「自分が歩んできた道は、きっと間違いじゃない」増田俊樹、人生の岐路に立つ。

デビューから10年。増田俊樹は、人生の岐路に立っている。

『遊☆戯☆王ZEXAL』で声優活動をはじめ、『KING OF PRISM by PrettyRhythm』、『僕のヒーローアカデミア』、『刀剣乱舞-花丸-』など、数々のアニメ作品に出演。あっという間に人気声優の仲間入りを果たした。

傍から見れば順風満帆なキャリアも、その裏で、当の本人は悩みもがき、自問自答を繰り返していたのかもしれない。自分が本当にやりたいことは何か。それを実現するために今できることは何か。

2018年秋、増田は「個人名義でCDデビューする」という決断を下した。自分の意思で決めたことだ。誰のせいにもできない。前に進むしかない。

「音楽活動をやるという選択肢を選んだこと、そして自分がここまで歩んできた道は、きっと間違いじゃない」

そう自分に言い聞かせながら。

撮影/宮坂浩見 取材・文/野口理香子
スタイリング/小渕竜哉 ヘアメイク/河口ナオ

CDデビューはこの数年、自分の中で温めてきた気持ち

「増田俊樹」名義で音楽活動を始めようと思った理由を教えてください。
ご縁があって、「興味があったら挑戦してみませんか」と。

もともと僕も、個人名義での音楽活動に興味があったし、夢もあったので、挑戦させていただくことになりました。
興味があったというのは?
最初は、学生時代に漠然と思い描く「役者になりたい」「タレントになりたい」というレベルでした。音楽に対して特別な熱意があるかというと、そうでもなく。音楽をあんまり聴いてこなかったので。
学生の頃に、カラオケに行くと歌っていた曲や、ハマっていたアーティストなどはとくにいないですか?
いるにはいるんですけど……。父親が車の中でポルノグラフィティさんの曲を流していたので、僕も気に入って小学生のときはよく聴いていました。

ただ、自分から積極的に世界を広げるということはしてこなかったんです。あるものを楽しむ、という感じで。

たとえばその世代のヒット曲をいくつか知っているとか、同世代でカラオケに行ったときに、この曲を知っておかないと楽しめない、みたいなものを数曲押さえておくとか。
声優の仕事としてキャラクターソングを歌う中で、少しずつ興味を持ち始めたのでしょうか?
そうですね。キャラクターソングをたくさん歌わせていただく機会があり、自分なりの表現方法で音楽に挑戦してみたいと思うこともあったので。この数年、自分の中で温めてきた気持ちではあります。

キャラソンは、オファーを受けてるので、そこに僕個人の意思が強く反映されるわけではないんです。……っていう言い方をすると語弊があるかもしれませんが(笑)、やはりキャラクターあっての歌なので、キャラに寄り添って歌い、「このキャラクターだったらどう表現するか」と考えて臨むためです。

オファーをいただいてそれをお受けした以上、制作チームの要望に応えることは当然。そのうえで、いい作品を作るためにできることをしたいと思っています。
今年1月の『あんさんぶるスターズ!』のライブステージでは、朔間 零が増田さんに憑依しているかのようなパフォーマンスが話題になりました。「舞台に立っていたのは増田俊樹ではなく、朔間 零だった」という声も。
ありがとうございます。
それは増田さんがキャラクターのことを深く理解しているからだと思いますが。
うーん……。実際のところ、僕はそんなに深く理解しているとは言えないかもしれません。そのキャラクターのことをよくわかっている、と明言するのはちょっとおこがましいというか。僕だって知らないことはたくさんありますし。

自分ができる範囲で、お客さんに楽しんでもらえる方法を考え、行動に移しているだけなのですが……。でも僕は単純なので(笑)、喜んでもらえているならうれしいです。

「楽しい」だけの作品は、自分が目指すゴールじゃない

では「増田俊樹」名義で歌うときに、何を大事にしたいと考えていますか?
僕は、お客さんに喜んでほしいんですけど、楽しんでほしいわけじゃないんです。
というと……?
楽しむだけじゃなく、悲しんだり、怒ったり、なんなら悔い改めるような気持ちを抱いてほしいときもある。いろんな感情を湧き立たせる表現をしたいんです。そして、それが皆さんの明日につながるエネルギーになってほしいと思っています。

これまで歌ってきたキャラクターソングは、「喜んでもらう」が終着点であることが多かったけれど、僕はもっともっと幅広く、自由に、いろんな感情を湧き立たせられるような表現をしたくて。何のしがらみもない個人名義での活動なら、それができるかもしれないな、と考えています。
「いろんな感情を湧き立たせたい」と考えるようになったのは、いつ頃からですか? この業界に入った当初から?
いえ、全然。表現することを仕事にし始めた10年ほど前は“ごっこ遊び”の延長のような、演技すること自体が楽しいという段階でした。それから2〜3年経って、芝居の大変さなどがわからないなりにわかるようになって、自分に求められることを噛み砕いて、視野を広げてきました。

デビューして5年ほど経ってからやっと、自分が何を目指したいのか、何が好きなのか、少しずつ取捨選択ができるようになってきて。そんな中、自分が作品を通してお客さんに与えたいのは「影響」なんだと気づいたんです。
影響?
狂気だったり、目を背けたくなるような事柄に触れることで、人は、それを自分の人生に置き換えて、いろいろなことを見つめ直したり、悩んだりする。きっとそうやって繰り返しながら生きていくと思うんです。僕もそのキッカケのひとつになりたいなと。

日常的な投稿に1万いいねがつく理由はわかりません(笑)

少し脱線しますが、ラジオ番組やSNSなどで、「増田俊樹」として言葉を発信するときに大事にしていることは何ですか?
ラジオはひとりじゃないことが多いので、相手に合わせますね。20歳上の先輩だったらサポートに撤しますし、10歳くらいの差だったら、後輩としての立ち位置だけでなく、自分も楽しむということを意識します。

同年代、あるいは自分の後輩たちだったら、精一杯、自分が楽しいと思うことに挑戦していく……といった感じでしょうか。
SNSはどうですか? 増田さんのTwitterアカウントは現在、15万人近くのフォロワーがいます。
情報過多の時代なので、いろんな言葉がいろんな媒体を通して伝わっていく。だからTwitterでは仕事の話を極力しない、というルールが僕の中にはあって。イベントに登壇したあとにつぶやくこともあるんですけど、多くを語りすぎないようにしています。

日常生活に則した内容を投稿できるように探っている最中です。おもしろいとか、楽しいとか、みなさんに笑ってもらえるものを見せたいなと。
ちょっと疲れているときは毒を吐きたくなったり、意見を求めて肯定してほしいと思ったりすることもありますけれど、ファンの皆さんに心配をかけてしまうんじゃないかなと思うと、違うのかなと。下書きに残ったままになっている文章も、けっこうあります(笑)。
日常的な投稿にも、1万件以上「いいね」がついていますよね。
ありがたいことです。よく聞かれるんです、「どうしてそのツイートに1万いいねがつくんですか?」って。僕もわかりません(笑)。

矮小な人間なので、たくさんの人に見てもらえることには自己肯定感を感じてしまいます、はい。素直にうれしいです。ただ客観的に見ると、なぜこれに1万いいねがつくのだろう……理解できないです(笑)。

でも、「いいね」を押してもらえるということは、ポジティブな感情を抱いてくれているということ。これだけたくさんの人が、僕の発言や行動にポジティブな感情を抱いてくださるのであれば、僕もできる限り、みんなが楽しんでくれるような投稿をしながら、Twitterを楽しみたいと思っています。

振り返れば、Mr.Childrenの曲が自分の心に残っていた

増田さんの個人名義の音楽活動にかける思いを教えていただいたところで、楽曲についてのお話に移ります。1stEP『This One』の制作にあたって、増田さんからリクエストしたことはありますか?
トイズファクトリーには、Mr.ChildrenさんやBUMP OF CHICKENさんといった、たくさんのアーティストを知っているわけではない僕でも好きでよく聴いていた方々が所属されています。この2組は、カラオケで歌う、数少ないアーティストさんなんです。

せっかくなので、その方々の曲作りやサウンドに近いものができたら、きっと僕が今まで聴いてきて好きだった音楽に近づくんじゃないかな、と相談させてもらいました。
仕上がった曲を聴いて、理想に近い作品になった感触はありましたか?
はい。僕が音楽的にまだまだ未熟なので、自分の曲だと胸を張って言えるものではないのかもしれないですけど、サウンドプロデューサーの伊藤 翼さんをはじめとする素晴らしい制作チームが支えてくれて完成したんだなと実感しています。
ちなみにMr.Childrenの好きな楽曲は?
自分の人生に大きな影響を与えてくれた『青天の霹靂』という映画の主題歌だった、『放たれる』です。

この曲をキッカケに、Mr.Childrenさんのほかの曲も追いかけるようになり、数年前に出たベストアルバムも買いました。あと昔、ドラマ『アンティーク 〜西洋骨董洋菓子店〜』の主題歌だった……。
『youthful days』ですね!
そう! あのドラマも、曲も好きで。改めて振り返ると、Mr.Childrenさんの曲が耳に残り、自分の心に残る曲だったんですよね。

耳に対するアプローチこそが、僕ら声優の仕事

『This One』というタイトルは、増田さん発案だと伺いました。
そろそろタイトルを決めたいという話になり、「考えてみてよ」と言われたことから、いろいろ試行錯誤しました。

個人名義でリリースする1枚目のCDということで、端的に「one」がパッと浮かんで。身近にない言葉を使うのはむずがゆかったので、「1」か「one」かなと。わかりやすいタイトルにしたいけれど、シンプルすぎるのも違うし、ごちゃごちゃ付け足しまくるのも避けたい。

そう考えを巡らせる中で、『This One』が脳裏に浮かんだんです。
『This One』の意味は?
置いてあるものを指すときは「this」ですよね。なぜ「one」がつくかというと、数百種類、数千種類、数万種類、選択肢がある中で「これなんです」っていうのを表現したいときに使う言葉。いわゆるオーダーメイド、世界にひとつだけしかない一点ものだと表現するときの言葉なんです。

自分が音楽活動をやるという選択肢を選んだことと、自分がここまで歩んできた道は、きっと間違いじゃない。そう自分に言い聞かせたい気持ちもあって。そんな今の自分に『This One』はしっくりきました。
素敵なタイトルだと思います。
ありがとうございます。それで、チームの皆さんに「恥ずかしながら『This One』っていうのを考えています」と連絡したら、「いいじゃん!」とすぐ返事をもらって。
即、決まったんですね。
はい。自分でも戸惑ったんですけれど。みんな僕より歳上の人たちばかりなんですよ。その、いい年齢の方々が取り繕うわけでもなく、素直に「いいね」と言ってくれたので、これは本当にいいタイトルなのかもしれない、これを背負ってみようと思えました。
モノクロのジャケ写も印象的ですが、ビジュアル面でのこだわりを教えてください。
明るいとか、ふわふわしているとか、ポップだとか、そういうのは避けたいと伝えました。そのままがいい、と。

極端に言えば、耳に対するアプローチこそが僕らの仕事。視覚情報をできるだけ少なくしたいと思っているんです。

本音を言うと、ジャケットは自分の写真ではなくてイラストにしたかったんですけど、「さすがに増田さんの写真がないと。1枚目ですし、ファンの方は写真のほうが喜ぶと思います」と言われ、そうですよね……と(笑)。
カメラマンはアミタマリさんです。
カメラマンというか、アーティスト。表現者みたいな人なんです。うまく言葉にできないんですけど、自分と近い空気感、世界観を持った方なのかな?と、最初にお会いしたときに思ったんですよ。

最初にお会いしたのは、アーティスト写真の撮影なんですけど、そのときから打ち合わせをする必要がなかった。自然に撮影が始まって……っていう。
▲増田俊樹のアーティスト写真
自分の顔が写ることに抵抗はあるんですけど、こういうふうに自分の気持ちを汲んだうえで撮っていただける、そして撮るための環境作りをしてくださることに本当に感謝しています。アップの写真は恥ずかしいし、やっぱり引きのカットのほうがいいよ!とも思うんですけれど(笑)。でも満足できるジャケット写真になりました。

人に迷惑をかけない程度に、正直に生きていきたい

CD発売日の翌々日、3月8日に29歳の誕生日を迎えます。20代最後の年を迎えるということで、心境に変化はありますか?
若い頃は「早く30代になりたい」と思っていたんですが、ここ数年、逆転しています。最近、身体の衰えを感じる瞬間があり、ちょっと怖いというか(笑)。できないことが増えていく感覚に陥っていて、歳を取りたくないなと。

これまでは「カッコいい自分でありたい」といった動機で「ダイエットしたいです!」と言っていたんですけれど、最近は、自分の仕事や生活においても「整える」ことの重要性を意識するようになりました。
声優業界には、カッコいい先輩方がたくさんいますよね。
年齢という避けられない事象に対する努力を惜しまない先輩方は、本当にカッコいいなと思います。
2016年3月にインタビューさせてもらったときに、「気に入らないことがあるからって、すぐ顔に出すのは大人じゃないなと思って。感情をうまくコントロールできるようになりたい」とおっしゃっていました。あれから3年、大人になったと思いますか?
驕りなのかもしれないですけれど、人を傷つけなければ、わかりやすく顔に出てしまってもいいかなという節もあって。でもそれだと大変だよってアドバイスしてくれる人もいて。いろいろ悩んでいます。一生つきまとう悩みなのかなとも思います。
難しいですよね……。
ただその頃、3年前って、いろいろもがいていた時期で。大人にならなければいけないとか、大人にならないと自分がつらいとか、そういうことを考えていたんですよね。

今はそうは思いません。いい歳になりましたし、自分の選択にけじめをつけるわけじゃないんですが、人に迷惑をかけない程度に正直に生きていこうかな、と思っています。
その取材のときに、「毎年、自分の誕生日には財布か腕時計を買っています」と。今年もその予定ですか?
財布は秋口に買うタイミングがあったんですよね。時計もつい最近、衝動買いをしてしまったので……(笑)。

でもたしかに例年、ご褒美と言い訳をしないといけないものは、誕生日付近に買いますね。いまのところは、ノートパソコンを買う予定です。
仕事道具を買うんですか?
はい。あ、財布も腕時計も、僕の中では仕事の道具です。財布は風水とかいろいろ考えて、自分の仕事が捗るために買いますし。

腕時計は30歳になったときに、いわゆるハイブランド、給料何カ月分のものを1本買いたいなと思っているんですけれど、それも「大人の男性は、自分の地位や立場を自覚するためにいいものをひとつ持ちなさい」と聞くからであって。やはり終着点は、仕事なんですよね。
プレゼントを人に贈るのは好きですか?
たぶん好きです。でも、誰かれとやかくプレゼントをあげるわけじゃないですよ。あげたら喜んでくれそうだな、と想像できる人に。

仕事の付き合いだとどうしても、プレゼントをあげるまでの関係には至らないんですよね。失礼な気がして。向こうに「お返ししないと」って気を使わせてしまうから。

僕は、「お返し楽しみにしてるわ」って冗談が言えるような人じゃないと、プレゼントをあげられない。逆に後輩には「お返しとか考えるなよ」と言ってあげますね。
気遣いの人なんですね……!
だって嫌じゃないですか。自分が行ったことで、相手に気を使わせるなんて。
ちなみに、増田さんからはどういうプレゼントを?
僕があげるのは、ネタにも見えて、ガチなもの。おもしろければ、相手が喜んでくれるならば、値段はいとわず、です(笑)。

昨年は、蒼井翔太さんと鈴木裕斗くんと3人で集まることが多くて、プレゼント交換もしていました。順番的に次の誕生日は僕なんですけど、もらえるのかな……?(笑)「楽しみにしてるよ」って冗談も言い合える仲なので、楽しみに待っています。
増田俊樹(ますだ・としき)
1990年3月8日生まれ。広島県出身。B型。2010年に声優デビューを果たす。主な出演作に、『アイドリッシュセブン』(和泉一織)、『僕のヒーローアカデミア』(切島鋭児郎)、『KING OF PRISM by PrettyRhythm』(仁科カヅキ)、『刀剣乱舞』シリーズ(加州清光)など。2018年秋に個人名義でCDデビューすると発表。2019年3月6日、1st EP『This One』をリリース。

CD情報

1st EP『This One』
3月6日(水)リリース


左から初回限定盤、通常盤

【初回限定盤】(CD+DVD)
¥1,852+tax
【通常盤】(CD)
¥1,204+tax

サイン入りポラプレゼント

今回インタビューをさせていただいた、増田俊樹さんのサイン入りポラを抽選で3名様にプレゼント。ご希望の方は、下記の項目をご確認いただいたうえ、奮ってご応募ください。

応募方法
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受付期間
2019年3月5日(火)12:30〜3月11日(月)12:30
当選者確定フロー
  • 当選者発表日/3月12日(火)
  • 当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、個人情報の安全な受け渡しのため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
  • 当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから3月12日(火)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただき3月15日(金)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。
キャンペーン規約
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