高良健吾、本能のままに演じていた20代から一歩踏み出し、新たなステージへ。

高良健吾にとって初の“朝ドラ”となった『おひさま』(NHK)。彼がクランクインしたその日、東日本大震災が起きた。同作への出演とその反響は、彼の俳優業への意識を大きく変えたという。それから約5年を経て、被災者の“いま”を鋭く、優しく描き出す映画『彼女の人生は間違いじゃない』に出演した。奇しくも撮影が行われたのは、2度目の朝ドラ『べっぴんさん』の撮影期間中。決して出番は多くはない。だが、高良健吾のいまをも映し出す作品となった。

撮影/平岩 享 取材・文/黒豆直樹 制作/iD inc.
スタイリング/小野田 史

震災への怒りと、被災者への優しいまなざしに満ちた物語

映画『彼女の人生は間違いじゃない』は、映画『ストロボ・エッジ』や『PとJK』、ドラマ『火花』(Netflix)で知られる、廣木隆一監督が執筆した小説を映画化した作品ですね。高良さんは10代の頃から映画『M』、『軽蔑』などで、廣木監督とお仕事されています。
今回の作品に関しては、もう何年前になるのかな…。廣木さんから「これから小説を書く。完成したら健吾に読んでほしい」と言われたんです。映画化を前提に話は進んでいたし、「そうなったら頼む」とも。それが実現し、オファーが来たときはうれしかったですね。
撮影は昨年に行われたんですよね。
ちょうど『べっぴんさん』の撮影期間中でした。方言などが、自分の中でなかなかうまくいかなくて、いろんなものを溜めこんで苦しんでいる時期に、この現場に行くことで自由を感じることができて、すごく楽しかったです。
物語は震災で母を失い、父と福島県内の仮設住宅で暮らす金沢みゆき(瀧内公美)の姿を描きます。彼女は役場に勤めつつ、閉塞感の中で、週末になると高速バスで上京し、渋谷でデリヘル嬢として働いています。
まず、福島出身である廣木さんがこの小説を書いた背景には、被災地の現状への怒りと、震災に遭い、原発事故に巻き込まれた人々への優しい目線も感じました。
以前から高良さんは、2011年の震災があり、『おひさま』が放送され、被災地を含む全国各地から作品への感謝や激励の声が寄せられ、その声に触れたことで仕事への向き合い方が大きく変わったとおっしゃっていました。今回の作品に対し、強く感じるものがあったのでは?
この作品の前に、僕の地元である熊本を舞台にした『うつくしいひと』という映画に参加したんですが、その後、熊本でも大きな地震があって…。
高良さんご自身も、大切な故郷の街が被災するという経験をされたんですね。
ただ、映画でも描かれますが、東北の震災は原発事故の影響がすごく大きく、熊本と同じではないですよね。個人的に思うことはたくさんあるし、それを自分が言葉にしていいのか? どう表現するのかは難しいですが…。ただ、廣木さんの本はすごく優しい本であるけど、真ん中にはやはり怒りがあるのを感じました。
高良さんが演じたのは、週末だけ渋谷でデリヘル嬢として働くみゆきをサポートする三浦秀明ですね。
演じるうえでは、“そこにいること”だけを意識していました。これは廣木さんに『M』のときからずっと言われ続けてきたことです。「役としてただ、そこにいなさい」と。三浦とみゆきは、互いについて何も知らない関係なので、「震災が…」と考えるのではなく、三浦としてそこで、どうやってみゆきと接するか? ごくシンプルな気持ちでやりました。

「いまいるのが自分の居場所」と感じられるようになった

みゆきは自分の居場所を見つけることができず、未来も見えずにもがき苦しみます。高良さん自身と重なる部分や、共感するところはありましたか?
みゆきは震災によって“奪われた”人間ですし、居場所から離れないとならなくなった人ですから、単純に同列には並べられないですが、10代から20代の前半、半ばくらいまでは僕自身もそういう思いはあったと思います。
自分は何者で、どこに向かっているのかという葛藤があった?
そういうことを言ったり、思ったりしたかっただけなのかもしれません。「自分の居場所はどこなんだ?」とか「ここは俺の居場所じゃない」と。20代半ばくらいまでかな? そういう意識はありましたね。いまは、「いまいる場所が自分の居場所だ。できることをやるだけ」と思えるようになりましたけど。
そう思えるようになったのは、何かきっかけが?
説明になっているかわかりませんが、この仕事は、自分が「NO」と思っているところに進まなきゃならなかったりする。自らそっちに行ってしまったり、やらなきゃいけないような気持ちになったり…。そこが面白くもあるけれど、そのまま30代、40代と進んでいったら、俺、死んじゃうんじゃないか? と。
役のために自分を追いつめていく中で、そこまで…。
“繊細”であることと“気にしい”は違うけど、ずっとそのままじゃ苦しいなと。30歳になったとき、僕はどういう役をやるのか? そう考えて、若さと勢いだけじゃないものを表現できないといけない。30歳に向かう準備をする中で、そういう葛藤やモヤモヤをそのままにしたくなかった。

朝ドラの経験がもたらした、演じる意識の変化

20代と30代では求められるもの、あるべき姿が変わってくるだろうと?
与えられる役は確実に変わっていきますしね。それまで、僕はずっといろんなものをダダ漏れにしながら表現してきたけど、そのままじゃダメだし、すごく嫌になったんです。
ダダ漏れ?
感情をダダ漏れにした、勢いだけでオーケーという芝居が恥ずかしくなったんですね。感覚と本能だけで、記憶さえない。それは10代、20代と許されてきたかもしれないけど…。
20代半ばで意識して、方向転換したんですね。
自分のネガティブな言葉や行動が、周りを興味本位で面白がらせたり、不安にさせたりするのはもう嫌だなと。それよりも、自分がいることやすることで安心感を与えたい。それはこれから出会う役にとっても、いいことだと思うんです。いずれにせよ根っこにあるのは“ネガティブ”なので(苦笑)、必要であればそっちにはすぐ戻れるんでね。
今回、演じられた三浦という男は、迷えるヒロインのみゆきとは対照的に、自分の居場所を自分で選択し、歩いていく男です。まさにいまお話された、高良さん自身の意識の変化と非常にマッチしているなと感じます。
僕もそう思います。これまで、僕はとにかく“主観”ばっかりだったんですよね。それがいま、客観視できるようになったかというとなかなか難しくはあるんですが…(苦笑)。ただ、これまでとは違うチャレンジができているのかなと。
どういう部分で?
それこそ朝ドラでずっと大阪にいて、ひとつの役を長くやっていると飽きるんですよ。それは役に対してではなく、自分のやっていることに対して。自分がそこで成長できていなかったり、挑戦できていないことに気づいて。これはまずいなと。長く同じ役をやっているからこそ気づくこと、感じることもたくさんあって。
ちょうどその時期に本作の撮影があって。
この作品だからこそ試せたこともたくさんありました。とくに意識したのは「自分をコントロールすること」。たとえば、セリフを自分の“間”で言わないとか。
あえて自分の“間”ではなく、相手に合わせる?
自分の気持ちいい“間”というのはあるし、これまでずっとそれでやってきました。「内面から出るもので芝居する」というのは、廣木さんから学んだこと。今回、その内面を(相手の)行動で作っていくようにしました。
意識面での変化が狙い通り、演技にも表れてきた?
ここ2、3年、意識してきました。なかなか1年や2年ではできなかった。けれど、それがこの時期、廣木組に参加して、きちんとできていたかはわからないけど、完成した映画を見たら、これまでと違う自分がいた気がしました。

「役のおかげ」で周りの人のことを考えられるようになった

三浦はデリヘルの従業員という仕事を「人間のいいところも悪いところも見えて好き」と語りますが、俳優という仕事にもそういう面があるのでは? とはいえ、高良さんのお話をうかがっていると、「楽しい」と簡単に言えない苦しさがあるんだろうとも感じますが…。
以前は「楽しい」なんてまったく言ってなかったですね(笑)。それを僕はずっと役のせいにしてきたんです。こんなに自分が落ち込んで、役とはいえ、自分が正しいと思うことを否定しないといけないのは役のせいだって。廣木さんに学んだ「心から演じる」ということで不具合が出てきていた。それは僕がうまくできないからなんですが。
演じることが苦しかった?
10代後半から、“死”と近い役が多かったのも大きいです。周りにはうらやましがられましたけど…。でも、それをいまは「役のおかげ」と思えるんです。だからこそ、こんなにも周りの人間のことを考えられるし、勉強なんだなと思うし。
そこから楽しさが芽生えてきた、と?
そうやっていろんな経験をして、いろんな役を演じて、面白い人たちとの出会いがあり、取材では自分の言葉で話をしなくてはいけなくて、考えて、考えて…。芝居をすることは、いまでも決して“楽”ではないですが(苦笑)。
プライベートでの経験や行動が、俳優の仕事に影響を与えることはありますか?
そういう部分ばかりだと思います。今回の映画を見ても感じました。だから、自分が自分に誠実でいないと、スクリーンにも嫌な自分が映るんだなって。
いま、仕事がない休みの日はどんなふうに過ごされているんですか?
旅行に行ったり、本を読んだり、映画を見に行ったり…。思い立って、ひょいとひとりで海外に行くこともあります。以前からそうやって過ごしてはいましたが、いまのほうが楽しめている気がしますね。
この秋でいよいよ30歳になりますね。
僕は、30代を楽しみにしてずっとやってきました。先ほども言いましたが、自分の中にある感情をコントロールして、自分が思う正しい場所に収められるようになれたらいいなと思います。それが30代で与えられる役に必要なことだとも思います。
この先、どんなビジョンを思い描いていますか?
自分が憧れてきた先輩たちは、30代、40代と年齢を重ねても常に進化しているんですよね。逆に10代、20代の若い世代にもいい俳優がいっぱいいる。結局はそうやって、自分を真ん中に置いて“主観”で見るクセは直らないですが…(苦笑)。そこで求められるものは何なのか? を、常に意識しながらやっていきたいですね。
高良健吾(こうら・けんご)
1987年11月12日生まれ。熊本県出身。O型。2005年、ドラマ『ごくせん』(日本テレビ系)でデビュー。出演映画に『蛇にピアス』、『南極料理人』、『ソラニン』、『ノルウェイの森』、『横道世之介』など。ドラマでは2011年にNHK連続テレビ小説『おひさま』でヒロインの夫役を好演し話題を呼び、2016年には『べっぴんさん』にも出演。2015年のNHK大河ドラマ『花燃ゆ』では高杉晋作を演じた。2016年の月9ドラマ『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(フジテレビ系)では有村架純と共に主演を務めた。映画『月と雷』の公開が10月7日に控える。

出演作品

映画『彼女の人生は間違いじゃない』
7月15日(土)全国ロードショー!
http://gaga.ne.jp/kanojo/

サイン入りポラプレゼント

今回インタビューをさせていただいた、高良健吾さんのサイン入りポラを抽選で1名様にプレゼント。ご希望の方は、下記の項目をご確認いただいたうえ、奮ってご応募ください。

応募方法
ライブドアニュースのTwitterアカウント(@livedoornews)をフォロー&以下のツイートをRT
受付期間
2017年7月13日(木)12:00〜7月19日(水)12:00
当選者確定フロー
  • 当選者発表日/7月20日(木)
  • 当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、発送先のご連絡 (個人情報の安全な受け渡し) のため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
  • 当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから7月20日(木)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただき7月23日(日)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。
キャンペーン規約
  • 複数回応募されても当選確率は上がりません。
  • 賞品発送先は日本国内のみです。
  • 応募にかかる通信料・通話料などはお客様のご負担となります。
  • 応募内容、方法に虚偽の記載がある場合や、当方が不正と判断した場合、応募資格を取り消します。
  • 当選結果に関してのお問い合わせにはお答えすることができません。
  • 賞品の指定はできません。
  • 賞品の不具合・破損に関する責任は一切負いかねます。
  • 本キャンペーン当選賞品を、インターネットオークションなどで第三者に転売・譲渡することは禁止しております。
  • 個人情報の利用に関しましてはこちらをご覧ください。