「“胸糞悪い”という感想でもいい」漫画家・押切蓮介、『ミスミソウ』を語る。

『ハイスコアガール』や『でろでろ』などで知られる漫画家、押切蓮介。彼が新境地を切り開いた作品としてファンのあいだでも1、2位を争う人気作である『ミスミソウ 完全版』が実写映画化となった。舞台は、雪に覆われた過疎の町。逃げ場のない小さな社会で起こりうる嫉妬、虐待、絶望など人間の負のエネルギーが溜め込まれた本作は、トラウマ漫画としても名高い。まさかの映像化に、原作者は何を思うのか。連載当時を振り返っていただきながら、今回の映画版『ミスミソウ』について、率直な思いを語ってもらった。

撮影・取材・文/照沼健太

生みの親として、大きくなって帰ってきた“息子”に感動

『ミスミソウ』が映画化されると聞いて、どう思いましたか?
半信半疑でしたね。というのも、よく企画が持ちあがってはポシャるんです。だから期待しすぎないように慎重になっていました。
映画化の打診がこれまでにもあったんですね。
だいぶ前に『ミスミソウ』映画化の企画が出たときは、候補の監督を何人か教えてもらって「その監督だけは勘弁してくれ。もうちょっと『ミスミソウ』を知っている人にやってほしい」とお断りしたことがあります。今回は内藤瑛亮監督と聞いてすごく安心しましたね。実現した今となっては、本当にうれしい気持ちでいっぱいです。もともと映画が好きで、自分の作品の実写映画化が夢で「映画化したらいつ死んでもいいや」というくらいだったので(笑)。
漫画の実写化はここ数年のトレンドですが、こうした流れについて思うことは?
いいことだと思います。「ネタ不足なのかな?」と思う部分はありますが、漫画と映画が世間を明るくできるなら、どんどんやっていいと思います。
映画化にあたり、制作サイドへ何かしらの要望は伝えましたか?
いえ、基本的に自分としては作品を映画のスタッフさんにあげた感じなんです。内藤監督なら信用できるし。「好きにしてください。息子をよろしくお願いします」と。そうしたら、思ったよりすごく成長して帰ってきたという印象ですね。「大きくなったな」という感動と同時に、僕のものじゃなくなってしまったという寂しさも感じました。
脚本は事前に読まれていましたか?
読んでいました。基本的に手を入れてはいないんですけど、ラストシーンだけ……(野崎)春花と(小黒)妙子が教室にいて、ふたりが「ホームランだ」って窓にかけよるシーンがあったんですよ。だけど廃校直前の中学校の校庭で、野球部が試合してるのかって。それでセリフを変えてもらったんですけど、その結果、あのシーンは漫画ではできない演出になったと思います。
完成された映画を観た感想は?
原作に忠実な作品だったと思います。それと同時に、漫画とは違う魅力に溢れた作品でもあると思います。……あ、メモがあるのでそれを読んでいいですか?
あ、はい(笑)。よろしくお願いします。
“原作に忠実な作品になったと同時に、漫画とは違う魅力に溢れかえっておりました。『ミスミソウ』という作品が内藤監督の手に渡り大きくなった印象です。生みの親としては、子どもが自分の手を離れ巣立ってしまった感じがして寂しさもありましたが、映画『ミスミソウ』は監督やスタッフ、キャストの方々の努力の賜物であり「僕はただきっかけを与えただけであって、映画についてあまり大きなことを言う資格はない」と、そう感じてしまうくらい原作を超えてしまうものになったと思います。”
ありがとうございます(笑)。そのメモは、きょうの取材の回答用にご準備を?
そうです。僕は意思がブレブレで回答がころころ変わってしまうので、自分で想定質問を作って、きのうの夜に書いておいたんです。けっこう、いいこと書いてますよ(笑)。映画について自分は前に出るべきではないと思うんですけど……と言いつつ、こうやってギッシリ何枚もメモを用意してきてるんですけどね(笑)。

撮影現場を訪問 演者たちの鬼気迫る芝居に“ゾクッ”

撮影現場をお訪ねになったとか。演者たちの芝居を間近に見て、どう思いましたか?
それはもう、鬼気迫るものを感じました。軽井沢の山中を歩いて現場に向かったのですが、その道中で聞いたことのない鳥の鳴き声が聞こえるんです。「何の鳥だろう?」と思っていたら、役者さんの悲鳴だった。そのときにゾクッとして「これはスゴい映画ができる」と思いました。あんな寒いところで、14歳くらいの役者さんたちが転げまくりながら血だらけで演技しているんです。「なんで僕は常夏の設定にしなかったんだろう」と反省しました。
(笑)。そんなに寒かったんですね。
あまりに寒すぎて、10分でペンションに移動しましたからね。邪魔になっても悪いですし、お弁当を食べてすぐ帰りました(笑)。
相場 晄役の清水尋也さんにインタビューした際、「撮影現場に押切先生が現れて、現場の士気があがった」と。
本当ですか。清水くんはカッコよかったですね。男の僕でも抱かれたいと思いましたよ。
役者が演じた登場人物についての印象はいかがですか?
これについては本当にしゃべりたかったので、メモを読みますね(笑)。
“これだけの登場人物がいる中、「この人はちょっと違うな」という人が誰もいなかったことがスゴかったです。ほとんどの方が、舞台である大津馬中学校にまさにいそうな雰囲気を持っていた。そこがまず素晴らしかったです。妙子役の大谷凛香さんの目力もオーラも良かった。(佐山)流美役の大塚れなさんも劇中、目が離せない存在感を醸し出しておりました。”
ありがとうございます(笑)。押切先生がとくに気に入っているキャラクターはいますか?
一番のお気に入りは、池川 努役の遠藤真人さんですね。彼もまたハマり役で「彼こそが池川だ」と感じました。遠藤さんとはゼロ号試写(※関係者が観る最初の上映)でお話したんですけど、とにかく気さくで素敵な好青年。彼のTwitterのアイコンも良くて、玄関のドアから出てくるところなんです。「なぜこの写真を撮って自分のプロフィールにしたのか?」と不思議でしょうがないです(笑)。
池川は漫画版のときからお好きなキャラクターなんですか?
そうですね。真宮(裕明)と池川にはモデルがいて、僕と漫画家の清野とおるなんです。どっちがどっちのモデルかはわからないけど、「そういうことだね真宮くん」みたいな会話って、僕と清野くんそのまんま(笑)。だから感情移入もするし、愛着もわいていましたね。
映画版でとくに印象的だったシーンはありましたか?
それはもう、春花と妙子の対峙シーンですね。あのシーンはもともと期待していて、待ち望みながら映画を観ていたのですが、鮮烈でハッとさせられました。
敵対していたふたりが、あんな展開をむかえるとは。
残虐描写よりも、あのシーンこそが『ミスミソウ』の真髄じゃないですかね。
漫画版にない、映画版のオリジナルシーンではいかがですか?
放火事件後に、加藤(理佐子)と三島(ゆり)が手をつないで心細そうに歩いて下校するシーンですね。あれはすごく印象的です。あれがあるのとないのとでは、全然違ってきますね。それとさっきお話した、教室でのラストシーンのあたり。あのシーンが入ることによって鑑賞後、救われるんじゃないかと思います。よく「救われない」とか「暗い気持ちになる」と言われる作品ですが、そんなことない。希望のある話だと思っています。

幻のプロット「いじめっ子のプロ VS いじめられっ子のプロ」

『ミスミソウ』は、押切先生の作品では定番となっている「お化け」や「妖怪」といった怪異が一切登場せず、自身初となる「普通の人間が創り出す恐怖」を描いた作品です。このような設定にしたのはなぜなのでしょうか?
驚かせたかったんですよ。『ぼのぼの』のいがらしみきお先生が『Sink』とか『I【アイ】』とかを描き始めたことに衝撃を受けて、僕もこうなりたいって。『でろでろ』の作者が『ミスミソウ』を描いたら驚くだろうという下心で描き始めたんです。
ミスミソウという花をテーマにするという構想は、最初からあったのですか?
ミスミソウのことは、別名である雪割草という名前で知っていて。冬のあいだは雪の下で、春になると咲くという花をテーマに人間ドラマを描いたら面白いだろうなと。でも最初はもっとくだらない話だったんです。36人のいじめっ子のプロと、いじめられっ子のプロの話。
なんですか、それ(笑)。
靴を隠すのが異常にうまいヤツ、陰口を言うのが超うまいヤツ、靴に画びょうを隠すのが芸術的なヤツ……みたいに、いじめに長けているヤツらが集まっているクラスに、いじめられっ子のプロが転校してくるっていう。
ギャグだったんですね(笑)。
そうなんですよ。でも「これだと、ただの押切テイストだな」と思って(笑)。だから考え直して「もっと人間を慈しんでください」という裏テーマを設定し、背伸びして背伸びして描きました。
『ミスミソウ』の結末は最初から決まっていたんですか?
なんとなく決まっていました。相場くんの性格も当初からイメージはありましたね。でも描きながら背伸びして作っていった部分はかなりあって、流美は第3話から出てくるんですけど、まさに第3話の時点で考えたキャラクターでした。描いているうちにキャラクターが構築されて成長していったという感じですね。作家として、いち読者として「こうやって話が動くんだ」と感じながら描いていましたよ。
あえて考えながら描いていたのでしょうか?
はい。そのほうが絶対面白いと思うんです。カチッと決めたり、温めたりしているうちに話が腐っていく。僕の場合はとくにそうですね。だから新鮮なうちに描くようにしています。
さらに『ミスミソウ』は、作家としての「背伸び」もあったと。
そうです。作品の中で自分が成長しようとしているから、自分の理想通りに作りあげたとは言えない不安定な部分があります。完全版の上巻なんかは、肩幅がなくてギャグ漫画の絵なんですよね。できることなら描き直したいです(笑)。ところが後半になるとキャラの目力が違っている。これは『ミスミソウ』を描いているあいだに、自分の作家性が成長した証拠だと思います。
なるほど。
そうした背伸びが自信に変わったのが第16話のラストシーン、妙子と流美が対峙したところです。普通の人からしたらありふれたシーンかもしれませんが、僕はここで確信したんです。このシーンを描けたら『ミスミソウ』は完結できると。終盤にきてようやく確信したんですよ。

残虐な復讐シーンは、優しい気持ちで描いていた…!?

『ミスミソウ』の迫り来るリアリティーから、押切先生は雪国出身なのかと思っていました。
東京生まれの都会人です。じつはロケハンもしていません(笑)。でも頭の中に、この映画のポスターのような「まっ白い雪に、赤い血」というイメージがあって。
雪は、“もうひとりのキャラクター”ともいうべき存在感ですよね。
雪の描写には人間の気持ちが表れてるんですよ。キャラクターの気持ちが静止してるときはしんしんと降っているけど、動き始めると横殴りの雪になってきたり。これは意外と難しいらしく、雪の描写はアシスタントができなかったので自分でやっています。大小のバランスや、変なところに被らないようにするなど気をつけて描いていましたね。
そして当時は、中島美嘉の『雪の華』ばっかり聴いていました。音楽のインスピレーション力ってスゴくて、良い漫画を描くには良い曲を聴くことが大事で。音楽に乗せられて、余計に雪を降らせたりもしましたね。
『ミスミソウ』連載時、どういう精神状態だったのか気になるんですが。
いろんな人から「大丈夫ですか?」って言われたんですけど、全然、元気に描いてましたよ(笑)。
残虐なシーンでも……?
いや、痛い描写は僕も苦手なんですよ。だけど「やるときはやらなきゃ」と、とことんやりました。刃物で切られたときに、肉がどうえぐれるかをはっきり描くかどうかで話の深みが変わってくるので。キャラクターの殺し方にしても「どうやったら最後に花を咲かせてやれるだろうか?」と、優しい気持ちで残虐な殺し方を考えていました。
自分がやられたら嫌なことは、ほぼやった気がしますね(笑)。とくにやられたくないのは、池川くんの鼻にハサミを打ち込まれるヤツ。あれは嫌ですよ。除雪車は、意外と楽かもしれないですね。
トラウマ漫画と言われていることについてはどう思っていますか?
ありがたい話ですね。人の心に刺さったら成功で、刺さりもせず忘れられるのが一番ダメだと思うんです。「気持ち悪い」とか「ひどい」とか「胸糞悪い」とか、そう思われれば思われるほど「ありがとうございます!」という感じで。むしろ「つまんなかった」でもいいくらいです。何も残らないよりも、何か感情を動かすことができればそれでいいんです。
『ミスミソウ』の映画化が成功したことで、新たな欲がわいてきたのでは?
僕は映画ファンですし、作品が映画化されることに関しては、作家としてのステップアップとも考えていたので、『ミスミソウ』が良い映画になって本当に良かったと思っています。今後も映画化されるような作品を描きたいです(笑)。
押切蓮介(おしきり・れんすけ)
1979年9月19日生まれ、神奈川県川崎市出身。1998年、18歳のときに『週刊マガジン』に掲載された『マサシ!! うしろだ!!』で漫画化デビュー。2003年に『週刊ヤングマガジン』にて『でろでろ』の連載を開始し、2009年まで6年間にもわたる長期連載となった。2007年〜2009年にかけて『ホラーM』にて、本作品の原作となる『ミスミソウ』を連載。現在、『月刊ビッグガンガン』にて『ハイスコアガール』を連載中。

映画情報

映画『ミスミソウ』
2018.4.7 [土] より 新宿バルト9ほか全国ロードショー!
http://misumisou-movie.com/
©2017「ミスミソウ」製作委員会 /講談社

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応募方法
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受付期間
2018年4月4日(水)18:00〜4月10日(火)18:00
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