この世界にひとりでも同志がいれば生きられる――上坂すみれの「好き」を貫く生き様

上坂すみれと聞いて、あなたはどんなイメージを思い浮かべるだろう?

西洋人形のように端正なビジュアルで人気を博し、外見とは裏腹にロシア研究、昭和歌謡、メタルロック、戦車、ロリータ、プロレス、髭など、多ジャンルにおいてプロ顔負けの“濃ゆい”知識を持つ――。今声優界でもひときわ異彩を放つ存在であることは、間違いない。

しかし、今でこそ“趣味人”として広く認知されている上坂も、学生時代には周囲から理解が得られずに悩んだ経験もあるという。上坂は自分の“好き”と周囲とのギャップに、どう向き合ってきたのか?

奇しくも本インタビューは、上坂の誕生日である12月19日に実施。最新アルバム『NEO PROPAGANDA』の話とともに、28歳になったばかりの彼女の素顔に迫る。

撮影/川野結李歌 取材・文/岡本大介

28歳の抱負…目指すは富士そばのような存在!?

お誕生日おめでとうございます。28歳になられたばかりのタイミングですが、誕生日はやっぱりうれしいものですか?
うーん、でも「30歳からがどんどん楽しくなっていくよ」って聞いているので、まだまだ最悪な時期なのかなと思っています(笑)。
いきなり上坂さん節全開ですね(笑)。とはいえ、声優活動が7年、アーティスト活動は6年と、気づけばかなりキャリアも積み重ねてきました。
でも入社7年なんて、サラリーマンだったらまだヒラ社員ですよね。声優も同じだと思うので、私もまだまだだっていう感覚が強いです。
声優としての活躍はもちろん、最近は実写番組への出演も増えていますし、ライブ活動も精力的に行われていて、上坂さんがどんどんとメジャーになってきている印象があります。
そうですかね? 多くの人に知ってもらえてステージを観に来ていただけたらいいなとは思っていますけど、私の本業は声優ですし、キャパシティの小さなトークイベントもたくさんやっていますから、メジャー感はまったく感じていないですね。昔からずっと変わらないスタンスでやらせてもらっています。
でも、たとえば2019年は最新シングルの『ボン♡キュッ♡ボンは彼のモノ♡』が大きな話題になって、音楽活動的にも飛躍の年だったんじゃないですか?
そうですね。2019年は「はじめまして」のお客さんがライブやイベントにたくさん来てくださって、それはとくに感じました。
新規のお客さんが増えた理由というのはあるんですか?
はっきりとした理由はわからないです(笑)。私が知る限りでは理由はバラバラで、アニメ作品で知ってくださった方もいれば、テレビ番組を観ましたという方、雑誌を読んでという方もいて。

あと最近になってInstagramも始めたので、そこから来ましたという方もいました。
新規のお客さんのライブやイベントでの反応というのは、何か特別なものを感じましたか?
私のステージはかなり個性が強いと思うので、初めての方が置いてけぼりにならないように心がけました。

「この曲はこのタイミングでこんな掛け合いがありますよ」とか、「ライブ前にはこのアルバムを聴いてきてもらうと楽しめますよ」とか事前に告知したり。まあ、そこは完全にスタッフさんが頑張ってくれたおかげなんですけど(笑)。
新しいファンは増えているけども、ご自身的にはまだまだマイナーだと感じているんですね。
私、たとえるなら「富士そば」みたいになりたいと思っているんです。
え? チェーン店の「名代富士そば」ですか!?
はい。東京ならどこにでもある、すごくメジャーなチェーンですけど、けっこうアクが強くないですか? ずっと演歌がかかっていたり、社長さんの自叙伝が売ってたり。
たしかに…。
ポスターとかで「そばはめっちゃ健康にいいです」ってアピールしてるのに、(カロリー的に)ヘビーなカレーやカツ丼セットを平然と売っていますし(笑)。冷静に考えるとちょっとおかしいんですけど、私はあんな感じになりたいんです。
正直、斜め上の“理想像”でした(笑)。メジャーだけど、アクが強い存在というのがいいんですね。
ゆくゆくは「富士そば」みたいに成長して認知されていければ最高だなって思っています(笑)。

孤立しても、「趣味」を貫いた学生時代

上坂さんと言えば、“ロシア好き”といった趣味や嗜好を明言されていて、その姿勢に勇気付けられるファンも多いと思います。仮にマイナーであったとしても、好きなものを好きと言うことに対して、これまでに悩んだことはありますか?
学生時代は大いに苦しみました。高校1年生のときにソ連を好きになって、それを隠さずに周囲にしゃべっていたら一気に友だちが減りましたから(笑)。
ええっ…。でもだからといって隠すことはしなかった?
はい。人に合わせたり空気を読むことは決して悪いことじゃないと思うんですけど、私にはそっちのほうがしんどかったんですよね。それに当時からアニメやサブカルも大好きで、たとえクラスの人たちから理解されなかったとしても、それらを隠して過ごすよりはよっぽど開放感があったんです。
なるほど。ただ、そういう覚悟や勇気を持てない人も多いですよね。
今は多様性が認められる社会なので、昔と比べればオープンにしやすい時代になったと思います。それに日本中を見回せば、自分と同じ嗜好の人ってたくさん見つかると思うんです。

誰でもネットでつながれる時代ですから、どこかに必ず同志はいます。ひとりでも「心の拠りどころ」を見つけてしまえば、人はわりと生きていけるもの。そうなると、ぶっちゃけクラスの人たちのことなんてどうでもよくなりますから、皆さんも安心してください。
学校内で孤立したくないという学生さんも多いと思いますが、上坂さんはどうやって学校生活を過ごされていましたか?
どうやって過ごしてたんだろう?(笑) 周囲からオタクだとバカにされないように、とりあえず勉強だけはしっかりやっていたと思います。運動が得意ならそれでもよかったんですけど、あいにく苦手だったので勉強しかなかったんですね。
みんなと同じ土俵で競えるものがあれば、周りも認めてくれるんですね。
少なくとも舐められずにはすみます(笑)。ただ私の場合は、趣味が合わないならいっそ敵に回したほうがラクというダークな気持ちもありましたけどね。
たくましいですね。
でも自分の趣味嗜好に素直に生きていたほうが、人生をロングスパンでとらえた場合は、より多くの友だちができると思うんです。だからきっと大丈夫ですよ。

王道よりもヘンテコな音楽がしっくりくる

“好きを貫き通す姿勢”はアーティスト活動にも存分に表れていますが、周囲の声優さんからはどんな反応をもらうことが多いですか?
「アニサマ(Animelo Summer Live)」などのライブでは「楽しく聴いたよ」とか「面白い曲だね」と共演者の方々から言っていただけました。

「AnimeJapan」の控え室でも、イベントに登壇するキャストさんたちがそれぞれのスマホで同時に『ボン♡キュッ♡ボンは彼のモノ♡』のミュージックビデオを流していたり。ありがたいことに“楽しいもの”として受け止めてくださっているのかなと思います。
逆に、上坂さんがほかの声優アーティストさんたちのステージや楽曲をご覧になったときにはどんなことを感じますか?
「歌が上手だな」とか「あのダンスかわいいな」とか、ごく普通にファンと同じ目線だと思います。
ご自身のアーティスト活動や楽曲との違いを感じたり、比較したりすることはないですか?
比較や分析をすることはないですが、ライブなどでご一緒したアーティストさんから無意識のうちに影響を受けていると思います。私、音楽的な興味はその時どきでけっこう変化してきているんです。
それでも、いわゆる王道のアニソン方面にはあまりいかないんですね。
アニソンは好きでよく聴きますが、どうしてもいわゆる王道のアニソンを自分が歌うイメージは湧かないですね。アキバポップ(萌えソング)とか電波系ソングとか、ヘンテコなほうがしっくりくるんです。たまに作品絡みで王道のキャラソンを歌うと「アニソンってこんなにまっすぐなメロディ展開なのか」と驚いちゃうくらい(笑)。

そこで改めて、私の楽曲は変化球というか、変わっているんだなと思い知らされますね。
上坂さんにとって、アーティスト活動はどのような位置付けですか?
私の場合、声優の活動を始めてからすぐにソロのアーティスト活動をスタートさせているので、声優活動とともにある欠かせないライフワークのひとつです。
もともと音楽活動がやりたかったんですか?
いえ、声優になった瞬間は音楽活動をしたいという願望はあまりなかったんですが、ご縁があって「やりませんか?」と声をかけていただいたので、「お願いします」と。
そのわりにはデビューから一貫してずっとコンセプチュアルで、上坂イズムにあふれていますよね。
最初に音楽チームの方々が、私の好きなジャンルやパーソナルを汲み取ったものにしましょうと言ってくださったんです。それでいざアウトプットしてみたら、私が聴いてきた音楽や好きなジャンルってけっこう偏っていることが判明しまして(笑)。

それで最終的にこういうテイストに落ち着いたんですが、特別なこだわりがあるわけではなくて、その時どきで好きな音楽をやらせていただいている感覚が強いですね。

音楽活動は、興味のあるものだけをやりたい

1月22日には、4枚目のアルバム『NEO PROPAGANDA』がリリースされます。既存曲が2曲、新曲が10曲の全12曲構成ですが、全体のコンセプトなどはあるのでしょうか?
意味深なタイトルなのでよく聞かれるんですが、じつは大したテーゼはないんですよ。アルバムに関してはこれまでもそうなんですけど、むしろあまりテーマを設けず、単に「楽しい歌コレクション」だと思って制作しています。

そのときにいちばんやる気が湧く音楽というか、興味のあるものだけをやりたいというのは昔から思っているので、今回もそんな12曲になったと思います。
なかでもアルバムのリード曲『ネオ東京唱歌』は、タイトルの通りレトロっぽさと新しさがミックスした不思議な雰囲気の楽曲です。
スタッフさんからドレスコーズの志磨遼平さん(作詞・作曲)を推薦されて、それでお願いしました。志磨さんは楽曲の提供先によってまったく雰囲気の違う曲を書かれる方なので、あえてジャンルやテーマなどはオーダーせず、ただ「アルバムのリード曲です」とだけ伝えたら、この楽曲が届いたんです。

昭和歌謡っぽさもあるしドレスコーズっぽくもあって、とても楽しい楽曲になりました。私自身もシンセが登場する以前の歌謡曲は馴染みがあったので、すんなり受け止めて楽しく歌えました。
ミュージックビデオは壮大なストーリー仕立てになっていて、上坂さんは一人三役をこなしています。これは上坂さんのアイデアですか?
いえ。ミュージックビデオの内容や演出は毎回、映像監督さんにお任せしています。楽曲制作やジャケットなどのビジュアル制作もそうですが、私はいちばん大きな“側(がわ)”だけ作って、あとはそこに田畑が育っていくのをじっと待つだけなんです。

私主導でやっていたらとっくにアイデアが枯渇して弾切れになっているでしょうから、その道のプロの力をお借りするのがいちばんだなとつくづく感じます。
では今回の一人三役も映像チームからの提案なんですね。
そうです。1日で撮影しきれるならなんでもOKっていうスタンスでした。
できあがった映像をご覧になった感想は?
撮影中はほとんどグリーンバックだったのでわからなかったのですが、出来上がった映像を観たら私が思っていたよりもずっとスケールが大きくて、謎の感動がありました。

それでいてどこかに滑稽さもあるので、夜中にフラッと入った映画館で強烈なカルトムービーを観せられたみたいな、そんな感覚にもなりましたね。ぜひ楽しんでいただければと思います。

『夜勤の戦士のテーマ』の歌詞はファンを思って書いた

今回は2曲で作詞を担当されています。『女神と死神』は冬の都会を舞台としたラブストーリーで、お洒落な雰囲気の歌詞ですね。
80年代後半から90年代初頭のトレンディドラマっぽい雰囲気にしたいなと思い、当時のアイドルソングなども参考にしつつ作詞しました。

山下達郎さんの『クリスマスイブ』をバックに別れを惜しむ恋人同士を描いた、昔のJR東海のCMのようなテンションの街や人をイメージしました。
一方、『夜勤の戦士のテーマ』は力強くてストレートな歌詞です。以前のインタビューで、上坂さんのライブは夜勤明けの人が多いとおっしゃっていましたが、この曲は彼らに向けた応援ソングのようにも聞こえます。
それはまさにおっしゃる通りで、夜勤で頑張る人たちのことを思って書きました。
夜勤戦士たちはもちろん、すべての働く人たちにとって勇気が出る歌詞になっていると思います。
ああ、よかったです。働くことは大変だけど、本当に素晴らしいことだと思っているので、そう感じてもらえたらうれしいです。
上坂さんがこういったポジティブでパワフル一辺倒な歌詞を書くのは、少し意外な気もしました。
この歌詞のノリは特撮ヒーローの主題歌を意識していたりします。特撮の主題歌って、根拠がよくわからない元気さがあるじゃないですか。元気だけですべてを解決する世界観って私の中にはまったくなかったんですが、書いてみたら楽しかったです。
あえてご自身の世界観とは遠いものを書いたんですね。
そうです。歌詞は基本的に自分とかけ離れていればいるほど書きやすいですね。
では、自分の内面から出てくる気持ちを歌詞にすることはあまりないんですか?
私はそんなに私自身のことを歌いたいわけではないので、歌詞はすべて妄想ですね。とはいえ、書いているとどうしても自分の考えや思いが混入してしまうというか、キャラクターを通じて無意識に滲み出ている気はします。

好き勝手にやる。でもファンにも最大限楽しんでほしい

今回は新曲を10曲レコーディングしたと思いますが、もっとも苦労した楽曲は何ですか?
『アウターモスト -超自然恋愛-』です。TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND(作詞・作曲・編曲)さんのテクニカルな感じが全開で、楽曲はすごくお気に入りなんですけど符割(各小節にある音符の振り分け)がとにかく難しくて、レコーディングではかなり苦労しました。
逆にもっともすんなりとレコーディングできた楽曲は?
『快走!ラスプーチン』ですね。かなりスムーズに収録が終わりました。

ハモりやコーラスがあまりなかったのもありますけど、何より歌詞に気持ちを込めようのない楽曲なので(笑)。勢いのある楽曲だけに、パパッと録っちゃおうという感じですね。
上坂さんは収録にあまり時間をかけないそうですね。
何度も録り直していくとだんだんと声のテンションが下がってきますし、そもそも私の集中力がもたないんです(笑)。だから今回も集中して頑張りました。
最後に、これからソロアーティストとして挑戦してみたいことはありますか?
ファンの方々から「女子限定ライブをやってください」と言われることが多いので、ぜひ実現させたいなと思っています。
上坂さんは女性ファンもかなり多いんですよね。
「ライブに行ってみたいけど怖そうだから行けない」という女子の声をたくさんいただくんですよ。私のライブは決して怖くはないと思うんですけど、でも女子限定ライブであれば、より安心していただけるかなと。
自分の好きなことを追求しつつ、ファン思いなんですね。
基本的には好き勝手にやっているだけなんですけどね。でも来てくださった人には最大限楽しんで帰っていただきたいという気持ちはありますし、そこはこれからも大切にしていきたいなと思っています。
上坂すみれ(うえさか・すみれ)
1991年12月19日生まれ。神奈川県出身。O型。ジュニアタレントとして活動後、2012年より本格的に声優業を開始。主な出演作は『スター☆トゥインクルプリキュア』(キュアコスモ役)、『虚構推理』(七瀬かりん役)、『恋する小惑星』(森野真理役)、『はてな☆イリュージョン』(桔梗院心美役)、『異世界かるてっと2』(シャルティア役)など。また2013年にはソロアーティストデビュー。現在までにシングル11作、アルバム3作リリース。1月22日に4thアルバム『NEO PROPAGANDA』を発売。3月20日より、ライブツアー「上坂すみれのPROPAGANDA CITY 2020」をスタートする。

    CD情報

    4thアルバム『NEO PROPAGANDA』
    1月22日(水)リリース
    http://king-cr.jp/artist/uesakasumire/
    左から初回限定盤A、初回限定盤B、通常盤

    初回限定盤A[CD+Blu-ray]
    ¥3,600(税別)

    初回限定盤B[CD+PHOTO BOOK]
    ¥3,600(税別)

    通常盤[CD]
    ¥3,000(税別)

    サイン入りポラプレゼント

    今回インタビューをさせていただいた、上坂すみれさんのサイン入りポラを抽選で3名様にプレゼント。ご希望の方は、下記の項目をご確認いただいたうえ、奮ってご応募ください。

    応募方法
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    2020年1月21日(火)12:00〜1月27日(月)12:00
    当選者確定フロー
    • 当選者発表日/1月28日(火)
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