シンジたちに抱く“母性”。高橋洋子が『残酷な天使のテーゼ』と過ごした24年

1995年に放送されたアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』。『エヴァ』の愛称で親しまれ、さまざまな考察が繰り広げられるなど、社会現象を巻き起こした。

高橋洋子が歌うオープニング曲『残酷な天使のテーゼ』はこれまでにCDセールス70万枚以上を売り上げ、現在でもカラオケで多くの人に歌われるなど、“アニソン”界のトップを走る。

平成を代表する曲となった同曲への思い、芸能界を一時引退して介護の仕事で見いだした歌の境地、そして新たな試みを取り入れた新曲『赤き月』について、AnimeJapan2019ステージ終わりの高橋に聞いた。

撮影/曽我美芽 取材・文/箭本進一 制作/iD inc.

「天使って残酷なんだ!?」レコーディング時の思い出

高橋さんが主題歌『残酷な天使のテーゼ』を歌ったTVアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』が放映されてから、24年になります。
レコーディングしたときは、絵も見ていないし、ストーリーも知らない状態でしたが、「どうやらスゴいアニメらしい」という噂だけは伝わってきていました。

実際に作品が世に出たあとは、想像を超える勢いで全世界に広がっていきましたが、これには私が一番ビックリしています。これだけの力がある作品に参加させていただけて、とても光栄に思っています。

『エヴァ』は人によって解釈も違ってくる、深みがある作品ですので、そうした違いも楽しみながらの24年でしたね。
放送時、ファンは物語に秘められた謎の答えを求めて作品用語をチェックしたりしていました。まさに社会現象を巻き起こしたと言えますが、どういうときにヒットを感じましたか?
スタジオミュージシャンの仕事として歌わせていただいた曲に対して、ある大学の哲学科の先生が、作家でもない私と「会って話したい」と言ってくださったときは、非常に責任を持たないといけない立場だと気づかされました。
2007年からは、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』が公開。こうした展開に伴い、高橋さんの中で『残酷な天使のテーゼ』のイメージが変わることはありましたか?
日本でもいろいろなことが起こりましたが、そういう時代に生まれたのが『新世紀エヴァンゲリオン』ですし、『残酷な天使のテーゼ』だと思います。私もその時々で感じたことを込めながら歌っていますから、日々進化していく歌だと思っています。
歌い方や声についてはいかがですか?
アニメの主題歌を聞きに来られる方は、初めて聞いたのと同じものを聞きたいと思っていらっしゃいます。せっかく聞きに来てくださったのにまったく違うものになっていたのでは、期待を裏切ることになってしまいますから、今の年齢でできるやり方で最初のものに可能な限り近づけて歌うことに気を付けています。
歌に込める思いは変わるけれど、声が違ってはいけないということなんですね。
そもそも初めて歌ったときは20代でしたが、10代の声を出すように求められました(笑)。
歌詞を初めて見たときは、どんな感想を抱かれましたか?
詞も曲も、とにかく難しいと思いました。だって、タイトルからして「残酷な」、「天使の」、「テーゼ」ですよ(笑)。「天使って残酷なんだ!?」って、ビックリしましたね。

デモ音源を聴いても、どこで息継ぎをするべきか、どんなふうに詞が入るかもわかりませんでした。

『エヴァ』は、世界中で通じる共通言語のような存在

6月21日からは、NetflixでTVシリーズ26話と、劇場版『EVANGELION:DEATH (TRUE)²』、『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』が世界に配信されますね。
単純に嬉しいです。『エヴァ』は今見ても古く感じないですし、何回見返してもそのたびに違う答えが出てくる作品だと思っています。

個人的には、『エヴァ』という作品を通して、世界中で通じる共通言語を得たような感覚もあります。
国境を超えて語り合えると?
そうです。海外に行くと、日本のアニメを見て日本語を勉強された方がとても多いんです。『新世紀エヴァンゲリオン』のストーリーについても、日本語で皆さんが話し合うことができると思うのです。
スゴいですね。
そのベースになっているのが、作品で紹介された日本の文化です。可愛らしいお弁当など、日本の日常的な風景を見て自分たちもやってみたいと思われるそうです。すごく大きな影響を与えているんですよね。

また、私は常々「アニソンは国境を越えるパスポートだ」と言っているんですけれど、昨年から実施している「エヴァンゲリオン ワールドツアー」で改めてそれを痛感しました。

世界中の方々が『残酷な天使のテーゼ』を日本語で2番まで歌うことができて、コンサートでも私の声が必要ないくらいの大合唱になるんです。それは本当に感動ものですよ。
作品が世界中で受け入れられたのは、どうしてだと思いますか?
哲学的な要素があるところ、普段の生活が描かれているところ、そしてキャラクターたちが自分をさらけ出す勇気を見せるところが共感を呼ぶんじゃないかと思います。

たとえば(碇)シンジ(声/緒方恵美)は「逃げちゃダメだ」と言いつつ、エヴァンゲリオンに乗るじゃないですか。勇敢に立ち向かうのではなく、か細い声で必死に勇気を振り絞る姿を「弱い」と言う人もいるんですが、あの環境に置かれてシンジと同じ決断ができるか?というと、なかなか無理ですよね。
そうですね。必死に戦うからこそ、心に刺さる。
私は『エヴァ』をバイブルにしているんですが、『新世紀エヴァンゲリオン』って「要するにこういう話なんでしょ?」って簡単に言い切れないところがあると思うんです。これまでの自分が生きてきた背景と照らし合わせて、そのうえでどう感じるかを見なければいけない。そういうところが魅力じゃないかと思います。
作品の中で、とくに好きなキャラクターはいますか?
年齢や共有できる感覚としては、(葛城)ミサト(声/三石琴乃)さんが近いんじゃないかと思っています。時にはミサトさんの立場から、「少年たちはこう来るんだ!」とか「君たちは、ミサトさんのことをこう思っているのね?」と楽しんでいます(笑)。

シンジたちに“母性”を抱く今だから歌える新曲『赤き月』

5月22日には、ミニアルバム『EVANGELION EXTREME』が発売されます。新曲『赤き月』では高橋さんが作詞をされていますね。
『赤き月』は、ミニアルバムのタイトルにある「EXTREME」(過激な)という単語に合わせて、尖った楽曲になっています。

ヒューマンビートボックスというボイスパーカッションを入れたり、観客の皆さんと一緒に合唱できるパートや、ダンサーたちがダンス対決できるパートがあったりもします。
新しい試みがあるわけですね。テーマはどういったものでしょうか?
「母性」がテーマになっています。私自身も『残酷な天使のテーゼ』のときは独身でしたが、いまは一児の母となり、14歳のチルドレンたちに対してはお母さんのような立場になりました。そうした中で歌うときにキーとなるのは「母性」です。

「母性」を持って作品に向かい合ったとき、シンジや(綾波)レイ(声/林原めぐみ)、(惣流・)アスカ(・ラングレー、声/宮村優子)たちのお母さんなら、どう思うんだろうという部分が出てきました。子を想わない母はいませんからね。
『残酷な天使のテーゼ』から時間が経ったからこそ、書けた曲なんですね。
そうですね。あのときは何もわからずに歌っているところがありましたが、だんだん「この歌は自分に対しての応援歌なんだ」と気づきました。そして、世界中の方が歌ってくださる力に背中を押されて、ここまで来られたんです。

こうした過去を経て、さらに世界中の皆さんに聞いていただいたり、歌っていただくようにすることが、今の私にできることなんじゃないかと思います。
まさに、高橋さんにしか歌えない歌ですね。
私の曲というよりも、きょうまで『新世紀エヴァンゲリオン』と一緒に生きてきた方々の曲ですね。みんなの人生にコミットしているのが『新世紀エヴァンゲリオン』という作品で、これを踏まえたうえで「さぁ、歌いましょう」というのが『赤き月』です。

芸能界を離れ介護の仕事に。改めて“音楽”の偉大さを学んだ

2000年からしばらく芸能界を離れて介護のお仕事をされていたそうですが、経緯について改めて教えてください。
『残酷な天使のテーゼ』のヒット以降、芸能界にいるだけで周囲の方々が“上げ底”してくださった時期がありました。ありがたいことではあるんですが、「これでは人間としてマズいだろう」と危機を感じたんです。
普通ならそこで天狗になってもおかしくないですが、高橋さんはご自身で軌道修正をされたわけですね。
私は、「本人の生き方が歌になる」と思っているので、人としておかしなことになったら、それはもう歌手としても終わりですから。

そこで事務所と相談して普通のお母さんに戻り、ヘルパーの資格を取りました。身体介護や24時間介護などを経て、最終的にはデイサービスで音楽療法をやらせていただくことになったんです。
音楽療法とは、どういったものでしょうか?
音楽に触れることで、心身の健康を増進するというものです。

音楽療法でいろいろな施設を周るときは、いつも初めてお会いする方ばかりですし、耳元で大きな声で歌っても聞こえないという現実がある。気持ちをこちらに向けていただくために体を大きく使ったり、毎回汗だくになりながらやっていました。まさに、毎日が“究極のライブ”でしたね。
歌手であることは公表されていたんでしょうか?
いいえ、隠していました。なのに、気がついたら施設を何個もかけ持ちして、パンフレットにも載ってしまって(笑)。
介護のお仕事をされていかがでしたか?
想像以上の学びがありましたね。「老いる」ということは誰もが通る道ですから。人は生きたように死んでいくのではないかと。だから、どう生きるかが大事なんだと実感しました。
歌手という立場を離れたにも関わらず、気がついたら音楽療法で社会に貢献していたのですね。
歌手活動をしていたときとは違った視点で、改めて音楽の効果について見つめ直すことができました。それは「音楽の存在しない人生はない」ということです。

音楽がないと死んでしまうわけでもないのに、太古から人は音楽を受け継いできた。それはやはり、音楽と人間は切っても切り離せないということだと思います。そうした意味において、音楽に携わり、生業とできることを非常に誇りに思っています。
では、これから音楽を学んでいく若い才能に向けてメッセージをお願いします。
「あの人みたいになりたい」ではなく「私自身がどう表現したいか」を考えたほうがいいと感じています。そして、己を知っていくことがすべてにつながっていきます。

ただ、“プロ”はできて当たり前ですし、下手であってはなりません。たとえ歌が下手でも、カバーできるだけの長所があればいいかもしれませんが、音楽家としては練習を超えるものはありませんから。

誰のせいでもなく、すべてを自分の責任としてしっかりと向き合いつつ、スキルを磨いていかれることをおすすめします。
高橋洋子(たかはし・ようこ)
1966年8月28日生まれ。東京都出身。O型。1991年に『P.S. I miss you』でデビュー。1995年に歌った『新世紀エヴァンゲリオン』の主題歌『残酷な天使のテーゼ』が大ヒット。2000年頃には芸能界を引退して介護職に就いていたが、後に歌手の仕事を再開。2018年からは「エヴァンゲリオン ワールドツアー」を開催中。

番組情報

『新世紀エヴァンゲリオン』
『EVANGELION:DEATH (TRUE)²』
『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』
6月21日よりNetflixにて全世界独占配信

CD情報

高橋洋子ミニアルバム『EVANGELION EXTREME』
5月22日(水)から発売中!

価格:2,000円+税

サイン入り色紙プレゼント

今回インタビューをさせていただいた、高橋洋子さんのサイン入り色紙を抽選で1名様にプレゼント。ご希望の方は、下記の項目をご確認いただいたうえ、奮ってご応募ください。

応募方法
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受付期間
2019年6月6日(木)12:00〜6月12日(水)12:00
当選者確定フロー
  • 当選者発表日/6月13日(木)
  • 当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、個人情報の安全な受け渡しのため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
  • 当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから6月13日(木)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただき6月16日(日)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。
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