2.5次元舞台ブームの中で、声優・福山潤が俳優・橋本祥平に伝えた、ひとつの願い

「15歳の春。僕がはじめて憧れた人は、復讐鬼だった。」――2004年に放送されたアニメ『巌窟王』は、アレクサンドル・デュマの古典を大胆に翻案したパンク・オペラである。

人物の衣装や装飾にテキスタイルを用いた革新的なアニメーションと、男同士の友情とも愛情ともつかない巨大な感情が復讐劇に乗せて紡がれた、全24話の伝説的な作品だ。

あれから15年。今年、『巌窟王』が舞台化する。アニメーションのフィールドで生まれた果実を、2.5次元舞台の叡智が受け継ぎ、あらたな色彩を加え、蘇らせる。

このたび、15歳の青年貴族・アルベールをアニメで演じた声優の福山潤と、舞台で演じる俳優の橋本祥平の初対談が実現。当時25歳だった福山と、現在25歳で演じる橋本。これは運命だろうか?

本番終わりに駆けつけた橋本を福山が気遣い、初対面とは思えないほどリラックスしたムードで進んだ対談。アニメと2.5次元というふたつの活発なエンタメジャンルの話から、25歳という年齢にまつわる悩みまで、話題は尽きることなく夜は更けた。

撮影/アライテツヤ 取材・文/的場容子
ヘアメイク/西村裕司(earch)

2次元を再現するため、役者が身体を張る姿に感動

昨今、アニメやゲームを原作にした“2.5次元舞台”が大きなブームとなっています。福山さんは2.5次元舞台をご覧になったことがありますか?
福山 そんなに多くはないですが、何度か行かせていただいています。自分が関わった作品や、役者さんに招待していただいて観に行ったものもあります。
そうなんですね!
福山 2.5次元の舞台って、映像装置や音響の力で、いかにアニメーションなどの表現をステージに再現するかを重視されているじゃないですか。

最近だと、プロジェクションマッピングを使った演出や、ワイヤーを付けて役者さんが空を飛んだり。あるいは、傾斜がある八百屋舞台で繰り広げられる作品なんて、役者のみなさんは2時間半も傾いた舞台で演じるわけだから、相当しんどいはず。

観客を楽しませるために、身体を酷使しているわけです。2次元の世界を立体化しようと思うと、こういう無茶なことになるんだな、という点を含めて、ものすごく感動を覚えますね。

同じキャラクターでも「僕のことは一切気にしないで」

福山さんが演じたキャラクターが2.5次元化されるのは、どんな感覚なのでしょうか。
福山 作品って観ていただいてなんぼですし、作品を風化させないことが、放送が終わったあとの僕らのひとつの使命です。それを舞台という形で、たくさんの方々が時間や労力をかけて表現してくださるのは、もう、手放しに嬉しいです。
橋本 そう言っていただけると、舞台で演じる僕もすごく嬉しいです……!
福山 ただ、僕自身は、演じられる方のオリジナリティを大切にしていただきたいとも思うんです。
というのは?
福山 僕らは声を演じるので、「見た目がない」ぶん、キャラの見た目からインスパイアされて声を作っていく部分もあります。だから同じように、俳優さんも、声からインスパイアされて役を作る部分もあるのだとは思いますが、僕としては、そこはあまり重要視しすぎないでほしいんです。
アニメの声はあくまでも、参考資料のひとつでいい、と。
福山 ええ。せっかく作品があるので、役者さんがそれぞれのストロングポイントを活かして演じていただくのがいちばんいい。それが、僕が関わった作品を舞台化していただく際に思うことですね。
橋本 福山さんのような声優さんからそう言っていただけるのは、とてもありがたいです。
福山 なので僕は、舞台化していただくときは「僕のことは一切気にしないでください」というのが基本スタイルで、決して再現してほしいと思うタイプではないですね。むしろ、同じ役をアニメーションと舞台とで共有したときに、どのように立体化したかのほうが興味があります。声優と俳優、どちらもそれぞれに役を追求して、行き着いた先が同じであるのがいちばんいいのかもしれないですね。

「アニメはアニメ、舞台は舞台。それでいい」

橋本さんは、舞台の上では太鼓鐘貞宗(舞台『刀剣乱舞』)のような天真爛漫なキャラから、飛影(舞台『幽☆遊☆白書』)のようなミステリアスなキャラまで、「原作から抜け出たのでは?」と思うほど、役に寄せて演じています。毎回どんな努力をして、そこにたどり着くのですか?
橋本 もちろん、原作であるマンガやアニメも観させていただくのですが、モノマネをしようとは思っていなくて、あくまでも、その役として舞台上に立っていたいという思いがあります。

でもやっぱり、たとえば原作がアニメならアニメのキャラが大好きで来てくださる方もいるので、その期待には応えたいです。それに、そうしたお客さんは、僕よりもはるかに前からキャラを好きでいると思うので、僕も同じくらいの愛情を持って取り組みたいと思っています。原作はもちろん、声優さんに対するリスペクトもすごく大事にしています。
なるほど。声や口調はどんなふうに役作りをするのですか?
橋本 そこは、僕のなかでも今後の2.5次元というジャンルが背負う課題でもあると思っているところなんです。さきほど言ったように、僕は舞台にはひとつの役として立ちたいなと思っているのですが、お客さんには、どうしてもキャラクターとして見られてしまう部分がある。そのバランスはとても難しいですね。
今回の『巌窟王』のように、最初から声のついたアニメ原作の舞台化は、とくにそうですよね。
橋本 そうですね。僕としては、シンプルにお芝居で楽しませることができる実力派の役者さんたちが揃っているので、舞台ならではの瞬間をたくさんお届けしたいなと思っています。
福山 さっき言ったこととも重なりますが、僕としては、2.5次元でも声優に声を似せる必要はまったくないと思っています。というのも僕、アルベールをやってたとき、ものすごく楽しかったんですよね。そのときのことを考えると、役者としてどんなシーンをやるにしても、演じることに制限を加えてしまうのって、かなりもったいない。

たとえば役作りにおいて、アニメのキャラクターに寄せることを重視するあまり、役者が演じる自由度が減ってしまう。もしくは、演技を楽しむことへの踏み込みが甘くなるとする。それって、もったいないですよね?
橋本 (真剣な表情で聞き入る橋本さん)
福山 それなら僕は、楽しむほうに踏み込んで、キャラに寄せることは二の次にするほうが、お客さんに伝わる熱量が絶対高くなると思う。僕ら声優がどう役を作ったかを気にするんじゃなくて、演じる俳優のみなさんが楽しんでやることのほうが、作品への正しい向き合い方じゃないかと思います。

だから舞台『巌窟王』も、もしアニメが原作だとおっしゃっていただけるなら、僕は「アニメはアニメ、舞台は舞台。それでいい」とはっきり言いたいです。
橋本 ありがとうございます……! きょうは福山さんにたくさん勇気をいただいています!
福山 ははは。ひとつの作品は、演じる方が感じ、考えたことを主軸に、演出とのバランスで作られていくべきで、そこに出ていない人間の価値観を入れるべきじゃないと僕は思いますね。

どの作品よりも、『巌窟王』を褒められるのが嬉しい

アニメの放送は今から15年前の2004年。橋本さんは今回の出演を機にアニメを観て、いかがでしたか?
橋本 衝撃的でした。色彩やビジュアルが圧倒的で、15年前の作品とはとても思えなかったです……!
福山 大丈夫? 目がチカチカしなかった?(笑)
橋本 (笑)。きらびやかで、間違いなく当時最先端のアニメですよね。反響もスゴかったんじゃないですか?
福山 賛否両論でしたね。
橋本 「否」もあったのですか……?
福山 もちろんありました。「観づらい」とか「普通にアニメ化すればいいのに」とか。だけど、監督はそうした反応も楽しんでいるようでしたね。全部を受け入れられるよりは、違和感を持ってほしかったと思うので。
橋本 本当に、ひとつの芸術作品を観ているような感覚でした。最初、色合いの美しさも含めた世界観に引き込まれて、1話ずつ観ていくと、続きがすぐさま観たくなって。「次の日に持ち越せないな!」と思うほど夢中になりました。終盤で、それまで散りばめられていたさまざまな伏線がすべて回収されて、「これはスゴい作品だぞ……!」と驚きました。
福山 (深く感じ入って)そう言っていただけると嬉しいですね……! どの作品よりも、『巌窟王』を褒められるのが嬉しいです!
▲放送15周年を迎えるアニメ『巌窟王』は、残酷でイノセントなドラマに加えて、映像的にも斬新な試みに挑戦し、多くの視聴者を魅了した作品。近年では映画『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のコンセプトアートアンドデザインや、『シン・ゴジラ』のイメージデザインを手がけた前田真宏が監督を務め、制作をGONZOが担当した。
▲モンテ・クリスト伯爵の声を担当したのは、中田譲治。「演技のハードルがすごく高くて、収録でOKが出てもご自分が納得できなければ、『もう一度やらせてください』とトライする方です。作品にかける熱意や、演技の細部にまで気を配られる姿勢は、ものすごく手本にさせていただきました。マイク前ではすごくダンディで、ミステリアスかつセクシー。だけど、マイクから離れた途端お茶目になるところも魅力的なんです(笑)」(福山)

自分の地声や声色で芝居させてもらえる、貴重な現場だった

福山さんは、『巌窟王』の台本を手元にまだ残されているとか。
福山 はい、全部残しています。台本は、関わった作品すべてを残していると大変な量になってしまうので、9割方は処分していますが、とくに若い頃の、自分の起点となった作品のものは、どうしても捨てられません。
橋本 特別な思い入れがある作品なんですね。
福山 その頃の僕は、どうしてもハイトーンを要求されることが多かったのですが、『巌窟王』のアルベールは、自分の地声や声色、そしてもともと持っている言葉の使い方や呼吸の仕方でシリーズをとおしてやらせていただけた、当時としてはとても珍しい作品でしたね。まだまだ若くてできないことばかりのなかでも、やれることが増えてきた時期に、本当に貴重な現場を経験させてもらいました。
そうだったんですね。
福山 舞台となっているのは“未来都市パリ”ですが、アルベールは超人でも天才でもなく、少年らしいしゃべり方で、ごくごく当たり前の会話をしているんですよね。当時は非日常を描いたスーパーマン設定のアニメが主流で、こうした役どころはかえって新鮮でした。

大もととなっているのがデュマの『モンテ・クリスト伯』ですから、そうした古典的な文学作品を、自分のセリフで映像化していただけることも、自分のなかでものすごく意義が大きかったです。

ビジュアルを見て安心「ちゃんとアルベールになっている!」

これから役作りをしていく橋本さんは、現段階で考えているプランはありますか?
橋本 アルベールの伯爵に対する思いが表れている箇所など、キーとなるシーンは稽古前から作っておこうと思いますが、最初はあまり自分で固めてしまわないようにしたいです。稽古場で、伯爵役の(谷口)賢志さんたちと話し合いながら、みんなで作り上げたいですね。
キャラクタービジュアルも公開されていますが、どのキャラも衝撃的な再現度ですね。
▲アルベール・ド・モルセール子爵(演:橋本祥平)
▲モンテ・クリスト伯爵(演:谷口賢志)
橋本 そうなんです。自分が演じて撮影しているわけですが、完成したものを見たときは「ちゃんとアルベールと伯爵になっている!」と嬉しかったです。
福山 まさか、この革命的な作品が実写化できると思っていなかったですね(笑)。アニメは、テクスチャを使った映像表現も話題になりましたが、そのために当時出てきた新しいソフトを使ったりして、技術的にも新しいことを試そうとしていた作品でした。

舞台のほうも、ウィッグの性能が格段に進化していますよね。金髪や茶髪はほぼ地毛に見えますもん。(キャラクタービジュアルを眺めながら)カヴァルカンティやペッポのビジュアルも、すごく自然ですね。
ペッポ役は大野紘幸さんです。女装の美少年のキャラですが、これが男性って、信じられないですよね。
福山 えっ!? この方、女性じゃないんですか!? あらあら……!

「25歳」でアルベールを演じるふたり。先輩に質問!

「後輩アルベールから先輩アルベールに」ということで、橋本さんから福山さんに相談したいことはありますか?
橋本 稽古はまさにこれから始まるのですが、絶対に壁にぶち当たると思うんですよ。そのときに、すぐさま福山さんの目の前に参上してご相談したいんですけど……。

今の段階ではまず、アルベールは物語の前半では15歳ですよね。福山さんは、アルベールを演じていたときは、おいくつだったんですか?
福山 25でした。今の橋本くんと同い年。
橋本 おおっ、なるほど! そうすると、アルベールは僕たち演者よりも10歳若いわけですよね。僕はそれで、「10年前の自分って、何してたっけ?」と考えたんですけど、全然思い出せなくて。福山さんは、どんなふうに年の差を埋めたんですか?
福山 そっか……! じつは、僕の考えはちょっと違うんです。『巌窟王』って、近未来どころか、はるか先の未来を描いたSFですけど、物語のキモとしてはデュマの『モンテ・クリスト伯』そのままなんですよね。さきほどもちょっと触れたけど、キャラクター同士の会話で、SF要素ってそんなにないんですよ。
橋本 たしかにそうですね。
福山 そうすると、本家の『モンテ・クリスト伯』の舞台、つまり19世紀のフランスにおける15歳って、実年齢的には今の25〜30歳くらいだと思うんです。
なるほど! 当時は今より寿命も短く、成人とみなされる年齢がぐっと低かったのですね。
福山 そう。寿命が短いことに加えて、家柄が重視されたり身分制度もあったりで、家を継ぐことになる貴族の息子が学ぶべき帝王学もあった。21世紀を生きる僕らって、職業の選択や、誰と恋愛し結婚するかも含めて自分次第だけど、そうしたことが許されていない時代の15歳って、社会的な年齢でいうと、今の25歳とほぼ変わらないんです。
橋本 15歳のアルベールが人間として背負うものって、今よりもっと重いんですね。
福山 そう。ただそれに加えてポイントなのは、アルベールに関しては、いくら伯爵家の跡継ぎとはいえ、感情的な部分に関してはまだ子どもだということ。

そこで僕は、当時25歳の自分が持っている少年性をそのまま活かしたり、学生時代にどんな感じで遊んでいたかを思い出しながらキャラクターに置き換えていくやり方をしたんですよね。だから25歳の今は、たぶん、ちょうどいい年齢なんじゃないかなと思うよ。
橋本 (頷きながら)なるほど……!
福山 時代劇をやるときも同じで、たとえば昔の日本を生きる14歳のキャラだと、時代にもよるけど、元服していることが多い。ということは成人なので、精神年齢としては20歳以上。人間の寿命が50年の時代ということも考えて逆算すると、今でいう20後半くらいだろう、とか。時代背景が今とは違うものに関しては、そうして置き換えて考えていますね。
橋本 ……今、とっても重要なことを教わりました。
福山 まあアルベールに関しては、「この時代の15歳、もっと思慮深いはずだろう?」というくらいのレベルでアホなんですけどね(笑)。
橋本 ふふふ。
福山 僕も当時、相当アホだと思って演じていたんですが、やってみると思った以上にアホだった。そうした意味では、橋本くんは「知的になりすぎないように」って言われる可能性はあるかもしれないですね(笑)。
(笑)。たしかに、あどけなさや純真さがアルベールの魅力でもあります。
福山 伯爵に対する憧れの念や、親父に対する不信感、そしてフランツに対する「自分のほうがお兄さんだぜ!」みたいに背伸びをしたがる態度に、アルベールの少年性が出ています。そこに関して、彼は中学校2年生レベルですね。
橋本 僕も中2で止まっているので(笑)、それならできるかもしれない。福山さんのお話を聞くだけで、だいぶ気が楽になったというか、肩肘張らずに演じられるような気がしてきました。

アルベールとフランツのあいだにあるのは、友情か愛情か?

アルベールの親友・フランツ(声:平川大輔)は、アルベールを守るために命をかけます。単なる親友という枠には収まらない感情を抱いていたと考えられ、いわゆるBL的な意味でも心を揺さぶられたファンも多いようです。
福山 僕も、いちばん印象深かったシーンを挙げるなら、フランツが命がけでアルベールを守ろうとする17話と18話ですね。
アルベールを守るため、彼になり代わって伯爵と決闘するフランツ。鎧のなかで血まみれになりながら、アルベールと再会します。
福山 その段階で、僕なんかは「ああ、フランツは死んでしまうんだな」と思って、アルベールもそれを悟っているんだと思いながら演じていたんです。しかし、よくよく彼を分析していくと、満身創痍のフランツを見て泣いているものの、ここに至っても、フランツが死ぬとは思っていないという。
「こんなひどいことが自分に起こるとは信じられない」という風情でしたね。
福山 そう。フランツが息を引き取って初めて、彼が死ぬことを理解する。アルベールというのは、そこまで楽観的、もしくは悲惨な状況が現実味を帯びていない人なんです(笑)。
橋本さんは、アルベールとフランツとの関係性はどう作っていきたいですか?
橋本 僕、この作品で初めて、フランツ役の前嶋(曜)さんと共演させていただくんです。
福山 初共演なんだね!
橋本 はい。だから、まず壁を取っ払わないと、と思って。アルベールとフランツって、「はじめまして」で埋められる間柄じゃないので、稽古の帰りに一緒にご飯を食べに行ったりとか、常に一緒にいられたらなと思っています。大親友よりも、もっと近い関係のふたりですからね。
福山さんは、フランツ役の平川大輔さんとはどんなふうに協力して役作りされたのでしょうか。
福山 当時は、「こいつらのなかにあるのは、友情なのか愛情なのか?」というテーマに関して、演じる側の僕たちが、何かしらの共通見解を持ってそこに向かっていく、なんてことはなかったです。答えは、それぞれが勝手に持っていただけで。
橋本 そうだったんですね。
福山 彼らの抱いているものは友情なのか憧憬なのか、それとも愛情なのか……という問いに対して、明確な答えを共有しないまま作られていた。逆に言うと、確固たる答えがないからこそ、見る側も考察しながら楽しめたし、おのおのの見解にブレがあるからこそ、豊かなものが生まれていたような気がするんですよね。
橋本 (真剣な表情で何度も頷く橋本さん)
福山 フランツがアルベールに対して抱いていたものは親愛の情だったのかもしれないし、あるいは異性に抱くような愛情だったのかもしれない。だけどそこに、肉体的な欲求があったかというと、僕はそれはないのではと考えていました。
福山さんの解釈はそうだったんですね。
福山 思春期というものすごく多感な時期ならではの、すべての感情を混同しちゃうような、ふらふらする感覚。それが極端に出ていたのが、アルベールの伯爵に対する憧憬だし、フランツのアルベールに対する「守らなきゃ」「支えなきゃ」という兄貴的な感情だったのだと思います。

伯爵の側から言えば、失くしたはずのイノセントな部分をアルベールに重ねていたのだと思いますし、それぞれの複合的な愛情が描かれていたことが、いろんな人が『巌窟王』にのめり込んだ要因になったのかな、と僕は解釈しています。
名付け得ないさまざまな感情が入り乱れ、そこを演者や制作陣がそれぞれの理解で作っていったからこそ、観る側にも解釈の余地が広く残されていたということですね。それにしても、みんなフランツが大好きでしたよね。
福山 ええ、みんなフランツにやられていましたね(笑)。僕も、楽しく本番を収録したあと、平川さんから「もお〜〜〜!」って何度も言われました(笑)。「アルベールが勝手なことばっかりして、フランツが大変なんだから!」と。「いや、俺じゃないっすから」って言ってましたけど(笑)。
橋本 (笑)。アルベールとフランツのやりとりを楽しみにされている方も多いと思うので、舞台でも前嶋さんとがんばって、ふたりの関係を構築したいと思います。

25歳の福山潤が悩んでいたのは「どうすれば売れるか?」

「25歳」というキーワードがさきほど出ましたが、福山さんは25歳のとき、何に悩んでいたか、思い出せますか?
福山 25歳か……。「今の俺のやり方で、どうやったら売れるかな?」と、あっけらかんと思ってました(笑)。
橋本 ええっ! そうだったんですか。
福山 別にスターになりたかったわけではないんですが、いろんな作品で、いろんな役を演じたかったんです。アホから始まって天才やヒールまで、毎日違う役をやりたいと思っていました。でもそれって売れなきゃできないわけですから。
そうでしたか。今は、25歳のときに思い描いていた地点にご自身はいらっしゃいますか?
福山 「人生思ったようにいかないよ?」ということですかね、ははは。その頃の僕からすると、この年齢で、アニメでもずーっと一線でやらせていただけるような状態になっているなんて、予想がつかなかった。それこそ、声優という仕事がこんなに尊重される世の中になるなんて思ってもいなかったですし。
橋本 アニメ業界も、今とはまったく違っていたんですね。
福山 声優なんてもともと、今のようにもてはやされるような存在じゃなかったので。僕は今もその感覚でいるので、むしろ、こうしてアニメを、舞台化も含めて多くの方が支持し、演じてくださる方もたくさんいる状況が、僕にとってはできすぎなくらいなんです。だから、もちろんいいこともあるけど、当時自分が思い描いていたこととは全然違うぜ、っていう感覚ですね(笑)。

25歳の橋本祥平の悩みは「あしたが来るのが怖い」

今の橋本さんと同じ年齢のときにアルベールを演じていた福山さんに対して、橋本さんが相談したいことはありますか?
福山 ははは、参考にならない人だぞ俺は(笑)。
橋本 本当にいいんですか……?
福山 年収以外ならなんでもどうぞ(笑)。
橋本 (笑)。さっきおっしゃっていた、福山さんが25歳のときに考えていたことにつながるかもしれないんですが、僕はもう、あしたが来るのが怖くてしょうがないんです。
福山 ほうほう。
橋本 今は2.5次元って、ありがたいことに盛り上がっているので、どちらかというとけっこうバブリーな時期だと思うんです。人気のアニメが多いぶん、舞台化される機会も多くて。そのなかで役者として活動させていただいていることは、すごく恵まれていると思います。
福山 なるほど。
橋本 でも、僕も25歳になり、先輩には「まだまだ若いよ!」って言われるんですけど、下の世代を見ると、才能のある後輩たちがいっぱい育っています。僕はお芝居が本当に好きなので、ずっと続けたいなと思うんですけど、いつまでもこのバブルが続くかわからないし……。
橋本さんほど人気の方でも、不安になるんですね。
橋本 ……いつ仕事が途切れるのかなというのが、年齢を重ねるごとに、めちゃくちゃ怖いんです。もう、ずーっと悩んでいて。
福山さんは、そうした不安はありましたか?
福山 僕はなかったですね。というのも、「仕事はなくて当たり前」と思っていたんです。もちろん、仕事がある状態で「なくなったらどうしよう」とは考えますが、それでも、自分が何も悪いことをしていないのに突然仕事がゼロになるって、逆に今までが何だったの?って思うじゃないですか。
橋本 はい。
福山 僕は声の演技が好きでこの業界に入ってきました。そして、アルベールを演じていた25歳の頃はとくにそうでしたが、背伸びをしないで、そのときできることに全力で取り組んでいました。

たとえば、技術力がついて、演技が巧みになってくる時期ってありますよね。でも、僕は巧みになる前がいちばん重要だと思っているんです。まだ技術がないぶん、そのとき出せるエネルギーでどこまでカバーするか。それが若いときにどれだけできるかで、その先が決まるんだと思う。
橋本 力がつく前こそ、重要な時期ということですね。
福山 そう。僕はそんなふうに考えていたので、売れることや、仕事をいかにしてつなぐか、ということよりも、今あるフィールドで出すべき熱量が出せないまま終わってしまうことへの恐怖のほうが強かったですね。僕らの場合は絵に合わせて声を作っていきますが、その部分の踏み込みを甘くして、聞こえだけよくしてしまったときのほうが落ち込んだことも多々ありました。
橋本 (福山さんの目を見ながら、何度も頷く橋本さん)
福山 支持されていることには理由があって、同じように、仕事がなくなることにも理由があるはず。だから、不安にかられるのなら、なぜ今支持されているかの理由を、ちゃんと分析したほうがいいと思います。年齢によるものなのか、環境の問題なのか。

でも、環境の問題だったら、自分ではどうしようもないことじゃないですか。今活躍しているジャンルの需要がなくなるのだとしたら、形が変わるだけで、演技ができる土壌はなくなるわけじゃないから、別のフィールドにステップアップすればいいんだと思う。
福山さんは、後輩たちの活躍に対する焦りを感じたこともないですか?
福山 たしかに、下からの突き上げが怖いと思う人もいますが、逆に、下から突き上げてくれないと、自分の今のポジションって、一生そのままですからね。
橋本 (ハッとした表情になる橋本さん)
福山 突き上げがあるからこそ、自分もシフトチェンジができる。それを恐怖ととらえるか、チャンスととらえるかで、次の選択肢が変わると思うんです。だから僕、才能のある後輩が出てくると楽しいんですよ。
橋本 福山さんはやっぱり、僕には考えつかないようなことを言ってくださるので、すごく勉強になります。
福山 そして、恐怖を感じるって、ものすごく大事な才能だと思うんです。恐怖を感じない人って、気づかないうちにどこかで踏み外してしまうので。恐怖を感じられるからこそ、逆に恐怖を感じないための手段もわかる。それを模索することが肝要だと思います。
なるほど、私も勉強になりました。福山さんの哲学は、いろんなことを考えさせられますね。
福山 だけど僕、前向きすぎて共感されないんですよ。将来が心配で眠れない――なんていうことがないですからね(笑)。
橋本 羨ましいです。そして、福山さんから大切なことを教わりました。本当にお会いできてよかったです。ありがとうございました……!
福山 潤(ふくやま・じゅん)
11月26日生まれ。大阪府出身。A型。1997年に声優デビュー。主な出演作に『巌窟王』(アルベール・ド・モルセール役)、『コードギアス 反逆のルルーシュ』(ルルーシュ・ランペルージ役)、『青の祓魔師』(奥村雪男役)、『デュラララ!!』(岸谷新羅役)、『暗殺教室』(殺せんせー役)、『おそ松さん』(松野一松役)など。2018年に声優の立花慎之介とともにBLACK SHIP株式会社を立ち上げ、同社に所属。CEOとしての一面も持つ。近年は音楽活動も本格的に展開中。
    橋本祥平(はしもと・しょうへい)
    1993年12月31日生まれ。神奈川県出身。A型。2013年に俳優デビュー。主な舞台出演作品に、ミュージカル『薄桜鬼』シリーズ(斎藤一役)、ハイパープロジェクション演劇『ハイキュー!!』(西谷夕役)、舞台『刀剣乱舞』(太鼓鐘貞宗役)、舞台『幽☆遊☆白書』(飛影役)、舞台『文豪ストレイドッグス』(芥川龍之介役)など。来年には、舞台『デュラララ!!』〜円首方足の章〜(竜ヶ峰帝人役)への出演も控えている。

    公演情報

    舞台『巌窟王 Le théâtre』
    2019年12月20日(金)〜28日(土)
    こくみん共済 coop ホール(全労済ホール〉/スペース・ゼロ
    http://officeendless.com/sp/gankutsu/

    商品情報

    放送15周年を記念して、高画質HDリマスタリング技術によって、豪華絢爛な「巌窟王」の世界が甦る!
    『巌窟王』Blu-ray BOX コンパクトエディション
    2020年2月26日発売
    品番:KAXA-9834/本体価格:¥18,000(税別)
    発売元・販売元:株式会社KADOKAWA

    作品情報

    TVアニメ『巌窟王』
    放送期間:2004〜05年
    企画原案・キャラクター原案・監督:前田真宏
    原作:アレクサンドル・デュマ著『モンテ・クリスト伯』
    シリーズ構成:神山修一
    キャラクターデザイン:松原秀典
    制作:GONZO
    キャスト:中田譲治、福山潤、小杉十郎太、井上喜久子、平川大輔ほか

    アレクサンドル・デュマ(父)の古典『モンテ・クリスト伯』を大胆に翻案し、パンク・オペラとして描かれた作品。幻想の未来都市パリの貴族モルセール家の子息である15歳のアルベールは、大親友のフランツとともに月面都市ルナを訪れ、不思議な魅力を放つ大富豪の紳士、モンテ・クリスト伯爵と出会う。その出会いは、運命を揺さぶる壮絶な復讐劇の始まりだった――。


    ©2004 Mahiro Maeda・GONZO/KADOKAWA
    ©「巌窟王 Le théâtre」製作委員会

    サイン入りポラプレゼント

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    応募方法
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    受付期間
    2019年12月12日(木)12:00〜12月18日(水)12:00
    当選者確定フロー
    • 当選者発表日/12月19日(木)
    • 当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、個人情報の安全な受け渡しのため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
    • 当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから12月19日(木)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただき12月22日(日)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。
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