7年連続“右肩上がり”には理由がある。劇場版『名探偵コナン』、メガヒットの舞台裏

たったひとつの真実見抜く、見た目は子ども、頭脳は大人――。

今や誰もがこのフレーズを聞けばピンとくるに違いない。そう、その名は『名探偵コナン』。

1994年に漫画家・青山剛昌が生み出した原作漫画は一大メディアミックス作品へと成長。日本はもちろん世界中で親しまれているメガヒットコンテンツである。

中でも今、快進撃を続けているのが劇場版『名探偵コナン』シリーズだ。昨年には安室透フィーバーで劇場版『名探偵コナン ゼロの執行人』が大ヒット。興行収入91.8億円というシリーズ最高の成績を収めた。ところが今年、23作品目となる『紺青の拳(フィスト)』がその記録を塗り替えようとしている。実現すれば7年連続でシリーズ最高興行収入を更新することに。この右肩上がりの状況はいったい…?

劇場版『名探偵コナン』に今、何が起きているのだろうか。これまでの偉業、証言の数々を振り返りながら、その理由を推理していく。

文/小松良介 撮影/西田周平
▲現在公開中の『紺青の拳』。6月24日時点で興行収入90億円を超えるヒット中だ。
©2019 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

原作は国民的メガヒット漫画。劇場アニメ化までの歴史

青山剛昌が『週刊少年サンデー』(小学館)で推理漫画『名探偵コナン』の連載をはじめたのは1994年。連載25周年を迎えた現在、単行本は96巻を刊行。累計発行部数は全世界で2億3000万部を超える。
主人公は高校生探偵の工藤新一。幼馴染みの毛利蘭と遊園地に遊びに行って、黒ずくめの男たちの取り引き現場に遭遇した新一は、口封じのために試作段階の毒薬を飲まされてしまう。一命は取り留めたものの、薬のせいで小学生の体になってしまった。正体を隠すために「江戸川コナン」と名乗った新一は、数々の難事件を解決していく。
▲1994年に発売されたコミックス第1巻。表紙は江戸川コナン、裏表紙は工藤新一だった。
©青山剛昌/小学館
“黒ずくめの組織”にまつわる謎、新一と蘭といったキャラクターたちの恋愛模様、服部平次や怪盗キッド、赤井秀一、安室透などコナンを取り巻くライバルとの関係。ミステリー、ラブコメ、アクション、複数のエンタメ要素が絶妙なバランスでミックスされていることが『名探偵コナン』の魅力だろう。
『名探偵コナン』がテレビアニメ化されたのは連載開始から2年後の1996年。そして放送開始の翌年、1997年に初の劇場版『時計じかけの摩天楼』が公開される。アニメの評判は放送スタート当初から良かったが、当時はシリーズ化など想定外。とにかく面白いものをと全力で取り組んだ結果、2本目へとつながったという。
▲1997年に公開された劇場版シリーズ第1作『名探偵コナン 時計じかけの摩天楼』。
©1997 青山剛昌/小学館・読売テレビ・ユニバーサル ミュージック・小学館プロダクション・TMS

代謝を図り、常に新しい面白さを追求する制作陣

劇場版シリーズはテレビシリーズと並走するかたちで毎年4月に新作を公開。今年の『紺青の拳』で23作品目(2013年『ルパン三世VS名探偵コナン THE MOVIE』は除く)を迎えた。
テレビ版との大きな違いはオリジナルストーリー。原作者の青山が全面的に制作に関わり、劇場版ならではのスケールの大きな事件、ドラマチックな展開で描かれるストーリーは毎年大きな反響を呼んできた。
興行成績は『時計じかけの摩天楼』の11億円を皮切りに、シリーズを通して好成績を残している。とくに2011年の『沈黙の15分(クォーター)』以降は、現在に至るまで興行収入は常に右肩上がりをキープ。2015年の『業火の向日葵(ひまわり)』(44.8億円)からの飛躍はめざましく、歴代の邦画アニメランキング(海外アニメ作品を除く)には『ゼロの執行人』、『紺青の拳』がそれぞれトップ10にランクインした。
好調の背景には制作スタッフの世代交代も関係している。右肩上がりの起点となった『沈黙の15分』からは、静野孔文(代表作に劇場アニメ『GODZILLA』3部作など)をシリーズの3代目監督に起用(翌12年『11人目のストライカー』までは前任の山本泰一郎が総監督を務めるW監督体制だった)。
北米を拠点に活動し、3DCGアニメに精通する静野監督は、観客の感情をコントロールするハリウッド的なシナリオ構築を取り入れるなど、新しい制作システムを浸透させた。その結果、アクションやドラマパートにメリハリが生まれるなど、エンターテインメント性の向上に成功した。
▲2013年公開の『名探偵コナン 絶海の探偵(プライベート・アイ)』。09年の『漆黒の追跡者(チェイサー)』以来、4年ぶりにシリーズ最高興行収入を更新。ここから「興行収入最高記録更新」の伝説がはじまった。
©2013 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会
こうした路線は昨年『ゼロの執行人』の立川譲監督、今年『紺青の拳』の永岡智佳監督にも受け継がれている。ふたりはアニメ監督としては若手に属する80年代生まれ(立川は1981年、永岡は1983年生まれ)で、それぞれが初の劇場監督作品。今後の活躍が期待される。
また、永岡は劇場版シリーズ初となる女性監督としても注目を集めており、劇場版『名探偵コナン』に新しい風を吹き込んだ。同シリーズは今なお進化を続けている。
▲昨年公開の立川譲監督が手掛けた『ゼロの執行人』は、安室透の一大ブームも手伝い、劇場版シリーズを次のステージに押し上げた。
©2018青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

20年以上のロングシリーズを支える、声優たちの証言

劇場版アニメがこれまでにさまざまなチャレンジを続けてこられたのは、キャラクターの命とも呼ぶべき声を、声優たちが足並みをそろえて保ち続けているからだろう。ライブドアニュースでは、長年にわたって『名探偵コナン』のキャラクターを演じてきた声優たちにフォーカスを当ててきた。
高山みなみ(江戸川コナン役)と山口勝平(工藤新一/怪盗キッド役)による対談は、コナンとキッドの距離感について語り合った。
仲良しではないけれど、信頼して背中を預けることができる――。探偵と怪盗というライバルでありながら、ときには共闘関係を結ぶこともある。長年、共演するたびに探り合ってきたふたりの理想的な距離感が、今回の『紺青の拳』にはあるという。
神谷明からバトンタッチして今年で10年目。『名探偵コナン』の愛すべきろくでなしキャラクター、毛利小五郎を小山力也はどのように見つめているのか。
普段はお調子者で、利己主義の塊のような男。けれど、芯の部分では他人の幸せをちゃんと考えられる懐の深さを持っている。役に向き合い続ける中で芽生えてきたキャラクターへの信頼感。時折出てくる小五郎への軽口には、小山のそんな思いが見え隠れしていた。
昨年の『ゼロの執行人』の最重要キャラクターであり、社会現象を起こした安室透。声優人生50年以上の輝かしいキャリアを持つ古谷徹をしても、この展開はまったく予想がつかなかったという。
安室透、バーボン、降谷零という3つの“顔”を持つ男。清濁あわせ持ったこのキャラクターを、古谷はこれまでに培ったすべての経験を活かして向き合っている。「彼のおかげでまだまだ成長できる」と語るレジェンド声優の胸中を探った。

作品とファンを結びつける、ヒットの仕掛け人

制作スタッフたちの努力によって素晴らしいアニメが作られ、声優たちの熟練の演技によってキャラクターに命が吹き込まれる。劇場版『名探偵コナン』がヒットする理由は明らかだ。
しかしもうひとつ、今の劇場版『名探偵コナン』の快進撃を語るうえで忘れてはいけない存在がある。最後の1ピース、それは「宣伝」だ。
たとえば『純黒の悪夢(ナイトメア)』では“黒”というキーワードの1点突破で歌手の松崎しげるにコラボを持ちかけ、従来のファン層とは異なる新たな層に接点をもたらした。また、『ゼロの執行人』では90年代に生まれたヒロイン・毛利蘭に現代のJK(女子高生)用語をしゃべらせることで時代のギャップを話題性へと転換。近年、SNSを中心に盛り上がっている劇場版『名探偵コナン』の施策の数々。これらの仕掛けをたどっていくと、ひとりの人物へと行き着く。
東宝株式会社・林原祥一。13年の『絶海の探偵』から劇場版『名探偵コナン』の宣伝プロデューサーに就任以降、数々のユニークなプロモーションで話題を集めてきた。現在に至るまで、同シリーズが右肩上がりを更新している背景には、こうした作品を“外側”で支えるプロモーターの功績がある。
今の時代、あらゆるエンターテインメントにとって宣伝は必要不可欠な存在だ。そしてその手法も、ただ伝えたいメッセージを一方的に流すだけでは通用しない。宣伝も作品の一部と考え、ファンと一緒に楽しむ装置へと変容しつつある。
メガヒットは一朝一夕では作れない。​​ライブドアニュースでは、この特集を締めくくる最後のキーマンとして、林原祥一氏に取材を敢行。インタビュー記事はこちら

映画情報

劇場版『名探偵コナン』紺青の拳(フィスト)
4月12日(金)よりロードショー中
公式サイト
Twitter(@conan_movie)
©青山剛昌/小学館
©1997-2019 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会
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ライブドアニュースのインタビュー特集では、役者・アーティスト・声優・YouTuberなど、さまざまなジャンルで活躍されている方々を取り上げています。
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