大横綱・白鵬の土俵態度について、ダメ出しをしたい人は多いようです。特に頻繁にやり玉にあがるのは、懸賞金を受け取るときの所作。ダメ出し曰く「懸賞金をもぎとるような所作はよろしくない」と。懸賞金を持って大きく振りかざすような動きが、横綱として、力士として「品位」を欠く振る舞いだと言うのです。

懸賞金を受け取るときの手刀を切る所作の起源には諸説ありますが、現在は主に右手で「左、右、中央」と三度手刀を切ってから、懸賞金を受け取るという所作が定着しています。

古来、さまざまなやり方があり、手刀を切る動作が必ずしも常に行なわれているものではなかったそうです。それが昭和初期に活躍した大関・名寄岩が礼儀正しく手刀を切って懸賞金を受け取ったことがキッカケとなって見直され、現在のように決まり事として行なうようになったのだとか。

三度の手刀には「五穀を守る三神に感謝するものである」とか「心という字を書いている」などの意味があると言われていますが、特に定められたものではなく、あくまでも感謝の心持ちを示すもの。現在の各力士を見ても、チョンチョンチョンと小さく切る力士もいれば、「心」の字を意識してか中央の手刀を特に大きく切る力士もおり、形式はさまざまです。

白鵬は「もぎ取る」ような所作をすると言われますが、決してそうではありません。受け取る際の所作そのものは、右手で左・右・中央と小さく切るオーソドックスな形。特徴的なのは、懸賞金を受け取ったあとです。白鵬は受け取った懸賞金を右手で高く掲げ、それを花道に向かって横にスイングするようにして引き上げていきます。この部分が「もぎ取る」と言われる動作です。

はたしてこの動作は、非難されるような土俵態度でしょうか。

受け取る所作自体はオーソドックスなのです。受け取ったあとに、それを大きく振っているだけ。それは粗暴な所作とか、対戦相手への礼を失する行為ということではなく、むしろ喜びの表現と見るべきものでしょう。ほかの力士を見ても、まれに受け取った懸賞金を手にガッツポーズする場合がありますが、そちらが逐一やり玉にあがることはありません。単に白鵬がほぼ毎日懸賞金を受け取ることから見かける回数が多くなり、また動作自体も大きなものであることから、目につくだけの話です。

懸賞金をかける側としても、淡々と無表情で受け取られるよりも、少しくらい喜んでもらったほうがお金の出し甲斐があるというものでしょう。場内のお客さんに向けて、そして花道の奥で待つ付け人たちに向けて「獲ったどー!!」と喜びを報告する振る舞いは、懸賞金の出し手を喜ばせこそすれ、誰かに非難される類のものではないはずです。

九州場所の中日、照ノ富士との取組で見せた「土俵下に落ちてから相手方の背中を突く行為」は、確かに溜席の観客に怪我をさせる危険性を考えれば、ダメ出しされてしかるべきものです。しかし、目につく部分を何でもかんでも非難するのはタダの個人攻撃。見る側にも、力士それぞれの個性を受け入れていく度量が求められるのではないでしょうか。それが観戦者としての「品位」だと思います。

(文=フモフモ編集長 http://blog.livedoor.jp/vitaminw/