「伝わったらいいな」が「伝えねばならない」に変わった。須田景凪は今、ひとりではない

2013年からボカロP・バルーン名義で、ニコニコ動画(以下、ニコ動)に楽曲の発表を開始した須田景凪。ギターとパソコンだけを携えた、「ひとり」での出発だった。

そうして作曲した『シャルル』のセルフカバーがYouTubeで4000万回再生を突破するなど大ヒットを記録。JOYSOUNDの2017&2018年の年代別カラオケランキング・10代部門では、同曲が2年連続1位を獲得し、まさしく“世代の歌”となった。

ボカロPとしてひとつの頂点を極めたバルーン。彼が自ら歌を歌うソロアーティストとしての名義が、この須田景凪だ。新たにリリースされる2ndEP『porte(ポルテ)』にはTVアニメ『炎炎ノ消防隊』エンディング主題歌『veil』、映画『二ノ国』主題歌『MOIL』と、大型タイアップ曲も収録。早くもメジャー音楽シーンで話題となっている。

須田はひとつひとつの言葉を慎重に選びながら、自ら歌うという決断について、メジャーデビューしてから訪れた「もうひとりではない」という意識の変化について教えてくれた。

取材・文/照沼健太 ライブ写真撮影/Taku Fujii

ライブで受け取った「ひとりじゃない」という意識

ネット中心の活動だったバルーン名義に対し、須田景凪としてはより活躍の場がリアルに広がっています。どのような変化を感じていますか?
いちばん大きいのは、聴いてくれている人たちのリアルな反応を得られることですね。これまではツイッターのリプライなど画面越しの反応が中心だったので、ライブで歌を歌って、目の前でみんながリアクションしてくれるコミュニケーションは本当に大きな変化です。

ただ、街頭ビジョンでMVが公開されたり、映画主題歌を作ったり、活動の規模が大きくなっていることに関しては、正直実感が湧かないことのほうが多いですね。
メジャーデビューせずに活動するアーティストも増えてきています。そんな中で、須田さん自身は、何を求めてメジャーデビューを決意したのでしょうか。
ボーカロイドでは出せない部分を出したかったというのが大きいですね。ひとりだったときはできなかったことも、たくさんあるんです。とくにライブなんかは、ひとりではできない代表的なものですね。
「ひとりだった」という言葉が印象的です。逆に、今は「ひとりじゃない」という感覚があるということですか?
はい。いろんな人に支えられていることを実感しています。ライブだって、ステージ上の自分からは見えないところで、いろんなことが起こっているはずで、いろんな人たちに支えられているはずなんです。それを自覚する必要があるし、それを腹に落としながら活動をする必要があると感じています。

メジャーデビューすることで、より広く聴いてもらいたいという気持ちも、もちろんありました。ひとりでネットに音楽をアップしていた頃には、曲を広めていくということに現実味がなかったんです。アップしたものを誰かが聴いてくれるだろうという、ある意味、受動的なやり方でした。

でもメジャーレーベルと契約したことで、その宣伝力によって自分の音楽を伝えることが現実的になった。「伝わったらいいな」という気持ちが「伝えなければならない」に変わりました。

「正解は提示したくない」聴き手に音楽を委ねる理由

映画『二ノ国』主題歌『MOIL』といったタイアップ作品の制作も、須田景凪名義になってからの変化かと思いますが、戸惑いはありませんでしたか?
これまでも、映画を観てその続きを勝手に想像して音楽を作るといった二次創作的な曲作りをしていたので、戸惑いを覚えたり、タイアップだからこその制限を感じたりはしませんでした。

ただ、やはり正式なタイアップとなると、自己解釈だけではいけないのも事実なので、そこには気を遣いましたね。主に歌詞の部分で、解釈違いなどのイメージの乖離が少ないように、説得力を持たせるよう意識しました。

「ちょっとズレてきたかな?」と思ったら脚本を読み直して軌道修正したり、そういう意味ではたまに行う二次創作的な曲作りよりは大変でした。
音作りの面で気を遣った部分はありますか?
『MOIL』の場合、『二ノ国』はもともとゲームなんですけど、自分もPS4で遊んでいた作品だったんです。だから、ストーリーや作画、デザイン、久石譲さんの音楽、どれも良かったから、そのバランスを絶対に崩さないようにしたいと思いました。
そのうえで「自分の色も残したい」っていうのが挑戦でしたね。そして、エンドロールで余韻に浸れるものにしたいと思いつつも、CMでも流れる“いろんなところで耳にする音楽になる”と思ったので、ちょっと違和感のある、ひっかかりのあるものにしたいとも考えました。
それらの条件すべてをクリアするのは、とても難しそうに感じます。
デモの時点で、5〜6曲くらいは書き下ろしました。それらの中で『MOIL』がいい意味で違和感があると思ったので、形にしていきました。
そんな『MOIL』が収録された新作EP『porte(ポルテ)』がリリースされます。この作品にはどんな須田さんの気持ちが反映されていますか?
前作の『teeter』は初めてのライブで皆さんから受け取ったものを、そのときできる形で、最大限に表現した作品でした。初めてのライブということもあって、自分に余裕がなくて、漠然と「何かを受け取った」という感覚だったんです。

でも『teeter』発表後のツアーでは多少の余裕ができて、お客さんの顔も見れるし、いろんな言葉も聞き取れるようになって、より多くのものを受け取れたと感じました。

そこで、自分がどういうアーティストになっていきたいかを考えたときに「ホールでライブがしたい」とかじゃなく、「日常に溶け込むような、いい距離感で聴き手に寄り添う音楽でいたい」と思ったんです。
そんな気持ちが今回の『porte』には詰まっているわけですね。
はい。『porte』は“プレタポルテ(既製服)”のポルテから取ったタイトルなんです。何に合わせて着てもいい。巻いてもいい。着ないなら放っておいてもいいっていう、聴き手に委ねてる感じですね。歌詞もどう解釈してもらってもいいと思っています。
正解のようなものを提示したくない、と?
自分自身、何かの曲を聴いたり、漫画を見たりして「これってこういう解釈なのかな?」って頭の中で二次創作のようなことをするタイプなんです。

一次創作者が「これはこういう意味です」って決めつけすぎてしまうと、たしかに説得されるし納得はするけど、それ以上自分の中で広げる楽しみがなくなっちゃうというか。それってすごくもったいないなと、昔から思っていたんです。

譲れない部分を担保するために、須田景凪は生まれた

そういう「相手に委ねる」スタイルは、ボカロ曲をいろんな人が「歌ってみた」りするのに通じるのでしょうか?
そうですね。バルーン名義の曲に関しては、ボーカロイドの音楽でもあると同時に歌ってみた前提で、誤解を恐れずに言うと“二次創作前提の音楽”として作っていました。

一方で須田景凪という名義は、聴き手に音楽を委ねながらも、声、抑揚、エモーショナルな部分など、二次創作されたくない領域を担保するために作ったような部分はありますね。
そういった“譲りたくない部分”というのは、須田さんの中に昔からあったのでしょうか?
昔からあったといえばありました。もちろん好きなボーカリストが自分の曲を歌ってくれるのはすごくうれしいんですけど、同時に、曲の正解は作曲者が持っているというのも、間違いないことだと思うんです。とくに感情の表現の部分で。
バルーン名義の『シャルル』をセルフカバーしたのも、そうした部分を担保したかったからですか?
それはありますね。ただ、気にしすぎと言われるかもしれないけど、バルーン名義の『シャルル』を須田景凪が歌うのも、正確には二次創作なんですよね。あれはバルーンが作った、v flower(ボーカロイドのひとつ)のための曲だから。
複雑ですね。
『雨とペトラ』っていう曲は、v flowerだけのための曲だと思って書いたのでセルフカバーしていないんです。
それは些細な違いかもしれないけど、絶対に譲れないことで。でも、自分の中でもその違いがややこしくなってきて「これは健全ではない」と思ったので、須田景凪という名義が生まれました。
今回の『porte』では、須田景凪名義だからこそできたことはありますか?
こっちの名義だからというよりも、『teeter』やそのツアーを終えたからこそできたことがあるという印象ですね。

たとえば『MOIL』では、編曲を初めて、トオミヨウさんという自分以外の方と共同で制作しました。あの曲は違和感を生むために曲構成もあえていびつな感じにしているんですけど、「初めて聴くには親切な曲ではない」とデモの段階で思っていたんです。

でも、そのときの自分はそれをうまくまとめる術を持っていなかったので、トオミさんのスタジオで一緒にひとつひとつ「こうしたほうがいいんじゃないか」と話し合いながら音を作っていきました。

これは『teeter』以前だったらできなかったことですね。レコーディング前の段階で、誰かと一緒に音楽を作るのは好きではなかったし、あまりポジティブにできる行動ではなかったんです。

でも、今回はすごくそれを前向きにできたんです。『語るに落ちる』っていう曲も、ギターの弾き語りの状態で曲を他の人に委ねる、っていう、それまでいちばん怖かったことを、あえてやってみようと思えました。そうして完成した曲を、違和感なく受け入れられたことは、大きな変化なのかなと思います。

盟友・アボガド6は「優しく芯のある人」

『porte』特典のルックブックを手がけているのは、盟友とも言える人気イラストレーターのアボガド6さんですが、おふたりの交流はいつから?
もともとは僕が一方的なファンだったんです。でも、ある日、アボガド6さんが自分の曲を聴いてくれているという噂を聞いて、ダメもとで連絡してみました。そうしたら、自分の曲を聴いて、キャラクターを6種類くらい作ってラフを送ってくれたんですよ。それがすごいカッコよくて、逆に「次はこのキャラクターの曲を書きたい」と僕が思って、曲を書いて…とつながっていって、色々と映像を依頼し始めたんです。
やり取りはネット上で行っているのでしょうか?
そうですね。基本はSlackやLINE、Skypeなんかを使っていますけど、最近は僕のスタジオで一緒に作業することも多いです。アボガドさんがタブレットを持ってきて、僕は音を出したりなんかもしながら。
『porte』の特典の「ルックブック」は、どういったコンセプトなのでしょうか?
今回『porte』にはプレタポルテという作品コンセプトがあるので、「アートブック」ではなく、ファッションでいうシーズンごとのカタログという意味で「ルックブック」にしたいと思ったんです。

作品全体を表現した絵のほか、『veil』や『MOIL』といった各楽曲の絵も描いてもらっています。意識したのは「手にとって見てもらいたいもの」にすることですね。

今って音楽を聴くだけなら配信で済んでしまう時代なので、作品をCDという形として残すなら、こういう楽しみ方じゃないともう成立しないと思うんです。だからモノとしてのこだわりを詰め込みました。
イラスト制作に関しては、基本的にアボガド6さんにおまかせしているのでしょうか。
100パーセントおまかせのときもあるし、逆にゼロから完成まで、逐一進捗を共有して作る場合もあります。「そこの線、ちょっと細くして」とか「そこの色を3パーセント下げて」とか、ずっと細かく指示させて頂くこともあります。
アボガド6さんも非常に謎の多い方ですが、須田さんから見て、どんな方ですか。
どこまで話していいかわからないんですけど…僕が見てきた中で、いちばん優しい人ですね。それでいて、こだわるところは絶対に曲げない、芯のあるアーティスト気質な方だと思います。作家としては発想がすごく柔軟で、ひとつのモチーフから広げていく力が素晴らしいです。
アボガド6さんのほかに、ボカロや歌ってみた周辺で交流の深い方はいらっしゃいますか。
シンガーソングライターの神山羊(ボカロPでの名義は「有機酸」)とは仲良くしていて、今でも頻繁にLINEしたりしますね。ここであえて話すようなことじゃない、他愛のない会話ですけど(笑)。

『シャルル』の大ヒットは、予想外だった

ボカロPとしてその名を広め、今ではソロアーティストとして活躍する須田さんですが、中学〜大学に入るまではドラムをやっていたそうですね。
中学のときにお年玉で安いベースを買って、何もわからず適当に触っていたことはあったんですけど、最初にまともに始めた楽器がドラムでした。そこからずっとバンドをやっていたのですが、大学時代にドラムを売って、パソコンとギターを買ってひとりで曲を作り始めたんです。
バンドを辞めてひとりで音楽を作ろうと思った理由とは?
バンドメンバーとして「ここのメロディーはこう下がったほうがいいと思う」とか「ここのコードはもっと切ないほうがいいと思う」ってアイディアを伝えたときに、何も受け入れてもらえなかったんです。そうした経験が積もっていって、言いたいことがあるなら自分で曲にしたほうが早いと思ったんです。
なるほど。
そうした気持ちやアイディアを、ちゃんと作品にしてあげたいという思いがすべてでしたね。だから「曲を作りたい」というのがいちばんの目標で、むしろそれ以外のことは考えていませんでした。ライブしたいとか、CD作りたいとか、そうした気持ちはありませんでした。
ドラムを売ってパソコンとギターを買ったとのことですが、キーボードではなくギターを選んだ理由は?
バンド時代はギターボーカルの人と一緒に動いていたので、目の前でギターで曲を作るというのを見ていたから馴染み深かったんです。当時もダンスロックみたいな音楽をやっていたので、自然な流れでしたね。

自分で歌わなかったのも、単純に歌ったことがなかったから。自分で歌うという発想自体がなかったんです。ニコ動をいつも見ていたので、自然に「ボーカロイドがあるじゃん」と思いました。
『シャルル』のヒットはひとつの転機だったのではないかと思うのですが、作曲者として「これはヒットしそうだ」という予感はありましたか?
いえ、「ヒット曲=いかに歌いやすいか」だと思っていたので、正直意外でしたね。決して歌い手にとって優しい曲ではないし、そんな曲がカラオケ定番曲になったことには驚きました。
予想外のヒットだったんですね。
『シャルル』を出す前って、それまで何年も曲を作ってみて、自分のやりたいことと受け入れてもらえるもののバランスがよくわからない時期だったんです。でも『シャルル』はある種のウケなどを考えずに、当時の自分のやりたいことや、自分の好きなものを詰め込んだ曲でした。

それがヒットしたので「何をやってもいいんだ」という、許された感がありました。自分がやりたいことをやるのがいちばん健全だし、聴いている人もそれを望んでいるのかなって。
しかし『シャルル』に限らずボーカロイドや歌ってみたのヒット曲は、上の世代にはあまり知られていないという、世代間の断絶が根強くあるように感じます。制作において、そうしたギャップを意識することはありますか?
自分はあまりそうしたことを意識して曲を作ることはないですね。ただ、『シャルル』を振り返って聴いてみると、J-POPやJ-ROCKでもあるんだけど、ポストロック的要素も含んでいる。元気なときじゃないと聴けない、耳が疲れる音楽でもあると思うんです。

だから若い年代の人たちが聴いてくれているのも納得はいくんですけど、若い世代に向けて曲を作っているわけではなく、自分にあるのは「いろんな人に聴いてもらいたい」という気持ちです。

だから今回の『porte』には、『語るに落ちる』や『青嵐』などに顕著ですが、より広く聴いてもらえる作品になったらいいなと考えながら作った曲も入っています。あらゆる世代の人に、手に取って聴いてもらえたらうれしいですね。
須田景凪(すだけいな)
2013年より“バルーン”名義でニコニコ動画にてボカロPとしての活動を開始。『シャルル』『雨とぺトラ』『レディーレ』と次々にヒット曲を投稿。『シャルル』のセルフカバーはYouTube で 4000万回再生を突破し、2017&2018年の年代別カラオケランキング・10代部門では2年連続1位を獲得した。2017年10月、自身の声で描いた楽曲を歌う“須田景凪”として活動を開始。2019年1月、1st EP『teeter』をリリース。作詞、作曲、編曲すべてを手がける新世代のアーティストとして注目されている。

CD情報

2nd EP『porte』
8月21日リリース


左から初回限定版[CD +DVD +40Pルックブック付]、通常盤[CD]

初回限定版[CD +DVD +40Pルックブック付]
¥3,000(税抜)

通常盤[CD]
¥1,500(税抜)

サイン入りポスタープレゼント

今回インタビューをさせていただいた、須田景凪さんのサイン入りポスターを抽選で3名様にプレゼント。ご希望の方は、下記の項目をご確認いただいたうえ、奮ってご応募ください。

応募方法
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受付期間
2019年8月22日(木)18:00〜8月28日(水)18:00
当選者確定フロー
  • 当選者発表日/8月29日(木)
  • 当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、個人情報の安全な受け渡しのため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
  • 当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから8月29日(木)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただき9月1日(日)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。
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