Amazonは誰もが認めるEC界の巨人だ。そのAmazonと勝負しながらこの世界で生き延びるための僕の持論は「Amazonの真似をしてはいけない」で、当ブログでもこの言葉を見かけたことがある読者も多いと思う。

今回紹介する米国の「Wish」というECサイトはAmazonに真っ向から対抗するサイトだが、Amazonの真似をすることなく着実に成長中だ。アプリのダウンロード数は1200万件を超えるなど、Walmartをしのぐ人気を得て、facebookのファンは9万4000人もついている。

現在までに2800万ドル(約28億円)以上の資金調達に成功、米国Yahooの創業者Jerry Yang氏からも資金提供を受けるなど注目を集めている。

競争の激しいEC界において、Wishはどのような戦略でAmazonに対抗しているのか。以下で詳しく見ていこう。

Googleの広告機能をショッピングに応用

創業者はPeter Szulczewski(写真左、以下ゾルズースキー)氏とDanny Zhang(写真右、以下ジャン)氏だ。2人はカナダのウォータールー大学時代のルームメイトで同じくコンピュータサイエンスを専攻、大学卒業後はゾルズースキー氏はGoogleで、ジャン氏はYahooでエンジニアとしてシリコンバレーで働き始めた。

ゾルズースキー氏はGoogleで、検索結果に連動して広告を表示するアドワーズの開発を担当していた。その開発に関わりながらあるアイディアを思いつく。

"ユーザーひとりひとりに合った広告を出すのと同じように、ユーザーの欲しい商品をキュレーションしてリコメンドするサービスがあったら面白いのではないか?"

さっそくゾルズースキー氏は、ジャン氏に連絡し、この件について相談してみた。ジャン氏も当時、Yahooで検索と広告に関する仕事を担当しており、ゾルズースキー氏の意見に賛同。ぜひビジネスとして立ち上げようと2010年に2人で会社を興した。

ゾルズースキー氏らは、ロンチにあたり、2つのことを重視したという。

ひとつは、スマートフォンアプリにも重点を置くこと。

コンピュータのブラウザでもWishを使用することはできるが、使いやすいアプリを提供することで、場所や時間を選ばずショッピングができる携帯アプリに可能性を見出したのだ。

アプリを強化することで、ユーザー情報をコンスタントにプロセスし、ユーザーに興味のありそうなセールの情報をプッシュ通知でお知らせすることも可能になった。これにより、ユーザーとの強力なエンゲージが可能になり、現在では毎日ユーザー平均30分以上のログインがあるという。

もうひとつは、ソーシャルメディア認証システムを使うことだ。

facebookまたはGoogle+のアカウントを使ってログインしたり、情報を友人たちとシェアできる機能は、ユーザーにとっても便利だ。またWishにとってもユーザーが欲しい商品、興味ある商品を解析する情報をソーシャルメディアから得ることができる利点も大きい。

こうした準備期間を経て、ゾルズースキー氏らは2011年にWishをロンチする。

Wishlistで自分だけの商品カタログを

Wishのサービスを利用するには登録が必要だ。ソーシャルメディア認証システムを使用するかわりに、eメールアドレスを使ってアカウントを作ることもできる。

サインインが完了すると、商品を閲覧することができる。「オンラインショッピングモール」を謳うサイトだけあって、品揃えは豊富だ。

「Recommended(オススメ)」「Trending(トレンド)」の他に、女性ファッション、ジュエリー、ドレス、ヘルス&ビューティーなどのカテゴリから商品を選ぶこともできるし、検索で商品を絞り込むことも可能だ。

商品のリストには商品名、写真、出品者、値段が掲載されていて、「Save(保存)」と「Buy(購入)」を選択できる。 また商品をクリックすれば詳細が表示される。Buyを選ぶとショッピングカートの画面に切り替わり、Saveをクリックすればその商品がウィッシュリストに登録されるしくみだ。

商品詳細では、商品説明や発送情報の他に、出品者や商品そのものの評価が5段階で表示されている。また、実際に商品が何人に購入され、何人がウィッシュリストに登録したかも一目瞭然で、商品の人気度を測る基準のひとつとして機能している。

「Save」をクリックすると商品が登録されるウィッシュリストがこのWishのミソだ。ウィッシュリストは「誕生日」「ホリデーシーズン」などカテゴリ分けされており、自分でカスタマイズすることができる。このウィッシュリストをfacebookまたはGoogle+を通じて友人とシェアし、良さそうな商品を紹介し合ったりすることも可能だ。

自分の欲しい物のリストをカタログのように作成して公開することができるこの機能は、米国のウェディングなどで使われるレジストリーの役割も果たしている。また、自分が既に持っている商品をウィッシュリストに登録することもできる。

Wishでは毎日平均で500万から1000万もの商品がウィッシュリストに登録されるという。ユーザーが欲しい商品をウィッシュリストに登録することにより、どのユーザーがどんな商品に興味を持っているかを解析し、ユーザーに対して商品のリコメンドを行っている。

ユーザーに対して的確なリコメンドを行えるということは、Wishの出品者にも大きな旨味となる。ユーザーに対して適切な広告を打つのと同じ作用が期待できるからだ。

「GoogleバージョンのAmazon」としてAmazonの脅威に

Wishがターゲットとする出店者はAmazonマーケットプレイスに出品している店だ。

Amazonマーケットプレイスではひとつ商品が売れるごとにかなりの手数料が必要になるが、Wishではセルフサービスで商品をアップすることができるツールを開発し、出店者への手数料を最小限に抑えることに尽力しているそうだ。これにより、出店者も競争力のある価格で商品を出品できるという。

Wishが目指すものは、Amazonのようにたくさんの商品を競争力のある価格で売りながら、Googleの検索機能のようにユーザーが求めている商品を的確にリコメンドする、「GoogleバージョンのAmazon」だという。

Wishはユーザーに対しても出店者に対しても価格だけでない他の魅力を提供するサイトとして成長中だ。ソーシャルメディアとスマートフォンアプリというテクノロジーを駆使して、EC界の巨人として君臨するAmazonの脅威になる可能性を着々と高めている。