自分を肯定できたのは、孤独な時間があったから――アーティスト・miletの強さ

重厚感と透明感、そして、圧倒的な存在感――ひと言では言い表すことのできない魅力的な歌声を持つアーティスト・miletの勢いが目覚ましい。

2018年から本格的に音楽活動を開始。2019年3月には、Toru(ONE OK ROCK)プロデュースによる『inside you』を引っさげてメジャーデビュー。ドラマ『スキャンダル専門弁護士 QUEEN』のOPテーマに起用され、人気音楽配信サイト11サイトで1位を記録した。

約1年のあいだに5枚のEPをリリースし、ドラマ『偽装不倫』主題歌の『us』や、アニメ『Fate/Grand Order –絶対魔獣戦線バビロニア-』EDテーマの『Prover』をはじめとして、表題曲のすべてがタイアップを果たしている。多くの人が、彼女の歌を一度は耳にしたことがあるだろう。

そんなmiletが生み出す楽曲のテーマのひとつは、“孤独”。それは彼女が生きていく中でずっと抱えてきたものであり、同時に「心強い、親友のような存在」だという。

インタビューでは、デビュー後の目まぐるしい活躍を振り返るとともに、今のmiletを形成させてきた感情の機微に触れた。

取材・文/阿部裕華

デビュー曲のお披露目は地上波。緊張のあまり腹痛に…

デビュー曲の『inside you』はドラマ『スキャンダル専門弁護士 QUEEN』の主題歌でした。デビューすぐのドラマタイアップ、どんなお気持ちでしたか?
緊張しましたね。お腹が痛くて眠れないくらい……。

電波に乗って、私の歌が初めて世間に届く。あんなにソワソワして緊張したことはないです。曲が流れたのはたった数十秒でしたけど、体が硬直して放心状態。テレビを観ているだけなのに、すごく汗をかいたのを覚えていますね。「本当に私の歌が流れた!」と思いました。
反響はかなり大きく、iTunesなど11の音楽配信サイトで初登場1位。「東京ドラマアウォード2019」の主題歌賞にも輝いていましたよね。
「ランキング1位」といろいろな場所で言っていただいても、実感はあまりなかったです。それでも、「この歌の声がよかった」と私を知らない方々から褒めていただくことが増えて、これがリリースするということなのか…と新鮮な気持ちでした(笑)。
印象に残っている言葉はありますか?
よく言われるのは「外国人が歌っていると思ったら、いきなり日本語で歌い始めた!」って(笑)。そう言われるとおもしろいなと思います。
ドラマをリアルタイムで観ながら、視聴者の方のコメントを追うこともあるのでしょうか?
今でも、タイアップさせていただいた番組はリアルタイムで観ています。視聴者のみなさんと一緒に楽しむことができますし、Twitterを見ていると「こんなところに注目してるんだ!」と気づくこともあって。歌っている人のこと、音楽のこと、いろいろつぶやかれているので、リアルタイムで見るのはおもしろいです。

歌の中なら、普段言えない「好き」も言える。『us』制作秘話

ドラマ『偽装不倫』の主題歌『us』は、それまでに発表した『inside you』、『Wonderland』から雰囲気がガラリと変わった楽曲でした。驚かれたリスナーの方も多かったのではないでしょうか。
「こういう方向に振り切ったか」と思った方は多いかもしれないですね。私も歌いながら、「この曲は受け入れてもらえるのかな…」と思いましたし。

ただ、それよりもドラマの歯車として、ひとつのパーツとして、どれだけ作品に貢献できるかという情熱が私の中にあって。誰に言われたわけでもなく、私が勝手に考えていただけなんですけど。
自分がどう見られるかより、ドラマへ貢献したい気持ちが強かったんですね。
私もデビューしたばかりで自分自身の決まった色を持っているわけではない。であれば、自分の色を増やしてもいいじゃないかと。色を増やしておくことで、私のまだ知らない魅力を引き出してもらえるかもしれない。

実際に歌ってみて、本当にそのとおりだったと感じています。自分がまったく考えてもいなかった方向で歌うのは、いいチャレンジでした。視野が広がったというか、自分の色を自分で広げていけたと思います。
とてもかわいらしいラブソングで、歌詞に共感した人も多かったように思います。あの歌詞は実体験やmiletさんご自身の恋愛観を書いたんですか?
ふふ…(照れ笑い)。いや、私はいわゆる恋愛体質ではなくて、ひとりでいたほうが楽だと思ってしまうタイプ。でも主題歌を担当するにあたって東村アキコさんの原作を全部読んだら、相手がいないのに恋している気持ちになって(笑)。小さい頃、恋していた気持ちのままでした。

そのモードに突入したら曲づくりは簡単で。本当に楽しかったです。
恋していないのに、恋している気持ちになれるってスゴい…!
私、好きな人ができても、玉砕覚悟のアタックはできないんですよ。でも、音楽だったらできる。普段は「好き」と言えないけど、歌の中だったら言える。それが音楽の素晴らしいところで。
最初の「好きだと言ってしまえば 何かが変わるかな」という歌詞は、とても印象的ですよね。
私の歌の場合、「大好き!」と直接的に伝えるのは違う気がして……。なので、オブラートに包む感じで「好きだと言ってしまえば」としました。「好き」と直接伝えるよりも、もっと「好き」の感情を詰め込んだ歌にしたくて。

とはいえ、私の恋愛気質だと限界があって、ラブリーというより男勝りになってしまう。なので、世間の大多数が抱く気持ちを代弁している先輩方、カーリー・レイ・ジェプセンやテイラー・スウィフトなどの曲をたくさん聴いて勉強しました。やっぱり恋愛していないとダメだと思いましたね(笑)。
歌い方で意識されたことはありましたか?
『us』の前に歌ってきた曲は、エアリーな声の出し方や空気感を意識していたんですけど、『us』はポップに爽やかにいきたかったので、サビでは思い切り声を張って、今にも体が前に出ちゃいそうなくらい勢いのある歌い方にしています。AメロやBメロは対照的に、普段歌っているような心地よさを感じるくらいの低音で歌いました。

感情があふれた、一発撮りの「THE HOME TAKE」

5月上旬に、YouTubeコンテンツ「THE HOME TAKE」で『us』を配信。公開から10日ほどで300万回再生を突破しています。「THE FIRST TAKE」シリーズは一発撮りということで、とても緊張しそうですが……。
とっても緊張しました(笑)。3月から始まる予定だったツアーがコロナ(新型コロナウイルス感染症)の影響で中止になってしまったため、人前で歌うこと自体、久しぶりで。

会えないファンの方たちとか、ツアーに来てくださるはずだった方たちのことを思い浮かべながら歌ったら、なんか……遠距離恋愛じゃないですけど、ずっと思っていた感情があふれそうになって。歌いながらちょっとだけ泣きそうになった。
原曲はとても爽やかなイメージなのに、「THE HOME TAKE」ではとても切なく聴こえました。
原曲はスピード感があって明るく聴こえますけど、切なく歌おうと思えばどこまでも切なくなる曲なんですよね。

歌詞の最後にある「Will you stay?」も、原曲は「ここにいてくれるよね!」と希望を込めた意味に聴こえるのに、しっとりアコースティックで歌うと「もうここにはいてくれないよね…」という意味に聴こえる。歌いながら本当に切なくなりました。

『us』はとても大切な歌なので、私の気持ちがこもっていた部分もありました。
特別な曲だからこそ、さらに想いがあふれたんですね。
自分の新しい音楽性を見つけることができましたし、『偽装不倫』に携われたことも嬉しかった。主演の杏さんとも仲良くなることができて。今でも連絡をよく取らせていただくんですけど、大先輩なのにこっち側に降りて、いろんなお話をしてくだる方。フレンドリーで、励ましてくださって、もう杏さんのことを愛してるんですよね、私は。

『us』を歌うと、杏さんと宮沢氷魚さんのお芝居が最高だったことや、あのとき出会えたかけがえのない人たちを思い出して胸が熱くなります。いろんなことを思い出した「THE HOME TAKE」でした。

FGOは大好きな作品。ピッタリな曲をつくる自信はあった

最新EPの『Prover / Tell me』はアニメ『Fate/Grand Order –絶対魔獣戦線バビロニア-』(以下、FGO)の主題歌ですが、miletさんはもともとFGOのゲームもお好きとのこと。好きなところを教えてください!
私、好きになる作品のほとんどが魔法を使える系か、モンスターや化けものが出てくる系で。FGOはピッタリだったんです。敵のモンスターがたくさん出てくるのが本当にツボで、刺さりまくっていました。
好きな作品のタイアップが決まって、いかがでしたか?
鳥肌が立ちました(笑)。嬉しさよりも「えぇぇ、私が? 大丈夫なの?」という気持ちが大きかったです。Fateシリーズ自体、歴史の長い作品で、ファンもたくさんいて、そんな作品で私みたいな新人が歌わせていただけるなんて本当に恐縮で。

でも、大好きな作品だったので、絶対にピッタリな曲ができる自信だけはあって、不安とやる気に満ちていました(笑)。これを機にFateシリーズ作品を観返したり、原作のゲームもプレイしたりしました。
『Prover』の曲づくりにあたって、アプリゲーム版の第一部主題歌である、坂本真綾さんの『色彩』を参考にされたと伺いました。
私自身、坂本真綾さんの大ファンなのですが、『色彩』はFGOの世界そのものだと思っています。聴いた瞬間、私の中でふわっとFGOが思い浮かぶ曲。

真綾さんが『色彩』について「(メインヒロインの)マシュ(・キリエライト)の目線に立った歌」とおっしゃっていて。「すべての命に終わりがあるのに どうして人は怯え 嘆くのだろう」という歌詞は本当にそのとおり、人間の感情を少しずつ知っていくマシュの視点から歌われた曲だと感じます。対して、『Prover』は藤丸(立香)の視点かもしれません。
主人公であり、プレイヤーの分身でもある藤丸の視点で歌詞を書かれたんですね。
藤丸だけでなく、人間誰しもが当てはまる曲でもあって。“人間賛歌”として歌いたかった。人間の立場から、FGOの世界を俯瞰した目線で曲をつくりたかった。

人間側の目線で歌うからこそ、サーヴァントやFGOに登場するキャラクターの気持ちも引き立つのではないか。そして、人とサーヴァントの差が明らかになるのではないか。そういったFGOの持つ切なさにつながるように、歌詞を書きました。『色彩』から引き出されたことはとても多かったです。
EDで『Prover』を聴いたときは鳥肌が立ったのですが、Episode 16のEDで使用された『Tell me』もとても感動して……。イラストと相まって最高でした。
『Tell me』はデビュー前から原型があった曲です。FGOで使っていただくことになって、世界観に合わせて歌詞を改めて書かせていただいて。“鎮魂歌”のようなイメージですね。

MVのコメント欄に「R.I.P. シドゥリ」と書かれていたのを見て、そこまでシドゥリさんの歌として認識していただいたことが嬉しかったです。デビュー前からあった歌が大好きな作品に組み込まれたのも、予想していなかった喜びでした。
毎週リアルタイムでFGOを視聴しながら、愛があふれるツイートをしていたmiletさん。改めてFGOのアニメを振り返って、どんな気持ちですか?
声優さんの演技が素晴らしすぎました。私、いちばん好きな声優さんが小林ゆうさんで……。
FGOではキングゥを演じていましたね。
夢の共演というか、いちばん好きな方が出ている作品に携わらせていただけるなんて思ってもいなかったですし。しかも、Twitterで小林さんが「『Tell me』よかった」と言ってくださって……。
それは嬉しいですね!
本当に嬉しくて思わず叫んでしまいました(笑)。感動だらけでしたね。

憧れの人たちとのレコーディングは、夢のような時間だった

6月3日発売の1stフルアルバム『eyes』には、MAN WITH A MISSION(以下、マンウィズ)のKamikaze Boyさんが楽曲提供した『Grab the air』が収録されています。マンウィズさんとは昨年『Reiwa feat. milet』でもコラボされていますよね。楽曲の印象を教えていただけますか?
それまでマンウィズさんの楽曲は、ゴリゴリのバンドサウンドなイメージがあったんです。ベースラインは低音でガンガン響いて、ギターは音圧を感じるほどかき鳴らしていて、歌声もとにかく前に前に来るような勢いがあって。

だから、『Reiwa feat. milet』を聴いたとき、こんなに壮大で、強さの中にも優しさがある曲もつくることができるんだと。あの壮大さはほかのアーティストにはない素晴らしいもので、改めてマンウィズさんの音楽性の幅広さを目の当たりにしました。
今回、提供された『Grab the air』は、『Reiwa feat. milet』とまた違う雰囲気ですよね。
「こう来たか!」とすごくビックリしました。『inside you』もオルタナっぽいバンドサウンドだったけど、ここまでがっつり生っぽい音で歌うことはあまりなかったので。ポップスばかり歌っていますけど、じつはすごく生楽器が好きなので、頭から爪先まで全身に響き渡るような心地よさや快感がありました。

Kamikazeさんは信頼感ある力強さの中に、儚さや切なさが組み込まれたメロディを生み出せるのが素晴らしい。感情が揺さぶられて、何度でも聴きたくなってしまう。エモーショナルな心地よさがあります。
『Grab the air』は初めてmiletさんが楽曲提供を受けた楽曲でもありますよね。アレンジとエンジニアリングには、ずっとお好きだったというBOOM BOOM SATELLITESの中野雅之さんが参加されています。
憧れの方たちに囲まれてプレッシャーがとんでもなかったけど(笑)、ひと言で言うと夢のような現場でした。大好きな人につくっていただいた歌を、大好きな人たちの前で歌えることが最高で最高で……。ずっとこのレコーディングが続けばいいなと思いました。
印象に残っているできごとはありますか?
普段は地声とファルセットを組み合わせて歌っていますが、『Grab the air』はKamikazeさんの力強いサウンドに合わせて、地声でガツンとぶつけていくように歌ったほうがいいと思っていたんです。

そしたら、レコーディングのときに、中野さんが「ファルセットが妖艶だ」と言ってくださって。
妖艶、ですか。
「ファルセットがなめらかで、女性らしさが出るから素敵」と。今まで自分の歌で妖艶さを追求することはなかったし、妖艶さに着目していただくことも初めてで、男性ならではの着眼点なのかなと思いました。自分で曲をつくっていると自分の声の魅力に気づけないけど、そこを中野さんがカバーしてくださったんです。

「ファルセットを使っていこう」と言っていただけたおかげで、本当に地声で歌うより柔らかくて伸びのある歌ができあがって、さすがだなと。私ひとりだったら地声を貫き通していたので、柔軟に進めていくことは、とても勉強になりました。

初のフルアルバム『eyes』に込めた、ふたつの想い

アルバム『eyes』には新録曲が8曲入っていますが、とくに思い入れの強い曲はありますか?
『Parachute』ですかね。デビュー前、曲づくりやセッションを始めたてのときから温めていた曲で、収録曲の中でもいちばん古い曲なんです。最初のショーケースライブのときから歌っていた曲を、記念すべき1stフルアルバムの中に入れられたことが本当に感慨深い。

『Parachute』を聴くと、デビュー前の本当にまっさらな感覚が一気に蘇ってくるんですよ。デビュー前にタイムスリップしたような気持ちにさせてくれる曲です。
最初のライブで歌われたということは、ファンの方にとっても待望感がありそうですね。
「やっと音源を聴くことができる」と嬉しい声が届きましたね。ライブでしか歌ってこなかったのに、覚えていてくれる方がたくさんいて、感動したし嬉しいです。
アルバムタイトルの『eyes』には、どんな想いが込められているのでしょうか?
ふたつあって、ひとつは「いろんな目で楽しめるアルバム」という意味です。

18曲というたっぷりなボリュームの中には、これまでリリースした5枚のEPの楽曲も入っていますが、どれも違う世界観でつくっていて、バラバラな音色や歌い方になっています。私が今、音楽で表現できるすべての人格がこのアルバムには詰まっている。

歌詞は心で楽しめるし、私がイラストで参加したアルバムのアートワークも目で楽しめる。私のことをどの視点からでも楽しめるアルバムになっていると思います。
ふたつめはいかがでしょうか?
「みんなの目の温(ぬく)もりでできたアルバム」という想いを込めています。デビュー前は誰の目もなく歌をつくっていましたが、デビュー後はいろんな場所で歌ってお客さんの視線を浴びる経験をしました。その視線の温かさにとっても支えられた1年だったので、このタイトルにしました。

昔からずっと、人の気持ちや見た目に違和感しかなかった

続いて、miletさんご自身のお話をお伺いしていきます。幼少期のmiletさんはどんな子どもでしたか?
小学生のときは、おしゃべりな子ではなく、細かい作業をするのが好きでした。ずっと同じ柄の絵を描いているとか……今思うと気持ち悪いな(笑)。友達とも狭く深く関わるタイプでしたね。

あと、自分を大衆の中のひとりと思うのがすごく嫌で。自分もみんなも1人ひとりまったく別の人間、という意識がありました。今もですけど、友達も含めて人間を“ひとつの生命体”として見ているというか。
“人間”として見てはいない、ということですか?
“人間というフォルムをした生きもの”として見ています。

だからなのか、人の気持ちや見た目に違和感しかなくて、とても気持ち悪かった。「何でみんな同じタイミングで笑うんだろう」とか「人間は何で足が2本あって、目や眉毛がこんな位置にあるんだろう」とか、昔からずっと感じていました。

あと、美の観点もほかの人と違っていて。昔はどうだったか覚えてないんですけど、今は“かわいい”という感情がない。たとえば、子猫を見るとみんなは「かわいい」と言うけど、私は「生きてるな」って。同時に「こいつは強いのか、弱いのか」とも思う。自分でも残念な気持ちになります(苦笑)。
強いか、弱いか?
子猫なら生まれてすぐだから、「弱いな」という目線で見てしまうんです。

そもそも生きていること、命が生まれていること自体、すごく美しいと思っています。そのうえで「かわいい」と言うのはナンセンス!という気持ちがあって。未完の美といいますか、完成されたものより、完成される過程にあるものや完成に辿り着けないもの、そして朽ちていくもののほうが美しさは満潮である、と。

その感情は昔からずっとあるので、そこらへんがみんなとズレていたのかな……。
そういうズレみたいなものを友達に話すことはありましたか?
みんなと私の考えが違うとは思っていなかったので、わざわざ話すこともなかったですね。みんなが話の中で笑う箇所や、気持ち悪さを感じる箇所は違うなと頻繁に感じていたけど、生活に支障がなかったので気にしてなかったです。
他の人との違いに気づいたのはいつ頃でしょうか?
大人になるにつれてというのと、カナダへ留学したことで、周りの人との違いに気づき始めました。自分がおかしいとはまったく思っていなかったけど、私だからこそ思いつくことがあるんだな、人と違う考え方を持っているんだなと思い始めたのは、留学の経験からです。
カナダで過ごした時間は、自分自身を振り返る貴重な経験だったんですね。
私は、ものごとを1歩引いて見ている冷めた人間だったんですけど……。初めての海外で言葉が通じず毎日打ちのめされて、「俯瞰してる場合じゃない! 地に足つけて生きなさい!」と自分に思うようになりました。

そこから当たって砕ける生活ができるようになった。カナダに行かなければ「英語ができなくても、生きていければいいや」みたいな考え方をし続けていたと思う。

それに、カナダにいたときは人生でいちばん引きこもっていて、孤独な時間が多かったので、自分とすごく向き合えたのもあります。それまでは自分のことを肯定して生きてこなかったけど、カナダでは周りに誰もいない、慰めてくれる人が自分自身しかいなかったこともあって。
孤独な時間が自分と向き合うキッカケになった。
自分を肯定できるようになったのは、孤独な時間があったおかげですね。

今の環境を活かして幸せになるにはどうすればいいのかを、限られた時間の中で考えました。結果、もっと環境の波に乗っていこうと。大衆が一斉に笑う波を嫌っていたけど、この波に乗ってみよう、みたいな。便乗することの得やメリットをすごく勉強しましたね。
その経験が、曲づくりに影響を与えていると感じますか?
私の音楽のテーマのひとつに“孤独”があって。みんなの中の“孤独”は怖さや暗さ、切なさだと思うんですけど、私の中の“孤独”は心強くて、親友とか自分の帰る家みたいな感じなんです。

このイメージは、カナダでの経験や抱えてきた違和感から生まれてきたのかもしれない。だからこそ、違和感に気づけてよかったと思います。

「歌おう」と思わせてくれた、友達からのひと言

小さい頃からフルートを習っていたそうですが、歌に触れるようになったのはいつ頃ですか?
歌を聴き始めたのは、お兄ちゃんのiPodをもらった小学校低学年のとき。シガー・ロスの曲を聴いていました。それまではクラシックが好きだったので、声のある曲といったらオペラくらいしか聴いてこなかったんです。
自分で歌い始めたのも同じくらいのときでしょうか。
歌を自分で歌うようになったのは、もっと後です。大学に入りたてのときにアコースティックギターを買って、せっかくだし弾き語りできたら楽しいかなと少しずつ練習するようになりました。

そのタイミングで友達が家に遊びに来てくれて、「何か歌ってよ」と言われたので歌ってみたら、「miletちゃんの歌声ですごく気持ちが軽くなった」と感動してくれて。ちゃんと歌おうと思ったのは、そのときからですね。
そのとき、初めて人前で歌ったんですか…?
合唱コンクールとかで歌っていましたけど、それくらい。人前で歌うのは恥ずかしくてダメでした。カラオケもときどき行ったけど、大人数だと歌えなかった(笑)。
では、友達の前で弾き語りをしたときも、緊張しませんでしたか?
緊張はしましたけど、それよりも「聴いてもらいたい」という感情が強かったのかもしれないです。

初めて自分の感情に気づく。曲づくりは鏡を見ているよう

曲づくりをするようになったのはいつ頃ですか?
歌い始めたのと同じくらいだったと思います。本格的に曲づくりを始めたのは、2年前ですね。
これまで曲づくりで大変だと思うことはありましたか?
うーーん………(数秒考え込んで)あんまりないですね。
それはスゴい…! かなり短いスパンで多くの楽曲をリリースされているので、素人目からすると「何でそんなに曲がたくさんつくれるんだろう…」と思ってしまいます。
私の場合、最初の曲づくりの影響が大きいかもしれません。

初めての作曲経験が、セッションという即興でつくるスタイルでした。音楽プロデューサーのRyosuke "Dr.R" Sakaiさんとの現場だったんですけど、海外帰りの人なのでめちゃくちゃ仕事が速くて。トラックをつくるのも本当に速い。
Sakaiさんとは『Tell me』や『Drown』など数多くの楽曲を一緒に手掛けていますよね。
素人丸出しの、右も左もわからない状態でスタジオへ行ったら、いきなり「どういう曲つくりたい?」と聞かれて。よくわかっていないまま、「暗い中で光がさしてくる系の曲」とかなりアバウトに答えたら、とても速いスピードで現場が動いたんですよ。

それで、何でそんなに曲づくりが速いんだろうと思っていたら、「海外ではみんな速いよ」と。そこから素人のくせにちょっとした対抗心を持って、「私も速くつくれるようになろう!」って思ったんです(笑)。
今でも曲づくりはセッションのスタイルなんですか?
セッションでつくるスタイルが多いですね。セッションだと、そのときに感じているフレッシュで正直な気持ちが出ます。体調や環境、直近で起こったできごと、それらで感じている“今”の気持ちをセッションに乗せられるのは、感情を昇華させるひとつの方法でもあると思っていて。

たとえば恋をしていたら、恋している気持ちがそのまま言葉としてあふれ出してくる。私はないんですけど(笑)。

そのぶん嘘がつけないので、逆に怖いところはあります。ありのままの自分だからこそ、いろんな面が見えてくる。セッションしていると「今、私、こんな気持ちだったんだ」と初めて気づかされることもあって、鏡を見ているような作業です。
楽曲制作の参考に芸術に触れたり人間観察したり、インプットをするアーティストの方もいますけど、miletさんはいかがですか?
気になっているものをインプットはしますけど、音楽のためにすることはないかもしれません。

ただ、これまで見てきたものや聴いてきたもので感じた気持ちが、時間が経っても残っていたりして、その感情が私の歌を引き出してくれていることはあります。過去のインプットが何かしらには活きていますよね。

一定の距離感は必要。miletがすべてを明かさない理由

先日、Twitterでファンの方への想いをツイートされているのを見て、とても感動しました。miletさん自身も、応援してくれる人たちの存在を励みに感じていますか?
つねに感じていますね……。今はTwitterやInstagramなど、みなさんとつながれるツールがあるので嬉しいです。
ファンの方のコメントとかも見るんですか?
見ますよ。いつもコメントしてくれる人がいきなり何も言わなくなったら、「大丈夫かな、あの子」とプロフィールページを見に行くこともあります。それで「あ、今、忙しいんだな…」とわかってホッとすることも(笑)。

それくらい身近な人たちであるけれど、距離感も少なからずあったほうがいいと思っていて。
それはなぜでしょう?
リスナーのみなさんが私の曲を「自分の曲」と思えるために、距離感は必要だと思うんです。私のつくる歌の本当の意味は、つくっている私本人しかわからない。私の個性を反映させたものだからこそ、誰にも理解してもらえないものです。

だけど、歌を聴いている方たちは、その人なりに音楽で感じた気持ちを変換していくじゃないですか。そうやって変換される音楽でいられるのは、距離感があるからだと思うんです。もし、私がすべてをさらけ出して生きている人間だったら、「私の歌」としてしか届かないから。
距離があるからこそ、自由に解釈することができる。
距離が近すぎないからこそ、伝えられるものがあって、わかり合えないものがある。そのわかり合えない感情は、生きていく中でとても大切です。“近すぎず遠すぎず”が、すごくいいなと思います。

新たな一面が見られるかも? 「一問一答」コーナー

サイ・コールマンの『WHY TRY TO CHANGE ME NOW』。「どうして君は私を変えたいの? 変えようとするの?」と聞くんだけど、自分の中では変わりたくないという答えが出ている曲です。

何か変化すべきことが起きると、この曲を聴いて、「私は私のままでいい」と再認識させられる。私そのものをすごく肯定してくれているような気がします。
森鷗外の「日の光を借りて照る、大いなる月であるよりも、 自ら光を放つ小さな灯火でありなさい」。何かに照らされるより、自分が何かを照らせるような存在になりなさい、という言葉。

こうして人に向けて歌う立場になったので、自分自身も誰かを支えられる人間にならねば、と思える。教訓というか、すごく大切にしている言葉です。
いしいしんじさんの『麦ふみクーツェ』。もう50回くらいは読んでいるかもしれない(笑)。本に出てくる情景が、浅いノイズのかかったような映像として私の頭の中に再生されます。読んでいなくても、持ち歩いてお守り代わりにしているくらい好きな本です。

オーケストラが出てくる音楽的な要素も好きなのですが、何よりいしいしんじさんの優しい言葉遣い、ひらがなの使い方が好きで。漢字やカタカナで書けばいいところを、あえてひらがなで書いて、柔らかさやなめらかさを表現されているのが素晴らしい。私もインスパイアされて、柔らかさを持った言葉を書きたいと思いました。
えっと……大きいテーブルがあります。そこに、馬刺しがあって、すき焼きがあって、私の好きな近所の人がつくる餃子があって、お母さんがつくってくれる豚汁があって……あとはファンタ! そして、バタークリームケーキがあって、終わり!(笑)
ええぇぇぇ……(考え中)ちょっと待ってくださいね。
ゆっくり考えてください!
うーーーん(頭に指を当てながら、さらに悩む…)。……あっ、指が長い! あと、よく言われるのは眉毛かな。……そんな感じです(笑)。
動物に話せるようになってもらう!
アルバムのリリースに向けて、1日1曲、収録曲の弾き語りに挑戦しています。ピアノもギターもそんなにできないのですが、宣言したからにはやらなきゃと。すごく大変です(笑)。
でも、改めて自分の曲を振り返ることができて。「この曲こうやってデモつくったな〜」と感慨深くなります。デモを制作しているときは、誰にも知られていない曲をつくるから、いつもデビュー前みたいな気持ちになるんですよ。私だけの曲、みたいな気持ちがアーティストではなかった自分を思い出させる。その気持ちを毎日感じられるから、とてもおもしろく楽しい挑戦です。
milet(ミレイ)
生年月日、出身、血液型は非公開。思春期をカナダで過ごし、現在は東京都在住。2018年に本格的に音楽活動を開始。2019年3月、ONE OK ROCKのToruプロデュースのもとで制作された1st EP『inside you EP』をリリースし、メジャーデビュー。ドラマ『スキャンダル専門弁護士 QUEEN』のOPテーマに抜擢される。以降、ドラマ『偽装不倫』、アニメ『ヴィンランド・サガ』、『Fate/Grand Order –絶対魔獣戦線バビロニア-』など数多くのタイアップを果たし話題となる。2020年6月には1stフルアルバム『eyes』を発売。

作品情報

1stフルアルバム『eyes』
6月3日(水)リリース!

左から初回生産限定盤A、初回生産限定盤B、通常盤。

初回生産限定盤A [CD+Blu-ray]
¥4,500(税抜)
初回生産限定盤B [CD+DVD]
¥3,500(税抜)
通常盤 [CD]
¥2,900(税抜)

サイン入りポスタープレゼント

今回インタビューをさせていただいた、miletさんのサイン入りポスターを抽選で1名様にプレゼント。ご希望の方は、下記の項目をご確認いただいたうえ、奮ってご応募ください。

応募方法
ライブドアニュースのTwitterアカウント(@livedoornews)をフォロー&以下のツイートをRT
受付期間
2020年6月5日(金)18:00〜6月11日(木)18:00
当選者確定フロー
  • 当選者発表日/6月12日(金)
  • 当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、個人情報の安全な受け渡しのため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
  • 当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから6月12日(金)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただき6月15日(月)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。
キャンペーン規約
  • 複数回応募されても当選確率は上がりません。
  • 賞品発送先は日本国内のみです。
  • 応募にかかる通信料・通話料などはお客様のご負担となります。
  • 応募内容、方法に虚偽の記載がある場合や、当方が不正と判断した場合、応募資格を取り消します。
  • 当選結果に関してのお問い合わせにはお答えすることができません。
  • 賞品の指定はできません。
  • 賞品の不具合・破損に関する責任は一切負いかねます。
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