではオスかメスかわからなかったんですよ。アニメだと声をつけなきゃいけないので、男か女かどっちかに寄せなくてはいけなくて。
▲第14話(第2期)のカット。写真左はガラガラヘビのロクメ。
板垣先生にロクメの性別は聞きましたか?
松見 聞いてみたら「どっちでもない」でした。そういった声を探していく中で、僕のほうからくじらさんをご提案させていただいた形です。
くじらさんといえば、少年漫画原作のアニメで「○蛇丸」と蛇の名がつくキャラクターを演じていましたから、そこに反応するファンもいました。
松見 『BEASTARS』って海外の方もたくさん観ているので、くじらさんを知らない人も多いんですよ。だからそういうのは関係なしに、声と演技で選ばせていただきました。もっとも、日本の方はたぶんネタとして受けとめた人も多いでしょうね(笑)。
声とキャラクターがぴったりハマっている素敵な配役だと思いました。
松見 『BEASTARS』は第1期のときから、海外の反響を見ると、声の演技にもすごく反応してくれていたんですよね。だから第2期のキャスティングも、たとえ日本語がわからない方が相手だろうと、声の演技がきちんと伝わる声優を選ぶことを重視していたんです。
キム Netflixの配信では、8ヶ国語で吹替が行われています。字幕と合わせると30ほどの言語で世界配信されています。
みなさんそれぞれの言語でも楽しめるのですね。
キム 吹替で観る人も、字幕で観る人もいますね。僕の母国である韓国のファンは、「まずは英語の吹替で観たけれど、日本語音声にして字幕で観たら声優さんの芝居の違いがわかって面白かった」という人もいました。こういった話も海外のファンのあいだで議題に上ったりしていましたね。
第1期はチェリートン学園が主な舞台で、第2期になると裏市など、学園の外にも舞台が広がります。
松見 学園は「社会の中でも正しくあるべき」と表面的にあるべき姿を示し、対して裏市は「でも、じつはこの社会ってこういう面もあるよね」と実態を暴く役割がある。そのため裏市を描くときは、学園よりも生活感を強調しています。肉は食べるし、裏市で死んでいく動物もいるだろうし、ゴミも出るし汚れも目につく、と。
▲第20話(第2期)のカット。ライオンたちで構成されるシシ組は、草食獣のルイをボスに据えて新生する。
第2期の新キャラクターといえば、第15話でピナ(CV:梶裕貴)も登場しましたが、演出面でのポイントはいかがでしょうか?
キム ピナは本能のまま動くキャラクター。「きょうやりたいことは、きょうやっちゃおう」みたいな自由な性格で、レゴシとは正反対ですよね。
松見 裏市のような、社会の裏側の話が増えてくると、登場キャラクターがおっさんばかりになるんですよ。イブキ(CV:楠大典)やフリー(CV:木村昴)みたいなシシ組とか、ゴウヒン(CV:大塚明夫)とか。だからやっぱりね、カッコいいイケメンが欲しくなりますよね(笑)。
なるほど、画面映え的に(笑)。
松見 画面的にも声の芝居的にも、ピナみたいなキャラクターがいることでコントラストが生まれますから。視聴者のみなさんも、ずっと裏市が続くとメリハリが少なく感じてしまうので……。きっと板垣先生も、「ピナみたいなキャラクターで清涼剤を」と考えたんじゃないかな(笑)。
ピナのようなキャラクターを動かすのは、演出としても楽しそうです。
松見 ドラマツルギー(演劇論)で語ると、ピナはトリックスターの立場。周囲を引っ掻き回して、真実を見せていく立ち位置だと僕はとらえています。「普通はこんなこと言わないよね」ってセリフをどんどん言ってくれるのは面白いですよね。
▲第19話(第2期)のカット。写真左はドールビッグホーンのピナ。同右は体毛をカットしてスッキリしたレゴシ。

食殺事件の先で、草食と肉食は共にどう暮らしていけるか

【注】ここから先は、TVシリーズ第2期のこれからの展開について書かれています。ネタバレを含むため、ご了承の上、先にお進みください。
レゴシとルイの状況も大きく変化し、食殺事件の真相が見えてきました。これからの展開もさらに盛り上がっていきます。おふたりが考える今後の見どころは?
キム 友情のとらえ方がふたつに分かれていくさまは、ぜひ観てもらいたいですね。

リズ(CV:白熊寛嗣)がテム(CV:大塚剛央)に対して抱いた友情と、レゴシがルイたちに抱いている友情。本作はあくまでレゴシの物語だけど、シリーズが終わってみればリズにとっての友情についても、みなさんが感じるものは出てくると思います。
松見 リズとレゴシは圧倒的な力の差があります。なにせヒグマとハイイロオオカミですから、ヒグマはやっぱり強いです。そんな相手に、レゴシがどうやって戦うのか、どう決着をつけるのか。食殺事件の犯人探しで始まる第2期ですが、それが判明してエンドではなく、解決の先にレゴシのさらなるドラマが待っています。

リズは肉を喰ったけど、同じ肉食でもレゴシは肉を喰わないで生きている。異なるふたつの生き方があるんです。なぜ生きているのか、肉食と草食がこの社会でどう暮らしていけるのか? レゴシが探し出すまで、見届けてもらえると嬉しいですね。
▲第19話(第2期)のカット。作品冒頭で起きた食殺事件の犯人は、ヒグマのリズであることが判明した。
松見真一(まつみ・しんいち)
東京都出身。アニメーション監督、演出家。これまで関わった作品に『紅の豚』『平成狸合戦ぽんぽこ』、『スチームボーイ』、『ThunderCats』、『宝石の国』など。
    キム・ヒョンテ
    韓国出身。制作プロデューサー。韓国のDR MOVIE、マッドハウス、プロダクション I.Gを経て2018年にオレンジに入社。これまで関わった作品は『ピアノの森』、『四畳半神話大系』、『PSYCHO-PASS劇場版』、『PSYCHO-PASS SS』、『ジョーカー・ゲーム』など。

      作品情報

      TVアニメ『BEASTARS』 第2期
      第1期:Netflixにて独占見放題配信中!
      第2期:フジテレビ「+Ultra」にて毎週水曜日24:55から放送中!
      ほか各局でも放送中!
      Netflixにて毎週木曜日独占見放題配信中!(日本先行)
      関西テレビ:毎週木曜日25:55〜
      東海テレビ:毎週土曜日25:45〜
      テレビ西日本:毎週水曜日25:55〜
      北海道文化放送:毎週日曜日25:10〜
      BSフジ:毎週水曜日24:00〜
      ※放送日時は予告なく変更の可能性があります。
      【スタッフ】
      原作:「BEASTARS」板垣巴留(秋田書店 少年チャンピオン・コミックス刊)
      監督:松見真一
      脚本:樋口七海
      キャラクターデザイン:大津直
      CGチーフディレクター:井野元英二
      美術監督:春日美波
      色彩設計:橋本賢
      撮影監督:蔡伯崙
      編集:植松淳一
      音楽:神前暁(MONACA)
      制作:オレンジ
      オープニングテーマ:YOASOBI「怪物」(ソニー・ミュージックエンタテインメント)
      エンディングテーマ:YOASOBI「優しい彗星」(ソニー・ミュージックエンタテインメント)
      公式Twitter
      https://twitter.com/bst_anime
      公式サイト
      https://bst-anime.com/

      ©板垣巴留(秋田書店)/BEASTARS製作委員会

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