本当に奇跡のような作品。音楽プロデューサー・桑原聖が語る『あんさんぶるスターズ!』の魅力

2015年4月にリリースされたスマートフォン向けゲームアプリ『あんさんぶるスターズ!』――通称『あんスタ!』は、おそらく女性向けスマホゲームとして成功したタイトルのひとつだろう。

ダウンロード数は300万を突破するなど、ゲームとしてのヒットはもちろん、舞台、アニメ、マンガ、小説など多数のメディアミックスを展開。さらには最新技術を用いた3DCGのキャラクターによるバーチャルライブまで開催している。まさに時代の最先端を行くコンテンツとして注目を集めている。

そんな『あんスタ!』のヒットを支える重要な要素が、ゲームに登場するアイドルたちが歌う楽曲の数々だ。爽やかなポップソングから、クールなダンスミュージック、じっくり聴かせるバラードまで、各ユニットの魅力を最大限に引き出すバラエティー豊かな楽曲は実に100曲以上に上る。

これらの楽曲を4年前のリリース時から現在に至るまでプロデュースしているのが桑原聖だ。音楽制作チーム「Arte Refact」の代表であり、作曲家・音楽プロデューサーとしてゲームやアニメの制作に携わる人物である。

彼はどのようにして『あんスタ!』と出合い、どんな思いで楽曲をプロデュースし続けてきたのか。そして、4周年を迎えさらなる飛躍を遂げようとしている『あんスタ!』について何を思うのか。

撮影/林直幸 取材・文/山田井ユウキ
男子アイドルの育成に特化した、私立夢ノ咲学院。そんな学び舎に、新設された「プロデュース科」の第一号、そして初の「女子生徒」としてプレーヤーは転校してくる。この学院でさまざまな生徒たちと出会い、青春のアンサンブルを奏でる日々が始まる―。

第一印象で「これはヒットする」と思った

桑原さんが『あんさんぶるスターズ!』に関わることになったきっかけは何だったのでしょう?
もともと男性向けの『あんさんぶるガールズ!』というソーシャルゲームがあって、その女性向け版ということでスタートしたそうです。その話を知り合いから聞いて、ぜひ楽曲を作ってみたいと思いました。
当然、ゲームもまだリリース前の段階ですよね。
ええ。事前登録段階でしたから、公式サイトにユニットとキャラクターの名前が公開されているくらいで、ストーリーの詳細もまだありませんでした。

それでもキャラクターのイラストを見た瞬間、インスピレーションが湧いてきたんです。アニメのようなタッチで、柔らかく誰にでも受け入れられそうな雰囲気があり、第一印象で「これはヒットする」と思いました。
▲アイドルユニット・Trickstar(トリックスター)
『打倒、生徒会』の下、夢ノ咲学院に革命を起こした新進気鋭のユニット。氷鷹北斗(イラスト左から2番目)がリーダーを担当し、転校生(プレーヤー)がプロデューサーとしてサポートしているが、4人が一丸となって活動している。テーマカラーは赤と青。
そこからどういった流れで携わることに?
最初『あんスタ!』のアイドルは8ユニットだったので、各ユニットごとに2曲程度、合計16曲ほどを制作しました。2〜3週間しか時間がなかったので、死ぬかと思いました(笑)。詳細な資料がなかったので、いろいろ大変でしたね。

たとえば「fine」というユニットが登場するのですが、普通に読むと「ファイン」じゃないですか。だから歌詞に「ファファファファイン」というフレーズを入れたところ、後から「フィーネ」だったことを知って…(笑)。たしかに音楽用語だとフィーネなんですよね。
▲アイドルユニット・fine(フィーネ)
生徒会長の天祥院英智(イラスト左端)が率いる、常勝無敗のユニット。絶大な人気を誇っているが、体の弱い英智が入退院を繰り返しているため、活動頻度は高くない。英智を除く3人でライブを行うこともある。ユニットのテーマカラーは白と金。
(笑)。
それから完成した楽曲を持って、京都のゲーム制作スタジオ「Happy Elements(カカリアスタジオ)」さんまで出向いてプレゼンしたんです。MacBookのスピーカーだとさすがにまずいかなと思って、道中、家電量販店でスピーカーを買ったりと、もういろいろ成り行き任せで(笑)。

Happy Elementsのスタッフの方々とはそのプレゼンが初対面でした。幸い、社長さんを含め、20人以上のスタッフさんにその場で全曲聴いていただいて、おおむね好評で。『あんスタ!』のプロデュースを手掛けることになったのはそういった流れです。

バックコーラスは、ジャニーズの曲作りを参考にした

楽曲制作で意識されていることやこだわりについて教えてください。
よくこういうゲームの楽曲はキャラクターソングって呼ばれていますよね。でも自分の中ではあまりキャラソンという意識で作っていないんです。『あんスタ!』はストーリーもあるし、時期によってイベントもいろいろ開催します。

もし彼らが実際のアイドルだったら、こういう時期にはこういう楽曲をリリースしたらとファンはうれしいんじゃないかなという感じで考えています。
ゲームのキャラクターというよりも、“アイドル”としてプロデュースされていると。
そもそも、3次元のアイドルだって多種多様ですからね。アイドルってこういうこともやっていいんだ、こういう歌も歌うんだって驚かされることもあります。
現実のアイドルもそうですから、『あんスタ!』が型にとらわれる必要はないですよね。
そう。大事にすべきはファン目線なんです。ファンからしたらきっと年間にCDを3枚くらいは出してほしいし、ライブもやってほしいし、アルバムも1枚くらい出してほしいじゃないですか。さすがに現在は13ユニットいるので、まだそこまで完璧にはできていないんですけど…。

でも、できるだけファンの要望には応えていきたいなと思っています。ちょうど4周年を前にして、全ユニットがアルバムを出すという目標は達成できそうなので、それは良かったなと思っています。
楽曲もバラエティーに富んでいて、どれも各ユニットの魅力がたっぷり詰まったものに仕上がっています。
あまり大きな声で言えませんが、実は音にもかなりこだわりがあります。声優さんが歌っている後ろに、声優さんの声質に寄せたバックコーラスを立てて楽曲に華やかさと彩りを添えているんです。

なぜそうしているかというと、ジャニーズ事務所のアイドルグループの楽曲はそういう作り方が多いそうなんです。
ジャニーズ! そうだったのですね!
しかも、実際にジャニーズのバックコーラスを担当されている方にお願いしています。また、2ndシリーズからエンジニアは僕がよくお世話になっているスタジオのオーナーさんにお願いしているのですが、彼は海外のサウンドを知り尽くしていて、国内でも三浦大知さんやAAA、そしてジャニーズのグループのミックスなどもされている方なんです。
まさにアイドルを育成するための究極の座組ですね。
それはもう、“トップアイドル”をプロデュースするわけですからね(笑)。

『Rebellion Star』で初めて“音楽を聴いて泣く”という体験をした

桑原さんご自身にとって印象的な楽曲はありますか?
個人的に印象に残っているのは、Trickstarの1stシーズン最後の楽曲『Rebellion Star』ですね。楽曲制作の仕事って、ずっと地味な作業が続くんですよ。

それで1stシーズンの最後に4人の声を聞きながら仕上げていたら涙が出てきて。半年間、大変だったなって思いと感動が込み上げてきて、初めて音楽を聴いて泣くという体験をしました。
最初の区切りですから感慨深いですよね。
そうなんです。他には自分で作った曲でいうと、2wink(トゥウィンク)の『TRICK with TREAT!!(with UNDEAD) 』ですね。2winkは双子の葵ひなたと葵ゆうたのユニットなんですが、声優は斉藤壮馬くんがひとり二役で演じています。だから、収録も毎回ふたり分なので2倍大変なんです。

ただ、この楽曲のときは初めてユニットのひとつ、UNDEAD(アンデッド)がガヤとして参加してくれたんですね。そこで歌の掛け合いができたのがうれしくて、印象に残っています。
ファンにとってうれしい驚きでした。
たくさんあってまだまだ話したいんですけど、いいですか(笑)? 教師コンビ(佐賀美陣・椚章臣)も思い入れがあるんですよ。最初は歌う予定はなかったんですけど、「歌わないんですか?」というファンの声が多くて、僕としても歌わせたいなと思っていました。

1周年のときのエイプリルフールで教師がアイドルになるっていう話が出てきて、翌年にデビューできたんです。2年間やりたいって言い続けていたら教師でもデビューさせることができるんだなって(笑)。
そうだったんですね。他のキャラクターとはまた違った大人ならではの魅力があります。
ちなみに、僕はリリース前から「佐賀美陣」推しなんですよ。年齢は公表されていないんですけど、自分とも年齢が近そうなんで(笑)。
なるほど(笑)。
それから、最初にHappy Elementsに持ち込んだ楽曲の中で採用されたのがKnights(ナイツ)の『Checkmate Knights』で、これも思い出深い楽曲です。

というのも、ゲームってずっと続けばいいなとは思いますけど、1stシーズンが始まったばかりの頃は本当に続くかどうかわからないですよね。反響次第で2ndシーズンがあるかどうか決まってしまうんです。だから楽曲も人気が出るものを作らないといけません。

そうなると楽曲はアップテンポなものになりがちなんです。どうしてもゲームやアニメでは、バラードはあまり目立たないんですよね。華やかな曲のほうが目立つし、人気の傾向があります。
たしかにオープニング曲などはアップテンポな楽曲が多いイメージです。
だけど、僕はどうしてもバラードがやりたかったし、それを歌うのはKnightsだと思いました。実は『あんスタ!』のプレゼン用の楽曲を作っていたとき、Knightsは一番イメージが浮かばなかったユニットだったんです。

たとえばfineだったら王者だし、他のユニットにもわかりやすいイメージがあります。だけどKnightsは「騎士」というくらいで、なかなかそれ以外のイメージが出てきませんでした。

そんな中でKnightsをイメージして作ったバラードが『Checkmate Knights』だったので、この曲が採用されて本当にうれしかったですね。ちなみに、自分でもゲームを始めて最初に選んだユニットはKnightsでした。もっと彼らをよく知りたいなと思って。

歌詞に込められた意味や思いを読み解いてほしい

『あんスタ!』初心者におすすめの楽曲はありますか?
一番おすすめなのは、4月下旬に発売されるTrickstarのアルバムですね。主人公ユニットの軌跡が詰まっていて、歌詞の内容も含めて楽しんでもらえると思います。これを聴けば、『あんスタ!』の1年間の流れがよくわかります。

あとはUNDEADやKnightsのアルバムはわかりやすくてとっつきやすいのでおすすめですね。
▲『あんさんぶるスターズ! アルバムシリーズ Trickstar』(4/24発売)
では上級者におすすめするとしたら?
Valkyrie(ヴァルキュリー)かな。『礼賛歌』って曲があるんですけど、ぜひ歌詞の意味を読み解いてほしいです。Valkyrieがどういう気持ちでアーティスト然としているのか、それがわかる歌詞になっています。ただ、歌詞の字面がすごく難しいんですけどね(笑)。
『あんスタ!』の楽曲は歌詞にもキャラクターの思いが込もっていますよね。
ええ。歌詞はいろいろな意味を込めて作られています。1stの16曲以外はほとんどの歌詞を松井洋平さんとこだまさおりさんにお願いしているのですが、おふたりは3年間『あんスタ!』のストーリーを読んで書き続けてくれていますからね。しっかりとキャラクターの心情を込めつつアイドル曲の歌詞に落とし込んでくれています。
楽曲収録で声優さんとはどんなコミュニケーションを?
そこは本当に声優さんによりますね。キャラクターになり切って録る方もいるし、まずはいろいろと相談してからという方もいます。

アイドル系のゲームはたくさんあって、声優さんもすべてプレーして内容を把握するのは難しいですから、こちらから「こういうシチュエーションなので、こういう気持ちで行きましょう」と提案することもあります。やっぱり、それを意識してもらうだけで歌が違ってくるんです。

魂を吹き込んでもらうために、コミュニケーションはしっかり取るようにしていますね。たまにコミュニケーションを取りすぎて、収録よりも話している時間のほうが長いこともありますけど(笑)。

今の状況は想定できなかった。本当に奇跡のような作品

桑原さんは2.5次元舞台『あんさんぶるスターズ! オン・ステージ』等でも楽曲を手掛けていらっしゃいます。
僕が関わっているのは歌曲だけなのですが、舞台は新鮮な体験でしたね。舞台だと俳優さんの代替わりの可能性があるので、その曲を誰が歌うのかわからないんです。だから歌いやすいものでないといけません。

それから、楽曲を使うシーンが決まっているので、それに合わせて楽曲を作るというのも舞台ならではでした。
俳優さんも皆さん、めちゃくちゃ礼儀正しくていい人ばかりでしたね。「自分たちは声を担当しているわけじゃなくて、キャラクターを借りて舞台に立たせてもらっているから」と謙虚な姿勢で。

少しでもキャラクターに近付けるために小物などを自分で用意されたり、声優さんにアドバイスをもらったりと、すごく努力されていました。制作者として刺激を受けることが多かったです。
4周年を迎えた『あんスタ!』について、改めて今思うことを聞かせてください。
スゴいコンテンツだなと思います。ゲーム、アニメ、舞台、ライブ…そして3Dライブができたのはスゴい体験でした。自分はバンドアレンジやミュージシャンのディレクションとして関わったのですが、ものスゴい世界を作っているんだなという感動がありました。

何より4周年というのがスゴいですよね。ここまで続いて、どこまで行けちゃうのか。先日、Happy Elementsの社長さんと飲む機会があったのですが、「ここまで人気になるとは想像できていなかった」とおっしゃっていて。

もちろん、はやらせるつもりで作ってはいるけど、今のような状況までは想定できていませんでしたと。本当に奇跡のような作品だと思います。
いよいよ5年目が始まろうとしていますが、展望について教えてください。
個人的な話になりますが、昨年は『あんスタ!』史上一番楽曲をプロデュースした年でした。ただ、僕自身はプロデュースで忙しすぎて作曲したのが2曲だけだったんですね。今年はもう少し僕自身も曲を作りたいなと思っています。

それから、『あんスタ!』のリズムゲームのリリースが予定されていますが、そこでは新しい挑戦もできるといいなと思っています。今まではユニット単位で歌っていたのですが、たとえばクラスとか、部活とか、ユニットを超えた楽しみ方ができる曲を作れるとうれしいですね。

『あんさんぶるスターズ!』の楽曲は皆で作っていくものだと思っています。自分が独占していいコンテンツではないと考えているので、エゴを出しすぎないように、これからもファンの皆さんの声に応えていきたいです。
桑原聖(くわばら・さとる)
1984年7月9日生まれ。東京都出身。B型。
バンド活動やインディーズでの音楽制作をきっかけに、2011年12月に音楽制作チーム「Arte Refact」を設立。数々のアニメ主題歌やキャラクターソングを手掛け、2015年7月より『あんさんぶるスターズ!』ユニットCDのプロデュースを担当。2016年7月から音楽制作会社「アップドリーム」を立ち上げ、取締役に就任。近年ではテレビアニメ『転生したらスライムだった件』の第2クールオープニング主題歌や、声優・アーティストの古川慎のサウンドプロデュースなどを手掛ける傍ら、『あんさんぶるスターズ!Starry Stage』のライブ制作を統括・プロデュースするなど幅広く活動する。

サイン入りパンフレットプレゼント

今回インタビューをさせていただいた、桑原聖さんのサイン入り『あんさんぶるスターズ! Starry Stage 2nd』パンフレットを抽選で3名様にプレゼント。ご希望の方は、下記の項目をご確認いただいたうえ、奮ってご応募ください。

応募方法
ライブドアニュースのTwitterアカウント(@livedoornews)をフォロー&以下のツイートをRT
受付期間
2019年4月5日(金)20:00〜4月11日(木)20:00
当選者確定フロー
  • 当選者発表日/4月12日(金)
  • 当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、個人情報の安全な受け渡しのため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
  • 当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから4月12日(金)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただき4月15日(月)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。
キャンペーン規約
  • 複数回応募されても当選確率は上がりません。
  • 賞品発送先は日本国内のみです。
  • 応募にかかる通信料・通話料などはお客様のご負担となります。
  • 応募内容、方法に虚偽の記載がある場合や、当方が不正と判断した場合、応募資格を取り消します。
  • 当選結果に関してのお問い合わせにはお答えすることができません。
  • 賞品の指定はできません。
  • 賞品の不具合・破損に関する責任は一切負いかねます。
  • 本キャンペーン当選賞品を、インターネットオークションなどで第三者に転売・譲渡することは禁止しております。
  • 個人情報の利用に関しましてはこちらをご覧ください。
ライブドアニュースのインタビュー特集では、役者・アーティスト・声優・YouTuberなど、さまざまなジャンルで活躍されている方々を取り上げています。
記事への感想・ご意見、お問い合わせなどは こちら までご連絡ください。