「我々はタピオカ屋ではない」。タピオカブームへの戸惑いと本音をゴンチャ社長が語る
光沢のある黒色で球状、もちもちとした食感が人気のタピオカ。タピオカをミルクティーに入れた「タピオカティー」は、日本でも多くの人々に親しまれている。
このタピオカだが、90年代、00年代後半と2度にわたって流行し、2018年ごろからブームが再燃。最近では「ドトール」や「タリーズコーヒー」、「ミスタードーナツ」といった大手外食チェーンも参入し、かつてないほどの盛り上がりを見せている。
そんな「第3次タピオカブーム」の火付け役と言われているのが、台湾ティーカフェ「Gong cha(ゴンチャ)」。
2006年に台湾に誕生したゴンチャは、2015年に日本進出。10月末現在、全国46店舗を展開する。赤と白のロゴが目を引く店舗の前には連日、メニュー表を片手に老若男女が長い行列を作っており、まだまだ人気が衰えそうにない。
だが、株式会社ゴンチャ ジャパン取締役社長兼 COOの葛目良輔氏は「我々はタピオカ屋ではない」と、たびたび発言している。
「タピオカブームは早く終わってほしい」とまで語る葛目氏に、その真意を聞いた。
- 葛目良輔(くずめ・りょうすけ)
- 1971年1月3日生まれ。兵庫県出身。B型。明治大学商学部でマーケティングを専攻。大学卒業後、大手電機メーカーに入社。3年で退職し、その後カルチュア・コンビニエンス・クラブ、スターバックスコーヒー、マクドナルドでの経験を経て2015年に株式会社リヴァンプへ入社。台湾発祥のティーカフェ「ゴンチャ」を日本で展開する株式会社ゴンチャ ジャパンの取締役社長兼COOを務める。好きなゴンチャのメニューは、パッションフルーツ阿里山ティーエードにナタデココとアロエをトッピングしたもの。
「ゴンチャ=タピオカ屋」という世間に戸惑い
- 2018年の売上高が前年の約5倍に。現在の成功について、どのように受け止めていますか。
- 今の率直な感想としては、うれしい気持ちと、そうじゃない気持ちが半々ですね。
うれしい部分は、私たちが伝え続けてきた「ゴンチャはティーカフェ」というコアバリュー(企業が重要視する価値観)が、お客様に受け入れられてきたこと。継続的に支持いただいていることで、ゴンチャが多くの方にとっての「スタイル」になってきていると感じています。
その一方で、タピオカブームでくくられている違和感もあります。ゴンチャ=タピオカ屋という認識がいまだなくならず、その方面から火がついた方からの評価や、ご来店に対する戸惑いは消えません。 より自分のリアルな気持ちを言うと、あまり本意ではないですね。
そのため私たちとしては、タピオカブームは早く終わってほしいな、という思いを持っています。
- そもそも、ブームのきっかけは何だったのでしょうか。
- ゼロから何かを生み出すときには、イノベーターおよびアーリーアダプター(初めに商品を試す層)の存在が重要です。
日本にゴンチャが上陸した当初は、韓国や台湾のティー文化好きの方たちに支持いただいたところから始まりました。その方々がイノベーターとなり、その後、女子高生のようなアーリーマジョリティ(流行に敏感な利用者)にお越しいただくようになり、初めてブームとなりました。
しかし、私たちが想定した以上の波でしたね。
急激に訪れた大きな波の中で、ゴンチャが仕掛け人と言われることも多いのですが、それは違います。私たちはタピオカブームを仕掛けようなんて意図はまったくありませんでしたし、たまたまマーケット自体の反響が大きかった、という結果論でしかありません。 - ゴンチャは何も仕掛けていない?
- はい。ブームのために行ったマーケティング施策はひとつもありません。
- ではなぜ、これほどまでに知名度が増したのだと思いますか。
- なぜでしょう(笑)。
ただ私たちは、まず既存店のクオリティを上げることが大切だと思っています。そして店舗数を増やし、商品やサービスを磨き上げることこそが最大のブランディングであり、マーケティング施策だとも思っています。
そのため電波を使って仕掛けるとか、プロモーション施策を打つといったことは、基本的には行っていません。広まったのは、ほぼ口コミの効果だと思っています。
初進出の県なのに、初日にリピーター3割
- ゴンチャがメジャーブランドになったのはいつごろからですか。
- 東名阪と限られたエリアで、20代の10人に1人か2人くらいがゴンチャのことを知っている状態になったのが、去年の春くらいです。
そのころから、タピオカ専門店と言われるようなお店がどんどん増えてきました。今や、どこに行っても同じようなお店が立ち並んでいますよね。 - ですが、その中でもゴンチャの人気は圧倒的です。
- ゴンチャは、他のお店と比べてもリピート率が非常に高いです。高い店舗だと、約70%以上ですね。10人に7人を超える方が、2度目の来店です。
たとえば先日、静岡県に初出店をしました。そこからいちばん近いゴンチャ店舗は東京なのですが、オープン初日と2日目の時点で、ポイントカードを持っているリピーターの方が30%もいらっしゃったんです。東京で飲んだゴンチャがやってくるということで、朝から200人以上の行列ができました。 - お客さんの3割が、すでにゴンチャファンだった。
- 男性のお客様も年々増えて、今では男女比率で約30%になりました。
そういう意味で言うと、当初はアジア(台湾)のブランドだったゴンチャが、日本人の生活圏に徐々に受け入れられてきたのかなと思います。去年の9月に名古屋(愛知県)に進出した際は、リピート率は10%もいきませんでしたから。
それがいま、初出店の立地でも20%も増えたというのは、それだけお客様に支持されてきているということ。そこは純粋にうれしいですね。企業の成長としては目論見通りです。
- ですが、うれしそうな表情ではないですよね…。
- はい。この過熱ぶりは、先ほども言ったように本意ではないからです。
スタッフが喜べない環境は、成功とは言えない
- 手放しで喜べないのは、ゴンチャ=タピオカ屋という誤ったイメージが広まってしまったからでしょうか。
- そうですね。
もちろんお客様に喜んでいただけるという意味では、タピオカ文脈であっても盲目的にうれしいです。でも、それは私たちの望む理想の形ではありません。
お客様に本当の意味で喜んでいただくためには、サービスを提供する従業員も同じくらい喜んでもらいたいと考えています。ゴンチャは、創業当初から「商品を通じて、人と人のふれあいを大事にしたい」という思いを大切にしています。 - スタッフが、最初のお客さんなんですね。
- 私たちの目的は、「1杯のお茶を通じて、お客様の日常に潤いを提供する」ことです。お茶はあくまで手段に過ぎません。そもそも「タピオカが来るぞ」とか「お茶が売れるぞ」というところから始まっていないのです。
そう考えたときに、お客様は外部から来る方だけとは限りません。日々ゴンチャの店舗で働いてくれるスタッフも、一般のお客様同様に大切な存在です。スタッフが喜ばないような、尋常じゃない行列というのは、私たちにとっても喜べないんです。 - 利益が上げられればそれでいい、という話ではない。
- これで「儲かった」と言って喜ぶ経営者の方もいらっしゃるとは思うのですが、少なくとも私たちはその状態を儲かったとは思いません。お客様や従業員に迷惑や苦労をかけている状態ですからね。
だから早くお店を増やして、行列を分散させないといけない。儲けたいからとかではなく、働いているメンバーがきちんと適切なサービスを提供できる環境を作りたいという思いが強いためです。 - では、適切なサービスを提供するため、スタッフの指導はどのように行っていますか。
- 新しいお店をオープンする際は、オフィスで必ず3週間くらいかけてトレーニングを行います。その後、お店の環境下で10日間ほどトレーニングをして、オープンを迎える。1人あたり最低40時間をトレーニングに充てています。
- それは、かなり長いほうかと思います。
- それでも、今のお客様の数に対応するリソースが足りない状況です。
お客様に安定したスピードやサービスをもって、商品を提供するとなると、まだまだ足りない。「他の店舗ではこうだった」とご指摘を受けることもあります。お客様の期待値も高いので日々努力しています。
また年に2回、6ヶ月ごとに全従業員、社員も含めて満足度を調査しています。
「あなたはここで働いていることを誇りに思いますか?」「この職場を友達に勧められますか?」といったロイヤリティに関する質問を40問ほど行い、今より良い環境にしていく方法について、スタッフを交えて一緒に考えています。 - アンケートにはどのようなコメントがあるのでしょうか。
- 基本的にはすべてに目を通すようにしていますが、非常に辛辣でリアルです。
でもそれを地道に続けていくことで従業員満足度(ES)が向上し、顧客満足度(CS)につながり、それが結果的にビジネスの拡大につながると信じています。
従業員のトレーニング、フィードバック、コミュニケーションに時間を費やしていますが、まだリソースがまったく足りません。なぜなら、今のタピオカブームがそれを邪魔しているからです。
私たちはもっと、自分たちの一挙手一投足をコントロールしたいんです。タピオカブームが早く終わってほしい、という言葉にはそういう背景もあります。
全員から好かれることをやめる、という決断
- 繁盛しすぎてしまうのも考えものですね…。ここまでのヒットは予想外とおっしゃっていましたが、日本進出時は、どのようなお店づくりを目指していたのでしょうか。
- ゴンチャが日本進出する際にまず考えたのは、どのお客様からどのように自分たちを認識してもらいたいか?ということでした。
最初にターゲットにしたのは大人の女性で、逆に10代の女の子はそこから外しました。つまり、全員から好かれることをやめたんです。 - なぜそのようなご決断を?
- 全員から好かれるためには、全方位的な商品展開が必要で、圧倒的な経営リソースを要します。
リソースがないところがそれをやろうとすると、結局何屋さんなのかわからなくなってしまいます。 - お店の特色に合わせて、ターゲットを明確にしたんですね。
- そうですね。だから、ターゲットとなるお客様に最適な台湾茶を提供するにはどうしたらいいのか、徹底的に考え抜きました。
その中に、たまたまタピオカがトッピングとしてあった、ということだけなんです。
高校生が行きづらい金額に、あえて設定した
- 値段設定についても教えてください。1杯500円弱と、たとえば女子高校生にとっては少し高い金額ですが…。
- そこが狙いです。
あえて高校生が行きづらいと感じるくらいの値段設定にすることで、彼女たちは背伸びして来てくれる。店の品格も保つことができます。
そうすると、いま高校生のお客様が数年後、大学生や社会人になったときにも継続してゴンチャにお越しいただけるようになる。 - なるほど。斬新な考え方ですね。
- 以前、私がスターバックスで店長をしていた際に、女子高生がドキドキした表情でキャラメルマキアートを頼んでいたのが印象的でした。一方で、商業施設にあるフードコートでは、彼女たちはジュース1杯でいつまでも長居している。
この違いは何だろうと考えた結果、客層に合った「手に届く贅沢」を体験してもらうことが大切だと気付きました。 - あえて少しだけ、敷居を高く設定するんですね。
- 1杯500円という金額は、「この値段に見合ったものを渡せる」という私たちの意志表示でもあります。
一例ですが、ミネラルウォーターが販売されたとき、私は「なぜ水にお金を払うのか?」と疑問に思いました。でも今では、誰もそんなことは思わない。
付加価値さえ付けてあげれば、どんなものでも特別なものになりうるのです。 - ゴンチャの人気ぶりは、見事にその理論を証明しました。
- 私たちが日本市場に来る以前、周囲からは「勝算がない」「難しい」とさんざん言われていました。ですが、そんなことはまったくあてになりません。
たとえば以前、とあるシンクタンクが「日本のタピオカ市場は18億円だ」というレポートを出しました。しかし蓋を開けてみれば、去年のゴンチャの店頭売上は、その市場規模を超えています。周囲の意見がいかに的外れだったのか、よくわかると思います。
女子高生に向けた施策は行わない
- ゴンチャの存在や価値を高めてくれたのは、流行に敏感な女子高生たちなのかと思っていました。
- 女子高生ではないですね。その層とは一線を画した、20代以上のお茶好きな女性たちが火をつけました。いまゴンチャで働きたいと話す層も同じです。
彼女たちはタピオカではなく、「お茶が好きなんです」と言っています。 - ティーカフェとしての、ゴンチャに魅力を感じているんですね。
- そうです。
だから、ゴンチャではタピオカ文脈で動く女子高生に向けた施策は行いません。あくまでメインはティーですからね。コーヒーは嫌いだけどカフェが好きな方々に、ひとつの新しい選択肢としておいしいお茶を届けたいと思っています。
そして自由に味をカスタマイズできる楽しさと、スタイリッシュな空間を通じて、価値を提供していきます。カジュアルなドリンクスタンドと、格式あるティーサロンの中間のようなお店をイメージしました。 - タピオカではなく、あくまでカフェの業界で勝負するということですよね。
- はい。
タピオカドリンクの世界でトップを取ったとしても、頑張って数十億でしょう。ですがカフェ業界の中でニッチなプレイヤーとしての地位を確立できれば、数百億になるかもしれない。
だから私たちは、いくつもあるタピオカ専門店とは一切戦わないようにしています。
カフェチェーン店がタピオカドリンクを導入した結果、売上が増えているケースもあるようです。 - 現在のタピオカの人気はすさまじいですからね。
- だからこそ、「なんちゃって」でやらないでくださいとお願いしています。タピオカの中には、レンジでチンしたらできてしまうものもあるので、カフェチェーンがタピオカを提供するなら、真剣にやっていただきたい。
私たちは各店舗で1時間しっかりと調理して、コストも手間もかけている。クオリティと本気度は絶対に差別化できると思っています。 - カフェのお話が出ましたが、ゴンチャは店内で過ごすというより、テイクアウトがメインの印象です。
- もちろん、イートインにも力を入れていますよ。
ただ、飲食店だから座って食べたり飲んだりするという考え方自体が、もはやいまの私たちの主要顧客にはあまりないのではと思っています。 - それはなぜでしょう。
- いまや、スマホを見ながらご飯を食べるのが普通です。
「〜しながら」が当たり前になっている世の中で、店内で食べることはもう主流ではなくなってきている。であれば、その部分もお客様のほうでカスタマイズしていただきたいというスタンスです。
私たちはあくまでも500円前後で得られる30分くらいのエンターテインメントを提供しているのであって、そのコンテンツをどう使うかは、お客様にお任せしています。 - 楽しみ方も、お客さんが自由に選べるということですね。
- ただ、私たちはおいしさには徹底的にこだわります。お客様にお願いがあるとしたら、「1時間以内に飲みきってくださいね」くらいですね。
5年10年かけてゴンチャの価値を伝えていく
- ゴンチャのティーカフェとしての思いが、よくわかりました。ただ、ゴンチャ=タピオカ屋というパブリックイメージが根強いのも事実です。このギャップを、どのように是正していきたいですか。
- メディアの方々からタピオカブームや女子高生、といった文脈で取材をご希望されることも多いのですが、こちらの意図と異なる場合はお断りしています。そうした積み重ねも、イメージを変えていくための方法だと思っています。
- なるほど。
- 私たちは、日本上陸当初から自らの業態を「台湾ティー」と表現し続けてきました。
上陸した時は日本のマーケットに「台湾ティー」というジャンルも呼称も、ほとんど存在していませんでした。4年が経ったいま、「台湾ティー」という文化が浸透し、ジャンルとして確立されて、いろいろな場所でこの表現を目にするようになりました。
いまは、ゴンチャ=タピオカ屋のイメージを持たれているかもしれませんが、世の中の流れというのはいずれ変わってくると思っています。 - そのときを待つスタンスなのですね。
- もちろん、待つだけで何もしないわけではありません。私たちのことを皆さんに正しく認識していただくために、台湾茶の良さを啓蒙していくつもりです。
ただ、コントロールできないことは気にしない。自分たちの商品クオリティ、サービス戦略だけはコントロールできるので、そこに集中するだけです。
タピオカが好きな方たちも含めてお茶好きの方々に支持されるゴンチャになることを、1年2年ではなくじっくりと、5年や10年かけて積み重ねていきたいですね。
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