キーワードは“ダサカッコいい”。『青春アミーゴ』のzoppが作るジャニーズ楽曲の特徴
亀梨和也と山下智久のユニット「修二と彰」が歌った『青春アミーゴ』、山下智久の『抱いてセニョリータ』など数多くのジャニーズ楽曲の歌詞を手掛けてきた作詞家・zopp(ゾップ)。高校時代の留学中に訳詞をしたことで歌詞の世界の奥深さに触れたのが作詞との出合いなのだとか。
彼の書く歌詞は歌い手の魅力を不思議な角度から照らし出す。『ミソスープ』(テゴマス)や『サヤエンドウ』(NEWS)などタイトルの時点でかなり個性的だ。
しかし、それによって浮かび上がる楽曲の主人公像はどこか懐かしく、人間味に溢れ、若者だけではない幅広い世代を惹き付ける。
そんな彼が今、邦楽の歌詞には“あるもの”が足りないと語る。
訳詞から始まった作詞への道。ボツになった曲は200曲以上
- zoppさんが作詞を始めたのはいつ頃でしょうか?
- 最初に作詞に興味を持ったのは高校生のときでした。両親に留学しろと言われてアメリカで1年間ホームステイしたんです。言葉も何もわからない状態でしたが、ホストファミリーに「何が好きなの」と聞かれて、「サッカーと音楽」と答えたんです。
どんな音楽が好きなのか聞かれたので、「洋楽」と答えると「言葉を理解できないまま音楽だけ聴くのはもったいない」と言われて、まず訳詞から始めることにしました。 - どんな洋楽の訳詞をしてたんですか?
- 当時アメリカで流行ってた曲をただひたすら訳詞していました。いざ訳してみたら日本の曲と全然違うことに驚きました。ざっくり言うと“深堀り”できるんです。
日本の楽曲はもっとシンプルですが、向こうは自分自身との深い対話、文化や宗教、戦争がテーマになっていることが多くて、まるで一冊の本を読んでいるような気分になりました。
中でも自分に響いたのはアイルランドのロックバンド・U2ですね。調べれば調べるほどテーマの重い歌詞というか、戦争だったり死がテーマになっていて。彼らがすでに長いキャリアを持っていたのもあって掘り下げる甲斐がありました。
- その頃、母からカセットで当時の日本の流行曲が送られてきたんですけど、あまりにもそれがチープに感じられてしまって。なんでこう、浅いものばかりなんだろうと。まだ自分も若かったからだと思うんですけど、その頃の自分にとっては、海で言うなら水面しか映していないような歌詞に感じました。もっと深いところにいろんなものがあるのになと思ってましたね。
それで訳詞をしていくうちにだんだん楽しくなってきて自分でも作詞を始めたんです。メロディーに合わせてその日の出来事とか思ってることを言葉にしたりして。なので“にわか”ではありますが、作詞は16歳のときに始めたことになりますね。 - 日本に帰国してからはどんなことをしていましたか?
- 普通に大学を卒業して、音楽関係の会社に就職しました。最初は音楽ディレクターとしてCM音楽を作ったり、ミュージシャンのブッキングとかどちらかといえばクリエイターを売る側の仕事をしていたんです。
そんな中、いろんなレーベルの方と知り合ううちにたまたまシンクロした方が何人かいて。その方に趣味で作詞をしてることを伝えると、「やっちゃえばいいじゃん」みたいな感じで勧められて。その人が窓口の仕事をいくつか引き受けたり、コンペなどにも参加しました。でもなかなか決まらなくて200曲くらいはボツになったと思います。それが1年以上続いて。
『青春アミーゴ』はおじさま方が泣きながら歌っていた
- 2005年に「修二と彰」の『青春アミーゴ』でいきなり大ヒットを飛ばしますよね。一体この作詞家は誰なんだ、など言われたそうですね?
- 言われましたね。それまでに何曲か担当してはいましたが表題曲は初めてでしたし、ペンネームだったので有名な作詞家の変名なんじゃないかとか。あと、作曲家に外国人の名前がたくさん並んでいたので、海外の人が書いたものを日本人の誰かが翻訳したんじゃないかとか。
- 匿名性のある名前ですもんね。
- そうですね。今ではありふれてますが、意外と僕が“はしり”なんじゃないかな。zoppというのは高校時代から使ってるペンネームで、一番好きなU2のアルバム『ZOOROPA』(1993年)からZとOとPを取ったものです。
- ここまでのヒットは予想していましたか?
- 当時、人気のあるふたり組だったので、ある程度は売れるだろうとは思ってました。でも、周りでは賛否両論で「すごく良い」って言う人と「絶対売れない」と言う人とはっきり分かれてて。
僕はどちらかというとマイナス思考なので、じゃあ売れないんだ、どうしようっていうプレッシャーばかりがありましたね。
そんなことを思いながらCDの発売日に渋谷のCDショップに行ったんです。そしたらフロアのどこにも置いてなくて、コーナーも設置されてない。なんだこれはと(笑)。 - 置かれてすらいなかった…(笑)。
- 仕方ないのでレジに行くとディスプレイ用のケースが1枚だけ置いてあって。店員さんに聞いたら「実は入荷したものが全部売れちゃったんです。売り切れたものを表に置いておくわけにもいかないので、これしかないんです」と言われて。
- 発売日に完売なんて今では考えられないですよね。
- 僕の人生でもそういうことはあのとき以来ないですね。たくさん売るつもりで作ったものが、それ以上にたくさん売れるっていうのはなかなかないですよ。
- そこまでヒットした要因は何だったのでしょう?
- 歌詞に具体的なことを何も書いてないのが良かったのかもしれません。主人公が何を目指していたのか、何歳なのか、どこに住んでたのか、何も書いてない。その分、いろんな人が共感できる隙間がたくさんあったんですよね。
- どんな反応がありましたか?
- 当時、この楽曲の詞を書いたことを仲の良い友人だけにしか言わなかったんですね。すると、その友人の上司が僕に会いたいと言ってきて。どうやらめちゃくちゃ琴線に触れまくったらしくて。
- 年配の方にですか?
- そうなんです。部長課長クラスのおじさま方が泣きながらカラオケとかで歌うらしいんですよ。
- 泣きながら!(笑)
- 40〜50歳になる方々だったんですけど、もう辞めていった同期やリストラされた仲間たちのことを思い出しながら歌うんだそうです。書いた僕自身はまったくそんなことは意識しなかったんですけど、具体的に書き切らなかったことで、ひとりひとりが埋めやすい隙間が生まれたんですね。
若い人よりも意外と年配の方にウケていたという感触がありました。僕の友達もその上司と何回も歌わされたらしいです(笑)。
King & Princeには“庶民に堕ちたプリンス”がテーマの詞を書きたい
- その後も多くのジャニーズのアイドルグループの作詞を手掛けて来られました。いわゆるジャニーズ楽曲の歌詞を書くときはどんなことを考えていますか?
- 僕がジャニーズに歌詞を書くときのキーワードは“ダサカッコいい”なんです。ダサすぎてもダメだし、カッコよすぎてもダメ。絶妙な位置の“ダサカッコいい”を大事にしてます。
たとえば『抱いてセニョリータ』もそうでしたが、“抱いてあなた”とか“抱いて女の子”とか言っちゃうとちょっとダサすぎるじゃないですか。そこでちょっとお洒落な“セニョリータ”を使ったんです。 - 『抱いてセニョリータ』(2006年)や『口づけでアディオス』(2010年)など、山下さんに書く歌詞の多くがラテン調なのにはどんな理由があるのでしょうか?
- 彼の雰囲気って“どポップ”ではないじゃないですか。ただ明るいわけでなく、どちらかというと少し影があるキャラクターですよね。ジャニーズの人たちってものすごく明るい子か、影がある子のどちらかだと思うんです。
山下くんは当時のジャニーズの中では稀代の“ダークサイド”だったと思いますね。今となっては成長して変わってきてるとは思いますけど、若かりし頃の血気盛んな、いろんなことに一喜一憂していた時期の彼には、情熱的で物憂げなスペインの音楽との相性は良いはずだと思ってましたし、実際に会ったときもなんとなく悲しそうな顔してるなという印象を持っていて。
世間的なイメージはクールな感じだったと思うんですけれど、それをただ単にクールな感じで押し出しても彼の魅力は出ないと考えたんです。 - そういった歌い手のイメージや雰囲気に、歌詞はどれくらい寄せていくものなのでしょうか?
- 自分自身とかけ離れた言葉を口に出すと、人間ってたどたどしくなるじゃないですか。“言わされてる”感というか。なので、歌い手にものすごく寄せるか、そうしないかのどちらかです。
彼らは演技もできるので、いっそ自分と全然違うキャラクターのほうが演じやすいんですね。中途半端に自分のキャラと違うキャラクターが入っていると演じづらいと思うので。
- なるほど。やはり彼らは演じることも上手なんですね。
- 舞台に立ったときの彼らは本当にスゴいですよ。公演前の挨拶や舞台が終わったあとの打ち上げで会うと普通の子たちなんですけど、ステージに立つと誰かが憑依(ひょうい)したような“覇王感”を発揮します。表情も全然違う。あれは本当にスゴいと思いますね。彼らは生まれながらにして役者なんだろうなと。
- 今後歌詞を書いてみたいジャニーズのグループはいますか?
- KinKi Kidsは自分と同世代というのもあって昔から好きで、いつか書いてみたいとずっと思っています。やっぱり『硝子の少年』(1997年)や『スワンソング』(2009年)のような、(作詞家の)松本隆さんの書く歌詞は素晴らしいですよね。そういう彼らを彷彿(ほうふつ)とさせるような歌詞を書きたいです。
あと、King & Princeが昨年デビューしたときはひさびさにジャニーズらしいアイドルグループが出てきたなと思いました。ある種の王道感ですよね。彼らはこれからのジャニーズを引き継いでいく存在になる感じがします。嵐に近いというか。
なので、彼らには「王子様が罠にはめられて庶民に堕ちた後のストーリー」みたいな歌詞を書いてみたいですね。庶民に堕ちた“プリンス”を演じてもらいたい。
音楽バラエティー番組の『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)でもお世話になった関ジャニ∞の作詞も手掛けてみたいです。彼らにはとてつもなくダサい、ボロボロでドロドロな男の姿を歌ってもらいたいな(笑)。 - めちゃくちゃ聴いてみたいです!(笑) 『青春アミーゴ』にしても、登場人物がヤンキー風という設定が面白いですよね。今ではあまり見かけないキャラクターです。
- もともとの歌詞はもっとデンジャラスだったんです。マフィアもので任侠の世界のような設定の歌詞だったのですが、ドラマ制作者の方から学園ドラマなので…という話があって、バイオレンスな表現をなくして不良っぽいイメージにシフトチェンジさせました。
今考えると、その設定が年配の方にはノスタルジックで響いたのかもしれません。ジャニーズの良さって昭和の歌謡曲っぽさみたいなものだと思うんです。
“ノスタルジック”が、世代間をつなげるキーワード
- この時代にあえて“昭和の歌謡”をやっていることが面白い、と。
- そうですね。それが年配の方には懐かしくて、若い子には新鮮に聞こえるんじゃないかなと。“ノスタルジック”というのが、世代間をつなげるキーワードになっていたんだろうなと思います。
年配の方と若い人をつなげるのって難しいじゃないですか。世代と世代をつなげるものが“ノスタルジック”なのかなという気はしていますね。 - zoppさんにとって「平成」とはどんな時代だったのでしょうか?
- 僕の中で平成史は、初期は音楽が時代を作っていたと思うんです。音楽が流行を生んでいました。ただ、時代が先に進めば進むほど何かに影響されて音楽が流行るという図式になっていったような気がしてます。音楽先行型から音楽後行型になったのが平成です。後期はまず先にコンテンツありきになっていますよね。
- その転換点が平成にあったと。
- そうです。僕の中では21世紀に入ってガラリと雰囲気が変わった気がしてます。(作詞家の)阿久悠さんの著書にもあったんですけど、作詞をやめようと思ったとき、もう自分の時代ではないと思われたそうなんです。昭和から平成初期を彩った大作詞家が退いた瞬間が、ある種、時代が大きく変わった瞬間なのかなと。
- 今後はどのような時代が来ると思いますか?
- 今後はもっと自由でグローバルな時代になっていくと思います。それと、今は“大手”という概念がなくなりつつあって、逆に“個”の力が強くなってますよね。
今までは芸能事務所や大企業が起爆剤を用意して流行を生み出してきたと思うんですけど、今はそれをひとりで作れちゃう時代なので、これからは“個”の時代になっていくんじゃないかな。そしてその個人個人がまた大きな組織を作っていくのかもしれないし、今後は枠組み自体が大きく変わりそうな気がしています。
今の音楽には“大衆性”が足りない
- 作詞家という職業の醍醐味(だいごみ)は何でしょうか?
- 自分が言いたいことを綺麗な方々が歌ってくれることですね。僕が舞台に立って同じことを歌ってもみんなシーンとするだけだと思います。彼らが歌ってくれるからこそ伝わるし、喜怒哀楽を豊かに表現してくれる。
何よりも自分が届けたいと思ってる以上に多くの人たちにいつも届いてて、それが昔だったら手紙、今ならSNSでレスポンスをいただけているので。それは本当に嬉しいことです。
クリエイターは自分の名前がフォーカスされる職業なので、駆け出しの人はディスられるのがつらいと思いますが、見向きもされないよりは、むしろディスられるのも心地いいんだぞと言いたいですね。
嫌われるなら徹底的に嫌われるような作品を作りたいですし、好かれるなら徹底的に好かれる作品を作りたい。中途半端なものは作りたくないです。 - いわゆる“降りてくる”瞬間はありますか?
- ありますね。僕の場合はトイレです。トイレって何かを出す作業じゃないですか。生理的活動とアイデアが一緒の動きをするんです。出すことによってアイデアも出るんですよ、本当に。
たとえば、今すぐに思い付く歌詞でいうと、ジャニーズWESTの『バンザイ夢マンサイ!』(2014年)なんかはトイレに座った瞬間に降りてきました。
- 座った瞬間に(笑)。歌詞を書く前に下調べはするほうですか?
- 昔はしていましたが今はほぼ調べないですね。唯一アニソンのときはけっこう調べます。最近だと、声優で歌手の井口裕香さんの歌詞を書いたときは、DVDで関連するアニメを全話見ました。それくらい主人公のことを理解しないと書けないようなテーマだったというのもあって。
アニソンのときは下調べを徹底的にします。それ以外は、僕らしさと、僕が知ってるその歌手らしさをうまく合わせて表現できたらと考えて書いてます。 - 今どきの音楽の歌詞に足りないと思うものはありますか?
- “大衆性”だと思いますね。今売れている人たちって自分ごとが多かったりするので。個人主義な歌詞が多い印象です。昭和、平成を生きた人間としては“大衆性”は消えてほしくない。
実際なくなってはいないんですよ。最近だと『U.S.A.』(2018年)はまさにそうだったと思います。またそれをDA PUMPさんがカバーしたのが良かったと思うんです。
あれだけダンスができて、あれだけ歌唱力があってカッコいいのに、あんなにダサいことやってるのが、まさに僕が思い描く理想の“ダサカッコよさ”です。昨年の『U.S.A.』ブームを見て、まだまだこの感覚は求められているんだなと確信しました。 - これからどんな歌詞を書きたいですか?
- あらためて考えると、こんな歌詞を書きたいというのはないんです。自分がプロデュースしているアイドルでも、自分が書きたいと思って書いてるというよりは、ファンの人が求めているものを書いているので。
今まで書いてきた歌詞も自分が書きたいと思って書いたものではないんですよ。自分が書きたいものはもっとドロドロした暗い歌詞。
ただ、そういう自分のエゴの部分を出すのは自分ひとりで完結できる小説だったりポエムを書くときだけにしています。そういう意味では、これからも時代に合わせた、時代を先取るようなものを書いていきたいと思ってます。
- zopp(ゾップ)
- 1980年2月29日生まれ。東京都出身。O型。
23歳で作詞家デビュー。25歳で『青春アミーゴ』(修二と彰)を手掛け、第20回ゴールドディスク大賞ソング・オブ・ザイ・ヤーに選出。2006年には『抱いてセニョリータ』(山下智久)、『ミソスープ』(テゴマス)、『サヤエンドウ』(NEWS)などの作詞を担当し、オリコンにて年間作詞家売上1位を獲得。2013年には小説家デビュー。著書に『1+1=Namida』(マガジンハウス)、『ソングス・アンド・リリックス』(講談社文庫)など。2016年からはアイドルプロデュース業をスタートさせ、現在は「エレファンク庭」をプロデュースしている。『関ジャム完全燃SHOW』(テレビ朝日系)や、『ラストアイドル』(テレビ朝日系)などのテレビ出演し、トークのできる理論派作詞家として活躍の幅を広げている。
サイン入り小説プレゼント
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- 2019年4月22日(月)20:00〜4月28日(日)20:00
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