「童貞に見えなかったら全部崩れる」林 遣都が体当たりで挑んだ、ダメ男たちの友情物語
映画『チェリーボーイズ』の撮影を振り返り、「柳くんと前野さんがいなかったら僕の役は成立しなかった」と語った。変幻自在にさまざまな役を演じ分ける“カメレオン俳優” 林 遣都が今回挑んだのは、25歳の童貞役。林が演じた国森信一の幼なじみには、柳 俊太郎と前野朋哉の若手実力派が脇を固めた。3人は童貞から脱出するために、ある大胆な計画を立てるのだが、それが成功するかどうかということよりも、もっと大切なことが描かれている。これは童貞男子の友情物語でもあり、林と柳、前野の絆の物語なのかもしれない。
撮影/アライテツヤ 取材・文/花村扶美スタイリング/菊池陽之介 ヘアメイク/SHUTARO(vitamins)
本読みの段階からすでに、3人の波長が合うことを実感
- 映画『チェリーボーイズ』では、自己中心的で見栄っ張り、なおかつ25歳で童貞という難しい役どころを演じられました。脚本を読んだときの感想は?
- 僕、前々から原作者の古泉(智浩)さんが描く漫画の世界が大好きで、脚本をいただく前に原作を読んでいたんです。
- そうだったのですね。
- 出演の話をいただいたときは、20代半ばにしてチェリーボーイズと呼ばれる男たちの“童貞性春物語”に飛び込んでみたい!と素直に思いました。
- 躊躇することはなかったんですか?
- はい。蓋を開けてみると、松居(大悟)さんが脚本だと聞いて、さらに楽しみになりましたし、松居さんとは共通の知り合いがけっこういたので、いつかご一緒してみたいとずっと思っていたんです。
- 映像化にあたっては、期待の声も多く上がっていましたね。
- 過激なシーンも多いので、これを映像化するのは、なかなか難しいと僕も思ったんですけど、松居さんの台本を読んだときに、原作の登場人物たちの関係性だったり、地方都市の空気感がとても丁寧に描かれていて、人間味あふれるドラマに膨らんでいるなと思いました。
- 幼なじみの童貞3人組、東京での音楽活動がうまくいかず父親の病気を機に地元に帰ってくる、自己中心的で見栄っ張りなクンニこと国森信一(林)、イケメンだけど乳首にコンプレックスがあるビーチクこと吉村達也(柳 俊太郎)、内気な性格でオタクっぽい外見のカウパーこと高杉 誠(前野朋哉)のキャラクターが個性豊かに描かれています。国森の役作りは大変でしたか?
- 最低限の目標として、僕が童貞に見えなかったらこの作品すべてが崩れてしまうというプレッシャーはありました。前野さんとは何度か共演しているんですけど、顔合わせでお会いしたときに「国森役が林くんって聞いて、想像できなくてちょっとびっくりした」って言われて。そこを覆していかなきゃいけないだろうなと、見た目や仕草に関してできることは全部やろうと思いました。
- 童貞っぽく見えるために、特別にしたことはありますか?
- これというのはないんですけど、人との距離感や女性に対する視線の送り方など、細かい仕草はこだわりました。吉村は乳首、高杉はオタクっぽい見た目など外見に関するコンプレックスが強いんですけど、僕が演じた国森は、とにかくひねくれていて卑屈で。人生に絶望しているというか、人を信じていないし、中身のコンプレックスがすごく強いんです。そこを感じてもらえるように意識しました。
- 今、人との距離感の話が出たんですけど、柳さんと前野さんと移動中に距離を取っていたと聞いたのですが、あえて役作りのためにそうしたんですか?
- その話、僕も聞いたんですけど、自分としてはまったくそんなつもりはなくて(笑)。
- まわりから、そう見えただけ?
- 吉村と高杉だけのふたりのシーンがけっこうあったり、僕は僕で単独の撮影が多かったので、それで距離を取ってるように見られたのかも(笑)。顔合わせのときから前野さんと柳くんとはしっかり意思疎通ができていたし、作品をどうとらえているのかという話も密にできたと思ってます。
- 具体的に言うと?
- 共演者のみんなと顔合わせのときに本読みをしたんですけど、だんだんエチュードっぽくなっていって、そのときにお互いの性格を知れたし、3人のバランスや関係性を確かめ合えました。本読みの早い段階で、すでに波長が合うと実感できたんです。
- そんなに気が合ったんですね。
- 撮影に入ってからもふたりのことはずっと信頼してましたし、めちゃくちゃ楽しかった。この3人でずっとやっていたいって思ったくらいです(笑)。
- スクリーンからも、その空気感は伝わってきました! 撮影の合間にご飯へ行ったりしたこともありましたか?
- 撮影中はなかったんですけど、柳くんか前野さんがクランクアップした日に、初めて3人だけでご飯を食べて。前野さんが、くん製ばっかり出してくれる居酒屋が新宿にあるって言って(笑)、そこに行きました。
童貞に見えるかどうか。これだけが最後まで不安だった
- 今回、西海謙一郎監督にとって初の長編作品だそうですね。
- はい。だから、監督もすごく思い入れがある作品だったと思いますし、僕にとってもハードルの高い役だったので、初めてお会いしたときに自分を隠さずすべてをさらけ出そうと思いました。
- どんな話をされたんですか?
- 僕がどういう人間で、『チェリーボーイズ』という作品に対してどう思っているか、あと女性に対する見方とか、好きな女性のタイプなどを赤裸々にお話しました。そうしたら、やっぱり男同士なので盛り上がったりして(笑)。そこですごく通じるものがあったんです。
- 不安が一気に解消されたわけですね?
- すべて解消されたわけではないけど、やっぱり本当に童貞に見えるかどうかだけが不安な部分だったので、正直に話しました。そうしたら監督が「林くんが思いを強く持ってくれればくれるほど、こっちもその気持ちに応えるし、たとえ童貞に見えなくても僕たちが見えるように撮るから安心して」っておっしゃってくれて。
- そこまで言っていただいたら心強いですね。
- 一緒に責任を背負ってくれるという感じがすごくして、監督への信頼も強まりました。
- できあがった作品を見ていかがでしたか?
- うまく説明できないんですけど、ひとりひとりのキャラクターに対する監督の愛情みたいなものが、スクリーンを通して伝わってきました。
- 林さんが不安だと言っていたところは解消できていましたか?
- はい。撮影中は、自分がダメだったらこの作品は成り立たないという不安もあって、必要以上にひとりで背負っていたところがあったと思うんです。でも、できあがった映像を見たときに、前野さんと柳くんの存在にとても助けられたと強く感じました。
- と言うと?
- 国森に対するふたりの思いがすごく伝わってくるんです。ふたりが国森のことを心配したり、慰めたり、逆に悪口を言ってたり、そういうシーンがすごく素敵で、友達ってこんな感じだよなって思わせてくれました。ふたりのおかげで、国森として存在できたんだなって改めて思いました。
- 映画を鑑賞後に、みなさんでお話しましたか?
- 別々に見たので、前野さんや柳くんと直接話せなかったんですけど、できあがった映像を見て一番強く心に残ったのが、ラスト3人のシーンだったんです。前野さんと柳くんには、すぐに感謝の気持ちを伝えました。
- どういうところが心に残ったんですか?
- 国森が何を思って何に苦しんでるのかを必死に知ろうとする、高杉と吉村の顔がたまらなくて…。国森に何と声をかけたらいいのか探っているふたりの表情を見たら、コンプレックスの強い、ちょっと弱い人間たちの…切ないけど美しい友情みたいなものがすごく伝わってきたんです。そのシーンを見たときに、この作品の大きなテーマのひとつなんじゃないかって思って、もうふたりに連絡せずにはいられなくなりました。
- たしかにラストは、自分のことより国森のことを思いやるふたりが感動的でした。
- お互いに嫌いな部分もいっぱいあって、見下してたりズルい部分もあるけど、最終的に3人がお互いを必要としているという関係性は、強い絆があるからこそなんですよね。「この映画の見どころは?」と聞かれたら、「友達という存在はすごく大事なもので、素敵にキラキラしているところを改めて感じてほしい」と答えると思います。…でも、前野さんは本当にズルかったです(笑)。
- 高杉役は、前野さんしかいないというくらいハマり役でした!
- 思いを寄せる女性が拭いたタオルのニオイを嗅ぐシーンとか、前野さんじゃないと成立しない。普通、あんなことするか!って思うんですけど、前野さんならやりそうだなっていう(笑)。
- (笑)。
- ニオイを嗅ぐとかは、わかるんですけど、自分の思いを言葉にしちゃってるじゃないですか。「やりたい、やりたくない、やりたい、あ、でもやりたくない!」みたいな。あんな難しい演技、よくできるなって思いました(笑)。