「作りたいものを作ろう」あおきえい監督×アーティスト・Souの座標が交わるとき

『放浪息子』や『Fate/Zero』などで知られるあおきえい監督の最新作で、舞城王太郎がシリーズ構成と脚本を手がけるオリジナルアニメ『ID:INVADED イド:インヴェイデッド』が放送中だ。

OPテーマ『ミスターフィクサー』を提供したのは、若い世代から支持されるアーティスト・Sou。15歳からニコニコ動画で歌い手として活動を始め、蝶々Pの『心做し(こころなし)』カヴァー動画がYouTubeで再生回数1300万回を記録。『ミスターフィクサー』は中国の大手配信サイトで邦楽チャート4週連続1位を獲得するなど、大きな注目を集めている。

ライブドアニュースでは、あおき監督とSouの対談が実現。職種は異なれど、プロフェッショナル同士、共通するところは多いようだ。

取材・文/佐久間裕子 制作/アンファン
あおきえい
1月20日生まれ。東京都出身。アニメーション監督、演出家。2004年に『GIRLSブラボー』で初めてTVアニメの監督を担当。アニメーション制作会社AIC、フリーを経て、現在は自らも取締役を務めるアニメーションスタジオ・TROYCA所属。主な監督作品に、『空の境界』シリーズ、『放浪息子』、『Fate/Zero』、『アルドノア・ゼロ』、『Re:CREATORS』ほか。
Sou
YouTubeチャンネル登録者75万人、Twitterフォロワー数43万人など、インターネットの世界を原点に堂々たる存在感と才能を飛躍させるボーカリスト。ネットを活用する現代的なスタンスで、2019年には初の自作曲『愚者のパレード』を公開し、240万再生を突破。動画という形で次々に音楽を発表、持ち前の音感の良さと中性的な質感を持った声による表情豊かな歌唱スタイルを備えており、セルフプロデュースによる投稿を繰り返すことでその勢いは増すばかりだ。7月31日発売の2nd Album『深層から』はオリコンデイリー3位を獲得し、初の東名阪ワンマンツアー『深層から見た景色』を全公演をソールドアウトさせた。2020年1月より放送中のTVアニメ『ID:INVADED イド:インヴェイデッド』(TOKYO MXほか)のオープニングテーマ『ミスターフィクサー』が好評配信中。

若い年代に訴求できるパートナーとしてSouくんの名前が出た

本作でお仕事をする前に、お互いにどんな印象を抱いていましたか?
あおき 『ID:INVADED イド:インヴェイデッド』のOPテーマをお願いする前にSouくんの曲をいくつか聴いたんですが、僕ももう40後半なので(笑)、いい意味ですごく若いって感じがしましたね。フレッシュで勢いがあって、なんていうのかな…少しセンチメントな感じもして。声も独特ですよね。甘い声で、すごくいいなって思いました。
Sou ありがとうございます。僕は“アニメを観てそうで、わりと観てない”タイプなんですけど(笑)、『Fate/Zero』をTV放送時から観ていて、今回のお話をいただいてから再び観ました。その作品を作った方ということもあり、僕の印象としては“大御所”といいますか…。「僕でいいんですか…?」みたいなところがあって、きょうも緊張しながら来ました(笑)。ご一緒できてすごく光栄です。
おふたりが実際に会ったのはいつだったんですか?
あおき 初めてお会いしたのが、年末に秋葉原で開催した『ID:INVADED イド:インヴェイデッド』のイベントだったんです。そのときに最新アルバム『深層から』をいただいて、仕事中によく聴きました。

きょう、曲名をメモしてきたんですよ…『心做し』、『波に名前をつけること、僕らの呼吸に終わりがあること。』、『エリカ』が好きですね。とくに『心做し』がすごく印象に残ってるんですよね。途中、サビの部分で泣くような感じになるじゃないですか。あれがグッとくる感じがあって、歌詞も調べたしりました。
Sou すごくうれしいです! 『心做し』は自分でもひとつのターニングポイントになった曲で、気合いが入っていたので、よかったです。僕もすごく好きな曲です。
『ID:INVADED イド:インヴェイデッド』でSouさんに依頼したきっかけは?
あおき プロデューサーの須田(泰雄)さんから、Souくんの名前が出たんです。今回は画の進行が早かったので、画に合わせて、OP、ED、劇伴をどんな音にしたらいいか考えていきました。劇中はかなり大人っぽいムードがあるので、OPはもう少し幅広い年齢層、若い世代に訴求できる方がパートナーになってくれたらいいなという話になって、「Souくん、よくないですか?」と。
Souさんは、オファーを受けたときの心境は?
Sou 僕は今までタイアップをやったことがなかったんです。アニメのOPを担当したこともないし、作品のために曲を書くことが初挑戦でした。なので、正直、「僕でいいのかな…」って気持ちがすごくあって。でも、最初にいただいた1シーンのビジュアルや話の概要を見たら、めちゃくちゃ好きなタイプのアニメだったんですね。それで、「ぜひやらせてください!」と。

深夜アニメのムーブメントとは真逆のチャレンジだった

あおき監督が『ID:INVADED イド:インヴェイデッド』の題材と出会ったのはいつ頃だったのでしょうか。
あおき もう8年くらい前になります。もともと、プロデューサーの須田さんとふたりで「オリジナルで何か作りたい」と話していました。ダークヒーローのような主人公を描きたいとか、なんとなくのイメージを。その後、紆余曲折があり、舞城王太郎さんにコンタクトを取って、そこから本格的に立ち上がっていきました。
舞城さんと組もうと思ったきっかけは?
あおき 当初、何人かのライターさんとコンタクトを取ったんですが、あまりうまくいかなくて。須田さんが舞城さんの著作が好きで、「舞城さんはどうか?」というアイディアが出ました。僕もまったく異論はなかったのですが、正直…引き受けていただけるとは思っていなかったんですよね(笑)。面識もなかったですし。
舞城さんに依頼する段階で、世界観やキャラクター設定は決まっていたのですか?
あおき 決まっていたのは、ダークヒーローで、「主人公感はこんな感じで…」ということくらい。一時期、『ジョジョの奇妙な冒険』みたいに能力バトルができたらという話が出たこともありましたが、その段階ではふわっとしていましたね。名探偵の要素や“イド”という殺意の世界などは、舞城さんが持ち込んできたアイディアでした。ふわっとしたオーダーを形にしてくれたのは舞城さんです。
現在の形になるまでに、舞城さんとどんなやりとりがあったのでしょうか。
あおき アニメーションって、まず「シリーズ構成」といってラストまでプロットを作るんです。「この話数でこういうことが起きますよ」と想定しておいて、それに添ってシナリオを進める。でも舞城さんの場合は、プロットを作らずに、いきなりシナリオでいきたいと。だからザックリとした構成もなく書き出して、最終回まで到達したんです。

それはそれですごくおもしろかったけど、終わりを決めないで書いたので、とっちらかってしまった部分もありました。そこで、「もう1周しましょう」ということになり、練り直したのが今のシナリオです。最初のシナリオは事件ベースで、キャラクターの掘り下げが足りない気もしたんです。2周目はとくにそういう部分を詰めていって、その過程で主人公像も決まっていきました。
本作であおき監督がとくに描きたかったのは?
あおき 僕は、主人公・鳴瓢秋人のキャラクターが描きたかったんです。アニメの後半は、作品全体が鳴瓢の物語になっていきます。

3話の後半に、冬川という連続殺人鬼と鳴瓢がボートで対決するシーンがあるんですが、そういう場面はとくにうまくやりたいと思いながら作りました。あの場面、脚本もすごくおもしろかったし。
作り手側がとくにチャレンジしたポイントはどこでしょうか。
あおき 今の深夜アニメを観ているとわかるんですが、あまり考えなくても観られるものが、大枠のムーブメントとしてあるんですよね。夜中に放送されるということもあって。原作が4コママンガだったり、小説でもちょっとライトな“ファンタジー系”だったり。ストーリーがあまり難しくなく、キャラクターが親しみやすくて、わりと軽いテイストのもの。

そういう企画がいっぱいあるなかで、『ID:INVADED イド:インヴェイデッド』がやっていることは真逆なんです。難しいし、続けて観ていないと置いていかれるし、キャラクターにしても本堂町(小春)が唯一かわいいくらいで、基本おじさんがメインキャラクターなので(笑)。
たしかに深夜アニメの本流からは真逆ですね。
あおき そういう意味では最初から、「やりたいことをやろう」という話で進んでいたんです。キャラクターデザインの碇谷 敦さんにしてもそうだったんですが、脚本を最後まで読んだ方はみなさん、「おもしろかった!」と賛同してくださって。…よくみなさん、あの脚本を読んで理解できるなと思いつつ(笑)。
Sou 僕も脚本をいただいて事前に読んだんですけど、正直、全部は理解できなかったんですよ。でも、だからこそ今アニメを楽しみに観ているというか。脚本ではちょっと複雑そうな感じを受けても、画と音が入って、キャラクターたちがいて、すごくのめり込む作品になっていて毎週楽しいです。
SouさんのTwitterで、毎週リアルタイムで投稿されていますよね。
Sou はい。僕も後半、さっきおっしゃっていた鳴瓢の内側の話になってくるあたりをアニメで観るのが待ち遠しいです。たぶん、僕が脚本を読んで解釈した感じとはまた違うのかなというのもあって、一視聴者として楽しみです。
あおき ありがとうございます。
名探偵・酒井戸/鳴瓢秋人役の津田健次郎さんも、インタビューで、オーディションのセリフとキャラクター資料を見ただけで、「出演したい」と思ったとおっしゃっていました。
あおき とくに役者さんはある種の言葉のプロなので、何かを敏感に感じ取ったんでしょうね。
画づくりに関しては、苦労した点などはありましたか?
あおき 犯人の深層心理“殺意の世界(イド)”の描写が特殊で、原則、エピソードごとに違う世界観が描かれるので、具体的にどう表現するといいのかなと、毎回毎回違う悩みがありました。

たとえば1〜2話の“JIGSAWED/バラバラの世界”は、シナリオに「バラバラ」と書いてあるんですが、「どうバラバラなの…?」「(視聴者からして)どのくらいバラバラだったら見やすいのかな…」とか、ビジュアルの観やすさも含めて悩みました。

本当にいろんなものがバラバラだったら、画にすごく手間がかかるし、画面も観づらくなると思うんです。もしあまりにもランダムに浮かんでいたら、画面のどこを観ていいかわからないですし…。つまり、「物語としては“バラバラ”だけど、ここに注目してください」と、演出上ちゃんと伝わるバラバラ加減じゃないと、物語として成立しなくなってしまうんですね。そういう落としどころを探るのが、けっこう大変でした。

自分の声から始めたい。『ミスターフィクサー』制作秘話

『ミスターフィクサー』の制作過程もうかがいたいのですが、やはり自分の曲を作るときとは違いましたか?
Sou まるっきり違いますね。僕は曲づくりのとき、わりとあとから世界観を決めるんです。まず、自分が聴いていて気持ちいい音、自分が好きなメロディを重視して曲を作っていって、メロディを聴き直して「これってこういう感じの曲かな」みたいに世界観を決めたり、あとから歌詞を置くんです。今回は180度違う作り方だったので、チャレンジでしたね。
アニメの制作サイドから、「こういう曲を」といったリクエストはあったのでしょうか。
Sou 「こういう歌詞を入れてください」とか「こういうテンポで」という細かいリクエストは一切なくて、作りやすかったですね。
あおき 僕からオーダーを出した記憶はなくて、デモ音源があがってきて「問題ないと思います」と言いました。ただ、デモを聴いた印象と、歌詞がフィックスされて完成した曲を聴いた印象は全然違いました。完成版は、「ああ、すごくいいじゃん!」と。

メロディもキャッチーだし、すごく訴求力があるのはデモのときにわかったんです。ただ、作品として『ID:INVADED イド:インヴェイデッド』のOPになったときに、どんなイメージになるのか、デモでは正直わからなくて。なので、そこは完成を待とうと思いました。
完成までに、「ここをこうしてほしい」などのお願いはしなかったんですか?
あおき 僕はそこまで音楽にくわしいわけではないので、余計なこと言って「じゃあ…」って大人の忖度が始まるのもイヤで(笑)。Souくんがやりやすいように作ってもらうほうがいいと思いました。
Sou たしかに、デモから変わった部分がたくさんあるんです。じつは「変えすぎたかな…?」みたいな部分もあったりとか(笑)。デモは「こんな感じでいく」って提出したのに、別曲になっちゃったかなって…。

曲は神谷志龍さんと一緒に作ったんですが、作業中に、たとえば「このアニメにはこういうピアノが合うんじゃない?」とか、「ここのメロディはもうちょっとたたみかけるほうが、OPとしてはインパクトがあるかもしれない」とアイディアを出しているうちに、どんどん色が足されていった感じです。
曲作りや歌詞で大事にしたことや、大変だったことは?
Sou 曲の構成として、いきなり歌から始めたいという気持ちがありました。OPって作品の最初を飾るものじゃないですか。もちろんイントロで始まるのもカッコいいと思うんですが、第一声が自分の声から始まったら引き込まれるかなと思って、その曲構成はガッチリ決まっていたんです。

歌詞はすごく苦労しました。果たしてアニメの世界観に合っているのか、ずっと考えながら作っていました。サビは「単語を並べたい」という気持ちがあって、そのあたりは頭のなかで固まっていたんです。

それと、曲を聴いてアニメのシーンが頭に浮かぶ曲にしたいと思ったので、たとえば鳴瓢が収容された部屋で天井を見上げている姿をイメージしたり、ポイント、ポイントでリンクする歌詞にしました。
サビは単語を並べたかったということですが、単語ってスルッと出てくるものですか?
Sou いや、けっこう悩みましたね。歌詞って内容も大事なんですけど、言葉そのものの子音とか、響きもすごく大切で、言葉の並べ方によってはヌルッとしちゃうこともあるんです。

音としてもよくて、インパクトがある言葉で、なおかつ意味まで考えていくと、けっこう大変で…。そこは作詞を手伝っていただいたRUCCAさんと何度かお会いして、「ここはこういう単語はどうか」って話し合ったり、自分で辞書を引いたりして、進めていきました。

作品に寄せすぎずSouくんの独立した世界があってほしかった

「これだ!」って手応えを感じた言葉はありましたか?
Sou それこそ、タイトルにもなった“ミスターフィクサー”は、音的にもハマったし、「キター!」ってなりました(笑)。
作業としてはどのあたりで出てきたんですか?
Sou けっこう最後のほうに出てきて、そのままタイトルになりました。タイトルに決めた理由としては、『ID:INVADED イド:インヴェイデッド』の世界にちょいちょい出てくる“ジョン・ウォーカー”って特徴的で、「なんだコイツは…?」って気になる存在じゃないですか。直接的に描かれているわけではないんですが、どう見ても“黒幕感”があるので(笑)、そこを意識しました。
あおき監督は『ミスターフィクサー』というタイトルを知ってどう感じましたか?
あおき いい意味で、すごく攻めた感じになったなと思ったんですよね。タイアップだし、シナリオも読んでいただいているという情報はこちらも聞いていたんです。そのうえで、個人的にひとつだけ心配していたのが、作品に寄せすぎてしまうのはちょっとイヤだなと。
それはどうして?
あおき 寄せてくださるのは、アニメ側からするとありがたいんですけど、曲としても独立した世界があってほしいという気持ちがありました。それもあって、あまり口出しするのはやめようと思ったんです。

だから曲を聴いて、そのバランスがちょうどいいところに落ちてきた感じがしました。シナリオを読んで寄せてもらった部分もあるし、ちゃんとSouくんのオリジナリティを出して、曲としても成立している。「ミスターフィクサー」という言葉もそうだし、歌詞のなかの「正解(こたえ)を壊した…」という言い方とかもグッとくる感じがあったんですよね。
Sou ありがとうございます。直接、「(OPが)どうでしたか?」ってうかがう機会がなかったので、すごくうれしいです。ホッとしました。あおき監督がおっしゃったことは、僕も意識はしていました。

それと、『ID:INVADED イド:インヴェイデッド』って最初は謎だらけなところから、どんどんいろんなことがわかっていくから、アニメに寄せすぎるとネタバレにもなりかねないですよね。その部分も気をつけて、じつは意図的にわかりづらい歌詞にして、難しい言葉を使ってボヤかしたりもしました。
レコーディングでは、どんなことを意識しましたか?
Sou いちばんは滑舌ですかね。メロディに対してババババッと言葉を詰め込んであるので、ひとつひとつの言葉が流れないように、そこは意識しました。

ただ、はっきり言っていたとしても、直接的に伝わってくる歌詞ではないと思うんです。そこのバランスは、けっこうキレイに収まったのかなと思います。
言葉が詰め込まれていて、歌うのが難しかったりするのかなと思いますが…。
Sou 自分で作っていてなんですが、僕の曲は…歌うのが難しいんです(笑)。
あおき ははは。
Sou だからそこは、いつもの自分の感じにはなったのかなって思います。僕は今まで歌い手やVOCALOIDの世界で活動してきたので、いろんな言葉が詰め込まれているような曲を歌うのには慣れているんです。なので、「難しくて伝わらないだろうから歌詞を変えるか」といった発想はなくて、ワーッと歌ってしまうことが多いですね。

「自分はこれがやりたい」その熱量がクオリティにつながる

おふたりの作品づくりについてお聞きしたいのですが、あおき監督にとって、譲れないことだったり、現在のポリシーを教えてください。
あおき 譲れないことって何だろう…。(考えてから)わりとTVシリーズって妥協の連続なんですよね。これはできない、あれはできない、ということがけっこうあって…そのなかで自分たちはどうしようかってことになっていくんですが。

「こういうものが流行っている」というのは、業界にいるとなんとなくわかるんですよ。そこに興味があるのであれば、作るのは全然いいんです。でも、興味がなくて流行っているものを作るのはやめようとは思っています。

先ほど少し話しましたが、『ID:INVADED イド:インヴェイデッド』はまさにその感じが強かったんです。ウケるかウケないかはさておき、自分たちが作りたいのはこれだから、世の中に問うてみましょう、と。そういうのは大事かなって思いますね。

今回は事前に脚本が全部あったので、みなさん、脚本を読んで「やりたい」と言ってくれたんです。舞城さんのシナリオがすごくおもしろかったので。「自分たちはこれがやりたいんだよ」という熱量がいい意味でクリエイティブにつながったので、すごくよかったと思います。
Souさんはいかがですか?
Sou 僕はもともと、中学生の頃から“歌ってみた”の投稿を始めました。『ニコニコ動画』で、VOCALOIDやアニメソングなどの楽曲から好きな曲を歌って投稿するという文化があり、そこから音楽の世界に入って、今も続けています。

じゃあ何を歌うかっていうときに、「みんな歌ってるから」という基準で選ぶのはやめようって、ここ1年くらい思うようになりました。やっぱり人気があるコンテンツを歌って投稿すると、目に見えて再生数が増えるんです。あまり知られていない曲と比べると、投稿もコメントも多くて、盛り上がるんですよね。僕も昔はずっとそのスタイルでやっていました。

でも、それをやってみて気づいたのは、どんどん…自分がどこにいるのかわからなくなるんです。そして、いざ自分の好きな曲を歌おうってなったとき、自分が好きな曲ってどれだっけ?って状況に陥ったこともあって。「このままじゃいかんな」と思って、そこからは、自分の好きな音楽や歌いたい曲をセレクトするようになりました。
自分の好きな曲を基準に選んでも、すぐに聴いてもらうのは難しそうですね。
Sou そうですね。やっぱり最初は、みんな知らない曲だから、聴いてもらえなかったりしたんですよ。それでも続けることによって、作品のクオリティでちゃんと評価を受けるようになって、今こうしていろんなお仕事につながっています。それこそオリジナル曲にもつながって、「そこは譲れない」と続けてきてよかったなと思います。
好きな音楽を選ぶようになったら、自分の歌うべきもの、やりたいことは見えるようになりましたか?
Sou なんというか…ラクになりました。「歌いたいから歌う」という根本的な部分に従うだけなので、邪念がないというか。作品にもまっすぐ向き合えるようになりました。
あおき監督も今に至るまでには、そういった時期もありましたか?
あおき やっぱりありますよね。クリエイティブとはいえ、もちろん仕事としてお引き受けしていますし、とくにアニメーションってお金がかかるんですよ。アニメのシリーズを作ろうと思ったら億単位のお金が発生しますので、「有名な原作があります。だから作りましょう」ってなるのはとても理解できます。

それでとくに若い頃は、プロデューサーの思いも汲んだうえで、「じゃあこうしようかな」とそちら側に寄ることを考える部分もあったんですけど、今は、「もう40過ぎたし、そういうのいいよね?」って思えるようになりました(笑)。

第1話のエンドロールが流れたとき、「最高だな」って

Souさんは、2019年3月に初めてご自身で作詞・作曲した『愚者のパレード』を発表。7月にはアルバム『深層から』をリリースしています。オリジナル曲を作ろうと思ったきっかけは何だったんですか?
Sou オリジナルを作りたいという気持ちは、2年くらい前からフツフツとあったんです。カヴァーを続けるなかで、だんだん「こういう曲を歌いたい」という欲求が出てきて、一時期、「自分が歌いたい音楽に近い曲を探す」みたいな作業をするようになって。

そこでよくよく考えてみたら、「似た曲を探すんじゃなくて、自分で作ったらよくない?」に変換されたんです。気づくのが遅いんですけど(笑)、そこからは「自分で作りたい」って意志が出てきました。

僕が歌い始めたのは中学生のときで、その頃は「“歌ってみた”が楽しい!」って気持ちでやっていたんです。でも活動を続けていくうちに、「音楽そのものがすごく楽しい」って気持ちにシフトしていったんですね。今は、自分の曲を作りたい、というところまで辿り着きました。
ちなみに、あおき監督はどんな音楽がお好きですか?
あおき 車のなかでは映画のサントラをずっと聴いていますね。ハリウッドにハンス・ジマーという有名な作曲家がいて(映画『レインマン』、『ライオン・キング』、『クリムゾン・タイド』、『パイレーツ・オブ・カリビアン』、『ダークナイト』ほか多数)、その方がとにかく好きです。その方のサントラがあったらずっと聴いています。
ハンス・ジマーが好きな理由は?
あおき 派手だし、メロディが印象に残るんです。いいメロディを作るんですよね。あと、男性っぽいというか、力強い感じがめちゃめちゃカッコよくて。
『ID:INVADED イド:インヴェイデッド』の劇伴も、映画のサントラっぽい印象を受けます。
あおき 『ID:INVADED イド:インヴェイデッド』は、1話、4話、6話とたまに挿入歌が入るんですが、あれはシーン用に作っていただいて、こちらで編集もしたんです。

アニメって、“ダビング”という作業のときに曲をつけるんですよ。“Mライン”といって、「このシーンにこの曲をあてます」と音響監督さんが作成してくれるんです。ただ、僕らはそのMラインをダビング当日まで知らないんですよ。当日聴いて問題がなければいいんですが、「あれ…?」ってなったときに、ダビング作業の数時間で直さなければならないのが、どう考えても無理で(笑)。

だから最近は、事前にMラインをいただいておいて、ほかに「こういうパターンもあるんじゃないかな?」と思ったら提案して、ダビングの場で両方聴きながら「どうしましょう?」と一緒に考えるようにしています。『ID:INVADED イド:インヴェイデッド』の挿入歌は、あらかじめこちらで「この曲を使いたい」とあてはめて、仮編集もして、音響監督さんにお渡しして、という流れでした。
『ミスターフィクサー』は、1話だけラストに流れましたね。
あおき 1話は、僕が絵コンテ・演出も含めてすべてディレクションをしたんですが、映画的な1話にしたいという意図でした。曲もラストにもってきたいと。それで、通常のOPよりもう少し長いバージョンが欲しいとなって、急きょSouくんにお願いしたんです。そしたら、めちゃめちゃいいのがあがってきて。
Sou 最初は、「1コーラス1番までを納品してください」と言われていて、「よし! 間に合った」みたいな状況だったんです。アニメの仕組みも何もわからないので、期日を守らないとヤバい!と思って納品したら、そのあとに「別バージョンも作ってほしい」と連絡がきたので、また「ヤバい!」みたいな(笑)。

決められた尺に合わせるのは難しかったですね。…でもエンドロールが流れたときに、「最高だな」と思いました(笑)。
あおき うん、最高でした(笑)。
Sou 「これだ!」って。1話を最初から最後まで観たときに、キレイにハマっていました。カッコよくしてもらってすごくうれしかったです。
あおき よかった!

頭の中でできた曲をアカペラで歌いながら、メロディを作る

インタビューの最初に、Souさんがあおき監督のイメージを“大御所”とおっしゃっていましたが、今回一緒にお仕事をされて、現在の印象はいかがですか?
Sou 僕も最近0(ゼロ)から1を生み出すようになって、今まではあまり誰かと一緒にお仕事をしたことがなかったので、あおき監督によって“本物のクリエイターの魂を見た”というか…(笑)。
あおき ははは。
Sou でも本当に、ひとつの作品を創りあげる熱量だったり、ぐっと沸き立つパワーを感じました。僕もそこに負けじとがんばらなきゃ!みたいな気持ちで曲づくりができたのでよかったです。
この機会に、あおき監督からSouさんに聞いてみたいことはありますか?
あおき どうやって曲を作ってるのかなって気になります。今はiPhoneとかもあるから、音楽制作はだいぶやりやすくなった感じはしますよね。楽器をそろえなくてもできるし。基本は打ち込みで作ってるんですか?
Sou そうですね。僕は最初に鼻歌などでざっくりとしたメロディを決めてから打ち込みで作ることが多いです。

楽器を弾きながら作る方も多いと思うんですが、僕はそこまで楽器もうまくないので、最初は頭のなかでできている曲をアカペラで歌いながらメロディをバーッと作って、急いでそこにリズムを覚えている範囲でつけて、という作り方をしています。
頭のなかで曲ができているんですか…?
Sou メロディが出始めるとバーッと全部出て、ひととおり出終わったあとに、もう一度聴いたりします。そのとき、「ちょっとサビが弱いかな」とか、「Aメロのメロディラインがちょっと普通かな」と思ったら作り直します。おそらく、ちょっと変わった作り方だと思います。
道を歩いていて、ふとメロディが浮かんだりも?
Sou それもあります。それこそ道や人混みで思いついたときは、人がいない場所を探して、こっそり歌って録音したりしますね。たぶん、「ヘンなヤツがいるな」って思われている気がします(笑)。
最後に、今後おふたりが作りたいと思っている作品、音楽がありましたら教えてください。
あおき 自分が興味があることを何とかアニメーションにできないかと、今、ふたつくらい企画を進めています。ひとつは、働くことや、仕事をすること。もうひとつは、アニメーションを作ることそのもの。それぞれを題材に、エンターテインメントとして表現できないかなと。
Sou 僕は、今のところアップテンポな曲が多いので、それこそ『心做し』のような王道バラードというか、誰が聴いてもいいなって思える曲を作りたいです。もうひとつ、僕はけっこうダンスミュージックが好きで。サカナクションさんみたいな。

最近曲づくりを始めたばかりなので、定まっていないというか、いい意味で何でも作れる時期なので、いろんなジャンルに挑戦してみたいです。

作品情報

TVアニメ『ID:INVADED イド:インヴェイデッド』
1月5日(日)よりTOKYO MX、BS11、ひかりTVほかにて毎週日曜に放送・配信中
https://id-invaded-anime.com/


©IDDU/ID:INVADED Society

楽曲情報

TVアニメ『ID:INVADED イド:インヴェイデッド』オープニングテーマ
Sou『ミスターフィクサー』
1月6日(月)より配信リリース中
https://www.universal-music.co.jp/sou/products/uv1as-00439/

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応募方法
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受付期間
2020年2月28日(金)12:00〜3月5日(木)12:00
当選者確定フロー
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