コンピュータより“人” ナスリがeスポーツで発揮した「負けず嫌い」
「FIFA」というサッカーゲームがある。eスポーツの世界では、このゲームで今年8月にFIFA主催のワールドカップが開かれた。
タイトルには手が届かなかったものの、ここに出場した日本人選手がいる。「世界の舞台では、eスポーツプレイヤーが『すごい人と捉えられていました』と。舞台はコンサートホールで、応援コールもありましたし」
ナスリ。ニックネームで活動する。
大学生。そこまではインタビューで明らかになった。いったい彼は何者なのか。
ナスリ
1999年生まれ(19歳)。神奈川県出身。2015年9月から「FIFA 16」のプレーを開始。18年には明治安田生命eJ.LEAGUE ベスト4、FIFA 18 Global Series Playoffsベスト4、FIFA eWorld Cup Grand Final 2018出場、Continental Cup 2018 Presented by Playstationベスト8などの戦績を残した。
1999年生まれ(19歳)。神奈川県出身。2015年9月から「FIFA 16」のプレーを開始。18年には明治安田生命eJ.LEAGUE ベスト4、FIFA 18 Global Series Playoffsベスト4、FIFA eWorld Cup Grand Final 2018出場、Continental Cup 2018 Presented by Playstationベスト8などの戦績を残した。
―まずは「ナスリ」という、ニックネームが気になります。どういった由来で?
はい、ご存知の通り、サッカー選手の名前です。フランス代表で、マンチェスター・シティで活躍した選手です。シンプルに好きな選手の名前を取ったっていうところです。彼のプレーを見ていたら……上手いじゃないですか。速い、強いとかじゃなくて、上手くてカッコいいという。ま、もともとシティが好きでっていうのもあるんですけど。中2〜3の頃からですかね。4〜5年前です。サッカーを見始めた頃に、マンCのファンになって。
―サッカーへの関心と、ゲームへの関心ではどちらが先だったんでしょう。
プレーは幼稚園からですね。その後サッカー観戦が好きになり、最後にFIFAに出会うというところです。幼稚園の時から遊びでボールを蹴っていて、小学校ではクラブに入り、高校の途中まで部活でサッカーをやっていました。
―そこからeスポーツのプレイヤーに転じていく。
ゲームはみんなで遊んでいた、という程度ですね。任天堂の「DS」とか「Wii」などです。
FIFAに出会う一番のきっかけは、高校に入ってPS4を買ったことです。1年の夏でした。ちょうどその頃、高校のサッカー部をやめちゃったんです。めちゃくちゃ弱いわりに、休みがなくて。「もう、いっか」って行かなくなっちゃいまして。そこで頑張っても、上は目指せないことは明らかだったんで。で、時間ができてゲーム機を買おうとなった頃に、たまたま家電量販店のゲーム売り場で体験したのが「FIFA」だったんです。めちゃくちゃ楽しいな、って。
FIFAに出会う一番のきっかけは、高校に入ってPS4を買ったことです。1年の夏でした。ちょうどその頃、高校のサッカー部をやめちゃったんです。めちゃくちゃ弱いわりに、休みがなくて。「もう、いっか」って行かなくなっちゃいまして。そこで頑張っても、上は目指せないことは明らかだったんで。で、時間ができてゲーム機を買おうとなった頃に、たまたま家電量販店のゲーム売り場で体験したのが「FIFA」だったんです。めちゃくちゃ楽しいな、って。
―たまたまだと!「様々なサッカーゲームを経てここにたどり着いた」といった歴史を、勝手に想像していました。
たまたまです。その家電量販店のあるビルには結構行く機会が多くて、飯食いに行ったり、買い物したり。その流れでゲーム売り場に行って、たまたま出会ったという。もともと任天堂の「DS」でウイニングイレブンはやっていましたよ。で、FIFAをその時見たら、プレイヤーの名前は実名で、顔も似ていたんです。これはやべーぞ、ってなって。試合前の演出もちゃんとプレミアリーグの演出そっくりで。お金貯めて、買いました。
―両親に買ってもらわない点が、ちょっと偉い!
そうですね。ハードから買うことにしたんです。コンビニでレジを打つバイトをやりました。週2、3で入ってたら、2カ月、3カ月くらいで貯まりましたね。その間は、まったくお金を使いませんでしたよ。
―待つこと3ヶ月。ついに「PS4」と「FIFA」がやってきました。どんな心情でしたか?
それが…最初はオフラインの「キャリアモード」をやってました…。選手の移籍などを楽しむシミュレーションモードです。自分は試合をやらず、コンピュータにやらせて、試合を。その結果で、マネージメントだけするみたいな。
―なんと!やらなかった。
下手だったんですよね〜。めちゃくちゃ下手でした。友達とやっても五分五分で、コンピュータにも勝てないという。
―普通は、そこで挫折するものでしょう。
そうですね。FIFAシリーズの15から16に切り替わるタイミングで、友達が「オンライン対戦してみれば」と薦めてくれたんです。その際、チケットを買わないとオンライン対戦できないというシステムにはまって。どんどん対戦してみたくなったんです。部活を辞めた年の10月くらいの話です。
―恩人ですよね!
しかしそいつはFIFAのソフトを持っていなかったという!
―そこからどんどんFIFAをやりこんでいった。
はい。オンライン対戦だと、相手は人なわけです。そこが楽しくて。敵に心がある、っていうのが。コンピュータ相手だと、心がないじゃないですか。どんなに煽ったりしても、コンピュータはもう真面目にプレーしてくるんですよ。面白くないですよ、やっぱ。人だと、ある場合は守備で中を切ってくることもあるし、縦を切ってくることもある。そこをフェイントでかわしたり、パスで崩したりするのが楽しい。
でもコンピュータは、相手がやってきたことにただ対応するだけなので、なんだかつまらくなっていたんです。僕、生きているものが好きで、コンピュータは嫌いですね。パソコンもうまく扱えませんし。
でもコンピュータは、相手がやってきたことにただ対応するだけなので、なんだかつまらくなっていたんです。僕、生きているものが好きで、コンピュータは嫌いですね。パソコンもうまく扱えませんし。
―eスポーツプレイヤーがコンピュータ嫌い!ただでさえ、eスポーツプレイヤーが新しいのに、それは新し過ぎます!
あと、負けず嫌いの自分の性格もプラスになっていますよね。絶対に負けたくないという。
―もしかして一人っ子?そんなに人との対戦を望むなんて。
姉がいます。
―お姉ちゃんはFIFAやらないのですか?
さすがにやりません!
―高2高3でやってるときに、両親家族から「そんなことばっかりやるなよ」みたいな反対っていうのはなかったですか?
うーん、末っ子なんで案外放置されていたんでしょうか。あんまそんなにそこまできつくは言われなかったです。勉強してんのか、とかは言われますけど。「やってるよ」って答えて、またゲームやったりして。
飄々とした語り口。FIFAを始めた理由も「たまたま」。これまでだったら、大人から「ちゃんとしろ」との説教を受けそうなところ。
しかし、eスポーツの隆盛で彼の行動の価値が転換していく。2018年、彼はゲームを通じて父親を外国に招待する経験をしたのだ。
しかし、eスポーツの隆盛で彼の行動の価値が転換していく。2018年、彼はゲームを通じて父親を外国に招待する経験をしたのだ。
―FIFAをやっていて、「今、自分が上手くなっている」って感じる時はあったのですか?
うーん、いつくらいだろう。FIFA17の時は最後の方からうまくなってきたなっていう…。高3の春くらいですかね。
―まるでサッカー選手です! 高3の春くらいから急成長なんて。最後のインターハイ予選で成長しました、といったような。
あはは。FIFAには、ウィークエンドリーグっていうのがあって、毎週週末に40試合くらい試合するんですけど、それの勝ち負けでランクが決まるんです。で、場合によってはその成績で世界大会につながっていくというのがあって。当時はまったく届かないんですけど、ただ負けるのが嫌で嫌で。そこで超真面目に取り組んでいたらうまくなったみたいな。
―「インターハイ」どころか、「ワールドカップ」を目指しているという!他者のゲームを見るのは、やっぱり上手くなるものなんですか。
そうすね。あと、戦術考えたり。残り時間何分でこういう状況だったら、こうしようとまでも細かく考えて。
―ダルくて辞めた、サッカー部での経験が生きている。ボールを蹴っていたことが。
そうですね。やってたのも、見ていたのも役立っていたんです。中高時代はバルサが無双してた頃ですね。ようやくマンCが強くなり始めていました。見ていたのはもっぱら、チャンピオンズリーグとプレミアリーグでした。
―自分がFIFAをやるにあたって、自分がプレミアリーグっぽいなとか感じることはありますか?
あんまりないですね。対人戦だと「いかにもゲームって感じ」になってしまいがちなんで、あまり似つかないですよ。ただ、キャリアモードでやるコンピュータ同士(あらかじめ戦術の指示を出す)だと、たまに「あ、これ、なんか見たことあるゴールだ」みたいなとかはありますね。
―では、FIFAで表現したいサッカーっていうのはどういうサッカーですか?それとも勝ち負けにこだわっている?
勝ち負けにこだわってます。負けるのがとにかく嫌で。形より、結果みたいな。
―ドン引きカウンター
だとしても。シュート一本だとしても。
―結果を求めるみたいな。
はい。
―大会に出始めたのはいつから?
つい最近ですよ。始めて3年ぐらいです。
―ということは自分の部屋でオンライン対戦したりしながら貯め続けてきたスキルが、外の世界に出ていく。そういう感覚があったのでは?
大会に出始めたのは今年の4月からなんですが、怖い、という感覚はなかったですね。むしろ、どこまで行けるのかなという楽しみのほうが大きかったんです。さきほども言ったように、コンピュータではなく人と対戦することは本当に楽しいことですから。
―のみならず、ゲームをする人同士の交流もあるでしょう。そういった意味でも外の世界に出ていきます。
同じくFIFAをやっている人とスカイプなどのアプリで話しながら、試合をしたりしますね。9割5分くらいが年上の人で。ゲームはもちろん、それ以外の人生のことも聞いたりしますよ。仕事の話や、一人暮らしの話。出費がかさむ分野のことを教えてくれて、「こういうのはやめたほうがいいよ」とか。30代の方もいるので、同世代から普段聞けない話も多く聞けるんですよ。こちらもゲームという共通のつながりがあるので、話を聞く気になりますしね。
―最近はどれほど、FIFAをやっているんですか?
10月の頭や11月の週末は、くたくたになるほどやっていました。「オンライン予選」というのがあって、オンラインの「ウィークエンドリーグ」で勝率90%以上の人たちだけ出れる大会を毎週やっていました。そのなかからアジアでふたりだけが世界大会に出られるので、もうずっとやっている感じですね。
―今年は、eJ.LEAGUEにも出場しました。5月にJリーグが公式に開催した大会です。
初めて観客もいてライブ配信もされるオープンな会場でやる大会でした。本当に緊張しましたね。ギラギラした演出のうえに、いつもスカイプで話している人が目の前にいたりして気まずいな、という。なんとか試合中は集中できたんですが。
2018 eJ.LEAGUE 決勝ラウンド(松尾/アフロスポーツ)
―その後外国での試合にも出場します。
6月にオランダ、8月にイギリスに行きました。人生で初めて外国に行って、2カ月の間に2度ヨーロッパに行ったんです。最初に行ったオランダでは、とにかく「みんなでっけ〜な」と驚いて。試合前に驚いて、終了後また握手するときに「でけ〜な〜」と。
―体格でやられるんじゃないかって!
オランダでは初めての国際大会でしたが、ベスト4まで行って、eワールドカップの出場権もゲットできたんです。eJ.LEAGUEでの経験のおかげで、緊張が少し減っていたというのはありますね。
―2カ月後のイギリスは、ワールドカップに出場ということでした。
その時はコンディションが整わなくて、成績は振るいませんでしたね。時差の問題もあって。食事もほとんど日本食を探しているような状況で。この先、時差や体調のことは考えないといけませんね。世界大会は外国で行われるでしょうから。ただ、この時よかったのは父をイギリスに連れていけたことです。大会の運営組織から、一人だけ無料で招待いただけるということだったんで。
FIFA eWorld Cup 2018 (Ben Hoskins - FIFA/FIFA via Getty Images)
―ヨーロッパのeスポーツ文化はいかがでしたか?
かなりすごかったです。ロンドンの「O2アリーナ」という大きな会場でやりました。僕は予選で負けたので100人程度の関係者の前でやりましたが、決勝は観客が入っていましたよ。点を決めたら沸いたりして、「プレイヤーはすごい人」と捉えられていました。チームもあるし、実際の本当のサッカークラブのeスポーツプレイヤーも結構多いんで、そういうの見るとシンプルにすごいな〜って。
自分も(マンチェスター・)シティやパリ(サンジェルマン)のユニフォームを着て、FIFAをやれたら嬉しいですよね。名前だって、「マンシティ・ナスリ」みたいに付けられたら、本当にカッコいいと思いますよ。
自分も(マンチェスター・)シティやパリ(サンジェルマン)のユニフォームを着て、FIFAをやれたら嬉しいですよね。名前だって、「マンシティ・ナスリ」みたいに付けられたら、本当にカッコいいと思いますよ。
―最後に。これからのeスポーツに期待したいことは?
eスポーツって言われるとあんまピンと来なくて、僕自身eスポーツプレイヤーっぽくなくて……パソコンもよく分かんないし、他のゲームも全くやんないんで、他のゲームのeスポーツプレイヤーの方も存じ上げません。FIFAのことしか分かんないんですよね。もちろん、僕自身できればeスポーツは続けていきたいですよね。ここまでの賞金は使わずに貯金しています。車買うわけでもないし、家賃を払うわけでもない。別のゲームを買うわけでもないですし。この歳だと、使うことがないんですよね。
インタビュー・文=吉崎エイジーニョ
写真=岸本勉(PICSPORT)
デザイン=桜庭侑紀