迷ったら歌えばいい。答えはハーモニーの中にあるから――Kalafina、10年の絆。

一糸乱れぬ美しいハーモニーと圧倒的な歌声で、ファンを魅了し続ける3人組ヴォーカルユニットKalafina。日本だけでなく海外公演も次々と成功させて着実にスケールアップし、2018年1月23日にデビュー10周年を迎えた。初のドキュメンタリー映画『Kalafina 10th Anniversary Film〜夢が紡ぐ輝きのハーモニー〜』が公開になるタイミングで、Keiko、Wakana、Hikaruの3人にインタビューを敢行。10年の歩みを振り返りながら、互いの存在、そしてデビューからプロデュースを担当してきた梶浦由記の存在について、素直な思いを語ってもらった。

撮影/西村 康 取材・文/江尻亜由子
ヘアメイク/イマム

「歌手になれてよかった、Kalafinaに入れてよかった」

10周年の武道館公演から1ヶ月が経ちました(※取材を行ったのは3月初旬)。今、どんなお気持ちでしょう?
Hikaru 「10周年ですね」って言われて改めて「そうか」って思うくらい、毎日が濃い10年でした。そこにはもちろんふたり(WakanaとKeiko)もいるし、武道館にも本当にたくさんの方が足を運んでくださって。こういう方々に支えられて10年間やってきたんだなって、幸せな気持ちになった当日でした。
Wakana 以前から、デビュー日が1月23日の「いち・に・さん」っていうのは覚えてもらいやすいし、10周年ライブをするにあたっても、お客さまが「123、楽しみにしてます」って言ってくださったりして。2018年の123は、まさに目指してきた日でした。なんか、「いち・に・さん」っていう響き的に、ここからまたスタートなのかなっていう気もしました。
Keiko アニバーサリーライブを初めてやらせていただいたのって、5周年のときだよね? そこから1年1年積み重ねるごとに、10周年っていう大きな節目を意識するようになって。そうやって、私たちの活動の目指す場所として10周年を掲げていたので。
3人の夢の会場でもあった武道館で、10周年を迎えることができたのは、本当に幸せだなって。「歌手になれてよかった、Kalafinaというグループに入れてよかった、すべてにすごくありがとう」という気持ちがこみ上げました。
アニバーサリーライブでは、「日本武道館で聴きたい曲」のリクエストをファンから募ってセットリストを作成されたんですよね。
Hikaru ライブ当日は、そうやってみなさんの気持ちを受け取るライブでもあったので、すごく緊張しました。「自分が選んだ曲を歌ってくれるかな」って、期待と一緒に会場に足を運んでくださっていたと思うので。1曲目の歌い出し前とか、ぶるぶるぶるって足が震えてました(笑)。
▲Wakana
▲Keiko
▲Hikaru
セットリストを最初に見たときは、どう思いましたか?
Keiko みなさんが「この日に聴きたい」っていう、強い願いがこめられた投票だったので、何であってもうれしいと思っていたんですけど……率直な感想として「奇蹟」とか「ミラクル」みたいな(笑)。タイアップ曲とかシングルにすごく偏るわけではなく、アルバムの曲も散りばめられていて。お客さまの音楽への愛情を感じました。
Wakana その結果、セットリストの中に9曲続けてお届けするブロックがあって。それが私たちにとって、今までで一番長いブロックだったんです。
Keiko それまでは、6曲がMAXだったから。
Wakana 「9曲!? 歌えるのかな?」って。Kalafinaの曲って、1曲がすごく長いんですよね。なので、プラス3曲になると15分くらいは伸びる。9曲全部聴いていただくと……30分くらい? 40分くらい? わかんないですけど(笑)。とにかく最初は「ここが大事!」って思ってたけど、歌ってみたらあっという間で。「あ、9曲、いいじゃーん?」って(笑)。
Hikaru 乗り越えてみたら、ね(笑)。
Wakana ダークなところから明るい世界、そして私たちの原点である世界に流れていく、そのブロックがすごく好きで、私にとっては印象的でした。
3人でお客さまをステージからきちんと見て、「ありがとうございます」って一言ずつお話する時間があったんですけど、そこで初めてグッときて。お客さまの目を改めて見たときに、うれしい気持ちがあふれ出てきて。そのときは涙が出ました。
何も言うことを考えてなかったんですけど、「10年間、いつもそばにいてくれたのは、みなさんでした」っていう言葉が自然に出たんですよね。本当に、そうとしか言えなくて。「お客さまがずっと支えてくれていた。10年間って、そういうことなんだな」と、改めて感じたライブでした。
Keiko 「選んでくれて、ありがとう」という気持ちをこめて、1曲1曲、大切に歌いました。お客様と一緒にセットリストを作る醍醐味を、歌うごとに噛み締めたのは、初めての体験でしたね。

デビュー直後の不安、初の武道館、震災…それぞれの転機

ファンのみなさんが選ぶのとは別に、メンバーのみなさんそれぞれが選ぶ、10年の中での「私のお気に入りの曲」というと?
Keiko 来ました、難問!(笑)
Wakana やっぱり本当に全部の曲が好きで。あえて選ぶとしたら、私は3rdアルバムの『After Eden』表題曲の『Eden』。いわゆるKalafinaサウンド、(デビューからの音楽プロデューサー)梶浦(由記)サウンドなんですけど。それぞれの旋律が絡み合って溶け込んでできあがる、その自分の旋律が当時すごく難しくて。『After Eden』のコンサートツアーも、すごく緊張してしまって。
その印象が長らくあったんですけど、アコースティックライブで歌ってからだったのかな、ひとりひとりの旋律が、こんなにも温かく絡み合ってできあがるんだなっていうことに気づいて。そこから怖くなくなったんです。3人の声がわっと一緒になる瞬間とか、花がこう、ふわっと咲いた感じがあったかいなって。「これがKalafinaの持ち味で、Kalafinaにしかできない音楽なんだ」って。それ以来、『Eden』を歌うのが楽しみです。
Keiko 今までこういう質問をされたときは、歌唱のほうを優先した形や、思い出深い、印象深い曲を挙げてたんですけど、お気に入りって、好きってことじゃないですか。私、たぶん好きな曲は『春を待つ』なんですよね。すごくシンプルで、3人の声で歌いつないでいく、ハーモニーのない曲。プライベートでは、一番聴いてると思います。
ご自身の曲は普段から聴くんですか?
Keiko 常になにかしら聴いています。その中で『春を待つ』は仕事スイッチが入らないで聴いているんですよね。ほかの曲は仕事スイッチが入っちゃうので……(笑)。
Hikaru 私は、最近のシングル『百火撩乱』。TVアニメ『活撃 刀剣乱舞』のエンディングテーマだったんですけど、もともと自分がやっていたゲームがアニメになったので、すっごくうれしくて! いちオタクとして、とてつもない喜びを感じた曲でした。
Keiko お話がきたときから、Hikaruがもだえてました(笑)。
Hikaru 「絶っっ対に受けてください!!」って(笑)。だからすごく力が入りました。逆に、力が入りすぎないようにするのが大変なレコーディングでしたね。
では、10年の活動の中で、転機になった出来事というと?
Wakana 最初はライブをしないアーティストとしてデビューさせてもらって。デビュー曲は劇場版アニメ『空の境界』の主題歌だったんですけど、その主題歌を歌い終わったらどうなるかわからない。なのですごく、不安な日々を過ごしていました。
アルバムを出させてもらって、同時に『Lacrimosa』っていう次のシングルも出させてもらったのを皮切りにライブ活動が始まって。1年を通して毎月のようにライブをさせてもらっているのはすごく心強くて。いつも同じ音楽を届けたいっていう気持ちのままでここまで来られているのは、ライブという舞台をいただいていたからだと思うんですよね。今ではホントにライブ大好きなKalafinaなので(笑)。
Hikaru 私は、2011年2月に『Magia』という楽曲を出した後のツアーですね。震災で多くの方々が音楽活動を自粛している時期だったので、ライブを決行するかどうかをみんなで話し合って、Kalafinaは音楽を届けにいこうって決めて。
そのツアーでは、自分が生まれ育った富山で初めて凱旋公演をすることができたんです。自分には何ができるんだろうって悩んでいたときにできたライブだったから、個人的にも印象が強いですね。
Keiko 私は、2015年の初めての武道館公演です。ベストアルバムを出したタイミングで初めて武道館に立たせていただいたんですけど、2枚同時にリリースした『THE BEST“Red”』と『THE BEST“Blue”』には、自分たちにとってそれこそ転機になった作品との出会いの曲が詰め込まれていて。
それを「Red Day」「Blue Day」という2日間で、アルバムに準じてまったく異なったセットリストでやって。初めての武道館がそういった大きな挑戦のライブだったので、ハードルが高かったですし。3人とも、もう心臓が……ね?(笑)
Wakana そう!(笑)
Keiko あのときの感覚は今でも覚えてますけど、たぶん3人とも、そこで一生のうちの緊張の半分は使ったんじゃないか、寿命が縮んだんじゃないかっていうくらい(笑)。あの瞬間を3人でちゃんと経験できて、乗り越えられたっていうのは、大きな転機になったし、自分たちの自信にもつながったので。
一緒に乗り越えることができて、3人の結束がより強まった?
Keiko そうですね。ただKalafinaは3人であっても個々、ひとりひとりっていうのを大事にしているので。「3人で乗り越えようね」じゃなくて、ひとりひとりが乗り越える力を持って、「それぞれで踏ん張ったから乗り越えられた」という経験が絆になり、信頼になってますね。それぞれがいつも切磋琢磨して、それが3人につながるっていう形が、Kalafinaの関係値の理想ではあります。

舞台裏が明らかに…3人の素顔が満載のドキュメンタリー

では、ドキュメンタリー映画『Kalafina 10th Anniversary Film〜夢が紡ぐ輝きのハーモニー〜』のお話を伺っていきます。映画の制作についてお話を聞いたのはいつ頃だったんでしょう?
Wakana 昨年なんですけど、ツアー中だったっけ? 9月の世界遺産のライブから撮りますって聞いて、すぐにスタートだったから、ワキワキ……。
ワキワキ?
Wakana ドキドキとワクワクが一緒になって、ワキワキになっちゃった(笑)。
Keiko 新しい言葉だね。Wakana語録(笑)。
Wakana ワキワキしてたんですけど(笑)。カメラが常に近くにあるってどんな気持ちなんだろうっていう不安はありつつ、個人的には、Kalafinaを客観的に見られるドキュメンタリーって面白そうだなって思いました。
Keiko 私はもう、不安でした。カメラを意識しての行動とか言葉とかで取り繕っちゃったらドキュメンタリーにならないのに、素のままでいられるかなって。
実際はどうでした?
Keiko 最初の頃は、WakanaやHikaruが撮られてるのを知りつつ、避けて通ったりとか(笑)。カメラマンさんの前に一番いなかったと思います、私(笑)。
Hikaru 私もずっと緊張してました。リハーサルのときも、カメラが端っこに見えるから、どうしても「いる!」と思っちゃって。なるべくいつも通りに、と心がけてるんですけど、視界に入ってくるんだもん(笑)。
完成した映画をご覧になってみて、どうでしたか?
Wakana 最初はみんなで笑いながら、ツッコみながら観てました。「何でこれ笑ってるの!?」とか(笑)。あ、(ふたりに向かって)3人の円陣の後で笑った理由が、判明したの!
武道館公演の直前の舞台裏での円陣で、3人で楽しそうに笑ってましたよね。何で急に笑ったんだろうって気になっていましたが。
Wakana あれ、理由があって。3人の円陣で「じゃあ、楽しみましょう。マイヤイヤー!」って言ったら、イヤモニで、サウンドチェックをしてくれるPAの方が「マイヤイヤー!」か「イェーイ!」か、何か言ったんですよ。それで「あ、言った!」「聞こえた!?」って。
Keiko そうだったかも(笑)。“ドキュメンタリー”ってタイトルについているので、最初はちょっと照れくさかったんですよね。なんかカッコいいじゃないですか。でもライブにかける準備の段階を丁寧に撮っていただいて、いつも通りの私たちの姿が、そこには形として残されていて。
また、思った以上にライブシーンが多くてうれしかったです。映画館で観る意味をすごく感じたので、ぜひ音響のいい場所で。自分たちも、どうにかして上映中に行きたい(笑)。
最初はカメラを避けていたところから、素の感じは出せました?
Keiko 最後の、武道館の舞台裏では「あぁカメラマンさん、いたんだ」くらいになってるんですよ。監督やカメラマンさんとの距離感も、徐々に近くなったねって3人で話していて。関係性が徐々に詰まっていくのがわかるのも、ドキュメンタリーのいいところだなって思いました。
Hikaru 今までKalafinaは、裏側を見せることがあまりかったんです。表に出ている部分をみなさんに楽しんでもらいたいっていう気持ちでやってきたので、それまでの過程を見せるのは恥ずかしいけど……きっと、見てくださる方には新鮮なんだろうなって思います。
Wakana 自分で言うのもヘンですけど、ほろっとするところや感動的な部分もあるのかなって。地元の友だちグループのLINEにも、予告動画のURLを送って(笑)。最初は恥ずかしいかなと思ったんだけど、たくさんの人に観ていただきたい映画になりました。
次のページ