◆ 広く浸透した「甲斐キャノン」

 2018年のプロ野球は、パ・リーグ2位から勝ち上がったソフトバンクが日本シリーズを制覇。前年に続き、日本一連覇を達成して幕を閉じた。

 その日本一連覇の立役者となったのが、捕手の甲斐拓也だ。レギュラーシーズンでもセ・パ通じて唯一の盗塁阻止率4割超えをマークするなど、その強肩ぶりはプロ野球ファンの間で浸透していたが、地上波で中継される日本シリーズでその“鬼肩”は世間一般にまで浸透。シリーズ新記録となる6連続盗塁阻止を達成するなど、広島の機動力を完璧に封じ込めたことで「甲斐キャノン」の名は広く知れ渡った。

 惜しくも時期が遅かったために年末の『流行語大賞』にはノミネートされなかったものの、野球界で流行語を決めるとしたら「甲斐キャノン」は外せない。そんな男に目指してもらいたいのが、“盗塁阻止率”にまつわる記録である。

◆ 盗塁阻止率の「シーズン記録」

 甲斐が昨季記録した盗塁阻止率は.447。これに続くのが同僚でもある高屋裕亮の.385となっており、甲斐の数字が頭ひとつ抜けていることが分かる。

 では、昨季の甲斐の数字を歴代シーズン記録と比べてみるとどうなるか。

▼ 盗塁阻止率・シーズン記録トップ5

1位 .644 古田敦也(ヤクルト/1993)

2位 .633 福島知春(巨人/1978)

3位 .630 古田敦也(ヤクルト/2000)

4位 .578 古田敦也(ヤクルト/1991)

5位 .568 大矢明彦(ヤクルト/1970)

 ご覧のように、トップ5のうち3つは古田敦也が記録したもの。1993年の.644は言うまでもなく凄まじい記録であるのだが、それから7年後の2000年にも6割超の好記録を残しているという点も見逃せない。

 お気づきの方もいるかもしれないが、トップ5はすべてセ・リーグ所属の選手がマークした記録だった。パ・リーグ所属選手の記録も見てみると、梨田昌孝(近鉄)が1979年に記録した.536が最高。それに次ぐのが城島健司がダイエー時代の2002年に記録した.508となっており、セ・リーグと比べるとやや低い。

 実際、過去にシーズン50盗塁以上を記録している51人のうち、34人はパ・リーグ所属の選手だった。パ・リーグの捕手の肩力や送球技術のレベルが低かったのか、たまたま俊足自慢の選手がパ・リーグに多かったのか、はたまた投手の協力が物足りないのか、要因はさまざまなことが考えられるが、甲斐にとっては「5割」というラインがひとつの目標となってくる。

◆ 盗塁阻止率の「通算記録」

 シーズン最高記録ではまだレジェンドたちに及ばないが、通算記録ではどうだろうか。甲斐の通算盗塁阻止率.409をレジェンドたちと比べてみた。

▼ 盗塁阻止率・通算記録トップ5

1位 .462 古田敦也

2位 .433 大矢明彦

3位 .422 田淵幸一

4位 .391 梨田昌孝

5位 .383 城島健司

 通算記録も、歴代最高はやはり古田敦也。長く続けていると好不調の波があって当然だが、それでもこれだけ高い記録を残せるのはさすがだといえる。

 通算4割以上はトップ3まで。ということは、甲斐の通算盗塁阻止率.409は田淵幸一に次ぐ第4位の記録となる。もちろん、100試合以上に出場したのがまだ2シーズンしかないため数字も高く出ているという部分はあるが、このまま安定して4割を超える盗塁阻止率を残していけば、歴代記録に名を残すことができる。

 両リーグトップの盗塁阻止率をマークし、日本シリーズMVPにも輝くなど、大きな飛躍を遂げた2018年の甲斐拓也。契約更改でも2500万円増の6500万円(※金額は推定)でサインするなど、来季にかかる期待も大きい。「甲斐キャノン」は伝説の捕手たちと肩を並べることができるだろうか。

文=中田ボンベ@dcp